ブレインフォグの原因と評価・対応を医療者向けに解説

ブレインフォグの原因と評価・対応を医療者向けに解説

ブレインフォグは、集中力や記憶力、思考の働きにくさを表す症状の総称です。新型コロナ罹患後との関連、鑑別診断、認知機能の評価、生活支援の根拠を整理し、医療従事者は患者の困りごとにどう対応すべきでしょうか?

ブレインフォグの基礎知識と核心ガイド

ブレインフォグの評価と支援の基本
症状の具体化が診療の出発点

集中困難や物忘れなどの訴えを具体化し、発症時期、日内変動、仕事や生活への影響を確認します。

原因を決めつけず鑑別する

新型コロナ罹患後に限らず、睡眠、気分症状、薬剤、内分泌疾患などを含めて背景を評価します。

負荷調整と個別支援を組み合わせる

活動後の症状悪化に注意し、休息や作業環境の調整を通じて、日常生活で困る場面を減らします。


ブレインフォグとは何か:症状と生活上の支障を理解する



ブレインフォグは、頭に霧がかかったような感覚を伴う、集中困難、思考速度の低下、物忘れ、言葉の出にくさなどを表す言葉です。単一の疾患を特定する診断名としてではなく、患者が経験する認知面の不調を捉える表現として扱います。新型コロナ罹患後の症状として広く知られていますが、更年期など別の状況でも用いられており、ブレインフォグという訴えだけから原因を特定することはできません。


参考)Cognition and Brain fog (Post-…
具体的には、会話の途中で話題を見失う、文章を読んでも内容が頭に入らない、予定を覚えられない、複数の作業を同時に進められない、といった困難として現れます。注意、処理速度、短期記憶、言語、計画や整理に関わる実行機能など、困る領域は患者によって異なります。「物忘れがありますか」と尋ねるだけでなく、いつ、何をしているときに、どのような支障が生じるのかを確認することが重要です。


診療で重視したいのは、生活機能への影響です。同じ「集中できない」という訴えでも、読書が続かない場合と、服薬管理や安全性の高い判断を求められる業務に支障が出る場合とでは、必要な支援が異なります。NICEは新型コロナ罹患後の評価において、身体症状、認知症状、心理・精神症状に加え、機能的な能力を含めて包括的に把握することを勧めています。


参考)2 Assessment
また、検査で明確な異常が見つからないことと、患者が困っていないことは同義ではありません。CDCは、客観的な検査値や画像所見だけを患者の健康状態の評価基準にしないよう求めています。「検査は正常なので問題ありません」と結論づけず、症状の存在と生活上の負担を認めながら、評価と支援を進める姿勢が必要です。


参考)Long COVID Clinical Guidance
UCLH:新型コロナ罹患後の認知症状とブレインフォグ


原因と背景:新型コロナ罹患後だけに限定しない

新型コロナ罹患後のブレインフォグは重要な診療課題ですが、認知面の不調をすべて感染後の影響に帰属させるのは適切ではありません。感染前からの症状、既往疾患の増悪、睡眠や気分の変化、薬剤の影響などを並行して検討します。NICEも、罹患後症状の評価では感染歴だけでなく、既存疾患やその悪化を確認するよう勧めています。






参考)https://www.nice.org.uk/guidance/ng188/resources/Covid19-rapid-guideline-managing-the-longterm-effects-of-Covid19-pdf-66142028400325


参考)https://wellbeing.wmas.nhs.uk/wp-content/uploads/2022/10/Menopause-and-Cognition-Dr-Spencer.pdf


参考)https://thebms.org.uk/wp-content/uploads/2026/09/26-NEW-BMS-ToolsforClinicians-Menopausal-brain-fog-or-dementia-AUGUST2026-B.pdf

項目 基準・内容 備考
新型コロナ罹患後の状態 感染との時間的関係、症状の持続や再燃、併存症状を確認する 確定・除外できる単独の血液検査はない。
睡眠不良・疲労 睡眠状況、日中の疲労、認知症状が悪化する場面を確認する 認知面だけでなく、睡眠や疲労も支援対象にする。
不安・抑うつなど 気分症状と認知症状を、それぞれ評価する 心理面の評価だけで身体・認知面の評価を置き換えない。
身体疾患・代謝異常 症状に応じて貧血、甲状腺機能異常、肝・腎機能異常などを検討する 採血項目は病歴と診察所見から選択する。
薬剤・飲酒など 処方薬や市販薬の使用、開始・変更時期、飲酒状況を確認する 薬剤やアルコールが関連する可能性も検討する。
更年期に関連する変化 月経の変化、睡眠不良、疲労などとの関係を確認する 更年期という理由だけで、他の原因を除外しない。

ただし、この結果は入院患者集団で得られた関連を示すものであり、ブレインフォグを訴えるすべての患者に同じ病態があると証明したものではありません。特定の画像所見や研究用バイオマーカーを、一般診療での確定診断にそのまま用いることもできません。CDCも、現時点ではLong COVIDを確定または除外できる検査はないとしています。



問診・診察・検査:患者の訴えを再現可能な情報に変える

初期評価では、症状の有無だけでなく、経過と誘因、生活上の影響を整理します。新型コロナとの関連を検討する場合も、感染が疑われた時期、急性期の症状、その後の改善や再燃を確認します。CDCによれば、Long COVIDの診断に過去のウイルス検査や抗体検査の陽性は必須ではありません。一方で、感染歴があることだけを根拠に、別の疾患の可能性を見落とさないことが重要です。


  • 発症と経過:感染前後の変化、急な発症か徐々に生じたか、改善・悪化・再燃の有無を確認します。

  • 認知症状の具体像:集中、記憶、言葉の想起、処理速度、計画や複数作業のどこに困難があるかを尋ねます。

  • 併存症状と背景:身体症状、睡眠、疲労、気分症状、既往疾患、薬剤の使用状況を整理します。

  • 活動との関係:身体活動や読書、会議などの精神的負荷の後に、遅れて症状が悪化しないかを確認します。

  • 生活への影響:仕事、家事、予定管理など、支援の目標にできる具体的な困りごとを記録します。

新たな認知症状がある場合、NICEは妥当性が確認されたスクリーニングツールによって、障害と影響を評価することを勧めています。ただし、スクリーニングの結果だけで評価を終えず、本人の訴えや生活上の支障と合わせて解釈します。簡単な検査では捉えにくい困難が続く場合には、必要に応じて専門的な評価につなぐことを検討します。


血液検査は、ブレインフォグを直接証明するためではなく、別の疾患や治療可能な要因を調べる目的で選択します。NICEは、臨床的に必要な場合の検査として血算、腎・肝機能、CRP、フェリチン、HbA1c、甲状腺機能などを挙げています。これらは一律に全項目を測定するという意味ではなく、症状、病歴、診察所見に基づいて組み立てるものです。


安全性の観点では、「ブレインフォグ」という表現を受け入れるだけでなく、急性または生命に関わる病態が隠れていないかを先に判断します。突然出現した、あるいは急速に変化する認知面の異常を、慢性的な罹患後症状と同じ枠組みだけで扱うべきではありません。NICEは、症状に応じた検査を行い、急性・重篤な合併症や新たな別疾患を除外することを求めています。


NICE NG188:新型コロナ罹患後症状の包括的評価


治療と生活支援:原因への対応と認知負荷の調整を組み合わせる

対応の基本は、併存する疾患や症状の管理と、日常生活での負担軽減を組み合わせることです。Long COVIDでは、患者が最も負担に感じている症状を把握し、達成可能な目標を共有することが重視されています。認知機能の数値を改善させることだけでなく、「短時間の事務作業を終えられる」「予定の失念を減らせる」など、本人の生活に結びつく目標を設定します。


具体的な工夫としては、一度に一つの作業に取り組む、複雑な作業を比較的調子のよい時間帯に行う、作業を小分けにする、定期的に休息を入れる、といった方法があります。予定や手順をメモに残し、スマートフォンのアラームを活用する、鍵などの置き場所を固定することも、記憶への負担を減らす支援です。これらは「努力して覚える」ことを求めるのではなく、環境や道具で認知機能を補う方法として説明します。


とくに確認したいのが、労作後の症状悪化であるPEMです。CDCは、軽い身体的・精神的活動の後でも症状が悪化し、典型的には活動の12~48時間後に増悪して、数日から数週間続くことがあると説明しています。そのため、診察時や作業直後に問題がなくても、翌日以降の体調まで確認する必要があります。


PEMが疑われる患者では、「慣れればできるようになる」と活動量を機械的に増やすのではなく、症状に応じて活動と休息を調整するペーシングを検討します。身体活動だけでなく、読書、画面作業、会話などの認知的負荷も対象です。活動内容とその後の症状を記録すると、本人が負担の大きい場面を把握し、作業時間や休息の取り方を調整しやすくなります。


睡眠や気分の問題がある場合は、それぞれに対する評価と治療も並行します。ただし、認知行動療法などが不安、抑うつ、疲労への支援として用いられることと、ブレインフォグの原因を心理的なものだけと判断することは別です。身体・認知・心理面を分けて評価しつつ、必要な支援を組み合わせることが重要です。


CDC:Long COVIDの診断・症状管理とPEMへの対応


研究の読み方と経過観察:有効性の限界を伝えながら支える

ブレインフォグへの介入を説明するときは、「日常生活を補助する工夫」と「比較試験で有効性が確認された治療」を区別する必要があります。Long COVIDの認知症状を対象としたRECOVER-NEURO試験では、オンライン認知トレーニング、構造化された認知リハビリテーション、経頭蓋直流電気刺激などが検討されましたが、主要評価項目において比較群を上回る利益は示されませんでした。副次的な患者報告指標や神経心理検査でも、介入間の明確な差は示されていません。


参考)Evaluation of interventions fo…
一方、2026年にUCLが公表した別の試験では、療法士との個別ビデオ面談を通じて生活上の目標達成を支援する認知リハビリテーションについて、復職や趣味などに関する目標達成への利益が報告されています。これらの結果を読む際には、介入方法や比較条件だけでなく、認知症状の尺度を改善することと、生活上の目標を達成することが同じ評価ではない点に注意が必要です。


参考)https://www.ucl.ac.uk/news/2026/jul/long-covid-rehab-programme-helps-return-work-and-focus
したがって、特定の「脳トレ」や刺激療法を誰にでも有効な標準治療として勧めることも、ある試験が陰性だったことからすべての生活支援を無意味と判断することも適切ではありません。患者に提案する際は、何を目標とする方法なのか、どこまで効果が検証されているのか、時間や費用、症状悪化の負担はどうかを分けて説明します。確実な治癒を約束せず、本人の優先事項に沿って選択することが大切です。


経過観察では、症状の強さに加えて、作業を続けられる時間、予定管理のしやすさ、活動後の悪化、仕事や家事への参加状況などを継続して確認します。記録は複雑にしすぎず、患者が続けられる日誌やカレンダーを利用します。症状が変化した場合には、当初の診断に固定せず、併存疾患や新たな原因を再評価する姿勢が必要です。


医療従事者が共有したいのは、「原因や治療がまだ十分に解明されていない部分があること」と「その状況でも評価・支援できることがある」という二つの事実です。患者の訴えを具体的な情報に変え、治療可能な要因を探し、認知負荷と生活環境を調整する。その積み重ねによって、検査結果だけでは見えにくい困難にも対応できます。


RECOVER:Long COVIDの認知症状に対する介入の無作為化比較試験
UCL:個別の目標に基づく認知リハビリテーションの研究




【指定医薬部外品】新ビオフェルミンSプラス錠 550錠 61日分 大正製薬 整腸剤 [乳酸菌/ビフィズス菌/ロンガム菌/フェーカリス菌/アシドフィルス菌 配合] 腸内フローラ改善 便秘や軟便に (× 5)