


パピナリンは、原沢製薬工業が製造販売する耳用の液剤であり、一般用医薬品では第2類医薬品に分類されます。効能・効果として、耳漏、耳痛、耳そう痒、外聴道炎、耳鳴および中耳炎が記載されています。耳の痛みやかゆみなど、局所症状を伴うケースで選択肢になり得る一方、「中耳炎」という診断名だけで一律に推奨できる薬ではありません。
中耳炎は、鼓膜の内側にある中耳に炎症が起こる病態の総称です。急性中耳炎、滲出性中耳炎、慢性化膿性中耳炎などで原因、病態、必要な治療は異なります。とくに急性中耳炎では、発熱、耳痛、耳漏、難聴などが現れ、鼻咽腔の炎症や上気道感染を背景に生じることがあります。耳の入口から使用する市販の点耳薬だけで、すべての中耳炎の原因や経過に対応できるわけではありません。
医療従事者が患者へ説明する際は、「効能欄に中耳炎と記載がある」ことと、「中耳炎の診断・治療を市販薬のみで完結できる」ことは別であると整理することが重要です。耳痛や耳そう痒の緩和目的で短期間使用する場面と、耳鼻咽喉科での診察を優先すべき場面を切り分ける必要があります。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のガイドライン一覧には、小児急性中耳炎診療ガイドライン2024年版および小児滲出性中耳炎診療ガイドライン2022年版が掲載されており、中耳炎では年齢、重症度、鼓膜所見、経過などに基づく評価が重要と位置づけられています。
参考)TOP|一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会:診療ガイドライン一覧
パピナリン100g中には、フェノール2.00g、アミノ安息香酸エチル0.30g、プロカイン塩酸塩0.30g、アクリノール水和物0.10g、ホモスルファミン0.10gが配合されています。製品情報では、アミノ安息香酸エチルおよびプロカイン塩酸塩による鎮痛作用、フェノール、アクリノール水和物およびホモスルファミンによる殺菌作用などが説明されています。局所の痛み、かゆみ、耳だれに関連する症状への使用が想定された製剤と理解するとよいでしょう。
参考)長引く・くり返す耳の痛み・かゆみにパピナリン|原沢製薬工業株…
ただし、配合されている殺菌成分を理由に、急性中耳炎の原因菌に対する全身的または中耳腔内の抗菌治療を代替できると解釈してはいけません。急性中耳炎が疑われる患者では、耳鏡による鼓膜の発赤、膨隆、穿孔、耳漏の性状などの評価が治療選択に直結します。市販薬の選択前に病変部位が外耳道なのか、中耳なのか、あるいは耳痛が顎関節、歯科疾患、咽頭炎などに由来する関連痛なのかを見極める必要があります。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 医薬品分類 | 第2類医薬品 | 購入時は薬剤師または登録販売者に症状を伝えることが望ましい |
| 剤形 | 耳用液剤・点耳薬 | 内服薬ではなく、耳への局所使用を目的とする |
| 主な配合成分 | フェノール、アミノ安息香酸エチル、プロカイン塩酸塩、アクリノール水和物、ホモスルファミン | 鎮痛・殺菌作用などを目的とした配合 |
| 効能・効果 | 耳漏、耳痛、耳そう痒、外聴道炎、耳鳴、中耳炎 | 病型や重症度を問わず自己治療を推奨する表示ではない |
| 使用目的 | 耳の局所症状への対症的対応 | 強い症状、遷延例、反復例では耳鼻咽喉科受診を優先する |
製品情報にある「中耳炎」の効能表記は重要ですが、臨床的には鼓膜が保たれているか、耳漏が何に由来するか、急性炎症がどの程度かを確認せずに点耳を開始することにはリスクがあります。とくに患者が「耳の奥が痛い」「聞こえが悪い」「風邪の後から痛い」と訴える場合は、急性中耳炎を含めた鑑別を前提に説明することが求められます。
パピナリンでは、長期連用を避け、点耳用以外には使用しないことが示されています。眼や鼻に使用してはいけません。また、医師の治療を受けている人、薬剤等によるアレルギー症状の既往がある人、鼓膜が破れている人、患部が化膿している人は、使用前に医師、薬剤師または登録販売者へ相談する対象です。耳漏がある患者であっても、それが外耳道の炎症に伴う分泌物なのか、鼓膜穿孔を伴う中耳炎からの排出なのかを一般の生活者が判別することは困難です。
メーカー情報に示される使用法は、耳を上にして横になり、スポイトで薬液を取り、耳の入口の壁に密着させて1回1~3滴を点耳する方法です。ほかに、精製綿へ薬液を浸し、耳の入口に挿入する方法、綿棒に少量浸して耳の入口へ軽く塗布する方法が紹介されています。使用の目安は1日1~2回です。耳の奥へ強く綿棒を入れる、耳垢を取ろうとして外耳道を傷つける、スポイト先端を耳内へ深く挿入する、といった行為は避けるよう指導します。
製品情報では、耳痛について5~6日で効果を実感する人もいる一方、5~6日間使用しても改善しない場合には一旦中止して相談するよう案内されています。これは「5~6日間は必ず自宅で経過をみる」という意味ではありません。高熱、強い疼痛、耳漏、難聴、めまい、乳幼児の不機嫌や哺乳低下などがあれば、早期受診を優先する説明が必要です。
中耳炎の診療では、患者の年齢、症状の持続期間、発熱の有無、疼痛の程度、鼓膜所見、耳漏、聴力への影響、反復性などを総合して評価します。市販薬の使用を考える患者には、症状の軽重にかかわらず「耳の中を診察しない限り、鼓膜の状態や炎症部位は確定できない」と説明することが実用的です。特に小児は症状を正確に言語化できず、夜間の不機嫌、耳を頻繁に触る、睡眠障害、発熱、食欲・哺乳低下などが初発サインとなることがあります。
成人でも、耳痛の原因は中耳炎だけではありません。外耳炎、耳介周囲の皮膚炎、耳垢栓塞、帯状疱疹、顎関節症、歯性疼痛、咽頭・喉頭疾患に伴う関連痛などが鑑別に入ります。とくに糖尿病、免疫抑制状態、高齢、耳科手術歴、鼓膜チューブ留置歴、難聴の既往がある患者では、一般的なセルフケアの枠組みだけで判断しないことが重要です。
受診勧奨の目安としては、38℃以上の発熱や全身状態不良、持続または増悪する耳痛、耳漏、聞こえにくさ、回転性めまい、耳介後部の発赤・腫脹・圧痛、顔面神経症状、反復する症状、数日以内に改善しない症状が挙げられます。耳介後部の腫れや強い圧痛、意識状態の変化、激しい頭痛などは緊急性を考えるべき所見であり、休日や夜間であっても医療機関への相談を促します。
また、一般用の解熱鎮痛薬を併用する場合は、風邪薬との成分重複にも注意が必要です。耳痛と発熱への対症療法として鎮痛薬を用いることはあっても、症状が軽くなったことで診断や受診の必要性が消えるわけではありません。中耳炎の疑いがある患者では、鎮痛は受診までの負担軽減策であり、病態評価そのものの代替ではないことを共有しましょう。
医療従事者が「中耳炎 市販薬 パピナリン」と相談された際は、まず年齢、発症時期、疼痛の強さ、発熱、耳漏、難聴、めまい、耳だれの性状、鼓膜穿孔歴、耳科手術歴、薬剤アレルギー、すでに使用した薬剤を確認します。次に、パピナリンが耳痛、耳そう痒、耳漏、外聴道炎、耳鳴および中耳炎を効能・効果に含む一般用の点耳薬である一方、鼓膜の状態や化膿の有無によっては使用前相談が必要であることを具体的に説明します。
患者への説明例としては、「この薬は耳の痛みやかゆみなどに使う点耳薬ですが、耳だれの原因や鼓膜の状態は見ただけでは分かりません。耳から液が出ている、聞こえにくい、強い痛みや熱がある場合は、薬だけで様子を見ず、耳鼻咽喉科で鼓膜を確認してもらってください」と伝えると、効能表示と受診勧奨の両方を理解してもらいやすくなります。
さらに、薬剤使用中の有害事象にも注意を向けます。製品情報では、耳の化膿症状、はれ、刺激感、皮膚の発疹・発赤・かゆみなどが副作用として示されています。これらが出現した場合は、直ちに使用を中止し、添付文書または製品を持参して医師、薬剤師または登録販売者へ相談するよう案内します。患者が「効かないから回数を増やした」「綿棒で奥まで塗った」といった自己流の使い方をしないよう、1日1~2回を目安とすること、耳の奥へ無理に入れないことも確認します。
結論として、パピナリンは中耳炎を効能・効果に含む市販の耳用液剤ですが、急性中耳炎などの病態評価や抗菌薬を含む処方治療の必要性を否定するものではありません。耳痛・かゆみなどへの短期的な局所対応として位置づけつつ、鼓膜穿孔の可能性、耳漏・化膿、発熱、聴力低下、めまい、症状遷延などを確実に拾い上げ、耳鼻咽喉科受診につなげることが安全な患者指導の要点です。