

生理中の「コアグラ」は、一般に経血に混じって排出される凝血塊、すなわち血液が凝固してできた塊を指します。患者からは「レバーのようなもの」「ゼリー状の血」「どろっとした塊」と表現されます。排出物には血液と子宮内膜の組織が混在することがありますが、凝血塊と剝離した内膜組織は同一の概念ではありません。また、コアグラは排出物の性状を示す言葉であり、それ自体が疾患名ではありません。
参考)生理時に血の塊(コアグラ)が出るのは普通? 知っておきたい基…
小さな塊が一時的に混じることだけで、直ちに病的出血とは判断できません。一方、大きな塊が繰り返し出る、以前より出血が増えた、夜間にも生理用品を交換する、衣服や寝具まで漏れるといった状況では、過多月経の評価が必要です。臨床では「塊があるか」だけでなく、「どの程度の出血に伴っているか」を確認します。
過多月経の評価では、血液量の数値だけでなく、身体的、心理的、社会的な生活の質への影響を重視します。たとえば、出血のため通勤できない、会議中に何度もトイレへ行く、漏れが不安で外出を控えるといった訴えは、診療上の重要な情報です。経血量を正確に測定できないことを理由に、相談や治療の必要性を過小評価してはいけません。
参考)Recommendations
米国産科婦人科学会(ACOG)は、過多月経を疑う徴候として、7日を超える出血、数時間にわたり毎時間ナプキンやタンポンが十分にぬれる出血、夜間の交換、米国の25セント硬貨程度以上の血塊などを挙げています。ただし、これらは診察につなげるための目安であり、血塊の直径だけで診断や救急搬送の要否を決定する基準ではありません。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 凝血塊の出現 | 大きさ、回数、毎周期の反復、以前からの変化を確認 | 単独所見で原因疾患や重症度を確定しない |
| 生理用品の飽和 | 毎時間の交換が数時間続く、重ね使いが必要、衣服まで漏れる | 製品の吸収量や交換理由も確認する |
| 出血の持続 | 7日を超える出血は過多月経を疑う徴候の一つ | 月経間出血や不規則な出血も区別する |
| 生活への影響 | 仕事、学業、睡眠、運動、外出に支障がある | 治療の必要性と効果判定の重要な指標 |
| 貧血・循環不全の症状 | 息切れ、強いめまい、失神、胸痛など | 進行中の出血と合わせて緊急性を判断する |
上表の出血に関する目安はACOGの患者向け情報、生活への影響を重視する考え方はNICEおよびオーストラリアの臨床ケア標準に基づきます。生理用品の交換回数は便利な問診項目ですが、衛生目的の交換と出血による飽和を区別する必要があります。
急性出血で最優先すべきなのは、循環動態です。ACOGは、急性の異常子宮出血では循環血液量減少や血行動態不安定の徴候を速やかに評価するよう求めています。毎時間の生理用品交換が2時間を超えて続き、胸痛、息切れ、立ちくらみ・めまいなどを伴う場合は、緊急の医療評価が必要です。失神や明らかな全身状態不良がある場合には、一定の出血時間を満たすまで待つべきではありません。
参考)Abnormal Uterine Bleeding
ACOG:異常子宮出血と緊急受診の目安
コアグラを伴う多量出血の鑑別では、まず妊娠関連出血を除外し、そのうえで子宮由来の異常出血を整理します。非妊娠時の異常子宮出血には、構造的原因と非構造的原因を分けるPALM-COEIN分類が有用です。ただし、この分類は「凝血塊の種類」を分類するものではなく、異常子宮出血の原因を体系的に検討するための枠組みです。
参考)https://www.safetyandquality.gov.au/clinical-care-standards/heavy-menstrual-bleeding
特に注意したいのは、患者が「生理」と表現していても、医学的には月経とは限らない点です。最終の通常月経、今回の出血時期、避妊状況、妊娠可能性を確認します。また、閉経後出血や持続する月経間出血は、通常の月経中のコアグラとは分けて評価する必要があります。
子宮内膜症は月経痛などの鑑別で重要ですが、過多月経と強い月経痛を認める場合は、子宮腺筋症も意識します。NICEは、強い月経痛や腺筋症を示唆する腫大・圧痛のある子宮を認める場合、経腟超音波を推奨しています。痛みと出血の両方を確認することで、単に「血の塊が出る」という主訴から鑑別を具体化できます。
問診では、出血開始日、持続期間、周期、最も多い日の状態、凝血塊の頻度、夜間交換や漏れの有無を具体的に確認します。さらに、月経痛、月経間出血、骨盤内の圧迫症状、倦怠感、息切れ、妊娠の可能性、既往歴、服薬歴、出血性疾患の家族歴を聴取します。出血が生活に与える影響を聞くことは、診断の補助だけでなく、患者と治療目標を共有するうえでも役立ちます。
急性の多量出血では、バイタルサインと全身状態を確認し、循環不安定が疑われる場合は蘇生・止血対応を優先します。診察は、出血部位や原因を確認する目的で行いますが、内診や経腟超音波の実施に際しては、年齢、本人の意向、過去のトラウマなどに配慮し、説明と同意を得ます。適さない場合には、経腹超音波などの代替手段を検討します。
血液検査では、過多月経がある患者の血算を基本に、ヘモグロビン値などから貧血を評価します。フェリチンの扱いはガイドライン間で異なり、NICEは過多月経患者全員へのルーチン測定を推奨していません。一方、オーストラリアの2024年改訂臨床ケア標準は、血算とフェリチンによる鉄欠乏・貧血の評価を推奨しています。したがって「すべての指針で必須」とは説明せず、鉄欠乏を疑う症状や背景、施設方針に応じて検討します。
初経時からの過多月経と、出血性疾患を示唆する個人歴・家族歴がある場合は、凝固異常の検査を考慮します。必要に応じてvon Willebrand因子などの専門検査へ進みます。女性ホルモンや甲状腺機能の検査を一律に追加するのではなく、NICEでは女性ホルモン検査を過多月経のルーチン評価として行わず、甲状腺機能も関連症状がある場合に限って検討する方針です。
画像検査や子宮鏡検査は、病歴と診察所見から選択します。筋腫や腺筋症が疑われる場合には超音波が有用で、持続する月経間出血や子宮腔内病変が疑われる場合には、子宮鏡や内膜評価を検討します。すべての患者に同じ検査を並べるのではなく、見逃してはいけない病態と患者負担の両面から検査計画を立てます。
NICE NG88:過多月経の評価と管理に関する推奨
オーストラリア医療安全・質委員会:過多月経の臨床ケア標準
治療の目標は、コアグラという見た目の変化だけをなくすことではありません。出血を減らし、鉄欠乏や貧血を改善し、仕事や睡眠、外出への支障を軽減することが中心です。治療法の選択では、原因疾患、症状の程度、併存疾患、妊娠希望、避妊の必要性、子宮温存の希望を共有します。
薬物療法の選択肢には、レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)、ホルモン製剤、トラネキサム酸、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などがあります。NICEでは、明らかな病変がない場合や、子宮腔を変形させない小さな筋腫、腺筋症が疑われる場合などにLNG-IUSを第一選択として検討します。ただし、ここで挙げた海外ガイドラインの選択肢を、そのまま国内の承認適応や処方方法と同一視せず、実際の診療では各製剤の適応・禁忌を確認する必要があります。
子宮腔内のポリープや粘膜下筋腫などが出血に関与している場合は、病変に対する治療を検討します。薬物療法で十分な改善が得られない場合にも、追加の原因検索や専門診療につなげます。子宮温存と妊孕性温存は同じ意味ではなく、手技によって将来の妊娠への影響が異なるため、処置前に具体的な説明が必要です。
患者には、月経開始日、出血日数、生理用品が飽和するまでの時間、夜間交換、漏れ、血塊の頻度、痛みやめまいを記録してもらうと、再診時の評価に役立ちます。「出血は多いが毎月同じだから体質だ」と我慢している場合も、生活への影響と鉄欠乏・貧血の有無から相談の意義を説明します。評価の中心は、患者が困っている具体的な場面と、その改善です。
経過観察を選ぶ場合でも、再評価の条件を明確にします。出血の急増、毎時間の生理用品の飽和、強いめまい・失神・息切れ・胸痛などがあれば、予定の再診日を待たずに医療機関へ相談するよう伝えます。生理のコアグラは単独で診断を示すものではありませんが、過多月経や背景疾患を把握する入り口になります。塊の見た目だけで安心させるのでも、不必要に重篤な病気と結び付けるのでもなく、出血の全体像と全身状態に基づいて判断することが求められます。