


「漢方薬54番」は、ツムラの製品では「ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用)」を指します。読み方は「よくかんさん」で、識別コードは「ツムラ/54」です。患者から「54番を飲んでいる」と申告された場合、まず薬袋、分包、処方箋、お薬手帳などで販売名と製造元を確認します。番号による申告を正式な販売名に置き換えて記録すると、処方照合や多職種間の情報共有が明確になります。
参考)ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用)の添付文書 - 医薬情報QL…
抑肝散の承認された効能・効果は、「虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症」です。単に「イライラを抑える薬」「眠れる漢方」と説明するだけでは、患者の体質・症状を考慮するという添付文書上の前提が抜け落ちます。医療従事者は、不眠や興奮があるという一点だけではなく、症状の背景と患者の全身状態を確認したうえで使用目的を把握する必要があります。
ツムラ製剤は、顆粒7.5g中に混合生薬の乾燥エキス3.25gを含みます。その原料となる生薬の割合は、蒼朮4.0g、茯苓4.0g、川芎3.0g、釣藤鈎3.0g、当帰3.0g、柴胡2.0g、甘草1.5gです。この数値は原料生薬の量であり、患者が服用する顆粒の重量や、個々の成分の含有量と同じ意味ではありません。特に甘草を含むことは、副作用と重複処方の確認に直結する重要な情報です。
薬効薬理としては、グルタミン酸放出の抑制や取り込みの是正、セロトニン受容体への作用などが添付文書に記載されています。ただし、その根拠には動物実験や試験管内の研究が含まれます。機序の説明と、人で特定の症状に有効であるという臨床的な評価は分けて扱う必要があります。「神経伝達物質に作用するから、認知症の興奮に必ず効く」といった説明は避けるべきです。
通常の成人用量は1日7.5gで、2~3回に分割し、食前または食間に経口投与します。年齢、体重、症状によって適宜増減することが定められているため、すべての患者に一律の量を当てはめるわけではありません。高齢者については、生理機能の低下を考慮し、減量するなど注意するよう記載されています。以下はツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用)の添付文書に基づく基本事項です。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 販売名・識別コード | ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用)/ツムラ・54 | 番号の申告は販売名と製造元で照合する |
| 効能・効果 | 虚弱な体質で神経がたかぶるものの神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症 | 患者の証、すなわち体質・症状を考慮する |
| 通常の成人用量 | 1日7.5gを2~3回に分割 | 年齢、体重、症状により適宜増減 |
| 服用時点 | 食前または食間 | 処方内容と実際の服薬状況を照合する |
| 高齢者 | 減量するなど注意する | 一般に生理機能が低下している |
| 小児 | 小児夜なき、小児疳症が効能に含まれる | 小児等を対象とした臨床試験は実施されていない |
| 治療継続の判断 | 症状・所見の改善がなければ継続投与を避ける | 処方を漫然と更新しない |
小児の適応が記載されていることと、小児で臨床試験が実施されていることは別です。添付文書には「小児等を対象とした臨床試験は実施していない」と明記されています。したがって、「小児に使われる漢方だから年齢を問わず安全」と解釈せず、医師が年齢、体重、症状を踏まえて判断した処方量を確認します。成人用量から保護者が自己判断で換算するような案内は避けます。
胃腸の状態も確認事項です。著しく胃腸が虚弱な患者では食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢などが生じることがあり、食欲不振、悪心、嘔吐がすでにある患者では、これらの症状が悪化するおそれがあります。また、妊婦または妊娠している可能性のある女性には、有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与します。授乳婦では、治療と母乳栄養それぞれの有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討します。
効果判定では、添付文書にすべての症状に共通する固定の評価日数が示されているわけではない点にも注意します。「何日で必ず効く」と断定するのではなく、何を改善目標とするかを処方時に明確にし、経過を観察します。症状・所見の改善が認められない場合には継続投与を避けるという原則が、処方の見直しにつながります。
抑肝散は、認知症の行動・心理症状であるBPSDへの対応でも検討されます。ただし、ツムラ抑肝散の添付文書に「認知症」や「BPSD」という効能・効果が直接記載されているわけではありません。承認された効能、ガイドライン上の位置づけ、個別の患者に対する処方目的を分けて説明することが重要です。認知症患者への使用を、そのまま「認知症の承認治療薬」と表現するのは不適切です。
「BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」は、認知症患者の幻覚、妄想、焦燥性興奮に抑肝散が有効であった報告がある一方、アルツハイマー型認知症のみを対象としたメタ解析では有効性が示されておらず、科学的根拠は十分ではないとしています。そのうえで、必要な場合に考慮してもよいと位置づけています。高齢者の興奮症状では、副作用の観点から抗精神病薬の投与前に検討することも可能とされていますが、これは一律の有効性や安全性を保証するものではありません。
参考)https://dementia-japan.org/wp-content/uploads/2025/06/guideline.pdf
BPSDへの対応では、薬剤選択より先に症状の背景を評価します。同ガイドラインは、非薬物的介入を最優先し、せん妄や身体的要因、薬剤の影響などを確認する方針を示しています。例えば、急に落ち着かなくなった患者に対し、興奮という表面的な症状だけで漢方薬54番の追加を検討するのではなく、感染症、脱水、痛み、便秘などを評価する必要があります。
評価には、神経精神症状を把握するNPIや、家族・介護者が評価する簡易版のNPI-Qなどが利用できます。例えば「夕方の興奮が減った」という感想だけでなく、本人の苦痛や介護負担がどう変化したかを確認します。一方、薬物治療が生活の質に逆効果となっていないかも継続して評価し、必要に応じて減量・中止を検討します。抑肝散についても、漫然とした長期投与を避けることがガイドラインで求められています。
漢方薬54番の安全管理で重視すべきなのは、低カリウム血症です。抑肝散には甘草が含まれており、添付文書では血清カリウム値や血圧値などに十分留意するよう求められています。偽アルドステロン症では、低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加などがみられます。「漢方は穏やかだから採血は不要」という理解では、こうした副作用を見逃しかねません。
低カリウム血症の結果として、ミオパチーや横紋筋融解症が生じることがあります。脱力感、筋力低下、筋肉痛、四肢の痙攣や麻痺などは重要な徴候です。高齢者で活動性が低下した場合も、加齢や認知症の進行だけで説明せず、薬剤による影響を確認します。添付文書では、これらの徴候やCK上昇などが認められた場合、投与を中止し、カリウム剤の投与など適切な処置を行うことが示されています。
体液貯留に関連する注意点として、心不全も重大な副作用に挙げられています。急激な体重増加、息切れ、胸水などの心不全症状・徴候が認められた場合は、投与を中止して適切に対応します。浮腫や息切れを、患者のもともとの病気や運動不足によるものと決めつけず、服用開始時期や症状の変化を照合することが重要です。
間質性肺炎にも注意が必要です。咳嗽、呼吸困難、発熱、肺音の異常などが現れた場合、添付文書は投与の中止と、胸部X線や胸部CTなどによる速やかな評価を求めています。また、肝機能障害、黄疸も重大な副作用として記載されています。これらの重大な副作用はいずれも頻度不明であり、発生率の数値が示されていないことを「起こらない」「無視できる」と解釈してはいけません。
監視では、血清カリウム、血圧、浮腫、体重変化などを確認し、筋症状や呼吸器症状の有無も把握します。BPSDガイドラインも、抑肝散による低カリウム血症に注意し、定期的な血液検査を実施するよう記載しています。ただし、すべての患者に共通する採血間隔は示されていません。患者背景、併用薬、検査値、症状の変化を踏まえて、担当医が評価計画を設定します。
処方監査では、薬品名が異なっていても甘草が重複していないかを確認します。添付文書では、芍薬甘草湯、補中益気湯、六君子湯などの甘草含有製剤と、グリチルリチン酸およびその塩類を含む製剤が併用注意とされています。併用により偽アルドステロン症が現れやすくなり、低カリウム血症の結果としてミオパチーも生じやすくなるためです。個々の漢方薬を別々に評価するだけでなく、処方全体の含有生薬を照合します。
例えば、夜間の筋けいれんに対して芍薬甘草湯が処方されている患者に、神経症や不眠症を目的として抑肝散が追加された場合、甘草含有製剤同士の併用になります。併用注意は直ちに併用禁忌を意味するものではありませんが、処方目的、服用状況、必要性を確認し、血清カリウムや血圧などの監視が適切に行われているかを検討します。
服薬指導では、通常の用法に加えて、患者が連絡すべき症状を具体的に伝えます。「足に力が入りにくい」「むくみが増えた」「急に体重が増えた」「息切れや咳が出てきた」などは、添付文書に記載された重大な副作用の徴候に対応します。単に「体調が悪ければ相談してください」とするよりも、確認すべき変化を言葉にすることで、患者や家族との情報共有が明確になります。
認知症患者では、本人だけで服用後の変化を説明できないことも想定し、家族や介護スタッフと観察項目を共有します。改善の評価は「静かになったか」だけではなく、本人の苦痛と介護負担が軽減したか、生活の質を損なっていないかという視点で行います。処方の継続時には、効果があるか、副作用がないか、減量・中止が可能かを繰り返し検討することが、ガイドラインの原則に沿った対応です。
医薬品情報を確認する際は、検索結果や解説記事だけで判断せず、処方・調剤時点の添付文書を参照します。PMDAの該当製品ページでは添付文書と患者向医薬品ガイドが案内されています。本記事で扱う漢方薬54番はツムラの医療用抑肝散であり、用法・用量や注意事項を実務に適用するときは、実際の販売名とその製品情報を照合することが基本です。
PMDA:添付文書・患者向医薬品ガイドの確認ページ
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