

妊娠中には、ホルモン環境の変化に伴って皮脂分泌や角化の状態が変わり、面皰、丘疹、膿疱などの尋常性ざ瘡が悪化することがあります。とくに妊娠初期は、妊娠判明前から使用していた治療薬を継続しているケースや、市販薬・化粧品・個人輸入品を自己判断で使用しているケースに注意が必要です。
ニキビは生命予後に関わる疾患ではない一方、強い炎症や色素沈着、瘢痕を残す可能性があり、患者の心理的負担も小さくありません。しかし、妊娠中の治療では、通常の尋常性ざ瘡治療で使用される薬剤をそのまま適用することはできません。症状の重症度だけでなく、妊娠週数、既往歴、併用薬、使用予定の範囲、皮膚バリア機能、治療を行わない場合の影響を確認し、必要最小限の治療を選択する姿勢が重要です。
医療従事者は、「外用薬なら胎児に影響しない」といった単純な説明を避けるべきです。外用薬は一般に全身曝露が内服薬より小さい傾向がありますが、薬剤の性質、塗布面積、炎症・びらんの有無、密封状態、使用頻度によって吸収条件は異なります。薬剤選択は製品ごとの最新添付文書に基づき、妊娠中であること、または妊娠の可能性があることを処方前・調剤時・継続指導時に繰り返し確認します。
妊娠中のニキビ薬で最優先に確認したいのは、レチノイド関連薬です。日本で尋常性ざ瘡に使用されるアダパレンはレチノイド様作用を有する外用薬であり、アダパレンゲルの添付文書では、妊婦または妊娠している可能性のある女性は禁忌とされています。妊娠した場合、または妊娠が予想される場合には医師へ知らせるよう指導する旨も明記されています。
したがって、ディフェリンゲルなどのアダパレン単剤、ならびにアダパレンを含む配合剤であるエピデュオゲルは、妊娠中および妊娠の可能性がある患者に使用しません。処方歴がある患者に妊娠が判明した場合は、服薬・使用歴を聴取したうえで、自己判断で漫然と使用を継続しないよう指導し、処方医と産婦人科主治医へ情報共有します。偶発的な使用歴だけを根拠に患者の不安を過度に高めず、使用期間、最終使用日、塗布範囲、頻度を具体的に記録して個別評価につなげることが実務上重要です。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| アダパレン単剤 | 妊婦または妊娠している可能性のある女性には使用しない | ディフェリンゲルなど。添付文書上は禁忌 |
| アダパレン・過酸化ベンゾイル配合剤 | 妊婦または妊娠している可能性のある女性には使用しない | エピデュオゲルなど。アダパレン含有に注意 |
| イソトレチノイン内服 | 妊娠中は避けるべき薬剤として厳重に管理する | 国内の承認状況にかかわらず、個人輸入・海外処方歴を確認する |
| テトラサイクリン系抗菌薬 | 妊娠中の内服選択では原則として避ける方向で評価する | 自己判断の継続内服を防ぎ、処方元へ確認する |
| サリチル酸を含む製品 | 濃度、剤形、塗布面積、使用頻度を確認する | ピーリング剤や市販化粧品にも含有例がある |
アダパレンの添付文書では、動物実験において経皮投与では奇形発生は認められなかった一方、過剰肋骨の発生頻度増加が報告され、経口投与では催奇形性が報告されています。ヒトにおけるリスク評価を単純化せず、添付文書の禁忌に従うことが基本です。薬局では、薬剤名だけでなく「以前のニキビ薬が残っている」「家族の薬を塗った」「美容皮膚科で購入した」といった表現からもレチノイド含有製品の可能性を拾い上げる必要があります。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/130202_2699711Q1108_1_03
アダパレンゲル0.1% 添付文書
過酸化ベンゾイルは、尋常性ざ瘡に対して角質剥離作用、抗菌作用などを目的に使用される外用薬です。ベピオゲルおよびベピオローションの添付文書では、妊婦または妊娠している可能性のある女性に対し、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用すること」とされています。すなわち、添付文書上で一律禁忌ではないものの、患者が自己判断で「妊娠中でも安全」とみなして使用を開始・継続してよい薬剤ではありません。
過酸化ベンゾイル製剤を検討する場合は、炎症性皮疹の程度、代替となる非薬物療法や治療選択肢、顔面全体など広範囲への塗布の必要性、乾燥・紅斑・刺激感・落屑といった局所副作用を評価します。妊娠中は皮膚の乾燥や刺激症状が強く出た場合、治療継続そのものが生活の質を下げることもあります。洗顔後に患部へ適量を塗るという基本用法を守り、切り傷、すり傷、湿疹がある部位、眼・口唇・鼻翼・粘膜への使用を避けるよう指導します。
外用抗菌薬についても、妊娠中の投与可否を「抗菌薬だから危険」「塗り薬だから問題ない」と二分して説明することは適切ではありません。例えば、クリンダマイシンリン酸エステルを含むダラシンTゲル・ローションの添付文書では、妊婦または妊娠している可能性のある女性には使用しないことが望ましいとされています。抗菌薬を使用する場合には、必要性を慎重に検討するとともに、耐性菌対策の観点からも長期・漫然使用を避け、治療反応を評価しながら処方医の計画に沿って使用します。
ベピオゲル・ベピオローション 添付文書
ダラシンTゲル・ローション 添付文書
妊娠中のニキビ相談では、最初に「現在妊娠中か」「妊娠の可能性があるか」「妊娠何週か」「妊活中か」を確認します。ニキビ薬は長期処方・継続使用されることが多いため、初回処方時だけでなく、継続処方時や薬局での再来局時にも妊娠状況を確認する体制が必要です。患者が妊娠を申告しにくい場合もあるため、診療・調剤の標準的な確認項目として、非断定的かつプライバシーに配慮した聞き方を整備するとよいでしょう。
すでに薬剤を使用していた患者で妊娠が判明した場合には、薬剤名、濃度、剤形、開始日、最終使用日、1日あたりの使用回数、塗布範囲、皮膚の状態、併用していた内服薬・サプリメント・市販薬を確認します。アダパレンまたはアダパレン配合剤であれば、継続使用を止めて速やかに処方医へ連絡するよう案内します。患者に対しては、必要な情報を医師が評価できるよう、薬剤の現物、外箱、薬剤情報提供書、スマートフォン内の商品名の画像などを持参するよう伝えます。
赤く腫れた皮疹が急速に拡大する、強い疼痛がある、発熱を伴う、顔面に高度な腫脹がある、広範囲にびらんや接触皮膚炎が出現した、または心理的苦痛が大きい場合には、セルフケアだけで様子をみず、皮膚科への受診を勧めます。妊娠中であることを必ず伝えたうえで、産婦人科主治医とも連携できる受診導線を示すことが大切です。
妊娠中のニキビ対策では、薬物療法の可否だけでなく、刺激を減らし皮膚バリアを保つケアが重要です。洗顔は過度な摩擦を避け、低刺激性の洗浄料を用いて朝晩を基本にやさしく行います。皮脂が気になる患者でも、洗浄回数を必要以上に増やしたり、スクラブ、強いピーリング、アルコール濃度の高い化粧品を重ねたりすると、乾燥や刺激性皮膚炎が生じ、かえって炎症を悪化させる可能性があります。
保湿剤や日焼け止めを選ぶ際には、患者の皮膚状態に合わせ、刺激感が少なく、使用継続できる製品を選択します。ノンコメドジェニックテスト済みという表示は製品選択の補助情報になり得ますが、すべての患者で面皰形成を防ぐことを保証するものではありません。新しい化粧品や市販薬を追加する際は、一度に複数製品を導入せず、成分と使用開始日を記録するよう助言すると、接触皮膚炎や悪化因子の確認に役立ちます。
患者への説明では、「妊娠中は何も治療できない」と伝えるのではなく、「安全性を優先しながら、症状と薬剤の種類に応じて治療の選択肢を検討する」と示すことが重要です。アダパレンのように明確に避けるべき薬剤がある一方、過酸化ベンゾイルのように有益性と危険性を慎重に比較して検討される薬剤もあります。処方薬、市販薬、化粧品を含めた使用製品を一覧化し、皮膚科医、産婦人科医、薬剤師が同じ情報を共有することで、不要な曝露を減らしつつ、妊婦の皮膚症状と不安の双方に対応できます。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/730155_2699712Q1021_1_13