

「熱ないのに寒気がする」という訴えでは、まず患者が感じている症状を具体化する必要があります。寒気は、室温が十分でも冷たく感じる、鳥肌が立つ、布団に入っても寒いといった主観的な冷感を含む広い表現です。一方、悪寒は、身体が震えるほどの強い寒さの感覚を指し、筋肉の不随意な収縮による戦慄を伴うことがあります。
悪寒や戦慄は、体温調節中枢の設定温度が上がる過程で起こりやすく、感染症による発熱の前段階にみられることがあります。そのため、受診時に平熱であっても、数時間後に発熱する可能性は否定できません。実測体温が1回正常であることだけで感染症を除外せず、症状の発症時刻、体温の推移、接触歴、咳・咽頭痛・下痢・排尿時痛などの随伴症状を確認することが重要です。悪寒は発熱がなくても生じることがあり、寒冷曝露、感染症、低血糖、甲状腺機能低下症、貧血などが背景となり得ます。
参考)Chills: Causes & Treatment
医療従事者が問診する際には、「寒い感じだけか」「震えが止まらないほどか」「測定した体温と測定部位はどこか」「いつから始まり、反復するか」を分けて聴取します。腋窩体温は測定条件の影響を受けるため、直前の入浴、運動、飲食、冷暖房環境、解熱鎮痛薬の服用も確認します。特に高齢者、乳幼児、免疫抑制状態の人では、重い感染症であっても目立つ発熱がみられない場合があるため、全身状態を優先して評価します。
発熱がない寒気の原因は、単純な体温低下から代謝・内分泌疾患、感染症の初期まで多岐にわたります。原因を一つに決めつけず、発症状況と背景因子を組み合わせて考えることが安全です。たとえば、薄着、濡れた衣類、冷房、屋外での長時間作業の後に起きた一過性の寒気であれば環境要因が考えやすい一方、温かい室内でも繰り返す寒気や倦怠感がある場合は、基礎疾患や感染症も鑑別に含めます。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 冷え・寒冷曝露 | 低い室温、強い風、濡れた衣類、冷房、睡眠不足などで熱産生と熱放散の均衡が崩れる | 保温で改善するか、低体温がないかを確認する |
| 感染症の初期 | かぜ症候群、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、尿路感染症、胃腸炎などで悪寒が先行することがある | 後から発熱、咳、咽頭痛、筋痛、下痢、排尿症状が出現し得る |
| 低血糖 | 空腹、食事摂取不足、糖尿病治療薬、飲酒、運動などを契機に冷汗、振戦、動悸、強い空腹感が生じる | 糖尿病治療中では血糖測定と速やかな対処を検討する |
| 甲状腺機能低下症 | 寒がり、易疲労感、体重増加、便秘、皮膚乾燥、徐脈などを伴うことがある | 慢性的・反復性の症状では甲状腺機能評価を考慮する |
| 貧血 | 息切れ、動悸、顔色不良、倦怠感、運動耐容能低下とともに冷えを訴えることがある | 月経過多、消化管出血、食事内容、慢性疾患の確認が必要 |
| ストレス・自律神経反応 | 不安、緊張、パニック、睡眠不足などに伴い、震え、動悸、発汗、息苦しさが出ることがある | 身体疾患を除外せず、症状の誘因と再現性を確認する |
低血糖では、交感神経系の反応として発汗、手の震え、動悸、不安感、空腹感が現れることがあり、寒気として表現される場合があります。糖尿病のインスリン治療中、スルホニル尿素薬など低血糖を起こし得る薬剤の使用中、食事を抜いた後、飲酒後、強い運動後では特に注意が必要です。意識がぼんやりする、会話が成立しない、けいれんする場合は、本人に無理に飲食させず救急要請を含めた対応が必要です。
また、甲状腺機能低下症では代謝が低下して寒がりが目立つことがあり、貧血でも酸素運搬能の低下や全身倦怠感に伴って冷えを感じることがあります。温かい環境でも症状が続く、数週間以上繰り返す、体重変化や月経異常、便通変化、皮膚・毛髪の変化などを伴う場合には、単なる「冷え性」として終わらせず、内科での評価を検討します。発熱のない悪寒は感染症以外にも起こり、低血糖、甲状腺機能低下症、貧血、薬剤、パニック発作などが原因となり得ます。
熱がない寒気では、「今の体温」だけでなく、変化を追うことが大切です。安静にして衣服や室温を整えたうえで、可能なら一定の測定方法で数時間おきに体温を確認します。悪寒が強くても測定体温が低い場合は、寒冷曝露や低体温の可能性も考えます。成人で体温が35℃未満の場合、特に35℃を下回る低体温では、保温だけで済ませず、意識状態や呼吸、脈拍、基礎疾患を確認し、医療機関への相談を検討します。
感染症を疑う症状がある場合、出勤・登校・対面業務を控えること、咳エチケットと手指衛生を徹底することも重要です。発熱、咳、腹痛などは新型コロナウイルス感染症だけに特有の症状ではなく、ほかの疾患の可能性もあるため、必要な受診を自己判断で控えないよう厚生労働省も案内しています。
参考)厚生労働省|コロナ禍でも必要な受診を
医療現場では、悪寒がある患者に対して、バイタルサインの単発値だけでなく、悪化速度と全身状態を評価します。たとえば、体温が平熱でも頻脈、頻呼吸、血圧低下、意識レベルの変化、尿量低下、皮膚冷感などを伴う場合は、重症感染症や循環不全を含めた評価が必要です。患者本人が「熱がないので大丈夫」と考えていても、外見上の活気低下や歩行困難、普段と異なる反応は重要な情報になります。
明らかな緊急症状がなく、寒冷曝露や睡眠不足、食事不足などの心当たりがあり、全身状態が保たれている場合は、まず保温、休息、水分・栄養摂取、経過観察を行います。衣類を重ね、首・腹部・足元を冷やさないようにし、濡れた衣類は速やかに交換します。ただし、強い悪寒があるときに高温の入浴や電気毛布を長時間使用すると、脱水や低温やけどのリスクがあります。特に高齢者、感覚障害がある人、飲酒後、眠っている人では注意が必要です。
食事を抜いた、糖尿病治療中、冷汗や手の震えがあるなど低血糖が疑われる場合は、意識が清明で安全に飲み込めることを確認したうえで、糖分を含む飲料や補食を摂る対応を考えます。ただし、意識障害、けいれん、嚥下困難がある人に飲食物を与えることは誤嚥の危険があるため避け、救急要請を優先します。糖尿病患者では、自己判断で薬剤を中止・増量せず、血糖値と症状を記録して主治医または医療機関へ相談します。
解熱鎮痛薬は、発熱や痛みを緩和する薬であり、原因不明の寒気を抑える目的だけで漫然と服用するものではありません。薬剤アレルギー、腎機能障害、肝機能障害、消化性潰瘍、抗凝固薬の使用、妊娠などがある場合は、市販薬を含めて慎重な判断が必要です。抗菌薬も、ウイルス感染症や非感染性の寒気には効果がなく、残薬の自己使用は不適切です。
寒気が一過性で保温後に改善しても、翌日以降に発熱、咳、下痢、局所痛、排尿症状などが出てくることがあります。体温と症状の時系列をメモしておくと、受診時の診断に役立ちます。悪寒は、身体を温めようとする反応や、疾患に対する身体の反応として起こり、発熱が伴わない場合もあります。
熱がない寒気であっても、強さ、持続時間、随伴症状、患者背景によっては早期受診が必要です。寒気が数日続く、何度も繰り返す、保温しても改善しない、原因が思い当たらない場合は、内科を中心に相談します。咳や咽頭痛があれば呼吸器症状、下痢・腹痛があれば消化器症状、背部痛・排尿痛・頻尿があれば尿路感染症などの可能性を確認します。月経過多や黒色便、息切れ、動悸、強い疲労があれば貧血評価も重要です。
胸痛、息苦しさ、呼吸困難、唇や顔色の紫色、強い腹痛、激しい頭痛、項部硬直、意識がもうろうとする、片側の手足が動かしにくい、けいれん、繰り返す嘔吐、急速な悪化がある場合は、発熱がなくても救急要請を検討すべき状況です。成人では体温が35℃未満の低体温も重要な警告所見であり、特に意識障害、ろれつ不良、歩行困難、呼吸や脈の異常を伴う場合は緊急性が高まります。悪寒に加えて胸痛、説明できない痛み、極端な疲労、強い腹痛、喘鳴や呼吸困難がある場合は医療者へ連絡することが推奨されています。
妊娠中、産後まもない時期、乳幼児、高齢者、免疫抑制状態、抗がん薬治療中、臓器移植後、透析中、糖尿病や心肺疾患を有する人では、症状が軽く見えても感染症や代謝異常が重症化しやすいことがあります。こうしたハイリスク者で新たな悪寒が出た場合は、発熱を待たずに主治医、かかりつけ医、夜間相談窓口へ連絡する判断が安全です。
「熱ないのに寒気」は、必ずしも重い病気を意味するわけではありません。しかし、寒気は発熱前のサインであることも、低血糖や低体温、内分泌疾患、貧血などの手掛かりであることもあります。保温して休んでも改善しない場合、症状が増える場合、普段と違う強い不調がある場合には、熱の有無だけで判断せず、速やかに医療機関へ相談することが大切です。