こどもの熱性けいれん|初期対応と再発予防の実践

こどもの熱性けいれん|初期対応と再発予防の実践

こどもの熱性けいれんについて、定義と分類、発作時の初期対応、検査・入院の判断、再発予防薬と解熱薬の位置づけを解説します。診療ガイドラインに基づき、医療従事者は保護者へ何を伝え、どう安全な対応につなげるべきでしょうか?

こどもの熱性けいれんの基礎知識と核心ガイド

こどもの熱性けいれん診療の判断軸
発作が続く場合は5分を目安に介入

発作の持続時間と呼吸・意識を確認し、5分以上続く場合は薬物治療や治療可能な施設への搬送を進めます。

検査は分類だけでなく全身状態で判断

血液・髄液・画像検査を一律には行わず、意識の回復、神経学的所見、脱水や感染症の疑いから選択します。

予防薬と解熱薬の目的を分けて説明

ジアゼパム坐剤は適応を絞って使用し、解熱薬は苦痛軽減のために用います。家族と再発時の行動を共有します。


こどもの熱性けいれんとは:年齢・症状・診断の基本


こどもの熱性けいれんは、多くが予後良好な発作性疾患です。ただし、発熱に伴う発作をすべて熱性けいれんと判断してはいけません。診療では、持続する発作への対応と並行して、髄膜炎などの中枢神経感染症、急性脳症、代謝異常などの鑑別を進めます。本記事は、日本小児神経学会監修「熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023」を中心に、医療従事者が押さえたい判断の要点を整理したものです。


参考)https://www.childneuro.jp/uploads/files/about/FS2023GL/03fs2023_sec1_general.pdf
ガイドラインでは、熱性けいれんを「おもに生後満6か月から満60か月までの乳幼児期に起こる、通常は38℃以上の発熱に伴う発作性疾患」としています。けいれん性発作と非けいれん性発作を含み、中枢神経感染症、代謝異常、その他の明らかな発作原因がなく、てんかんの既往があるものは除外されます。年齢や体温は典型像を示す目安であり、それだけで確定・除外するための絶対的条件ではありません。


典型的には全身の強直や間代性の動きがみられますが、脱力、一点凝視、眼球上転だけの発作もあります。「手足が震えていないから発作ではない」とは判断できません。保護者からは、呼びかけへの反応、眼球の向き、左右差、体の硬直や脱力、発作後の様子まで聴取することが重要です。2023年版の名称に「熱性発作」が併記された背景にも、運動性のけいれんに限らない病態を正しく伝える意図があります。


生後6か月未満での初発はまれであり、ほかの疾患を慎重に鑑別します。一方、満60か月を超える年長児でも、年齢以外の定義を満たす場合は熱性けいれんと同様に対応できます。ただし、有熱時発作を反復する場合や無熱時発作が出現した場合には、熱性けいれんプラスやてんかんを念頭に専門医への紹介を考慮します。


日本小児神経学会:熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023


単純型・複雑型の分類と検査・入院を判断する視点

複雑型熱性けいれんは、焦点発作、15分以上持続する発作、同一発熱機会での反復という3要素のうち、1つ以上を満たすものです。いずれにも該当しないものを単純型とします。反復は通常24時間以内ですが、同じ発熱性疾患の経過中に繰り返す場合も含めて評価します。この分類は、もともと将来のてんかん発症との関連を整理するために提唱されたものであり、急性期の重症度を単独で決める分類ではありません。


































項目 基準・内容 備考
単純型 焦点性がなく、15分未満で、同一発熱機会に反復しない発作 分類とは別に全身状態と意識の回復を確認する
複雑型 焦点性、15分以上の持続、同一発熱機会での反復のいずれかを認める 複雑型であっても大多数はてんかんを発症しない
治療介入の時間目安 発作が5分以上持続している場合 複雑型の基準である15分まで待たない
髄液検査を検討する所見 遷延性発作、髄膜刺激症状、30分以上の意識障害、大泉門膨隆など 中枢神経感染症を疑う場合に積極的に検討する
入院・搬送を考慮する状態 静注治療を要する発作、意識障害、全身状態不良、脱水、同一発熱機会の反復など 施設・地域の診療体制も踏まえて判断する

表の分類・時間基準・検査と入院の判断項目は、ガイドラインの総論および各論の要約に基づきます。特に「5分」は治療開始を考える時間、「15分」は複雑型の分類や予防投与の適応に関係する時間であり、用途が異なります。


血液検査、髄液検査、頭部CT・MRIを全例に行う必要はありません。血液検査は、全身状態不良で重症感染症を疑う場合、意識障害が持続する場合、脱水が疑われる場合などに、血糖、電解質、血算、培養、生化学検査を目的に応じて選択します。画像検査は、発症前からの発達の遅れ、発作後麻痺、焦点発作、遷延性発作などを踏まえて考慮します。


参考)https://www.childneuro.jp/uploads/files/about/FS2023GL/02fs2023_introduction.pdf
単純型に対する脳波検査も、ルーチンには必要ありません。脳波異常と将来の発作との関連を示す報告はありますが、脳波異常に対して治療を開始することが、てんかん発症や熱性けいれん再発の予防につながるという臨床的意義は確立していません。将来のてんかん発症予測を目的とする検査と、意識障害が続く急性期の病態評価を目的とする検査は分けて考えます。


遷延性の有熱時発作後に意識の回復が悪い場合や、発作が再び出現する場合は、初回MRIが正常でも急性脳症を否定できません。二相性けいれんと拡散低下を呈する急性脳症では、初期画像が正常でも数日後に異常が明らかになることがあり、経過に応じたMRIの再検査や脳波検査が有用です。


参考)https://www.childneuro.jp/uploads/files/about/FS2023GL/05fs2023_sec2_CQ02.pdf
診療ガイドライン2023:CQ・推奨・要約一覧


発作時の初期対応:5分を待ち過ぎず、安全確保と治療を進める

医療機関で発作が持続している場合は、気道・呼吸・循環の評価と発作持続時間の確認を進め、治療と必要な搬送を遅らせないことが重要です。ガイドラインでは、発作が5分以上持続している場合、ジアゼパム、ミダゾラム、ロラゼパムのいずれかの静注、またはミダゾラムの口腔投与を行うか、静注可能な施設へ搬送するとしています。いずれの薬剤でも呼吸抑制に注意が必要です。


診療で混同してはいけないのは、5分という治療介入の目安と、複雑型の分類に用いる15分という基準です。5分以上続いている発作に対して、「まだ複雑型の持続時間に達していない」と待機することは適切ではありません。また、30分以上持続する発作や、意識が回復しないまま反復する発作では、長期的な後遺症にも注意を要します。



  • 発作開始時刻と終了時刻を確認し、受診前からの持続時間も聴取します。発作の長さは、急性期治療とその後の予防方針の両方に関係します。


  • 全身のけいれんが止まったように見えても、眼球偏位、強直姿勢、体の一部の動きが続いていないか確認します。焦点発作の持続と発作後症状の鑑別が難しい場合があります。


  • ベンゾジアゼピン系薬剤を使用する際は、呼吸抑制に対応できる体制を整え、投与後も呼吸状態と意識の推移を観察します。


  • ジアゼパム坐剤の使用歴があっても、持続発作への治療や搬送を遅らせません。固形の坐剤は吸収に時間を要し、速やかな発作停止を目的とする治療と同等には扱えません。

ミダゾラム口腔用液は、静脈路確保に時間を要する場合の選択肢になります。ただし、家庭での救急薬としての使用は、処方医が定めた対象、投与条件、用量、救急要請の手順に従う必要があります。予防用の坐剤と発作停止用の救急薬を一括して「けいれんの薬」と説明せず、目的と投与経路を明確に区別することが、誤使用を防ぐうえで重要です。


日本小児神経学会:熱性けいれん重積状態の初期治療


再発予防の薬物療法:ジアゼパム坐剤と解熱薬の使い分け

熱性けいれん全体の再発率は約30%であり、過半数は再発しません。再発予測因子には、両親・同胞の熱性けいれん家族歴、生後12か月未満の発症、発熱から発作まで1時間以内、発作時体温39℃以下の4因子が挙げられます。ただし、再発予測因子があることと、予防薬を必ず使用すべきことは同義ではありません。薬剤の有効性だけでなく、副作用と疾患の予後を踏まえて判断します。


発熱時のジアゼパム坐剤は再発予防に有効ですが、全例へのルーチン使用は不要です。ガイドラインの適応基準は、15分以上の遷延性発作があった場合、または指定された6条件のうち2つ以上を満たす熱性けいれんが2回以上起こった場合です。6条件は、焦点発作または24時間以内の反復、発症前からの神経学的異常・発達遅滞、熱性けいれんまたはてんかんの家族歴、生後12か月未満の初発、発熱後1時間未満の発作、38℃未満の発熱に伴う発作です。


参考)https://www.childneuro.jp/uploads/files/about/FS2023GL/07fs2023_sec2_CQ04.pdf
ここで、一般的な再発予測因子の体温基準「39℃以下」と、予防投与の適応基準に含まれる「38℃未満」は異なります。診療録や患者説明資料を作る際は、両者を混同しないようにします。また、低い体温に伴う発作については、ほかの原因疾患の評価も踏まえた診断が前提になります。


ガイドラインに示される予防投与の目安は、37.5℃を目安に1回0.4~0.5mg/kg、最大10mgを挿肛し、発熱が持続していれば8時間後に同量を追加する方法です。ただし、これは個々の処方に代わる一律の指示ではありません。体重、過去の副作用、平熱、家庭での観察体制を踏まえて医師が指示を具体化し、発熱が続くからといって自己判断で反復投与しないよう説明します。鎮静やふらつきによって、髄膜炎・脳炎・脳症の評価が難しくなる点にも注意が必要です。


解熱薬は、熱性けいれんの再発予防を目的には推奨されません。一方、発熱による苦痛や不快感を軽減する目的では、ほかの発熱性疾患と同様に使用できます。「解熱薬で熱が下がった後、再上昇すると発作を誘発する」という説明を支持するエビデンスもありません。予防効果を過度に期待させず、同時に不必要な解熱薬への恐怖も与えない説明が求められます。


ジアゼパム坐剤と解熱用坐剤を両方使用する必要がある場合は、ジアゼパム坐剤を先に挿入し、30分以上あけて解熱用坐剤を使用します。同時挿入ではジアゼパムの吸収が遅延する可能性があります。また、抗てんかん薬の継続的内服も原則として推奨されず、予防投与を行っても長時間の発作を繰り返すなど、限られた状況で検討します。


日本小児神経学会:発熱時のジアゼパム坐剤と養育者への説明


保護者への説明とフォロー:予後・再受診・予防接種を共有する

保護者への説明では、「多くは予後良好」という情報と、「どの状態なら再評価が必要か」をセットで伝えます。単純型熱性けいれんを繰り返したことと、認知・学習能力の低下との有意な関連は、大規模研究では認められていません。一方、遷延性発作や意識の回復不良などを伴う場合は、通常の短い発作とは分けて評価する必要があります。「熱性けいれんは大丈夫」という一言だけで、すべての有熱時発作を安心材料に置き換えないことが重要です。


熱性けいれん後のてんかん発症率は、ガイドラインでは全体として2.0~7.5%程度とされますが、対象集団や観察期間によって異なります。説明では90%以上がてんかんを発症しないことを併せて伝えます。発達・神経学的異常、両親・同胞のてんかん家族歴、複雑型の要素などは関連因子ですが、熱性けいれんの再発を薬で抑えることが、そのまま将来のてんかん発症予防になるわけではありません。


退院・帰宅時には、発作が再び起きた際の受診先、救急要請の判断、処方薬の使用条件を具体的に共有します。発作が5分以上続く場合は、治療可能な医療機関への緊急搬送につながる行動が必要です。また、発作後の反応が戻らない、同一発熱機会に発作を反復する、全身状態が悪いといった場合は、再評価が必要であることを説明します。ガイドラインの「30分以上の意識障害」は医療者が検査・入院を考える目安であり、家庭で異常があっても30分まで待つよう指示する意味ではありません。


予防接種は、熱性けいれんの既往だけを理由に一律に中止・延期する必要はありません。2023年版では、当日の体調に留意すれば、最終発作からの期間にかかわらず速やかに接種してよいとしています。ただし、他疾患との鑑別のために経過観察が必要な場合は個別判断です。接種後の発熱時期はワクチンによって異なるため、予想される反応と発熱・発作時の対応を事前に説明します。


薬歴の確認もフォローの一部です。発熱性疾患の罹患中に使用する鎮静性抗ヒスタミン薬は、発作の持続時間を長くする可能性があり注意を要します。テオフィリンなどのキサンチン製剤も、熱性けいれんの既往がある小児では使用が推奨されません。処方薬だけでなく市販のかぜ薬を含めて確認し、必要な薬を保護者が自己中断するのではなく、処方医・薬剤師と適否を検討できるよう支援します。


こどもの熱性けいれん診療では、発作を止める急性期治療、重篤な原因疾患の鑑別、不要な検査・投薬の回避、家族への具体的な行動説明を一続きで実施することが大切です。ガイドライン自体も画一的な治療規則ではなく、個々の患者と家族、地域の医療体制を踏まえた意思決定を支えるものとして位置づけられています。


日本小児神経学会:再発予測因子とてんかん発症関連因子




子どもの気持ちで考える 小児医療で困ったときのかかわり方、支え方