胸の痛みと息苦しさの原因と初期対応を医療者向けに解説

胸の痛みと息苦しさの原因と初期対応を医療者向けに解説

「胸痛み 息苦しい」という訴えでは、急性冠症候群や肺血栓塞栓症などの迅速な鑑別が重要です。医療従事者に向けて、危険徴候、問診、検査、患者説明を整理します。重症疾患を見逃さない初期評価はどう進めるべきでしょうか?

胸痛み・息苦しい訴えの基礎知識と核心ガイド

胸痛と息苦しさを見逃さない初期評価
疾患名より先に緊急度を判断する

突然の胸背部痛、冷汗、失神、強い呼吸困難を確認し、診断の確定を待たずに救急対応へつなげます。

正常な初回検査だけで安心しない

急性冠症候群を疑う場合は早期に心電図を記録し、症状の推移と採血結果を経時的に評価します。

患者説明まで含めて安全を確保する

受診時に症状が軽快していても危険疾患を検討し、帰宅時には再受診すべき症状と連絡先を伝えます。


胸の痛みと息苦しさでは、原因検索より先に緊急度を評価する


「胸痛み 息苦しい」という検索語に相当する患者の訴えは、診療現場では「胸が締め付けられる」「息が詰まる」「胸が重い」「深く息を吸うと痛い」など、多様な表現で示されます。重要なのは、患者が「痛い」という言葉を使ったかどうかではなく、急性の胸部不快感と呼吸困難がどのように始まり、現在どの程度の呼吸・循環障害を伴っているかです。急性冠症候群では、明確な疼痛ではなく圧迫感や不快感として訴える場合もあります。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)
初期対応の中心となるのは、緊急度の判断です。意識状態、気道、呼吸状態、循環動態を速やかに確認し、呼吸数、脈拍、血圧、経皮的酸素飽和度であるSpO2などを把握します。同時に、冷汗、顔面蒼白、チアノーゼ、会話の困難さ、失神や意識変容の有無を観察します。胸痛の原因がまだ確定していなくても、ショックや重い呼吸不全が疑われる場合は、通常の外来診療の順番を待たせず、救急対応につなげる必要があります。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)
院外や電話相談で、突然の激しい胸背部痛、胸部圧迫感に伴う冷汗、強い息苦しさ、失神などを把握した場合は、救急要請を優先します。急性冠症候群が疑われる患者には、自分で運転して来院するよう勧めず、119番通報による搬送を案内します。「心筋梗塞の痛みは長く続く」といった説明を、一定時間は自宅で待ってよいという意味で伝えてはいけません。危険徴候があれば、持続時間の条件がそろうまで待つ必要はありません。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)
痛みの強さだけで安全性を判断できない点にも注意が必要です。急性冠症候群では軽微な症状でも重症例があり、高齢者や糖尿病患者などでは、息切れ、倦怠感、失神が前面に出ることがあります。女性でも典型的な胸痛を欠く場合があり、年齢や性別に関する思い込みで評価の対象を狭めない姿勢が重要です。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)
総務省消防庁「救急車を上手に使いましょう」


見逃せない原因疾患と、症状・背景から得られる手がかり

胸痛と息苦しさが併存する場合は、急性冠症候群だけでなく、急性大動脈解離、肺血栓塞栓症、緊張性気胸などを鑑別に挙げます。これらは治療方針が異なるため、「胸痛だから心筋梗塞」と早期に決めつけることも危険です。以下の所見は診断の手がかりであり、所見がないことだけで疾患を除外する基準ではありません。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)

j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)

j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/07/JCS2020_Ogino.pdf)

j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)

j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)

j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)

j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)

項目 基準・内容 備考
急性冠症候群 胸骨後部の圧迫感・絞扼感、腕・顎・背部などへの放散、冷汗、悪心、呼吸困難 安静時にも発症する。症状の性状だけで除外しない。
急性大動脈解離 突然の胸背部痛、痛みの移動、失神、神経症状、四肢の脈拍差や血圧差 無痛性の例もある。冠動脈への進展によって心筋虚血を伴うことがある。
肺血栓塞栓症 急な呼吸困難、胸痛、頻呼吸、失神、重症例でのショック 術後、長期臥床、深部静脈血栓症、悪性腫瘍などの背景を確認する。
気胸・緊張性気胸 胸痛と呼吸困難を来す肺疾患として評価する 循環不全を伴う場合は、致死的な胸痛疾患として迅速に対応する。
急性心不全・肺水腫 呼吸困難、起座呼吸、湿性ラ音、泡沫状の痰など 急性心筋梗塞の合併症として生じる場合もある。
消化器・胸壁などの疾患 逆流性食道炎、食道痙攣、肋軟骨炎、肋間神経痛など 食事、体位、圧迫との関連を確認するが、それだけで心血管疾患を否定しない。

急性大動脈解離では、「引き裂かれるような痛み」という表現だけを探すのではなく、突然発症したか、胸部から背部や腹部へ痛みが移ったか、失神や局所神経症状を伴うかを確認します。上行大動脈に及ぶ解離は、心タンポナーデ、大動脈弁逆流、冠動脈や脳血管の灌流障害を起こし得ます。胸痛に呼吸困難や意識障害が重なる場合、単なる疼痛反応と解釈せず、こうした合併症を念頭に置きます。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/07/JCS2020_Ogino.pdf)
肺血栓塞栓症では、胸部症状と血栓症リスクを関連づけて考えることが大切です。例えば、術後に離床した直後の急な息切れや、長期臥床中の患者に生じた胸痛は、病歴の意味が大きく異なります。一方、リスク因子が明らかでないという理由だけで、呼吸困難の原因を不安や過換気に限定しないよう注意します。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)
日本循環器学会ほか「2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン」


問診と身体診察では、発症様式と随伴症状を構造化する

状態が安定している患者でも、問診は「どこが痛いか」だけでは不十分です。発症時刻、突然か徐々にか、持続しているか反復しているか、運動や食事との関係、放散痛、随伴症状を整理します。患者の表現を医療者側の用語に置き換えすぎず、まず本人の言葉を記録すると、後の再評価や申し送りで症状の変化を比較しやすくなります。急性冠症候群の診断では、こうした病歴に既往歴、冠危険因子、家族歴を組み合わせることが重要です。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)

  • 発症と経過:いつ始まったか、何をしていたか、突然始まったか、現在も続くか、以前より頻回・長時間・強い症状になっていないかを確認します。
  • j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)

  • 痛みの特徴:胸骨後部の圧迫感、局在する痛み、背部や腕・顎への放散、呼吸・咳・体位変換・圧迫による変化を確認します。
  • j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)

  • 随伴症状:冷汗、悪心・嘔吐、動悸、失神、発熱、咳、血痰、起座呼吸、神経症状を確認します。
  • j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)

  • 背景情報:冠動脈疾患や大動脈疾患の既往、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、家族歴、手術歴、臥床、悪性腫瘍、血栓症の既往を確認します。
  • j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)

  • 服薬と治療歴:現在の処方、抗血栓薬の使用、胸痛時の硝酸薬使用、過去の冠動脈治療や検査結果を把握します。
  • j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)

身体診察では、バイタルサインとともに、心音・心雑音、呼吸音、頸静脈、末梢循環、四肢の脈拍、神経学的所見を評価します。湿性ラ音や起座呼吸は肺うっ血の手がかりとなり、脈拍や血圧の左右差、局所神経症状は大動脈解離を考える契機になります。ただし、典型所見がそろわない例もあるため、身体診察だけで確定診断や除外診断を行わないことが重要です。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)
また、押すと痛む、深呼吸で痛む、チクチクするといった所見は胸壁疾患や胸膜疾患を示唆しますが、それだけで急性冠症候群を否定することはできません。食後の胸焼けや制酸薬による軽快も、全体の臨床像から切り離して判断しないようにします。診断の手がかりと、危険疾患を除外できる根拠は区別する必要があります。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)


心電図・採血・画像検査は、目的と限界を理解して組み合わせる

急性冠症候群が疑われる場合、12誘導心電図は速やかに記録します。日本循環器学会の急性冠症候群ガイドラインでは、疑い患者に対して10分以内の記録を推奨しています。ST上昇などから緊急再灌流療法が必要と判断される場合は、トロポニンなどの採血結果を待つことで治療を遅らせないことが重要です。検査をすべて終えてから専門医へ連絡するのではなく、評価と連携を並行して進めます。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)
初回心電図に明らかな異常がなくても、急性冠症候群は除外できません。発症早期には変化が乏しく、症状が消失している時間帯には正常に見える場合もあります。症状が持続・再燃する場合や疑いが残る場合は経時的に記録し、過去の心電図とも比較します。必要に応じて右側胸部誘導や背側部誘導を追加し、標準12誘導だけでは捉えにくい病変を検討します。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)
心筋トロポニンは心筋傷害を評価する重要な検査ですが、「陽性ならすべて冠動脈閉塞」「陰性なら直ちに帰宅可能」とは解釈できません。発症から採血までの時間を考慮し、必要に応じて経時的な上昇・下降を確認します。また、高齢者、腎機能低下例、心不全例などでは、急性の心筋虚血と無関係に高値を示すことがあります。心筋梗塞の診断には、症状、心電図、画像所見などの虚血を示す情報との統合が必要です。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)
胸部X線や心エコーは、肺うっ血、他疾患、心機能や合併症の評価に役立ちます。一方、大動脈解離や肺血栓塞栓症が疑われる場合は、病歴、診察、循環動態を踏まえて適切な画像診断へ進めます。胸痛患者全員に同一の検査セットを当てはめるのではなく、何を疑い、どの検査で確認するのかを明確にすることが重要です。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)
日本循環器学会ほか「急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)」


初期対応と患者説明では、見逃しと受診の遅れを防ぐ

初期対応では、重症度に応じた監視と処置を行いながら、専門診療や搬送の必要性を判断します。診療所などで急性冠症候群を疑った場合は、バイタルサイン、身体所見、心電図を評価し、適切な初期対応と救急搬送の手配を並行します。搬送先には、発症時刻、症状の経過、現在の循環・呼吸状態、心電図所見、既往歴、服薬状況を具体的に伝えることが重要です。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)
「息苦しい」という訴えだけで、酸素や薬剤を一律に投与するのではなく、低酸素血症や循環動態、疑われる病態に応じて適応を判断します。特に薬剤は鑑別診断によって注意点が変わります。例えば、硝酸薬は右室梗塞合併例などで禁忌となり、急性大動脈解離は冠動脈に進展して心筋梗塞に似た所見を示すことがあります。胸痛という症状だけを根拠に、治療を機械的に進めないことが大切です。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)
症状が軽快した患者への説明でも、「今は痛くないから問題ない」と断定しないようにします。急性冠症候群では症状が反復する場合があり、大動脈解離でも痛みが一時的に消退することがあります。帰宅を選択する場合は、評価した範囲と残る不確実性を説明したうえで、胸痛の再発・増悪、安静時の息苦しさ、冷汗、失神、新たな神経症状などがあれば、速やかに再評価を受ける必要があると伝えます。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)
患者向けには、救急要請と相談窓口を混同させない説明が必要です。強い呼吸困難や失神など明らかな危険徴候がある場合は119番を優先し、緊急性が明確でなく受診判断に迷う場合には、実施地域の救急安心センター「#7119」を案内します。#7119は相談のための窓口であり、緊急時の119番通報を先延ばしにするためのものではありません。
fdma.go(https://www.fdma.go.jp/publication/portal/items/portal002_japanese.pdf)
医療従事者向けの記事として押さえたいのは、胸痛と息苦しさを単一疾患へ短絡させず、重症度評価、危険疾患の鑑別、検査の経時的解釈、患者への行動指示を一つの流れとして扱うことです。本記事は初期評価の論点を整理するものであり、個々の診断や処置は、担当医の判断、施設の診療手順、各ガイドラインの更新内容に沿って実施してください。
j-circ.or(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf)
総務省消防庁「救急安心センター事業(#7119)ってナニ?」




一括切除 ―ESDのキセキ―