

カンゾウエキスは、生薬の甘草から成分を抽出したものです。医薬品では、鎮咳・去痰などの作用を利用して配合されます。ただし、「カンゾウエキスの効果」を評価する際には、生薬の甘草、甘草抽出物、グリチルリチン酸を含む成分製剤を分けて考える必要があります。名称が似ていても、成分構成や含有量、投与経路、承認された効能・効果は同一ではありません。
参考)KEGG DRUG: カンゾウエキス
日本漢方生薬製剤協会の資料では、甘草はマメ科植物の根およびストロンを乾燥した生薬として説明されています。代表的な成分には、トリテルペン配糖体のグリチルリチン酸や、フラバノン配糖体のリクイリチンなどがあります。したがって、カンゾウエキスを単一成分のグリチルリチン酸そのものとして扱うのは適切ではありません。抽出物には複数の成分が含まれるため、特定成分の研究結果をそのまま抽出物全体の臨床効果に置き換えないことが重要です。
参考)カンゾウ|生薬について/生薬一覧|漢方・生薬情報|日本漢方生…
さらに、カンゾウエキス末の重量と、原料として用いられた甘草の重量は別の指標です。原料メーカーの製品資料にも、原生薬換算比が異なるエキスが示されています。例えば「エキス末500mg」という表示だけでは、原生薬量やグリチルリチン酸量を一律に決められません。医療従事者は、製品の添付文書や成分規格に記載された原生薬換算量と成分量を確認する必要があります。
参考)カンゾウ(エキス) – 日本粉末薬品株式会社
実務では、患者が「甘草を飲んでいる」と説明した場合、最初に販売名、剤形、1回量、1日回数、使用期間を確認します。漢方製剤、一般用の鎮咳去痰薬、グリチルリチン酸配合錠などでは、期待する治療効果と確認すべき情報が異なるためです。処方薬と市販薬の両方を把握することは、効果の判断だけでなく重複摂取の発見にもつながります。
カンゾウエキスの効果として、鎮咳・去痰や抗炎症作用が挙げられます。実際に、PMDAが公開する一般用かぜ薬の添付文書には、カンゾウエキス末について「鎮咳、去痰、鎮痛、抗炎症などの作用を持つ生薬」と記載されています。ただし、その製品には解熱鎮痛薬や鎮咳薬なども配合されています。製品全体の効能・効果と、カンゾウエキス単独の効果の大きさは区別して説明しなければなりません。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/otcDetail/ResultDataSetPDF/501317_J0901000185_08_02/A
甘草は、かぜ薬、鎮咳去痰薬、健胃消化薬、鎮痛鎮痙薬などに相当する漢方処方にも配合されています。しかし、ある漢方処方で症状の改善が得られたとしても、その結果を甘草だけに帰属させることはできません。複数生薬の組み合わせによる製剤としての効果を、構成生薬単独の有効性と混同しないことが、患者説明や記事執筆での基本となります。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 鎮咳・去痰 | 一般用かぜ薬や鎮咳去痰薬などへの配合で利用される作用。 | 配合製剤の効果をカンゾウエキス単独の効果と同一視しない。 |
| 抗炎症 | カンゾウエキス末の配合作用として添付文書に記載される。 | 薬理作用の存在と、個々の疾患に対する臨床的有効性を分ける。 |
| 湿疹・皮膚炎など | グリチロン配合錠には、湿疹・皮膚炎、小児ストロフルス、円形脱毛症、口内炎の承認効能がある。 | グリチルリチン酸を含む配合剤の効能であり、甘草抽出物一般の効能ではない。 |
| 慢性肝疾患 | グリチロン配合錠の承認効能は、慢性肝疾患における肝機能異常の改善。 | 肝疾患の原因除去や治癒と同じ意味ではない。 |
| 研究段階の作用 | 甘草の抗酸化、抗微生物作用などが研究・レビューで報告されている。 | 基礎研究の結果だけで、患者の治療効果を断定しない。 |
グリチロン配合錠は、グリチルリチン酸一アンモニウム、グリシン、DL-メチオニンの配合剤です。その臨床成績には、本剤投与群とプラセボ群の比較や、疾患別の有効率が掲載されています。例えば掲載された比較では、「有効以上」が本剤投与群22.3%、プラセボ群11.8%、「やや有効以上」がそれぞれ46.6%、27.5%でした。ただし、これらの数値を用いる場合には、元の試験の対象、評価項目、投与条件を確認すべきであり、一般のカンゾウエキス製品に同じ数値を当てはめることはできません。
参考)医療用医薬品 : グリチロン (グリチロン配合錠)
また、湿疹や皮膚炎などの一般臨床試験の有効率を、プラセボに対する上乗せ効果や、現在の標準治療との優劣として読むことはできません。医療従事者向けの情報では、「承認効能がある」「臨床成績が掲載されている」「単独成分として効果が確立している」という異なる主張を分けることが大切です。製剤固有の成績を製剤固有のものとして紹介する姿勢が、過大な効果説明を防ぎます。
カンゾウエキスの効果を説明するときに欠かせないのが、偽アルドステロン症のリスクです。甘草やグリチルリチンを含む医薬品では、血圧上昇、浮腫、低カリウム血症、筋力低下などを生じることがあります。重症化すると、致死性不整脈や横紋筋融解症に至る場合もあります。「生薬由来だから安全」「通常量なら副作用は起こらない」という説明は適切ではありません。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000245267.pdf
機序の中心は、グリチルリチンの代謝物であるグリチルレチン酸や、その代謝産物による11β-HSD2の活性抑制です。通常、腎尿細管などではこの酵素がコルチゾールをコルチゾンに変換し、コルチゾールによるミネラルコルチコイド受容体の過剰な刺激を防いでいます。この機能が抑制されると、コルチゾールが受容体を介してナトリウム・水の貯留とカリウム排泄を促すため、アルドステロンが増えていなくても類似の症状が現れます。
検査上は低カリウム血症、代謝性アルカローシス、レニンとアルドステロンの低値が特徴ですが、血圧上昇は必発ではありません。無症状の血清カリウム低下から診断される例もあるため、自覚症状だけで安全性を判断しないことが重要です。反対に、脱力やこむら返りが出現したときは、原疾患や加齢の影響と決めつけず、服薬歴と電解質を確認します。
厚生労働省の対応マニュアルには、甘草1gを含む防已黄耆湯に、甘草1.3gを含む桂枝加朮附子湯を併用した後、血圧上昇と血清カリウム3.2mEq/Lが認められた症例が掲載されています。処方変更による甘草の減量後、2週間で血清カリウムは4.0mEq/Lに回復しました。この症例は、単独製剤の含有量だけでなく、併用による総摂取量と経時的な変化を確認する重要性を示しています。
厚生労働省・PMDA:重篤副作用疾患別対応マニュアル「偽アルドステロン症」
甘草由来成分を含む製剤を評価するときは、処方薬だけでなく、一般用医薬品や甘草含有食品まで含めて摂取状況を確認します。甘草やグリチルリチンは、複数の漢方製剤、かぜ薬、胃腸薬、肝疾患用薬などに含まれるため、異なる目的で使用している製品の間でも重複が起こり得ます。薬剤名を聞くだけでなく、包装や成分表示を確認すると、見落としを減らせます。
特に注意すべき併用薬は、ループ利尿薬とチアジド系・類似の利尿薬です。グリチロンの製剤情報では、フロセミド、トリクロルメチアジドなどとの併用によってカリウム低下が起こりやすくなるため、血清カリウム測定などの観察が求められています。利尿薬服用中の患者に新たな脱力が出た場合は、利尿薬だけでなく甘草由来成分の追加や増量にも着目します。
同製剤には、モキシフロキサシン塩酸塩との併用で、低カリウム血症を介してQT延長や心室性頻拍の危険が高まる旨も記載されています。一方、厚生労働省のマニュアルでは、インスリン、β2刺激薬、副腎皮質ステロイドなども、低カリウム血症に関係する併用薬として注意を促しています。個々の薬剤の相互作用欄と、患者全体の電解質リスクを併せて評価する必要があります。
患者側の要因としては、高齢、低体重、体表面積が小さいことなどが挙げられています。もともとの血清カリウム値、血圧、浮腫の有無を記録し、投与後の変化と比較することが実務上有用です。禁忌や特定の背景を有する患者への注意は製品ごとに異なるため、甘草含有量だけで可否を決めず、使用する製剤の最新の電子添文を確認してください。
2022年2月改定の厚生労働省マニュアルでは、投与開始時や投与量変更時は1か月以内、維持期でも3~6か月に1回の定期的な血清カリウム値の確認や心電図測定が重要とされています。この間隔は、症状のある患者を検査せず待つための基準ではありません。脱力、動悸、血圧上昇などが出現した場合は予定の検査日を待たず評価し、リスクの高い患者では個別に頻度を調整します。
患者への説明では、まず何を改善する目的で使用するのかを明確にします。例えば、カンゾウエキスを含むかぜ薬であれば、製品として承認されたかぜの諸症状の緩和を説明し、カンゾウエキスが単独ですべての症状を改善するとは伝えません。グリチルリチン酸配合剤であれば、その製剤の承認効能に沿って説明します。作用機序、配合目的、承認効能を整理して話すことで、患者の過大な期待を防げます。
効果判定では、使用前後の対象症状と、有害事象の兆候を別々に記録することが重要です。咳が軽くなったことと、血清カリウム低下がないことは別の評価項目です。また、慢性肝疾患における肝機能異常の改善という効能を、肝疾患そのものの治癒と説明してはいけません。期待する変化と安全性の確認事項を分け、症状が改善していても副作用評価を継続します。
服薬指導では、「手足に力が入りにくい」「こむら返りが増えた」「むくみが出た」「いつもより血圧が高い」といった具体的な変化を伝え、出現したら医師・薬剤師へ速やかに連絡するよう説明します。歩けないほどの脱力、失神、強い動悸などがある場合は、通常の予約日まで待たず、緊急の医療評価が必要です。甘草を含む薬を新たに購入したときは、処方薬との重複確認を受けるよう案内します。
偽アルドステロン症が疑われた場合、医療者は推定原因薬の中止を第一に検討し、血清カリウム、腎機能、心電図、筋障害の有無などを評価します。カリウム補充やミネラルコルチコイド受容体拮抗薬などの治療は、重症度や併存疾患に応じて選択します。患者自身にカリウム製剤の使用を勧めるのではなく、原因薬の整理と検査に基づく管理につなげることが大切です。
原因となる甘草含有物を中止しても、症状や検査値異常が数週間残ることがあります。そのため、中止した時点で対応を終えず、血清カリウムと血圧などの回復を追跡します。カンゾウエキスの臨床的な価値は、期待される作用だけで判断するものではありません。製剤ごとの根拠を確認し、重複摂取を避け、効果と電解質異常の両方を評価することが、適正使用の核心です。