

「喉に良い食べ物」という表現は、食品そのものが咽頭炎、扁桃炎、声帯炎、逆流関連症状などの原因を直接治療することを意味するものではありません。実際には、喉の粘膜に加わる物理的・化学的な刺激を減らし、痛みや違和感がある状況でも水分、エネルギー、たんぱく質などを摂取しやすくする食品を指すと理解することが適切です。
喉が痛いときには、嚥下時に食塊が咽頭粘膜を通過するため、硬い食品、乾燥してぱさつく食品、角のある食品、香辛料や酸味の強い食品によって痛みが増すことがあります。そのため、柔らかい、なめらか、しっとりしている、水分を含む、適度な温度であるという条件が、食べ物を選ぶ基本になります。国立がん研究センターも、喉の痛みがある場合には硬い食べ物を避け、お粥、茶碗蒸し、豆腐、バナナ、スープなどの軟らかい食品を選ぶ工夫を紹介しています。
参考)食欲不振・食事のときの喉の痛みへの対処法
ただし、喉の痛みの原因は風邪などのウイルス感染だけではありません。溶連菌感染症、扁桃周囲炎・扁桃周囲膿瘍、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、アレルギー、乾燥、胃食道逆流症、声の酷使など、原因は幅広く存在します。食事はあくまで症状緩和と栄養維持の手段であり、呼吸状態や嚥下状態の悪化を見逃さないことが医療上はより重要です。
国立がん研究センター:食欲不振・食事のときの喉の痛みへの対処法
食品は「柔らかさ」「水分量」「栄養密度」「刺激の少なさ」の四つの視点で選びます。特に発熱、発汗、食欲低下、痛みによる飲水量低下がある場合、脱水と低栄養が進みやすくなります。十分な飲水を土台にしつつ、少量でもエネルギーとたんぱく質を摂れる形へ調整することが実践的です。水分は喉を湿らせるためにも有用であり、NHSも水分を十分にとり、冷たく柔らかい食品を選ぶことをセルフケアとして挙げています。
参考)NHS
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 主食 | お粥、雑炊、軟らかく煮たうどん、リゾット、煮込みそうめん | だしやスープを加えて、ぱさつきを抑える |
| たんぱく質源 | 茶碗蒸し、卵とじ、温泉卵、豆腐、白身魚の煮付け、なめらかなヨーグルト | 肉はひき肉料理や煮込み料理にすると食べやすい |
| 野菜・果物 | よく煮た野菜のポタージュ、マッシュしたかぼちゃ、熟したバナナ、すりおろし果物 | 酸味が痛みを招く場合は柑橘類を控える |
| 汁物 | 具を細かくしたスープ、味噌汁、ポタージュ、澄まし汁 | 熱すぎる状態、塩分過多、香辛料の使用に注意する |
| 補食 | ゼリー、プリン、ムース、アイスキャンディー、栄養補助ゼリー | 冷たさが楽な人に適するが、冷刺激で痛む場合は避ける |
温度は一律に「温かいものがよい」「冷たいものがよい」と決められません。温かいスープやカフェインを含まないお茶で楽になる人もいれば、冷水、氷片、アイスキャンディーによって痛みが一時的に和らぐ人もいます。重要なのは、熱いまま口にしないこと、本人が痛みを感じにくい温度を選ぶことです。Mayo Clinicも、温かい飲み物と冷たい食品の双方が喉の不快感を和らげる選択肢になり得るとしています。
参考)https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/sore-throat/diagnosis-treatment/drc-20351640
喉の粘膜が炎症を起こしているときは、食べ物の硬さだけでなく、味付けや飲食物の温度も症状に影響します。硬いせんべい、ポテトチップス、クラッカー、ナッツ類、揚げ物の衣、乾いたパンなどは、表面の粗さや破片によって痛む部位をこすりやすいため、痛みがある間は控えるか、スープなどで十分に軟らかくしてから摂取することが望まれます。
また、唐辛子、こしょう、カレー粉などの香辛料、酢、柑橘果汁、トマト製品、強い炭酸、アルコールは、しみる感覚や灼熱感を増やす場合があります。国立がん研究センターでは、香辛料、酸味、塩分の強いものは痛みを助長し得るため避けるほうが無難としています。 喫煙や受動喫煙も粘膜刺激につながるため、回復を妨げない環境づくりが必要です。
高齢者、脳血管障害後、神経筋疾患、認知症、頭頸部がん治療中などで嚥下機能の低下が疑われる人では、単に「柔らかい食品」を選ぶだけでは安全が確保できないことがあります。水分のとろみや食物の形態が個別に指示されている場合は、その指示を優先します。食事中の咳き込みや窒息リスクがある場合は、座位を保ち、一口量を少なくし、急いで食べないことも重要です。
参考)Soft Diet - NHS Lanarkshire
はちみつは、温かい飲み物に加える、あるいは少量をなめることで、喉の乾燥感や咳に伴う不快感を和らげる目的で用いられることがあります。ただし、はちみつは感染症を治す薬ではなく、強い咽頭痛、高熱、呼吸困難、細菌感染が疑われる状態への代替治療にはなりません。また、1歳未満の乳児には乳児ボツリヌス症の予防のため、はちみつを与えてはいけません。Mayo Clinicも、はちみつ入りの温かい飲み物を選択肢として挙げる一方、1歳未満には与えないよう注意を示しています。
のど飴やトローチは、唾液分泌を促したり、乾燥感を一時的に軽減したりすることがありますが、年齢や嚥下能力によっては誤嚥・窒息の危険があります。乳幼児、高齢者、意識障害のある人、嚥下障害がある人には特に注意が必要です。糖分を多く含む製品を頻回に摂ると、う蝕リスクや血糖管理への影響も考慮する必要があります。
ビタミンC、亜鉛、プロポリスなどのサプリメントについても、喉の痛みを訴えるすべての人に一律で推奨できるものではありません。通常の食事が可能なら、まずは水分、エネルギー、たんぱく質、野菜・果物を含む食事の確保を優先します。抗凝固薬、糖尿病治療薬、免疫抑制薬などを使用している人、妊娠中・授乳中の人、基礎疾患がある人は、健康食品やサプリメントを自己判断で追加する前に医師・薬剤師へ確認することが安全です。
喉の痛みの多くは自然軽快することがありますが、「食べ物を工夫すれば様子を見てよい」とは限りません。呼吸困難、唾液も飲み込めない、よだれが増えている、声が出しにくい、開口しにくい、急速に腫れが悪化するなどの症状があれば、気道に関わる重篤な病態を考慮し、緊急性を評価する必要があります。NHSは、呼吸困難、または嚥下不能とよだれを、速やかな医療対応が必要なサインとして案内しています。
医療従事者が食事・水分の指導を行う際は、痛みの強さだけでなく、発症時期、発熱、咳、鼻症状、発疹、頸部リンパ節腫脹、嗄声、逆流症状、服薬状況、脱水徴候、尿量、摂取量、体重変化、むせや咳き込みの有無を確認します。とくに小児、高齢者、がん治療中、免疫機能が低下している患者、糖尿病患者、嚥下障害がある患者では、低栄養・脱水・誤嚥・感染重症化のリスクを個別に評価することが求められます。
高熱が続く、発疹がある、強い片側性の咽頭痛、耳への放散痛、膿性分泌物、血痰・血性唾液、頸部腫脹、1週間以上改善しない症状、あるいは3〜4週間続く嗄声や咽頭違和感がある場合も、耳鼻咽喉科またはかかりつけ医への相談を検討します。水分を保てず尿量が減っている、ふらつきや強い倦怠感がある場合には、脱水への対応も必要です。
参考)https://www.nhsinform.scot/illnesses-and-conditions/ears-nose-and-throat/sore-throat/
厚生労働省:医療情報ネット(ナビイ)