

肺高血圧症は、肺の血管の圧が高くなり、心臓の右側に負担がかかる病気です。息切れ、疲れやすさ、胸痛、動悸、失神、むくみなどがみられます。肺高血圧症には複数の原因群があり、肺動脈性肺高血圧症、左心疾患によるもの、肺疾患・低酸素によるもの、慢性血栓塞栓性肺高血圧症などで治療が異なります。
肺動脈性肺高血圧症では、肺血管の収縮や増殖に関わる経路を標的にした薬が用いられます。ボセンタン、タダラフィル、エポプロステノールなどは代表例ですが、すべての息切れや肺高血圧症に一律で使う薬ではありません。専門施設で右心カテーテル検査などを含む評価を行い、病型、重症度、心機能に応じて治療します。
| 種類 | 主な用途 | 一般名や製品例 |
|---|---|---|
| エンドセリン受容体拮抗薬 | 肺動脈性肺高血圧症 | ボセンタン水和物、トラクリア |
| PDE5阻害薬 | 肺動脈性肺高血圧症。成分・製剤ごとに適応を確認 | タダラフィル、アドシルカ |
| プロスタサイクリン関連薬 | 肺動脈性肺高血圧症。重症度に応じ注射薬などを使用 | エポプロステノールナトリウム、フローラン |
| 可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬 | 肺動脈性肺高血圧症、慢性血栓塞栓性肺高血圧症など | リオシグアト、アデムパス |
| 末梢循環改善薬・抗血小板薬 | 閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛、冷感などの改善 | シロスタゾール、プレタール |

ボセンタンはエンドセリン受容体拮抗薬です。エンドセリンは血管を収縮させ、血管壁の細胞増殖などにも関係する物質です。肺動脈性肺高血圧症では、この経路が病気の進行に関与すると考えられています。ボセンタンはエンドセリンの受容体を遮断し、肺血管への負担を減らすことを目指します。
重要な注意点は肝機能障害です。添付文書では、投与前および投与中に定期的な肝機能検査が必要とされています。また、胎児への影響が懸念されるため、妊娠の可能性がある人では厳格な避妊と妊娠検査を含む管理が求められます。貧血、むくみ、頭痛などにも注意します。
タダラフィルはPDE5阻害薬で、肺血管の平滑筋を緩めるcGMPという物質の分解を抑え、肺血管を広げる方向に働きます。肺動脈性肺高血圧症に用いるタダラフィル製剤は、勃起機能障害治療薬として知られる同成分の製剤とは、適応や使用目的が異なります。
頭痛、ほてり、消化不良、筋肉痛、血圧低下、視覚の異常などに注意が必要です。硝酸薬との併用は危険な血圧低下を起こすおそれがあるため禁忌です。狭心症の薬としてニトログリセリンを使っている場合などは、必ず主治医・薬剤師に伝えます。
エポプロステノールは、血小板凝集を抑え、血管を広げるプロスタサイクリンの作用を利用する薬です。肺動脈性肺高血圧症で、重症度や病状に応じて持続静脈内投与が行われます。薬の効果が短時間で切れるため、ポンプを使用して継続的に投与し、突然中断しないことが極めて重要です。
顔のほてり、頭痛、顎の痛み、下痢、低血圧、出血傾向などがみられることがあります。カテーテル感染、閉塞、ポンプのトラブルは重篤な悪化につながる可能性があるため、患者本人・家族・医療チームで緊急時の対応を共有します。
シロスタゾールは抗血小板作用と血管拡張作用を併せ持つ薬です。閉塞性動脈硬化症に基づく潰瘍、疼痛、冷感などの虚血性症状の改善に用いられます。閉塞性動脈硬化症は、主に足の動脈硬化で血流が悪くなる病気で、歩くと足が痛み、休むと改善する間欠性跛行などがみられます。
動悸、頻脈、頭痛、出血などに注意が必要です。心不全患者では禁忌であり、肺高血圧症治療薬とは目的が異なります。足の痛みや傷がある場合、糖尿病性神経障害、整形外科疾患、静脈疾患などとの見分けも必要です。