

「ふく びく うえん」は、医学用語では「副鼻腔炎」と表記し、「ふくびくうえん」と読みます。副鼻腔は鼻腔につながる顔面骨内の空洞であり、その粘膜に炎症が生じた状態が副鼻腔炎です。鼻腔にも炎症を伴うことが多いため、臨床では「鼻副鼻腔炎」という名称も用いられます。患者が訴える鼻づまりや鼻汁だけでなく、顔面の痛み、圧迫感、嗅覚障害まで含めて評価する必要があります。
参考)https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/1912_teigen_digest.pdf
急性鼻副鼻腔炎は、多くの場合、ウイルス性の上気道感染に続いて発症します。経過中に細菌感染を併発する場合もありますが、急性例をすべて細菌感染とみなすことは適切ではありません。日本感染症学会の提言では、鼻閉、鼻漏、後鼻漏、咳嗽などの呼吸器症状に加え、頭痛、頬部痛、顔面圧迫感などを伴う病態として整理されています。後鼻漏とは鼻汁が咽頭側へ流れることで、鼻の症状よりも咳や喉の違和感が前面に出ることがあります。
慢性副鼻腔炎では、膿性・粘性鼻汁、鼻閉、頭痛・顔面痛、嗅覚障害などが持続します。鼻茸は慢性炎症に伴って粘膜が腫れたポリープ状の病変で、大きくなると鼻腔をふさぎ、副鼻腔の換気を妨げます。そのため、単に「膿がたまっている病気」と説明するより、炎症と換気障害が関係する病態として説明するほうが、治療の必要性を理解してもらいやすくなります。
参考)好酸球性副鼻腔炎 - 診療案内 - 東京女子医科大学 耳鼻咽…
診療の出発点は、病型を分けることです。急性の感染症として評価するのか、慢性炎症として継続管理するのか、さらに好酸球性の難治性病態を疑うのかによって、抗菌薬、抗炎症治療、手術の位置づけが変わります。症状名だけを根拠に同じ処方を繰り返さず、罹病期間、鼻茸、嗅覚障害、喘息の合併を組み合わせて考えます。
問診では、発症日、症状が続いている期間、途中で改善したかどうか、その後に再び悪化したかを確認します。日本感染症学会の提言は、急性鼻副鼻腔炎を発症から4週間以内の感染症として扱い、細菌性を判断する手掛かりとして、症状が10日間を超えて持続する「10-Days Mark」と、経過中の再増悪である「Double worsening」を挙げています。「10日間」という日数を単独の検査結果のように扱わず、症状の推移と診察所見の中で位置づけることが重要です。
一方、慢性副鼻腔炎は、東京女子医科大学の解説では副鼻腔の炎症症状が3か月以上続くものとされています。急性と慢性を区別する際は、両者の定義の間にある期間の症例も含め、発症からの連続した経過を確認します。また、慢性例では鼻茸の有無や嗅覚障害の程度を調べ、好酸球性副鼻腔炎が疑われる場合には、血中好酸球やCT所見の評価へ進みます。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 急性鼻副鼻腔炎 | 急性に発症し、発症から4週間以内の鼻副鼻腔の感染症 | ウイルス感染と細菌感染の経時的な変化を考慮する。 |
| 細菌性を考える経過 | 症状が10日間を超えて持続する、または経過中に再増悪する | 再増悪がある場合は、10日を待たずに評価する。 |
| 慢性副鼻腔炎 | 副鼻腔の炎症症状が3か月以上続く | 鼻汁、鼻閉、嗅覚障害と鼻茸の有無を確認する。 |
| 好酸球性副鼻腔炎の評価 | 両側病変、鼻茸、篩骨洞優位のCT陰影、末梢血好酸球率を評価する | JESRECスコアと組織所見を区別して判断する。 |
| 合併症が疑われる場合 | 視力、眼球運動、意識状態などを評価し、造影CTやMRIを検討する |
耳鼻咽喉科だけでなく、眼科や脳神経外科などとの連携が必要になる。 |
成人の急性例では、鼻漏、顔面・前頭部の痛みや圧迫感、鼻汁・後鼻漏の所見を用いた重症度評価が示されています。小児では、成人の顔面痛に代えて不機嫌や湿性咳嗽を評価する構成です。同じ「副鼻腔炎」という診断名でも、年齢によって評価しやすい症状が異なるため、成人の訴え方をそのまま小児に当てはめないことが大切です。
画像は病変の分布や合併症の評価に役立ちます。例えば好酸球性副鼻腔炎では篩骨洞や嗅裂の病変が特徴となり、眼窩内への進展が疑われる場合には膿瘍を確認しやすい造影CTが重要になります。画像上の陰影だけに注目するのではなく、「病型を判断する検査なのか」「緊急性のある進展を調べる検査なのか」という目的を明確にして解釈します。
急性鼻副鼻腔炎の治療では、抗菌薬が必要な患者を選ぶことが基本です。日本鼻科学会の診療ガイドラインでは、軽症例について抗菌薬を投与せずに自然経過を観察する選択肢が示されています。ウイルス感染から始まる病態を踏まえれば、発症直後から一律に抗菌薬を処方するのではなく、重症度と症状の推移を確認する姿勢が重要です。
細菌性が考えられ、抗菌薬を使用する場合、日本感染症学会の2019年の提言ではアモキシシリンを基本薬に位置づけています。同提言に記載された成人の基本レジメンは、経口1回500mg、1日3回、7~10日間です。ただし、これは提言における記載であり、すべての患者へそのまま適用する固定処方ではありません。実際の処方では、患者の条件と現行の添付文書、利用する診療指針を確認して決定します。
経過観察を選ぶ場合も、単に「薬を出さずに待つ」だけでは不十分です。診療チーム内で症状の推移を共有し、改善しているのか、持続しているのか、一度改善した後に悪化したのかを追えるようにします。患者への説明でも、抗菌薬を使わない理由と、再評価が必要になる症状をセットで伝えることで、治療方針の理解につなげます。この考え方は、感染相の変化と再増悪を重視する提言に沿ったものです。
慢性副鼻腔炎では、急性細菌感染への対応とは異なる長期的な治療設計が必要です。東京女子医科大学の解説では、慢性副鼻腔炎の治療としてマクロライド少量長期投与を主体とする薬物療法と、内視鏡下副鼻腔手術の組み合わせが示されています。ただし、好酸球性副鼻腔炎は別の病態として扱う必要があり、「長引く副鼻腔炎には同じ抗菌薬を継続すればよい」と一般化することはできません。
好酸球性副鼻腔炎は、両側の多発性鼻茸、粘調な鼻汁、高度の鼻閉や嗅覚障害を特徴とする難治性の副鼻腔炎です。気管支喘息や、NSAIDsで呼吸器症状が悪化するNSAID増悪呼吸器疾患との関連が重要です。難病情報センターでは、鼻茸の病態にType 2炎症が関与すると説明されています。感染だけでは説明できない炎症性病態であり、抗菌薬の反復投与だけでは治療の中心を捉えられません。
診断に用いるJESRECスコアは、両側病変3点、鼻茸2点、CTでの篩骨洞優位の陰影2点に、末梢血好酸球率に応じた点数を加えて算出します。好酸球率が2%超~5%以下なら4点、5%超~10%以下なら8点、10%超なら10点です。難病情報センターに掲載された基準では、合計11点以上に加えて、鼻茸組織中の好酸球数が400倍の1視野当たり70個以上であることを確定診断の条件としています。スコアによる可能性の評価と、組織所見を含めた確定診断を混同しないことが重要です。
治療では、鼻噴霧用ステロイド、必要に応じた全身性ステロイド、内視鏡下鼻副鼻腔手術などを病態に合わせて組み合わせます。手術は鼻茸を除去し、換気が良くなるよう鼻副鼻腔の形態を整える役割を持ちますが、好酸球性炎症そのものが必ず消失するわけではありません。術後も再発リスクに応じた薬物治療と経過観察が重要になります。
難治例では生物学的製剤も治療選択肢になりますが、対象疾患、年齢、既存治療への反応などの適応条件は製剤ごとに確認が必要です。「指定難病と診断されたこと」と「特定薬剤の適応を満たすこと」は同義ではありません。また、全身性ステロイドは有効である一方、重篤な副作用に注意が必要であり、投与の必要性と期間を慎重に判断します。
喘息合併例では、鼻と気管支を別々に管理するのではなく、上気道と下気道を一体として捉える「one airway, one disease」の視点が役立ちます。耳鼻咽喉科と呼吸器内科が連携し、鼻症状と喘息の双方を把握することが、治療の最適化につながります。嗅覚障害や鼻茸再発に加え、喘息の管理状況も継続的に確認することが重要です。
患者説明では、「鼻の症状が続いたら受診」という案内だけでなく、目の腫れ、物が二重に見える、視力の変化、強い頭痛、意識の異常などが出た場合には、予定の再診日を待たず速やかに医療機関へ連絡するよう伝えます。抗菌薬適正使用と合併症の早期発見は対立するものではなく、病態と緊急性を分けて判断することで両立させます。
なお、薬剤選択や投与期間を記事の記載だけで固定せず、実際の診療では現行の添付文書や診療指針を確認する必要があります。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の一覧には、日本鼻科学会による2024年の「鼻副鼻腔炎診療の手引き」が掲載されています。本記事で参照した2019年の抗菌薬適正使用提言などは発行時点を意識し、最新の手引きと患者個別の条件を照合して活用してください。