

後陣痛とは、分娩後に子宮が収縮し、妊娠前の状態へ戻っていく子宮復古の過程で生じる痛みです。下腹部の締めつけ感や月経痛に似た痛みとして訴えられることがあり、人によっては陣痛を思わせる強さになります。米国産科婦人科学会(ACOG)は、後陣痛は出産経験のある女性で起こりやすく、授乳開始後の数日にも目立ちやすいと説明しています。
参考)Postpartum Pain Management
ACOG:産後の痛みと後陣痛に関する患者向け解説
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 痛みの部位と性状 | 下腹部の収縮感、間欠性、持続性、創部や会陰部の痛みとの違いを確認する。 | |
| 痛みの強さ | NRSでは0を痛みなし、10を想像できる最も強い痛みとして評価する。 | |
| 授乳との関連 | 授乳の開始前、授乳中、授乳後で痛みが変わるかを確認する。 | |
| 薬剤との関連 | 子宮収縮薬と鎮痛薬の投与時刻、効果、症状の変化を確認する。 | |
| 生活機能への影響 | 睡眠、授乳、起き上がり、歩行、児の世話への支障を確認する。 | |
| 感染・出血の徴候 | 体温、腹部・子宮の圧痛、悪露の臭気、出血量、全身状態を確認する。 | 発熱、悪臭、出血増加、めまいなどは再評価の契機となる。 |
経産婦の下腹部痛を評価する際に最も避けたいのは、強い痛みをすべて後陣痛として処理することです。産後子宮内膜炎では下腹部痛や子宮圧痛に続いて発熱がみられ、産後24~72時間に症状が現れることが多いとされています。悪寒、倦怠感、頻脈、悪臭のある悪露を伴う場合もあり、後陣痛が目立つ時期と感染症の発症時期は重なります。
特に、帝王切開、長時間の破水、遷延分娩、胎盤組織の遺残や用手的除去、産後出血などは子宮内膜炎のリスク評価に関わります。帝王切開後は子宮の圧痛と創部の圧痛を区別しにくいこともあるため、痛みの訴えに加えて発熱、悪露、創部、全身状態を合わせて判断します。
参考)https://myhealth.alberta.ca/Health/aftercareinformation/pages/conditions.aspx?hwid=uh2916
子宮内膜炎の診断に用いられる発熱の条件と、現場で報告・受診を促す条件は区別しなければなりません。診断基準を満たすまで待つという運用は適切ではなく、症状や全身状態に応じて早期に評価します。子宮内膜炎では微熱しか認めない場合もあるため、「38℃未満だから感染ではない」と除外することもできません。
退院後についても、腹痛と発熱を産後数日間だけの問題として説明しないことが大切です。公的医療情報では、産後子宮内膜炎は主に出産後1週間以内に起こるものの、産後6週まで発症する場合があるとされています。入院中に後陣痛が軽減していても、その後に新しい腹痛、発熱、悪臭のある悪露、出血増加が生じた場合は連絡するよう伝えます。
参考)Postpartum endometritis
MSDマニュアル専門家版:産後子宮内膜炎の症状と診断
「授乳中は痛み止めを使えない」と一律に説明することは避けます。一方で、使用量や服用間隔を自己判断で増やしたり、複数の鎮痛薬を確認なしに組み合わせたりしないよう指導が必要です。特に配合剤では同一成分が重複する可能性があり、アセトアミノフェンの意図しない過量投与にも注意します。退院時には商品名だけでなく成分名と服用方法を明確に説明します。
非薬物的ケアとしては、腹部の温罨法が後陣痛の不快感を和らげる補助的な方法になります。温熱器具は皮膚に直接長時間当てず、熱さや皮膚状態を確認し、就寝中の使用などによる熱傷を避ける運用が必要です。また、授乳姿勢を整え、体を支えるクッションなどを用いて、痛みのある状況でも無理な姿勢を続けないよう援助します。温罨法などは鎮痛薬や原因評価の代わりではなく、組み合わせる補助的ケアと位置づけます。
説明の中心は、再評価が必要な変化を具体的に共有することです。「子宮の収縮による痛みは産後早期に起こりやすく、授乳中に強まることがあります。ただし、発熱、悪臭のある悪露、出血の増加、新たな強い腹痛があるときは連絡してください」と伝えます。正常な機序の説明だけで終えず、患者が異常を判断した際の行動まで示すことで、退院後の相談につながります。