

耳垂れは医学的には耳漏といい、耳の入口から液体、膿性の分泌物、血液を含む分泌物などが出ている状態を指します。見た目だけで原因を決めることはできません。耳かきや補聴器、イヤホン、入浴・水泳後の刺激などに関連した外耳道炎、急性中耳炎に伴う鼓膜穿孔、慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎など、鑑別すべき疾患は複数あります。
「耳垂れ市販薬」という検索語では、耳の炎症やかゆみを対象とする一般用医薬品、消毒薬、鎮痛解熱薬などを想起しがちです。しかし、耳垂れ自体は単なる不快症状ではなく、外耳道または中耳の炎症・感染、鼓膜の損傷などを示している可能性があります。特に鼓膜の状態が不明な段階で、手元にある点耳薬、消毒液、オイル、過去の処方薬を耳内へ使用する判断は避けるべきです。
一般用医薬品は製品ごとに効能・効果、使用できない状態、年齢、用法・用量が異なります。製品名や宣伝文句だけで適応を判断せず、購入・使用前に添付文書を確認し、薬剤師または登録販売者へ「耳垂れがある」「痛みや発熱がある」「聞こえにくい」などの情報を具体的に伝える必要があります。一般用医薬品の添付文書はPMDAの検索システムでも確認できます。
参考)一般用医薬品・要指導医薬品 添付文書等情報検索
PMDA 一般用医薬品・要指導医薬品 添付文書等情報検索
耳垂れがある人に対しては、まず「市販薬があるか」ではなく、「緊急性のある耳疾患または耳以外の疾患を見逃さないか」を評価します。耳痛、発熱、難聴、耳閉感、めまい、耳鳴り、悪臭、血性耳垂れ、耳の後ろの痛み・腫れ、顔面の動かしにくさ、全身状態を確認します。小児では、機嫌不良、哺乳・飲水低下、眠れないほどの痛み、反復する耳症状も重要な問診項目です。
耳垂れに難聴やめまいを伴う場合、外耳道だけの軽いトラブルと決めつけず、中耳・内耳を含めた評価が必要です。めまいに意識障害、ろれつが回らない、手足の麻痺・しびれ、激しい頭痛などが加わる場合は、脳卒中を含む緊急疾患の可能性もあるため、耳鼻咽喉科外来を待たず救急要請を含めた対応を検討します。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会も、めまいにこれらの神経症状や激しい頭痛を伴う場合は、救急車を呼ぶなどの対応を案内しています。
参考)耳鼻咽喉科・頭頸部外科が扱う代表的な病気|一般社団法人 日本…
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 当日中の耳鼻咽喉科受診を考える状態 | 耳垂れに強い耳痛、発熱、聞こえにくさ、めまい、耳鳴り、悪臭、血液混じりを伴う | 外耳炎・中耳炎・鼓膜病変などを耳鏡で評価する |
| 早急な受診を要する状態 | 耳の後ろの赤み・腫れ・強い圧痛、顔面の動かしにくさ、急な難聴、激しいめまい | 合併症や内耳・神経学的病変を考慮する |
| 救急対応を検討する状態 | めまいに意識障害、言語障害、運動麻痺、感覚麻痺、激しい頭痛を伴う | 脳血管障害など耳以外の緊急疾患も除外する |
| 小児で受診を急ぐ状態 | 高熱、ぐったりしている、強い痛み、水分摂取不良、乳幼児の耳垂れ | 小児科または耳鼻咽喉科へ速やかに相談する |
耳垂れが出ている小児では、耳鼻咽喉科での評価が有用です。小児科でも中耳炎の診断・治療に対応できることは多い一方、鼓膜切開やチューブ留置などの処置が必要な場合には耳鼻咽喉科が必要になります。夜間に強い痛みなどで受診した場合であっても、翌日に医療機関で評価を受ける考え方が示されています。
参考)子供の病気|中耳炎 - 有明みんなクリニック・有明こどもクリ…
耳垂れがあるとき、市販薬が完全に無意味というわけではありません。例えば、医師・薬剤師の指導や添付文書の範囲内で、耳痛や発熱に対する経口の鎮痛解熱薬を短期間の対症療法として検討することがあります。ただし、これは耳垂れの原因を治療するものではありません。症状が一時的に軽くなっても、受診が必要なサインを覆い隠してよい理由にはなりません。
一方、耳の中へ使用する製品については慎重さが必要です。鼓膜に穿孔がある場合、中耳手術歴がある場合、チューブ留置中の場合、耳から膿や血が出ている場合は、使える点耳薬や外用薬が限られます。市販の耳用製品が「耳垂れのある状態」に適しているとは限らないため、添付文書の禁忌・してはいけないこと・相談することを確認し、迷う場合は使用前に薬剤師または医師へ確認します。
とくに綿棒を奥まで挿入する行為は、耳垂れを押し込んだり、外耳道を傷つけたり、鼓膜を刺激したりするおそれがあります。分泌物は耳の入口で軽く拭うにとどめ、吸引や耳内の清掃、鼓膜所見の確認は医療機関に委ねます。耳垂れがある場合は耳鼻咽喉科を受診し、耳の奥まで綿棒を入れず、外に出た分泌物のみを優しく拭くよう案内されています。
参考)子どもの急性中耳炎|症状・原因・治療・受診目安を耳鼻科医が解…
医療従事者が「耳垂れ市販薬」について相談を受けた際は、耳垂れの色や量だけではなく、発症時期、片側か両側か、耳痛・かゆみ・発熱の有無、難聴や耳閉感、めまい・耳鳴り、悪臭、血液の混入、直近の感冒症状、水泳・入浴・耳かき・イヤホン使用、耳科手術歴を確認します。乳幼児、高齢者、糖尿病患者、免疫抑制状態にある人、補聴器使用者も、リスク評価をより慎重に行う対象です。
説明の軸は、「市販薬を使ってよいか」ではなく、「耳の中に薬を入れる前に、鼓膜と炎症部位を確認する必要がある」という点です。患者が市販薬を希望する背景には、受診時間を確保できない、痛みを早く止めたい、感染症が心配、以前の中耳炎と同じだと思う、といった事情があります。否定だけで終えず、経口鎮痛薬による対症療法の可否、耳を濡らさない方法、すぐ受診すべき症状、受診先を具体的に伝えると、行動に移しやすくなります。
患者説明の例としては、「耳垂れは外耳炎だけでなく、中耳炎で鼓膜に穴が開いたときにも起こります。耳の中に使う市販薬は、鼓膜の状態によっては適さないことがあるため、まず耳鼻咽喉科で確認しましょう。痛みや熱がある場合は、使用可能な鎮痛解熱薬を薬剤師に確認しつつ、耳だれが増える、聞こえが急に悪くなる、めまいがある、耳の後ろが腫れる場合は当日中に受診してください」といった表現が実用的です。
受診までのセルフケアは、耳内へ何かを入れて治そうとすることではなく、症状を悪化させず診察に必要な情報を保つことが目的です。耳垂れの量、色、におい、痛みの程度、発熱、聞こえ方の変化、めまいの有無を記録し、いつから始まったか、風邪症状や水への曝露があったかを整理しておくと診察に役立ちます。外耳道の入口に出た分泌物は清潔なガーゼで軽く拭き、耳栓を奥まで押し込むことは避けます。
市販の鎮痛解熱薬を使用する場合も、年齢、体重、腎機能・肝機能、胃潰瘍歴、喘息、妊娠・授乳、併用薬、薬剤アレルギーなどの確認が必要です。添付文書に従い、複数の総合感冒薬や鎮痛薬を重ねて有効成分を過量摂取しないよう注意します。一般用医薬品の安全な使用では、製品ごとの添付文書を確認し、不明点を薬剤師・登録販売者へ相談することが基本です。
耳垂れが初めて起きた場合、繰り返す場合、数日たっても改善しない場合、痛み・発熱・聞こえにくさが出現または悪化した場合は、漫然と市販薬を続けず耳鼻咽喉科で再評価します。耳垂れに難聴やめまいが重なるときは、真珠腫性中耳炎などを含めた評価が必要になることがあります。耳鼻咽喉科では耳垂れの吸引後、外耳道や鼓膜の状態を観察し、必要に応じて治療方針を決定します。