

テニス肘で典型的に痛む場所は、肘の外側にある骨の出っ張り「上腕骨外側上顆」と、その周囲です。痛みは一点に限らず、肘の外側から手首に向かう前腕へ広がることがあります。患者への説明では、「肘の外側の出っ張り付近を中心に、そこから手首方向へ続く筋肉のあたりが痛みます」と伝えると、位置を共有しやすくなります。日本整形外科学会も、物をつかんで持ち上げる動作やタオルを絞る動作で、肘外側から前腕に痛みが出ると説明しています。
参考)「テニ&#x30B…
診察では、患者が「肘が痛い」と示す範囲と、触診で最も痛む部位を区別することが重要です。典型例では外側上顆周辺の伸筋腱起始部に圧痛がありますが、実際の圧痛は外側上顆だけでなく、腕橈関節周辺や伸筋に沿って認められることもあります。「骨の出っ張りだけが痛くなければテニス肘ではない」と機械的に除外せず、症状の分布と誘発動作を組み合わせて評価します。
参考)テニス肘(上腕骨外側上顆炎) - 東京科学大学 整形外科
正式な疾患名は上腕骨外側上顆炎です。主に関与すると考えられている短橈側手根伸筋は、手首を反らす働きを持ち、その起始部が肘の外側にあります。そのため、本人が手首や手指を使っているつもりでも、痛みは肘付近に現れます。日本整形外科学会は、加齢に伴う腱の障害や短橈側手根伸筋起始部の障害を説明する一方、病態や原因は十分には解明されていないとしています。
テニス肘の診断は、問診と身体診察が中心です。問診では、発症時期、外傷の有無、利き手、仕事やスポーツの内容、症状が増悪する動作を確認します。特に、握る、持ち上げる、前腕をひねる動作との関連が重要です。典型例では安静時痛に乏しいため、動作時痛だけでなく、何もしていないときや夜間にも痛むかを聞くことで、症状の典型性を判断しやすくなります。
身体診察では、圧痛点の確認に加えて、手関節や手指を抵抗に逆らって伸ばした際に、普段の痛みが再現されるかを調べます。患者が日常生活で訴える痛みと、検査によって生じた痛みが同じ場所・性質なのかを確認することが大切です。日本整形外科学会が紹介する代表的な検査と、臨床での確認事項を以下に整理します。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 疼痛・圧痛の位置 | 上腕骨外側上顆と、その周囲の伸筋腱起始部を確認する | 前腕や腕橈関節周辺に痛みが広がる場合もある |
| Thomsenテスト | 肘を伸ばし、検者の抵抗に逆らって手関節を伸展してもらう | 肘外側から前腕に普段の痛みが再現されるか確認する |
| 中指伸展テスト | 肘を伸ばした状態で、抵抗に逆らって中指を伸ばしてもらう | 陽性所見だけで他疾患との鑑別を完結させない |
| Chairテスト | 肘を伸ばした状態で椅子を持ち上げる動作により痛みを誘発する | 診察で用いる検査であり、重い椅子による自己確認を勧めるものではない |
| 可動域・神経症状 | 伸展制限、ロッキング、感覚異常、筋力低下などを確認する | 非典型的な所見があれば関節内病変や神経障害も検討する |
上記の誘発テストは診断を補助しますが、単一の検査だけで確定・除外するものではありません。東京科学大学整形外科は、手関節や中指の抵抗下伸展で痛みを誘発する所見が陰性の症例もあると説明しています。また、中指伸展時の痛みは橈骨トンネル症候群でも生じ得るため、圧痛の中心、前腕回旋との関係、神経学的所見を合わせて解釈します。
「テニス肘はどこが痛い」という問いには、典型的な位置を伝えるだけでなく、その位置から外れる場合の見方も必要です。肘の内側が主に痛む場合は、上腕骨内側上顆炎、いわゆるゴルフ肘などを検討します。外側が痛む場合でも、橈骨トンネル症候群や関節内病変などが原因となるため、「肘の外側痛=テニス肘」と短絡しないことが大切です。
参考)https://www.aafp.org/afp/2014/0415/p649
参考)https://www.aafp.org/afp/2000/0201/p691
参考)https://www.aafp.org/afp/2010/0115/p147
テニス肘は、まず保存療法を基本に対応します。出発点は、痛みを誘発する作業やスポーツ動作を特定し、その負荷を調整することです。「使い過ぎに注意してください」という抽象的な説明だけでなく、どの持ち方、握り方、ひねり方で症状が出るのかを具体化します。東京科学大学整形外科は、生活動作指導の一例として、手のひらを上に向けて物を持つ方法を紹介しています。個々の患者で実際に痛みが軽減するかを確認しながら取り入れます。
テニス肘用バンドなどの装具も利用されます。ただし、英国肩肘学会は、装具を提案する場合には効果が得られない可能性も説明するよう求めています。日本整形外科学会も、装着方法は主治医に相談するよう案内しています。装具の有無だけで治療方針を完結させず、装着によって目的の動作が行いやすくなるかを確認します。
ステロイド注射については、情報源による位置付けの違いを明示する必要があります。日本整形外科学会の一般向け解説には保存療法の選択肢として記載されていますが、2023年の英国肩肘学会診療経路は使用しないことを強く推奨しています。その根拠には、初期の疼痛改善が小幅に認められても、約6か月時点ではプラセボより成績が悪くなるという知見があります。短期的に楽になる可能性だけを取り上げず、中長期成績も含めて説明することが重要です。
一方、発熱を伴う肘の発赤・熱感・腫脹、外傷後の変形や強い痛み、肘を動かせない状態、突然の筋力低下や感覚消失は、通常のテニス肘として経過を見るべき症状ではありません。感染、骨折・脱臼、急性の神経障害などを除外する必要があるため、緊急性を判断して速やかな受診・評価につなげます。
参考)https://www.leicspart.nhs.uk/wp-content/uploads/2026/04/LPT-CHSMSK02-Elbow-Pain.pdf
また、安静時にも強く痛む、夜間痛が増悪して眠れない、全身の不調や原因不明の体重減少を伴う場合も、診断を見直す契機になります。「肘の外側が痛むからテニス肘」と決め付けず、症状の経過と非典型所見を確認することが安全な診療につながります。
参考)https://www.mskdorset.nhs.uk/elbow-pain/
医療従事者が「テニス肘はどこが痛い」と尋ねられたときは、まず肘の外側が痛みの中心であり、前腕へ広がる場合があると答えます。そのうえで、物を握る・持ち上げる動作との関連、圧痛点、抵抗下での手関節・手指伸展による疼痛再現を確認します。典型的な症状を患者と共有しつつ、しびれ、ロッキング、著しい腫脹などの所見を別に評価することが、適切な鑑別と治療選択の基盤になります。
英国NHS関連医療機関:肘の痛みで速やかな評価が必要な症状