

呼吸循環とは、肺でのガス交換と、心臓・血管による血液輸送を一体として捉える考え方です。呼吸の評価では、酸素を血液に取り込む「酸素化」と、二酸化炭素を排出する「換気」を区別します。一方、循環の評価では、血液が組織へ十分に流れ、酸素を供給できているかという「灌流」に注目します。酸素化、換気、灌流は関連していますが、同じ指標で代用できるものではありません。例えば、酸素投与でSpO2が維持されていても、高二酸化炭素血症が進行している場合があります。
参考)The ABCDE Approach
全身への酸素供給量を示すDO2は、心拍出量と動脈血酸素含量によって決まります。心拍出量は単位時間に心臓が送り出す血液量、動脈血酸素含量は一定量の動脈血に含まれる酸素の量です。酸素の多くはヘモグロビンに結合して運ばれるため、肺で酸素を取り込めていても、ヘモグロビン量や血液の流れが不足すれば組織への供給は低下します。
参考)https://anaesthetics.ukzn.ac.za/wp-content/uploads/2024/09/DO2-VO2-AND-THE-OXYHb-CURVE-Ref-2016.pdf
式で表すと、DO2=心拍出量×動脈血酸素含量です。心拍出量をL/分、動脈血酸素含量をmL/dLで扱う場合には、単位を合わせるため10を掛けます。動脈血酸素含量の概算式は、CaO2=1.34×Hb×SaO2+0.003×PaO2です。ここでHbはg/dL、SaO2は百分率ではなく0~1の割合、PaO2はmmHgで入力します。この関係から、SpO2が保たれていても、重度の貧血や低心拍出状態では酸素供給が不足し得ることがわかります。
臨床で重要なのは、酸素供給をSpO2だけで判断しないことです。ショックは急性の循環不全による組織低灌流であり、単に血圧が低い状態を指すわけではありません。呼吸状態、血液の酸素運搬能力、心臓のポンプ機能、末梢循環を関連づけて評価することが、呼吸循環管理の出発点になります。
参考)Shock - Critical Care Medicine…
クワズール・ナタール大学:酸素供給量と酸素消費量の生理学
呼吸循環の評価では、測定値と身体所見を組み合わせます。特に呼吸数は、SpO2や血圧に先行して変化を捉える手がかりになります。英国蘇生協議会のABCDEアプローチでは、成人の安静時呼吸数の目安を12~20回/分とし、25回/分を超える呼吸数や増加傾向を、状態悪化の警告所見として挙げています。ただし、数値だけで診断するのではなく、呼吸の深さ、胸郭運動の左右差、努力呼吸、意識状態を同時に確認します。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 呼吸数・呼吸様式 | 成人安静時の目安は12~20回/分。頻呼吸、浅い呼吸、不規則な呼吸などを確認する。 | 25回/分超や増加傾向は悪化の警告所見。努力呼吸も合わせて評価する。 |
| SpO2 | 末梢で推定した動脈血酸素飽和度。投与中の酸素デバイスと流量を併記する。 | 換気やPaCO2を直接評価できず、酸素投与中は換気障害を見逃す可能性がある。 |
| 心拍数・脈拍 | 回数だけでなく、整不整、強さ、左右差、末梢での触知状況を確認する。 | 単独の値ではなく、皮膚所見や血圧と組み合わせて循環を評価する。 |
| 血圧・平均動脈圧 | 普段の値と経時変化を確認し、臓器灌流の所見と合わせて判断する。 | SSC 2021では、昇圧薬を使用する成人敗血症性ショックの初期MAP目標を65mmHgとしている。 |
| 毛細血管再充満時間 | 指先などを圧迫して退色させ、解除後に色が戻るまでを測定する。通常の目安は2秒未満。 | 延長は末梢灌流不良を示唆するが、測定条件や周囲温度にも注意する。 |
| 意識・皮膚・尿量 | 新たな意識変化、冷感、まだら状の皮膚変化、尿量低下などを確認する。 | 組織低灌流を疑う手がかりとして、ほかの所見と統合する。 |
| 血液ガス・乳酸 | 酸素化、換気、酸塩基平衡、代謝の状態を評価する。 |
SpO2の記録には、必ず酸素投与条件を添えます。「SpO2 96%」という記録だけでは、室内気で安定しているのか、高濃度酸素を必要としているのかを区別できません。同じSpO2でも必要な酸素量が増えているなら、呼吸状態が悪化している可能性があります。呼吸数、酸素デバイス、流量または吸入酸素濃度、意識状態をひとまとまりで記録することで、患者の変化を共有しやすくなります。
呼吸循環の悪化が疑われるときは、確定診断より先に生命を脅かす問題を見つけて対応します。ABCDEは、気道、呼吸、循環、意識・神経学的状態、全身観察の順で評価する枠組みです。すべての観察を終えてから処置するのではなく、生命危機を認めた段階で必要な対応と応援要請を行い、介入の効果を確認します。複数人で対応できる場合は、役割を分担しながら並行して評価します。
例えば、SpO2が目標範囲内でも、呼吸数の増加、努力呼吸、傾眠がみられる場合は安心できません。酸素投与によって酸素化が維持されていても、換気障害と高二酸化炭素血症が存在する可能性があるためです。必要に応じて血液ガスを評価し、呼吸補助の適応を判断できる医療者へ速やかに連絡します。「モニターの値が正常だから経過観察」とするのではなく、患者の見た目と呼吸仕事量を優先して判断します。
介入後は、同じ評価項目を使って再評価します。酸素投与後にSpO2が上がっても呼吸困難や意識低下が進む場合、治療目標を達成したとはいえません。呼吸、循環、意識を繰り返し確認することが、治療の有効性と新たな危険を見極める基本です。
循環管理では、ショックの機序を考える必要があります。ショックは、循環血液量減少性、心原性、閉塞性、血液分布異常性に分類され、複数の機序が重なる場合もあります。したがって、「血圧低下には必ず大量輸液」といった一律の対応は適切ではありません。原因、心機能、うっ血、治療への反応などを評価し、必要な介入を選びます。
敗血症性ショックの血圧目標を扱う際にも、対象と出典を明確にします。SSC 2021の初期MAP目標65mmHgは、昇圧薬を使用する成人敗血症性ショックに対する推奨です。この値を、出血、心原性ショック、すべての術後患者などへ機械的に当てはめるべきではありません。また、目標血圧への到達と組織灌流の改善は同義ではないため、毛細血管再充満時間や乳酸の推移などを併せて評価します。
英国胸部学会:医療・救急場面における酸素療法ガイドライン
米国集中治療医学会:Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021
呼吸循環の観察を診療につなげるには、「現在の数値」「普段からの変化」「実施した介入」「介入への反応」を分けて記録します。例えば、SpO2だけを報告するのではなく、呼吸数、酸素投与条件、意識、血圧、皮膚所見を合わせます。ABCDEで得られた情報を使って、どの機能に問題があり、どの程度切迫しているかを伝えることが重要です。
申し送りの記載例としては、「30分前から呼吸数が増加し、現在28回/分。鼻カニュラ3L/分でSpO2 94%。普段より反応が鈍く、四肢冷感がある」のように、時間、測定値、投与条件、身体所見を具体的に整理できます。この例は記録方法を示すための仮想例であり、数値の組み合わせによって特定の診断や処置が自動的に決まるわけではありません。頻呼吸、意識変化、末梢循環の異常が同時に存在する点を捉え、施設の急変対応基準に従って速やかな評価につなげます。
再評価では、同じSpO2を維持するために必要な酸素量が増えていないか、呼吸数が上昇していないか、意識や皮膚灌流が悪化していないかを確認します。血圧だけが改善しても、呼吸や末梢循環が悪化しているなら、全身状態が改善したとは判断できません。複数の指標を時系列で比較することで、単一の測定値では捉えにくい変化を明らかにします。
本記事の数値や観察項目は、主に成人の急性期評価を理解するためのものです。個別患者の診療では、疾患別ガイドライン、患者固有の目標、担当医の指示、施設手順を優先します。呼吸循環を一体として評価しつつ、酸素化、換気、灌流を区別して考えることが、数値の見落としや過信を防ぎ、適切な初期対応と再評価につながります。