

大人のインフルエンザで熱が上がったり下がったりしている場合、最初に区別したいのは「発熱が続いている間の変動」と「いったん全身状態が改善してからの再発熱」です。解熱薬を使って一時的に体温が下がった状態と、薬を使わずに熱が落ち着き、食欲や活動性も戻ってきた状態は、同じ意味ではありません。診療や電話相談では、体温の数字に加えて、服薬と症状の時間的な関係を確認する必要があります。解熱薬による体温低下は症状緩和であり、それだけで感染症から回復したとは判断できません。
参考)NHS
インフルエンザは、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、倦怠感、咳などが急に現れることが特徴です。一方で、すべての患者に高熱が出るわけではありません。特に高齢者や免疫抑制状態にある患者では、発熱が目立たないこともあります。「高熱ではないから重くない」「一度平熱になったから問題ない」と説明せず、呼吸状態や意識、摂取量、基礎疾患の変化まで含めて評価することが大切です。
参考)Clinical Signs and Symptoms of…
患者から「朝は下がったのに、また上がった」と相談されたときには、何時に何度だったか、その前に解熱薬を使ったか、熱が下がった間に体調も改善したかを具体的に聞き取ります。発熱の変化だけを一括して「ぶり返し」と扱わず、咳や息苦しさが新たに増えたのか、水分が取れなくなったのかを整理すると、再評価の必要性が判断しやすくなります。CDCは、改善した発熱や咳が再び現れたり悪化したりすることを、成人の警告徴候に挙げています。
参考)Signs and Symptoms of Flu
CDC:医療従事者向けインフルエンザの臨床症状と合併症
CDCの一般向け資料では、インフルエンザの発熱は通常3~4日続くとされています。また、医療従事者向け資料では、合併症のないインフルエンザの症状は、多くの場合3~7日で軽快すると説明されています。ただし、この二つは同じ指標ではありません。発熱期間と、咳や倦怠感を含む症状全体の持続期間を分けて伝えると、患者の誤解を減らせます。咳や倦怠感は2週間を超えて残る場合もあります。
これらの日数は、個々の患者に対して「その日まで受診しなくてよい」と保証する基準ではありません。発症日、年齢、基礎疾患、治療内容、症状の推移を踏まえて解釈します。特に、体調が改善した後に熱や咳が再び悪化した場合は、一般的な経過の日数内であっても速やかな医療相談が必要です。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 一般的な発熱期間 | 通常は3~4日程度 | 個人差があり、日数だけで安全性を判断しない。 |
| 合併症のない場合の症状全体 | 多くは3~7日で軽快 | 咳や倦怠感は2週間以上残る場合がある。 |
| 改善後の発熱・咳の再燃 | 速やかな医療相談が必要 | 肺炎などの合併症を含めて再評価する。 |
| 呼吸困難・意識の異常 | 直ちに医療評価が必要 | 体温が低くても対応を遅らせない。 |
| 高齢者・妊婦・基礎疾患のある患者 | 早い段階で医療機関に相談 | 重症化リスクを踏まえて個別に判断する。 |
患者説明では「何度までなら大丈夫ですか」という問いに対し、単一の体温だけで線引きしないことが重要です。高熱が続く場合に加え、呼吸が苦しい、意識状態がおかしいなど、具合の悪さを伴う場合には早めの受診が必要です。厚生労働省も、これらを医療機関への受診を勧める症状として示しています。
参考)令和6年度インフルエンザQ&A|厚生労働省
CDC:インフルエンザの症状と緊急受診が必要な徴候
いったん改善した後に発熱や咳が悪化した場合、鑑別として重要なのが肺炎です。インフルエンザでは、ウイルス自体による肺炎だけでなく、二次性の細菌性肺炎も起こり得ます。CDCは、関連する細菌として肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、A群レンサ球菌などを挙げています。ただし、熱の上がり下がりだけで細菌感染と確定できるわけではなく、再発熱をそのまま抗菌薬の適応と考えることは適切ではありません。
医療従事者が優先して拾い上げたいのは、体温よりも重症化を示す症状です。再発熱に加えて息切れや胸痛、意識の変化、著しい脱力がある場合は、単なる発熱の変動として経過観察を続けないようにします。CDCが示す成人の主な警告徴候は次のとおりです。
強い呼吸困難や意識障害などがある場合は、予約日や翌朝を待たず、救急対応が必要です。相談時に熱が下がっていても、これらの症状があれば緊急性は否定できません。また、高齢者や免疫抑制患者では典型的な高熱を欠くことがあるため、食欲低下や精神状態の変化なども含めて評価します。
抗菌薬はインフルエンザウイルスそのものには効きません。一方、細菌感染を合併した肺炎などでは、抗菌薬が必要になる場合があります。患者には「熱が戻ったので手元の抗菌薬を飲む」という対応ではなく、再診で原因と治療の必要性を評価することを説明します。発熱の再燃を、抗インフルエンザ薬の効果不足だけに結び付けないことも重要です。
解熱薬は発熱や痛みによるつらさを和らげる薬です。抗インフルエンザ薬とは目的が異なるため、解熱薬を使って体温が下がったことを、ウイルス感染そのものが治った証拠として扱わないよう説明します。また、再び熱が上がった場合でも、自己判断で服用間隔を短くしたり、処方量を増やしたりせず、指示された用法・用量を守ることが基本です。
アセトアミノフェンを使用している場合は、総合感冒薬などに同じ成分が含まれていないか確認します。別の商品名の薬でも、成分が重複すれば推奨量を超えるおそれがあります。患者への聞き取りでは、処方薬だけでなく、市販の風邪薬や鎮痛薬を含めて、実際に使った製品と服用時刻を確認することが大切です。
抗インフルエンザ薬について、厚生労働省は、発症から48時間以内の適切な時期に開始すると、発熱期間が通常1~2日短縮すると説明しています。ただし、これは「服用後1~2日で必ず平熱になる」という意味ではありません。効果は発症からの時間や病状で異なり、すべての患者に投与が必須というわけでもないため、使用の適否は医師が判断します。
発症から48時間を過ぎたことを理由に、受診そのものが不要になるわけではありません。重症化リスクがある患者、非常に具合が悪い患者、改善後に再び悪化した患者では、経過時間にかかわらず医療機関への相談が必要です。患者指導では「薬を始めるタイミングの話」と「今の症状を評価する必要性」を分けて伝えると、受診の遅れを防ぎやすくなります。
自宅療養では、十分な睡眠と休養、水分補給を基本にします。厚生労働省は、水分としてお茶やスープなども挙げています。ただし、飲めているかどうかだけでなく、尿が出ているか、呼びかけに普段どおり反応するかも確認します。水分が取れず、尿が出ないなどの状態を伴う場合は、家庭での対応だけを続けないよう説明します。
厚生労働省:令和6年度インフルエンザQ&A・治療と療養の考え方
「熱が上がったり下がったりする」という相談を具体的な評価につなげるには、発症日時、測定した体温、解熱薬の使用時刻、咳や息苦しさの変化を時系列で整理する方法が役立ちます。体温だけを並べるのではなく、「薬を飲んで下がった」「薬を使わず落ち着いた」「食事が取れるようになった後に再び悪化した」といった経過を区別するための記録です。改善後の発熱・咳の再燃や、呼吸状態の悪化を見逃さないという観点が中心になります。
電話相談や外来での確認事項は、発症からの日数、現在の主症状、呼吸と意識の状態、水分摂取と排尿、使用薬、年齢・妊娠・基礎疾患などです。特に65歳以上、妊娠中、慢性疾患や免疫機能低下のある患者では、重症化リスクを踏まえて早めの相談につなげます。発熱が目立たない高齢者では、食欲や普段との様子の違いも重要な情報です。
復職については、解熱と感染性の消失を同一視しないことが重要です。厚生労働省によると、一般的に発症前日から発症後3~7日間は鼻やのどからウイルスが排出され、解熱後も排出が続く場合があります。熱が下がった直後に無理をして勤務せず、咳エチケットや手指衛生など、周囲に感染を広げない配慮が必要です。
CDCは一般的な活動再開の条件として、少なくとも24時間、解熱薬を使わず発熱がなく、症状全体が改善していることを示しています。ただし、これは米国の一般向けの目安であり、日本の成人全員に適用される法定の復職基準ではありません。学校保健安全法の「発症後5日を経過し、かつ解熱後2日を経過するまで」という出席停止期間と、成人の勤務再開の判断も区別する必要があります。
特に医療従事者自身が罹患した場合、一般向けの活動再開目安だけで患者対応への復帰を決めず、所属施設の感染管理手順に沿って確認することが必要です。また、厚生労働省は、職場復帰に際して治癒証明書や陰性証明書の提出を求めることは望ましくなく、提出は不要としています。復帰判断では、証明書だけに依存せず、症状の改善、解熱薬を使っていない状態での経過、職務上の感染対策を分けて確認する視点が求められます。