

フリースタイルリブレが指先の血糖値より高く出る場合、最初に理解しておきたいのは、両者が同じ検体を測っているわけではないという点です。リブレのセンサーは皮下の間質液中グルコース濃度を測定します。一方、血糖自己測定、いわゆるSMBGは、指先から採取した血液を用います。間質液と毛細管血には生理学的な違いがあるため、同じ時刻に測定しても数値が一致しないことがあります。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/ResultDataSetPDF/100159_30300BZX00119000_B_01_02
メーカーの医療関係者向け情報では、血糖値の変化に対する間質液グルコース値の生理的なタイムラグは約5~10分と説明されています。食後などに血糖が上昇しているときは、血液の変化を間質液が遅れて追うため、リブレが相対的に低く見えることがあります。反対に、インスリン投与後や運動後などに血糖が下降しているときは、間質液の低下が遅れ、リブレが相対的に高く見える場合があります。
参考)https://www.freestyle.abbott/ja-jp/learn/understanding-your-data.html
つまり、「食後だからリブレが高く出る」と一律に説明するのは適切ではありません。確認すべきなのは、食事からの経過時間だけでなく、その時点で血糖が上昇中なのか、ピークを過ぎて下降中なのかという変化の方向です。現在値に加え、トレンド矢印と直前のグラフを確認することで、時間差が関係している可能性を評価しやすくなります。ただし、矢印は間質液グルコース値の傾向を示すもので、指先の血糖値そのものを保証する表示ではありません。
なお、約5~10分という説明は、すべての測定値に機械的に当てはめられる補正式ではありません。「表示から一定値を引けば実際の血糖値になる」と解釈せず、症状と一致しない場合や測定値の正確性に疑問がある場合には、血糖自己測定で確認することが安全上の基本です。
医療従事者が「リブレが高く出る」という相談を受けた場合は、何と比較して高いのかを明確にします。指先のSMBGとの比較なのか、医療機関の採血結果との比較なのか、あるいは本人が想定する値より高いという意味なのかで、評価の出発点が変わります。また、FreeStyleリブレとFreeStyleリブレ 2を区別し、実際に使用している製品の電子添文・取扱説明書を参照する必要があります。以下の装着初期に関する時間や性能値は、FreeStyleリブレ 2センサーの電子添文に基づきます。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 測定対象 | リブレは間質液、SMBGは血液中のグルコースを測定 | 同時刻でも完全一致するとは限りません。 |
| 血糖下降時 | 血液の低下に対して間質液の低下が遅れる | リブレが相対的に高く見える場合があります。 |
| 装着初期 | リブレ 2は装着後12時間、血糖値との差が大きくなる場合がある | 必ず高くなるという意味ではありません。 |
| センサーの固定 | 緩みやセンサー先端の脱落を確認 | 緩んでいる場合は取り外し、新しいセンサーを装着します。 |
| 正確性の指標 | 電子添文掲載の海外試験でMARDは9.2% | 個々の測定値が必ず±9.2%以内に入るという意味ではありません。 |
| 測定範囲 | リブレ 2センサーは40~500mg/dL | HI表示時は指先の血糖値を確認します。 |
特に注意したいのが、平均絶対的相対的差異を表すMARDの扱いです。FreeStyleリブレ 2の電子添文では、146人の糖尿病患者を対象とし、YSI分析装置による静脈血血漿グルコース測定値を参照した海外試験で、MARDが9.2%とされています。この数値は試験全体の正確性を要約した指標であり、「毎回の測定誤差は9.2%以内」「指先測定と9.2%違えば故障」と判断するための境界値ではありません。
したがって、「何mg/dLまでの差なら正常か」という問いに、MARDだけを根拠とした一律の基準は設定できません。差の大きさに加え、血糖の変化速度、症状、装着からの時間、同じような差が反復するかを整理します。電子添文では、正確性に疑問がある場合は指先測定で確認し、問題が解消しない場合はセンサーを取り外して新しいものを装着するよう案内されています。
対応の優先順位は、原因の特定よりも患者の安全確保です。センサー表示が高めであっても、症状が測定結果と一致しない場合には、その表示だけで低血糖を否定してはいけません。FreeStyleリブレ 2の電子添文は、低血糖・高血糖が原因と思われる症状を無視しないこと、測定結果と症状が一致しない場合や正確性に疑問がある場合には、指先で血糖測定を行うことを求めています。
参考)https://www.myfreestyle.jp/hcp/products/freestyle-libre/pdf/pdf-manual-01.pdf
SMBG側の測定条件にも注意が必要です。メーカーの取扱説明書では、果物などの糖分が指先に付着していると血糖値が偽高値になるおそれがあり、アルコール綿だけでは糖分の除去が不十分な場合があるとされています。一方、脱水、ショック、末梢循環障害などで末梢血流が減少している患者では、指先採血による血糖値が偽低値を示すことがあります。
後者では、相対的に「リブレだけが高い」ように見えても、比較に使った指先血糖値の信頼性に問題がある可能性があります。全身状態や末梢循環に懸念がある場合は、指先測定の反復だけで結論づけず、取扱説明書の注意事項を踏まえて静脈血などによる確認を行います。比較相手の測定値も無条件の正解として扱わないことが重要です。
また、患者が高いセンサー表示を見て、事前の指示を超える追加インスリンを自己判断で投与すると、低血糖につながる危険があります。電子添文では、測定結果を理由に医師の指示なくインスリン製剤などの投与量を変更しないよう求めています。医療従事者は、既に追加投与が行われていないかを確認し、処方時に定めた調整方法と今回の対応が一致しているかを評価します。
FreeStyleリブレ 2の電子添文には、センサー装着後12時間は、センサーによる測定値と血糖値との差が大きくなる場合があると記載されています。ただし、これは装着直後なら高値表示をすべて許容してよいという意味ではありません。また、高く出る方向に限定した説明でもありません。症状との不一致や正確性への疑問があれば、装着後の経過時間にかかわらずSMBGで確認します。
センサーの緩みも重要な確認項目です。激しい運動による発汗やセンサーの動きで固定が緩むと、測定値が得られない、あるいは自覚症状と一致しないなど、信頼性の低い結果になるおそれがあります。緩みが認められる場合は、単にテープで押さえて数値の回復を待つのではなく、電子添文に従ってセンサーを取り外し、交換します。取り外したセンサーの再使用はできません。
装着方法の再確認では、指定された上腕後ろ側に装着しているか、傷跡やしこりなどを避けているか、インスリン注入部位から少なくとも2.5cm離れているかを確認します。これらは適正使用の条件であり、逸脱した部位でも同じ性能が得られると考えないことが大切です。著しい皮膚炎症がある場合はセンサーを取り外して使用を中止し、継続前に医師へ連絡する必要があります。
製品不具合による偽高値も、過去に注意喚起されています。日本糖尿病協会は2023年3月2日、FreeStyleリブレセンサーの一部製品が誤った高いグルコース値を示す可能性と、それに基づくインスリン量の調整によって予期しない低血糖が生じるおそれを公表しました。ただし、これは過去の一部製品に関する情報であり、現在使用中のすべてのリブレやリブレ 2が同じ不具合に該当するという意味ではありません。
参考)【FreeStyleリブレをお使いの皆さまへ】FreeSty…
問い合わせ時に状況を正確に伝えるため、製品名、センサーのシリアル番号、装着日時、表示値とSMBG値、発生時刻、症状を整理しておくと、原因評価の材料になります。メーカーの取扱説明書では、Readerのシステム情報から使用したセンサーのシリアル番号などを確認できるとされています。FreeStyleリブレ 2電子添文に記載されたお客様相談窓口は0120-37-8055です。
日本糖尿病協会:2023年の一部製品に関する偽高値の注意喚起
患者への説明では、「リブレは間質液のグルコースを測るため、指先の血糖値と同じ瞬間に同じ数字になるとは限りません。特に下がっている途中では、リブレのほうが高く見えることがあります。ただし、体調と合わないときは指先で確かめましょう」と伝えると、時間差と安全確認の関係を整理できます。時間差の説明だけで、症状や繰り返す大きな差を片付けないことが重要です。
フリースタイルリブレは工場出荷前に較正されており、通常の使用で指先穿刺による較正は不要です。ここでいう較正不要とは、疑わしい表示を確認するためのSMBGまで不要という意味ではありません。「いつも高めだから一律に30mg/dL引く」といった独自補正を患者に習慣づけるのではなく、不一致時に確認する条件と連絡方法を共有することが、電子添文に沿った対応です。
治療評価では、単発のセンサー値だけでなく、日内グラフや食事・インスリン・運動の記録を用いて変化のパターンを把握します。一方、不正確さが疑われる期間の高値を、そのまま薬剤増量の根拠にしないよう注意が必要です。FreeStyleリブレ 2の電子添文でも、測定結果に基づく臨床診断は、臨床症状や他の検査結果と合わせて医師が総合的に判断するものとされています。
反対に、「リブレは高く出ることがある」という説明が、本当の高血糖を見逃す理由になってもいけません。指先測定でも高値が確認される場合や、臨床症状と高値が整合する場合には、センサーの問題だけに原因を求めず、血糖管理の問題として評価します。リブレ 2でHIが表示された場合は、センサー値が500mg/dLより高いことを示すため、電子添文に従って指先血糖値を確認し、それでもHIが表示される場合は速やかに医師へ連絡する必要があります。
医療従事者が運用を標準化する際は、「表示と症状が合わない場合は指先で確認する」「緩みや解消しない不一致では交換・相談につなぐ」「投与量は事前の医師の指示に従う」という行動を具体的に共有します。センサー値を無条件に信頼することと、リブレの連続データを一律に疑うことのどちらにも偏らず、測定の信頼性を確認したうえで診療に活用する姿勢が求められます。