

高血圧患者のサプリメント使用では、甘草・グリチルリチンを含む製品、エフェドラ、ヨヒンベなどの刺激性成分を含む製品に注意が必要です。また、ビターオレンジや高麗人参なども血圧への影響が懸念されます。一方、カリウム製品やセントジョーンズワートは、血圧を直接上げるかどうかだけでなく、腎機能や併用薬によって問題となります。「高血圧飲んではいけないサプリメント」を説明するときは、これらを一律の禁止リストにまとめず、危険性の種類を区別することが重要です。
参考)National Center for Complement…
医療従事者が押さえたいのは、サプリメントは降圧治療の代替にならないという点です。米国国立補完統合衛生センター(NCCIH)は、高血圧に対する一部のサプリメントの効果は限定的で、降圧薬に匹敵する効果を示したサプリメントはないと説明しています。「血圧対策」「自然由来」といった表示を理由に、処方薬を減量したり中断したりしないよう伝える必要があります。
成分確認では、販売名よりも原材料名、有効成分に相当する物質、1日当たりの摂取量を優先します。特に減量用、運動前用、活力維持用などの複合製品では、複数の植物抽出物やカフェインが配合されることがあります。以下は、高血圧患者の問診で優先的に確認したい成分と、判断の際に区別すべき注意点です。
参考)https://ods.od.nih.gov/factsheets/WeightLoss-HealthProfessional/
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 甘草・リコリス・グリチルリチン | 血圧上昇、浮腫、低カリウム血症を起こす偽アルドステロン症に注意する | サプリメントだけでなく漢方薬や一般用医薬品との重複も確認する。 |
| エフェドラ・エフェドリンアルカロイド | 血圧上昇や重大な心血管有害事象が問題となる刺激性成分 | 高血圧患者が自己判断で選ぶ成分としては避ける方向で指導する。 |
| ヨヒンベ・ヨヒンビン | 高血圧、頻脈、不整脈などが報告されている | 減量や活力維持をうたう製品でも配合を確認する。 |
| ビターオレンジ・シネフリン | 血圧や心拍数への影響が懸念されるが、研究結果は一致していない | 複合製品の有害事象報告では、単独成分との因果関係が不明な場合がある。 |
| カフェイン含有製品 | 血圧上昇などの作用を考慮し、総摂取量と他の刺激性成分を確認する | サプリメントに加えて飲料からの摂取も把握する。 |
| カリウムサプリメント・カリウム入り減塩塩 | 腎機能低下や特定の降圧薬との併用で高カリウム血症に注意する | 全高血圧患者に一律禁止ではなく、血清カリウムと治療内容で判断する。 |
| セントジョーンズワート | 薬物代謝酵素などの誘導により、一部の薬の血中濃度を低下させる |
この一覧でいう「避ける」は、すべての製品について同じ強さの禁忌が確立しているという意味ではありません。例えば、ヨヒンベには重篤な有害事象の懸念がある一方、ビターオレンジの循環器への影響には研究間の不一致があります。患者説明では「必ず血圧が上がる」と断定するのではなく、降圧治療中に安全性が不確かな刺激性製品を追加する合理性が乏しいことを説明する方が、エビデンスに即しています。
高麗人参についても、NCCIHは血圧を上げる可能性のあるハーブの一つに挙げていますが、カルシウム拮抗薬などとの相互作用には不確実性があります。「人参」という名称だけで食品のニンジンと混同せず、植物名や抽出物の種類を確認し、昇圧作用や相互作用の程度を過度に断定しないことが大切です。
甘草は、リコリスやlicoriceと表示されることもある植物成分です。甘草に含まれるグリチルリチンに関連して、腎臓でのコルチゾール不活性化が阻害され、ミネラルコルチコイド作用が過剰になります。その結果、ナトリウムと水分の貯留、カリウム喪失が生じ、高血圧、浮腫、低カリウム血症などを呈します。アルドステロンが高値でなくても同様の症状を起こすことが、偽アルドステロン症の特徴です。
参考)偽アルドステロン症|一般の皆様へ|日本内分泌学会
診療では、血圧上昇を高血圧そのものの悪化と決めつけないことが重要です。甘草含有製品の使用に加え、むくみ、脱力、筋力低下などがあれば、血清カリウムや腎機能などを含めた評価を検討します。高度の低カリウム血症では不整脈も起こり得るため、「健康食品を飲み始めただけ」という情報でも軽視できません。
甘草由来成分は、サプリメントだけでなく、漢方薬、かぜ薬、胃腸薬、肝疾患の治療薬などにも含まれます。そのため、処方薬だけを確認しても曝露全体を把握できない場合があります。NCCIHは、高血圧や心疾患、腎疾患のある人などでは、少量のグリチルリチンでも重い有害作用との関連が報告されていると説明しています。「表示どおりなら誰でも安全」とは説明せず、重複摂取と患者背景を確認します。
参考)National Center for Complement…
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000245308.pdf
刺激性成分では、ヨヒンベと、その成分であるヨヒンビンの区別にも注意します。NCCIHは、ヨヒンビンに不整脈、血圧異常、心筋梗塞、けいれんとの関連があるとしています。一方、ビターオレンジでは重大な心血管イベントの報告があるものの、多くは複数成分を含む製品であり、ビターオレンジ単独が原因かどうかは明確でありません。危険性への注意と、因果関係の不確実性を併記することが適切です。
PMDA:重篤副作用疾患別対応マニュアル「偽アルドステロン症」
NCCIH:ビターオレンジの有用性と安全性
カリウムは、「血圧対策に役立つ栄養素だから多く補えばよい」と判断してはいけません。カリウムサプリメントやカリウムを含む減塩塩は、腎機能や薬剤によって高カリウム血症の原因となります。特に慢性腎臓病がある患者では、食品からの摂取、濃縮された補充製品、減塩用調味料を区別して評価する必要があります。
ACE阻害薬やARBは、血清カリウムを上昇させることがあります。これらは高血圧や腎疾患の治療で重要な薬剤であり、サプリメントとの併用が心配だからといって患者が自己判断で中止すべきではありません。まず追加のカリウム摂取の有無を確認し、血清カリウム、腎機能、処方内容に基づいて医療者が調整を判断します。
患者への説明では、「カリウムは全員禁止」と「サプリメントなら自由に補ってよい」の両極端を避けます。高血圧という診断名だけでは安全性を判断できず、排泄能力と併用薬が重要です。また、甘草で低カリウム血症が疑われる状況でも、患者自身にカリウム製品を追加させて帳尻を合わせる対応は適切ではありません。原因製品の評価と、必要に応じた医学的な補正を優先します。
サプリメントの問診では、「何か飲んでいますか」だけでなく、「血圧対策、減量、運動前、睡眠、気分、活力のために使う製品はありますか」と用途を具体化すると、確認対象を共有しやすくなります。NCCIHも、使用中または使用を検討しているすべてのサプリメントを医療者に伝えるよう勧めています。医療用医薬品に該当しない製品も、治療評価の対象として扱います。
実務では、現物または成分表示の写真を基に、商品名、全成分、1日量、使用開始時期、摂取頻度、併用製品を記録する方法が有用です。複数成分を含む製品では、ある一つの成分だけを確認して安全と判断しないようにします。特に血圧や脈拍の変化がある場合、製品の使用開始や増量との時間的関係も、原因を検討する手掛かりになります。ただし、時間的に一致するだけで因果関係が確定するわけではありません。
血圧上昇に浮腫や脱力を伴う場合には甘草関連の低カリウム血症を、腎機能低下やACE阻害薬・ARBの使用にカリウム補充が加わっている場合には高カリウム血症を考慮します。同じ「高血圧患者のサプリメント使用」でも、電解質異常の方向が逆になることがあります。血圧の数値だけでなく、症状、血清カリウム、腎機能、処方薬を組み合わせて評価することが重要です。
ヨヒンベなどの使用中に胸痛、失神、強い動悸などが出現した場合は、サプリメントとの関連を家庭で判断し続けるのではなく、緊急性のある心血管障害を含めた医療評価を優先します。一方、症状のない患者に対しても、刺激性製品や甘草含有製品を自己判断で追加せず、購入前に成分表示を相談するよう伝えることが予防につながります。
最終的な指導は、「サプリメントはすべて危険」ではなく、「血圧を上げる成分、薬の効き方を変える成分、腎機能によって危険になる成分がある」と具体化します。安全性が確認できない製品を降圧薬の代わりに使わないこと、処方薬を自己判断で中止しないこと、使用中の製品を医師・薬剤師へ共有することを一貫して説明します。患者が重視する目的を聞きながら、治療効果と安全性の両方を守る対応が求められます。