

子宮内膜症は、子宮内腔に存在する子宮内膜に類似した組織が、子宮外に生着・増殖する慢性炎症性疾患である。病変は卵巣、腹膜、ダグラス窩、仙骨子宮靱帯などに認められ、卵巣に形成される子宮内膜症性嚢胞は一般にチョコレート嚢胞と呼ばれる。深部子宮内膜症では、直腸・S状結腸、膀胱、尿管などの近接臓器に及ぶことがあり、疼痛にとどまらず排便・排尿症状を伴う場合がある。
病変部では、月経周期に伴う出血や炎症反応、線維化、癒着形成が生じ得る。結果として、月経困難症、慢性骨盤痛、性交痛、排便痛などが出現し、卵管周囲癒着、骨盤内環境の変化、卵巣予備能への影響などを介して不妊に関与する。厚生労働省の女性健康情報では、子宮内膜症は20代から40代に多く、強い月経痛、骨盤痛、性交痛、排便痛および不妊の原因となり得る疾患として示されている。厚生労働省:月経について
臨床で重要なのは、「月経痛があること」だけを疾患の決め手としない一方で、鎮痛薬で十分に制御できない月経痛、年々増悪する月経痛、月経以外にも続く骨盤痛、性交・排便時の周期性疼痛を見逃さないことである。日本産科婦人科学会は、子宮内膜症の主な症状を痛みと不妊と位置づけ、月経困難症が患者の約9割にみられるとしている。症状の重症度と病変の広がりが必ずしも一致しないことも、診療説明における重要な留意点である。日本産科婦人科学会:子宮内膜症
診断では、まず症状の内容、持続期間、月経周期との関連、鎮痛薬への反応、妊娠希望、不妊期間、既往治療、家族歴を系統的に確認する。月経困難症の初発時期だけでなく、疼痛の増悪経過、出勤・就学・睡眠・性生活への支障、救急受診歴、鎮痛薬の使用頻度も把握する。性交痛は深部性交痛か、排便痛は月経時に増悪するかを具体的に聴取すると、深部病変を疑う手掛かりになる。
内診では、子宮の可動性低下、後屈固定、子宮後方の圧痛、仙骨子宮靱帯領域の硬結・結節、付属器腫瘤などを評価する。ただし、内診所見が乏しい場合でも子宮内膜症は否定できない。未経験性交者、若年者、内診に強い抵抗がある患者では、診察の必要性と代替手段を説明し、経腹超音波検査やMRIなどを適切に組み合わせる。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 症状聴取 | 進行性月経痛、慢性骨盤痛、性交痛、排便痛、月経時の排尿・排便症状、不妊 | 月経周期性、生活機能への影響、鎮痛薬の使用状況を具体的に確認する |
| 経腟超音波検査 | 卵巣子宮内膜症性嚢胞、子宮腺筋症、骨盤内腫瘤、癒着を示唆する所見を評価する | 検査者の経験と病変部位により描出能が異なる |
| MRI | 卵巣チョコレート嚢胞、深部子宮内膜症、直腸・膀胱・尿管周囲病変の評価に用いる | 手術計画や病変範囲の把握で有用となる |
| 血液バイオマーカー | CA125などは補助的情報にとどめる | 単独で診断・除外する検査ではない |
| 腹腔鏡 | 画像陰性でも症状が持続する場合、経験的治療が不成功または不適切な場合に検討する | 診断と治療を同時に行えるが、侵襲性を踏まえて適応を判断する |
疼痛管理では、治療目標を「痛みをゼロにすること」に限定せず、日常生活、就労、睡眠、性生活を含む生活機能の改善として患者と共有する。NSAIDsなどの鎮痛薬は症状緩和に用いられるが、病変進展の抑制や再発予防を直接保証する治療ではない。漫然使用を避け、消化管障害、腎機能、併用薬、服薬頻度を確認しながら適正使用を促す。
妊娠を直ちに希望しない患者の疼痛に対しては、ホルモン療法が中心的な選択肢となる。低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、プロゲスチン製剤、レボノルゲストレル放出子宮内システム、GnRHアゴニストまたはGnRHアンタゴニストなどが検討される。具体的な薬剤選択では、疼痛の程度、出血パターン、服薬継続性、静脈血栓塞栓症リスク、乳癌を含む既往・家族歴、骨密度、併存疾患、費用、患者の価値観を総合する必要がある。
日本産婦人科医会は、月経困難症・慢性骨盤痛に対する内分泌療法として、LEP製剤、ジエノゲスト、ジドロゲステロン、LNG-IUS、GnRHアゴニストなどを挙げている。また、治療選択は病巣部位、卵巣チョコレート嚢胞の有無・大きさ、年齢、挙児希望、妊孕性温存の必要性を踏まえて行い、閉経までの長期管理を見据える必要があるとしている。日本産婦人科医会:子宮内膜症への対応
手術は、疼痛が薬物療法で十分に改善しない場合、卵巣子宮内膜症性嚢胞の増大や悪性疾患との鑑別が課題となる場合、深部病変による臓器症状がある場合、癒着・病変の評価や治療が必要な場合などに検討される。実施する場合は、病変切除、癒着剥離、嚢胞摘出などを腹腔鏡下で行うことが多いが、術式の選択は病変部位、進展度、術者・施設の経験、合併症リスクに依存する。
卵巣チョコレート嚢胞に対する手術は、疼痛や病理診断上の必要性などの利点がある一方、卵巣実質への影響による卵巣予備能低下が問題となり得る。特に、両側病変、反復手術、すでに卵巣予備能の低下が懸念される症例では、手術の目的と期待できる利益、手術によるリスク、術後の不妊治療方針を事前に多職種・生殖医療施設と共有することが重要である。
妊娠を希望する患者では、疼痛治療と妊孕性改善の最適解が必ずしも一致しない。妊娠を目指している期間にホルモン療法を継続すれば、排卵抑制により自然妊娠は期待できないため、年齢、不妊期間、卵管因子、精液所見、卵巣予備能、病変の程度を踏まえ、待機、手術、人工授精、体外受精・顕微授精などを個別に検討する。ESHREガイドラインも、子宮内膜症関連不妊に対して、外科治療または生殖補助医療を選択肢として提示している。ESHRE Endometriosis Guideline
子宮内膜症は、単回の治療で完結するとは限らず、症状の再燃、病変の変化、妊娠希望、年齢、治療継続の負担に応じて方針を更新する疾患である。したがって、初診時から「治療は痛みの対処だけではなく、今後の妊娠希望や閉経までを見通した長期的な管理である」ことを伝える必要がある。患者が症状を月経の当然の苦痛として我慢していることも多いため、症状日誌や月経アプリを活用し、疼痛の強さ、鎮痛薬使用、出血、排便・排尿症状、欠勤・欠席などを記録してもらうと、治療効果の評価に役立つ。
また、急激な腹痛、発熱、嘔吐、失神、著明な腹部膨満、急速に増悪する痛み、月経と関連しない持続的な血尿・下血などは、嚢胞破裂、感染、捻転、腸管・尿路病変、他疾患を含む緊急評価が必要な状況として説明する。卵巣腫瘤を認める場合には、年齢、画像所見、腫瘤径、増大速度、症状、腫瘍マーカーなどを総合して、悪性腫瘍との鑑別を継続する。
医療従事者は、疼痛を主観的な訴えとして過小評価せず、仕事、家事、育児、パートナーシップ、心理状態に与える影響を確認したい。必要に応じて、疼痛管理、精神心理的支援、栄養・運動支援、不妊専門医療、消化器外科・泌尿器科との連携を組み合わせる。患者ごとの治療目標を定期的に再確認し、症状、病変、妊孕性、生活の質の四点を同時に評価することが、子宮内膜症診療の質を高める。