

一歳9ヶ月の言葉を評価する際は、「何語話せれば正常か」という一つの数字ではなく、話す力、理解する力、身ぶりによる伝達、対人交流を組み合わせて捉えることが重要です。言語発達には個人差があり、同じ月齢でも、単語を中心に伝える子どもと、言葉を組み合わせ始める子どもがいます。医療従事者には、保護者の不安を受け止めながら、発達の目安と診断基準を区別して説明する姿勢が求められます。
参考)Speech and Language Developmen…
米国疾病予防管理センター(CDC)は、1歳6か月の目安として「ママ・パパ以外に3語以上を言おうとする」「身ぶりなしで一段階の簡単な指示に従う」を挙げています。2歳の目安は「少なくとも二つの単語をつなげて言う」ことです。一歳9ヶ月はこの二つの時期の間にありますが、両者を機械的に補間して「この月齢なら何語」と判定することはできません。
参考)Milestones by 18 Months
また、CDCの発達指標は、その年齢までに75%以上の子どもができる行動を示すもので、平均語彙数や、障害の有無を決定する境界値ではありません。チェックリスト自体も、標準化された発達スクリーニング検査の代わりにはならないと明記されています。したがって、項目を満たさない場合には相談や追加評価を検討しますが、一項目だけで診断名を付けることは避けます。
国内のこども家庭庁の健診研修資料でも、1歳6か月頃の確認事項として、簡単な指示への反応や有意語が取り上げられています。ただし、資料によって語彙の数え方や確認項目は異なります。「3語あるから問題ない」「3語ないから特定の障害である」と短絡せず、その言葉をどのような場面で使うか、理解や交流が伴っているかを確認する必要があります。
参考)https://boshikenshu.cfa.go.jp/assets/files/tr/r6/tr3_lecture_1.pdf
CDC:1歳6か月の発達の目安
CDC:2歳の発達の目安
言葉の評価では、話して伝える「表出言語」と、相手の言葉を理解する「受容言語」を分けて整理します。発語が少ないという相談でも、簡単な言葉を理解して身ぶりで伝えられる場合と、理解や対人交流にも心配がある場合では、評価すべき課題が異なります。米国国立聴覚・伝達障害研究所(NIDCD)も、言語を理解する困難と、自分の考えを表現する困難を区別して説明しています。
診察では、保護者に「普段どのような言葉を使いますか」「ちょうだいと言うと渡しますか」「面白いものを見つけると知らせますか」と具体的に尋ねます。こども家庭庁の1歳6か月児健診問診票にも、簡単な言葉の理解、興味を指さしで伝える行動、大人の指した方向を見る行動が含まれています。発語だけを質問するより、日常のコミュニケーション像を把握しやすくなります。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 表出言語 | 意味をもって使う言葉や、新しい言葉の増え方を確認する | 単語数だけでなく、実際の使用場面を聞く。 |
| 受容言語 | 「ちょうだい」などの簡単な指示が分かるか確認する | 身ぶりや状況の手掛かりの有無も整理する。 |
| 共同注意 | 大人の指さしを追う、興味のあるものを指して知らせる | 欲しいものの要求だけでなく、関心の共有をみる。 |
| 身ぶり・模倣 | 手を振る、大人の動作をまねるなどの行動を確認する | 言葉以外の伝達手段や遊び方も評価する。 |
| 聞こえ | 音や呼びかけへの反応と、聴力評価の必要性を検討する | 言語発達の評価では聴覚の問題も考慮する。 |
| 発達の経過 | 獲得した技能が増えているか、失われていないか確認する | 以前できていたことの消失は早期相談の理由になる。 |
指さしには、欲しいものを求める行動だけでなく、見つけたものを大人と共有する働きがあります。このように、子どもと大人が同じ対象に注意を向けることを「共同注意」と呼びます。国立障害者リハビリテーションセンターの解説では、大人の指さしを追う、自分の興味を指さしで伝える、物を持ってきて見せるなどが確認点として挙げられています。言葉の土台となる交流を捉えるうえで重要です。
一方、初めての診察室では、緊張や人見知りによって普段の反応が出ないことがあります。診察中にできなかったことだけで結論を出さず、家庭でできているかを確認します。新潟県の1歳6か月児健診の手引でも、健診場面で反応が得られない場合には、家庭での様子を確認する必要性が示されています。
参考)https://www.hapiny.niigata.jp/download/h27_iltusairoltukagetu5.pdf
国立障害者リハビリテーションセンター:健診での気づき
一歳9ヶ月で意味のある言葉が出ていない場合は、「2歳になるまで待つ」と一律に案内せず、現在の理解、聞こえ、対人交流、発達全体について相談する機会を設けます。CDCは、発達の目安に達していない場合、獲得していた技能が失われた場合、その他の心配がある場合には、早めに医師と話し、発達スクリーニングについて相談するよう勧めています。
とくに退行、すなわち一度獲得した技能の消失は、単に言葉の増え方がゆっくりという状態と分けて扱います。以前使っていた言葉を使わなくなった、できていた身ぶりや交流が減ったという訴えがあれば、いつから、何が、どのように変化したかを具体的に聴取し、速やかな診療・発達評価につなげます。相談時に年齢の節目を待つ必要はありません。
ただし、言葉が少ないことだけで自閉スペクトラム症や発達性言語症と判断することはできません。発語の遅れには、聴覚の問題や言語の問題など、複数の可能性があります。医療従事者は診断名を先回りして伝えるのではなく、「どの領域に支援が必要かを確かめるための評価」と説明すると、相談の目的を共有しやすくなります。
二語文が出ないことの扱いにも注意が必要です。CDCは二つの単語をつなげる行動を2歳の指標に置いているため、一歳9ヶ月で二語文がないことだけで異常とは判断できません。一方、二語文の有無だけを理由に安心とせず、単語の獲得、理解、指さし、やり取りの経過を合わせて確認します。
家庭支援では、子どもが注目しているものに大人も関心を向け、短い言葉を添える方法を伝えます。例えば、子どもが犬を指したときに「わんわん、いたね」と応じたり、車を走らせて遊んでいるときに「車、走ったね」と話したりします。CDCは、子どもと目線を合わせて話すこと、子どもの発した言葉に言葉を付け足して返すことを勧めています。
子どもが「くるま」と言ったら「赤いくるまだね」と返すように、現在の表現を受け止めて少し広げます。発音が不明瞭でも、まず伝えようとした意味に応じ、大人が自然な言い方を示します。CDCの2歳向けの助言でも、まだ明瞭に言えない言葉に対して、意図をくみ取りながら適切な表現を返す方法が紹介されています。
参考)Milestones by 2 Years
絵本は、最初から最後まで読み切ることだけを目標にせず、子どもが見ている絵について簡単な言葉で話す機会として活用できます。また、ボールを転がし合う、車のおもちゃを交互に動かす、ぬいぐるみに食べさせるまねをするなど、双方が参加する遊びも取り入れます。こうした活動は、CDCが1歳6か月の子どもに勧める関わりに含まれています。
日常生活では、服を選ぶときに二つの選択肢を見せて尋ねる、体の部位を指しながら名前を伝えるなど、具体的な場面と言葉を結び付けます。教材を増やすことだけに注目するのではなく、食事、着替え、散歩、遊びの中にある短いやり取りを活用するという説明ができます。CDCも、簡単な選択や体の部位の命名を提案しています。
動画などの視聴については、言葉の遅れの原因と即断しないことが大切です。一方、対面で話し、遊び、反応し合う時間は確保します。CDCの1歳6か月向け資料は、2歳未満のスクリーン利用を、親しい人とのビデオ通話を除いて推奨しておらず、子どもといるときには大人自身の画面利用も抑えて反応できるようにすることを勧めています。家庭への説明では、非難ではなく、実行可能な交流時間の確保に焦点を当てます。
初期対応では、保護者の「話さない」という表現を具体化します。どのような音声や言葉を使うのか、理解できる指示は何か、身ぶりで要求や関心を伝えるか、最近変化したことはあるかを整理します。言語の評価では、子どもの直接観察に加え、保護者などへの聞き取りや質問票が用いられます。診察室の短時間の反応と、日常生活の情報を合わせて判断することが重要です。
次に、聞こえの評価が必要かを検討します。NIDCDは、聴覚の問題が言語発達に影響するため、言葉の遅れの評価に聴力検査が含まれることが多いと説明しています。発語の少なさを言語だけの課題と決めつけず、音への反応や聞こえに関する訴えを確認し、必要に応じて耳鼻咽喉科や聴覚評価へつなぎます。
国内では、かかりつけ小児科や市区町村の乳幼児健診・母子保健の窓口を相談の入口にできます。1歳6か月児健診では、運動や言語の発達、簡単な言葉の理解、指さしなどを確認します。すでに健診を受けていても、その後に気になる点が生じた場合は、次の定期健診まで相談を控える必要はありません。
評価の結果によっては、小児の発達診療や言語聴覚療法など、地域で利用できる専門的な支援につなげます。NIDCDは、言語の専門職がコミュニケーションと全般的な発達を評価し、家庭での活動を提案したり、個別・集団での支援や追加評価を勧めたりするとしています。紹介は診断を確定するためだけではなく、子どもと家族に合う支援を探すための過程でもあります。
経過観察を選ぶ場合も、「個人差なので様子を見ましょう」で終えず、次に何を確認するかを共有します。例えば、新しい言葉が増えたか、簡単な指示が伝わるか、指さしや見せる行動が増えたかを再確認します。再評価の時期は現在の所見と家族の心配に応じて設定し、技能の消失や新たな懸念があれば予定を待たず相談するよう伝えます。発達の変化を追い、懸念があれば早期に行動するという原則が基本です。
一歳9ヶ月の言葉について保護者へ説明するときは、「言葉の数だけでは判断できません。理解、指さし、聞こえ、やり取りも一緒に確認しましょう」と伝えると、評価の目的が明確になります。個人差を尊重することと、相談を先送りしないことは両立します。現在できていることを具体的に認めながら、必要な評価と日常の支援を並行して進めることが、医療従事者に求められる対応です。
NIDCD:ことばと言語の発達の目安・遅れが気になる場合の対応
母子健康手帳情報支援サイト:乳幼児健診について