


アスベリンは、チペピジンヒベンズ酸塩を有効成分とする鎮咳去痰薬である。薬効分類上は鎮咳剤に位置付けられるが、単に咳反射を抑えるだけではなく、喀痰の排出を助ける作用も有することが実務上の特徴となる。販売名はアスベリン錠10、アスベリン錠20、アスベリン散10%、アスベリンドライシロップ2%、アスベリンシロップ0.5%、アスベリンシロップ「調剤用」2%などがある。
作用機序としては、延髄にある咳中枢を抑制して咳に対する感受性を低下させることで鎮咳作用を示す。また、気管支腺分泌を亢進し、気道粘膜線毛上皮運動を亢進することにより、去痰作用を示すとされる。したがって、咳嗽と喀痰喀出困難が併存する病態で処方意図を理解しやすい薬剤である。ただし、咳は感染症、喘息、心不全、悪性疾患、薬剤性など多様な原因で生じる症候であり、鎮咳薬の投与だけで原因疾患の評価を完結させてはならない。
添付文書上の効能又は効果は、感冒、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺炎、肺結核、上気道炎(咽喉頭炎、鼻カタル)、気管支拡張症に伴う咳嗽及び喀痰喀出困難である。咳の性状、痰の量・粘稠度・色調、呼吸困難、発熱、胸痛、喘鳴、SpO2低下などを併せて評価し、症候緩和と病態評価を分けて考える必要がある。[医療用医薬品添付文書の記載に基づく]
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdSearch/02/2249003R1043?user=1
PMDA:アスベリンシロップ0.5 医療関係者向け情報
アスベリンの用法及び用量は、チペピジンクエン酸塩換算で規定されている点が重要である。通常、成人にはチペピジンクエン酸塩として1日60~120mgを3回に分割して経口投与する。これはチペピジンヒベンズ酸塩として1日66.5~132.9mgに相当する。処方箋・電子カルテ・薬袋・服薬説明書を確認する際には、「クエン酸塩換算量」と「ヒベンズ酸塩としての実含量」を混同しないことが不可欠である。
例えば、アスベリン錠10は1錠中にチペピジンヒベンズ酸塩11.07mgを含有し、チペピジンクエン酸塩10mg相当である。成人でチペピジンクエン酸塩として1回20mgが処方されている場合、アスベリン錠10では通常1回2錠、1日3回で計6錠となる。一方、アスベリン錠20は1錠がチペピジンクエン酸塩20mg相当であり、同一処方意図でも1回1錠、1日3回となる。規格変更時には、錠数やmL数がそのまま移行できるとは限らない。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 有効成分 | チペピジンヒベンズ酸塩 | 用量表記はクエン酸塩換算を確認する |
| 成人通常量 | チペピジンクエン酸塩として1日60~120mg | 通常は1日3回に分割経口投与する |
| ヒベンズ酸塩換算 | 1日66.5~132.9mg | 成人通常量に対応する範囲 |
| 錠10 | 1錠中ヒベンズ酸塩11.07mg | クエン酸塩10mg相当 |
| 錠20 | 1錠中ヒベンズ酸塩22.14mg | クエン酸塩20mg相当 |
| ドライシロップ2% | 1g中ヒベンズ酸塩22.1mg | クエン酸塩20mg相当 |
| シロップ0.5% | 1mL中ヒベンズ酸塩5.54mg | クエン酸塩5mg相当 |
小児では年齢別にチペピジンクエン酸塩としての1日量が設定され、通常は1歳未満で5~20mg、1歳以上3歳未満で10~25mg、3歳以上6歳未満で15~40mgを、それぞれ3回に分割して経口投与する。年齢、症状により適宜増減されるため、体重、年齢、剤形、計量方法、併用する鎮咳去痰薬の有無を含めて確認する。特に小児用液剤では、濃度の異なる製剤間でmL数のみを比較すると過量又は過少投与につながるおそれがある。[添付文書記載の用法及び用量に基づく]
参考)https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=2249003B1037
アスベリンの禁忌は、本剤の成分に対し過敏症の既往歴がある患者である。処方監査では、チペピジンヒベンズ酸塩そのものだけではなく、過去にアスベリン製剤で蕁麻疹、発疹、呼吸困難、顔面浮腫などが生じていないかを確認する。薬剤アレルギー歴が曖昧な場合には、原因薬、発現時期、症状、治療内容、再投与歴を聴取し、必要に応じて処方医へ情報提供する。
重大な副作用として、頻度不明のアナフィラキシーが記載されている。患者には、服用後に発疹、蕁麻疹、皮膚のかゆみ、顔面又は口唇の腫れ、声のかすれ、息苦しさ、喘鳴、動悸、冷汗、意識がぼんやりするなどの症状が出現した場合、服用を中止し、緊急性を判断したうえで速やかに医療機関を受診するよう説明する。呼吸困難や意識障害を伴う場合は救急要請を含む緊急対応が必要となる。
眠気については、添付文書に自動車運転等を一律に禁止する明確な記載がある場合と同じ扱いを機械的に行うのではなく、患者の症状、職業、併用薬、服用開始直後かどうかを確認して個別に注意喚起することが望ましい。高齢者では、めまいによる転倒、口渇による摂水量低下、便秘の悪化などが生活機能に影響し得るため、服薬後の変化を具体的に確認する。[副作用情報に基づく]
参考)アスベリン錠20の基本情報(薬効分類・副作用・添付文書など)…
アスベリンには錠剤、散剤、ドライシロップ、シロップがあり、処方意図に応じて選択される。錠剤は規格が10と20で異なるため、前回処方との錠数比較だけでは不十分である。規格変更、後発品への変更、院内採用製剤の切替時には、1回量、1日量、クエン酸塩換算量、服用回数を再計算する。特に「アスベリン錠10を2錠」から「アスベリン錠20を2錠」へ単純に読み替えると、投与量が2倍になるため注意を要する。
散剤やドライシロップでは、秤量単位がgである一方、患者・家族は付属スプーン又は計量器で服用することが多い。計量器の種類、1回量、服用回数、溶解又は懸濁の必要性を、実際の製剤に即して説明する。ドライシロップは名称から液剤と誤認されることがあるため、「粉末をそのまま又は少量の水などとともに服用する製剤である」こと、処方された量を家庭用スプーンで推測しないことを明確に伝える。
シロップ製剤では、濃度の違いが安全性に直結する。アスベリンシロップ0.5%は1mL中にチペピジンヒベンズ酸塩5.54mgを含有するのに対し、アスベリンシロップ「調剤用」2%は1mL中に22.14mgを含有する。両者は同じ「シロップ」であっても濃度が4倍異なるため、mL数を同一視してはならない。分包液、内用シリンジ、スポイトなどの交付方法を含め、保護者が投与量を再現できる説明が必要である。[製剤規格情報に基づく]
服薬指導では、「咳を抑える薬」とだけ説明せず、痰を出しやすくする作用も期待されること、処方どおりに服用すること、症状が改善しない場合でも用量を自己調整しないことを伝える。加えて、夜間咳嗽、喘鳴、呼吸苦、発熱持続、血痰、食事や水分が取れないといった症状は、単なる咳止めの追加ではなく、受診や病態再評価を要する可能性があると説明することが重要である。
アスベリンの処方監査では、第一に咳嗽の背景疾患と処方目的を把握する。感冒や急性気管支炎に伴う一時的な咳嗽であれば、症状の程度、夜間睡眠への影響、痰の有無、発熱経過などを確認する。慢性気管支炎、気管支拡張症、肺炎、肺結核などでは、鎮咳去痰薬による症状緩和と並行して、感染制御、排痰支援、呼吸状態の観察、原因疾患に対する治療が重要となる。咳嗽を抑えることが常に最優先とは限らず、喀痰貯留が問題となる患者では咳の役割も考慮する必要がある。
第二に、処方の重複を確認する。複数診療科の受診、一般用医薬品の併用、退院後の残薬使用などにより、鎮咳薬、去痰薬、抗ヒスタミン薬、睡眠薬、抗不安薬などが重なることがある。アスベリン単独での忍容性だけでなく、眠気、ふらつき、口渇、便秘、服薬回数増加といった総合的な負担を評価する。患者が「風邪薬も飲んでいる」と述べた場合には、製品名、成分、服用頻度、服用開始日を具体的に確認することが望ましい。
第三に、再評価のタイミングを患者と共有する。咳嗽が数週間以上遷延する場合、夜間・早朝に優位な咳や喘鳴がある場合、体重減少、血痰、呼吸困難、胸痛、長期の発熱を伴う場合は、気道疾患、感染症、逆流、悪性疾患などを含む鑑別が必要となる。アスベリンを処方・調剤する場面では、薬剤の説明にとどまらず、受診継続や症状悪化時の相談行動につながる情報提供が重要である。
アスベリンは、古くから使用される鎮咳去痰薬であり、剤形が豊富で小児から成人まで処方に接する機会がある。一方で、塩換算、規格、濃度、眠気、アナフィラキシー、咳の原因疾患評価という複数の確認点がある。医療従事者は、単なる「咳止め」として扱うのではなく、処方量の正確性と患者の病態・生活背景を結び付けて評価することが求められる。[医療用医薬品情報に基づく]