

「二の腕の外側がズキズキする」という訴えでは、痛む場所だけに注目せず、肩関節と頚椎を含めて評価することが重要です。肩の障害による痛みは肩周辺だけでなく上腕にも感じられ、腕を動かしたとき以外に、安静時や運動後に痛む場合もあります。したがって、患者が上腕外側を指していても、その直下の筋肉だけが原因とは限りません。
参考)https://norfolkandwaveneycommunityhealth.nhs.uk/msk/self-help/shoulder/shoulder-pain/
肩由来の候補には、腱板の腱障害、肩峰下滑液包炎、肩腱板断裂、肩関節周囲炎、石灰沈着性腱板炎などがあります。腱板は肩の運動と安定性に関わる腱の集まりで、周囲の滑液包とともに障害されると、挙上時痛や夜間痛が問題になります。肩の前方から腕の外側へ広がる痛みを認めることもあり、患者には「肩の病気でも二の腕が痛むことがある」と説明すると、診察部位を広げる意義が伝わります。
参考)Shoulder Impingement Rotator C…
一方、頚椎症性神経根症では、頚椎の加齢性変化などにより神経根が圧迫・刺激され、肩から腕にかけて痛みが生じます。手指のしびれ、感覚障害、上肢の筋力低下を伴うことがあり、首を後ろに反らす動作で症状が強くなる点が手掛かりです。肩の運動だけでなく、首の姿勢による症状の変化を確認する必要があります。
参考)「頚椎&#x75C…
臨床では「ズキズキ」という表現を病名に直結させず、鑑別の出発点として扱います。問診では痛みの性状に加えて、突然か徐々に始まったか、外傷や反復作業があるか、動作時と安静時のどちらに強いか、睡眠を妨げるか、しびれや脱力があるかを整理します。腱板断裂でも肩関節周囲炎でも夜間痛が起こり得るため、夜に痛むという情報だけでは両者を区別できません。
参考)「肩腱&#x677…
日本整形外科学会:頚椎症性神経根症
二の腕外側の痛みを診る際は、症状の組み合わせから候補を絞ります。肩腱板断裂では、運動痛や夜間痛に加えて、挙上時の力の入りにくさが問題になります。ただし、多くの患者は肩を挙上できるため、「腕が上がるので断裂ではない」と判断するのは適切ではありません。痛みの有無と、筋力・運動機能の評価を分けることが大切です。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 腱板の腱障害・肩峰下滑液包炎 | 腕を上げる、頭上へ手を伸ばす、腕を下ろす動作で痛みが出る。肩の前方・外側に圧痛を認めることがある。 | 身体診察で動作と症状の関係を確認し、必要に応じて超音波やMRIで軟部組織を評価する。 |
| 肩腱板断裂 | 肩の運動痛、夜間痛、挙上時の力の入りにくさが手掛かりとなる。 | 断裂があっても挙上できる例がある。挙上の可否だけでは除外できない。 |
| 肩関節周囲炎 | 肩の痛みと動かしにくさがあり、日常動作に支障を来す。急性期は強い痛みを伴うことがある。 | 腱板断裂、石灰沈着性腱板炎などとの区別が必要で、年齢だけで五十肩と決めつけない。 |
| 石灰沈着性腱板炎 | 明らかな誘因なく肩の上方から外側に痛みが出現し、夜間に強くなる場合がある。 | X線や超音波で石灰沈着を確認し、症状と合わせて診断する。 |
| 頚椎症性神経根症 | 肩から腕への痛み、手指のしびれ、筋力低下、感覚障害があり、頚部伸展で増悪することがある。 | 肩だけの局所疾患と捉えず、頚椎と上肢の神経学的評価につなげる。 |
肩関節周囲炎と石灰沈着性腱板炎は症状が似ることがあります。石灰沈着性腱板炎では、圧痛や可動域の所見に加え、X線で腱板部分の石灰沈着を確認することが診断の手掛かりになります。強い痛みを一律に「炎症がひどい五十肩」と扱わず、疾患ごとに検査と治療を検討する姿勢が必要です。
参考)「石灰&#x6C8…
日本整形外科学会:肩腱板断裂
日本整形外科学会:石灰沈着性腱板炎
腕の痛みを扱う際は、整形外科的な原因の検討より先に、緊急性を確認します。突然の腕の痛みに胸の圧迫感、重苦しさ、締め付け感が伴う場合は、心筋梗塞などの可能性があり、救急対応が必要です。痛みが右腕か左腕かだけで安全性を判断してはいけません。心臓に由来する痛みは左右いずれの腕にも広がることがあります。
参考)NHS
緊急徴候がなくても、夜間痛で眠れない、痛みが悪化している、着替えや仕事が難しいといった場合は、早めの整形外科受診が妥当です。軽い肩痛のセルフケアについてNHSは、悪化する場合や約2週間で改善しない場合の受診を案内しています。ただし、この期間は強い痛みや外傷、神経症状がある患者を待機させる基準ではありません。
診察では、まず患者が示す痛みの範囲と、症状が再現される動作を把握します。肩の診察では、圧痛部位、可動域、運動時痛、筋力などを確認します。腱板障害では腕の挙上や下降が症状に関係することがあり、頚椎由来では首の姿勢により上肢症状が変化することがあります。肩と頚椎の情報を組み合わせることで、単に「痛い場所」を調べるだけでは得られない鑑別の手掛かりが得られます。
肩の動かしにくさを評価するときは、本人が動かす自動運動と、診察者が支えて動かす他動運動を区別して記録します。さらに、力が入りにくいという訴えが、痛みによる運動の抑制なのか、筋・腱や神経の障害を示唆するのかを検討します。腱板断裂では挙上が可能な例もあるため、一つの動作ができたことだけで評価を終了せず、可動域と筋力を含む診察全体で判断します。
画像検査は、問診と身体診察から何を確認したいのかを明確にして選びます。X線は骨折や関節の変化など、骨性病変の評価に役立ち、石灰沈着性腱板炎の診断にも用いられます。一方、腱板や滑液包などの軟部組織を詳しく評価する場合は、超音波やMRIが有用です。X線で骨に明らかな異常がないことと、腱板に問題がないことは同義ではありません。
肩関節周囲炎が疑われる場合も、症状の似た疾患を除外する視点を持ちます。日本整形外科学会は、肩の痛みを生じる疾患として上腕二頭筋長頭腱炎、石灰沈着性腱板炎、肩腱板断裂などを挙げ、X線、MRI、超音波などを用いた鑑別を説明しています。「中高年だから五十肩」という説明ではなく、どの所見から何を疑い、どの疾患との区別が必要かを患者に伝えることが重要です。
緊急性や外傷性病変を評価したうえで、肩由来の痛みが疑われる場合は、症状を悪化させる負荷を調整します。頭上での反復作業、重い物の持ち上げ、痛みを押して行う筋力トレーニングなどは控え、生活動作を見直します。一方、軽い肩痛で完全に使わない状態を続けることも勧められません。安静が必要な病態を除き、無理のない範囲で穏やかに動かすことと、増悪させる負荷を避けることを両立させます。
参考)NHS
急性期に強い痛みがある肩関節周囲炎や石灰沈着性腱板炎では、医師の判断で安静、消炎鎮痛薬、注射などが用いられます。痛みが落ち着いてから、拘縮予防や筋力・運動機能の改善を目的にリハビリテーションを進めます。したがって、「肩が痛ければすぐ大きく回す」「動かさないほどよい」といった一律の指導は避け、原因と病期に合わせて運動量を設定する必要があります。
自宅での温冷罨法は補助的な対処です。冷却や加温を試す場合は、皮膚に直接当てず、タオルなどを介して短時間にとどめます。NHS informは一般的な肩の問題について、温冷罨法を1回15分程度までとし、皮膚の赤みの増加、変色、水疱などがあれば中止して相談するよう案内しています。「ズキズキするから必ず冷やす」と決めつけず、症状と皮膚の状態を確認します。
参考)https://www.nhsinform.scot/illnesses-and-conditions/muscle-bone-and-joints/arm-shoulder-and-hand-problems-and-conditions/shoulder-problems/
睡眠時は、膝上や腕の下にクッションを置くなど、楽に支えられる姿勢を探します。ただし、夜間痛が続く場合は寝方の工夫だけで済ませません。腱板断裂では睡眠が妨げられるほどの夜間痛が受診理由となることがあり、原因の評価が必要です。患者には、睡眠を妨げる頻度、日中の動作への影響、力の入りにくさの変化を診察時に伝えてもらうと、経過を把握しやすくなります。
頚椎症性神経根症が疑われる場合は、症状を誘発する頚部の過度な伸展を避け、痛みやしびれ、筋力低下を評価しながら治療につなげます。肩を動かす運動を全員に同じように勧めるのではなく、肩由来か頚椎由来かという見立てを患者指導にも反映させることが大切です。二の腕外側の痛みに対する説明では、現在疑っている原因とともに、胸部症状、発熱を伴う腫れ、新たなしびれや脱力が出現した際の再受診・救急相談の目安を具体的に共有します。