

PMSと更年期に伴う不調を見分ける際、最も重要なのは症状の種類だけで判断しないことです。イライラ、抑うつ気分、不眠、疲労感などは両方の場面で問題になります。PMSでは、とくに周期性、すなわち月経前に症状が現れ、月経開始に伴って軽くなるという時間的な関係を確認します。日本産科婦人科学会は、月経前の約3~10日間に生じ、月経が始まると軽快・消失する精神的・身体的症状をPMSの特徴として説明しています。
参考)https://www.jsog.or.jp/citizen/5716/
一方、更年期はライフステージに関する概念であり、PMSという症候群とそのまま対になる病名ではありません。診療では、更年期への移行を示す月経周期の変化と、ほてり・発汗などの血管運動神経症状、気分の変化、腟乾燥などを整理します。更年期に関連する症状の程度や持続期間には個人差があり、「その年齢だからすべて更年期による」と判断するのではなく、症状の組み合わせと経過を評価する必要があります。
参考)Recommendations
PMSの発症機序は完全には解明されていません。排卵周期に伴う性ホルモン変動に加え、セロトニンやGABAなどの神経伝達系、心理社会的ストレスなどの関与が考えられています。このため、PMSを単純な「女性ホルモン不足」と説明するのは不適切です。更年期に伴う不調と共通してホルモン変動が関係していても、評価の軸や治療の目的まで同じとは限りません。
参考)https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/PMS_PMDDshishin.pdf
また、周閉経期に月経が続いている患者では、月経前の不調と更年期に関連する症状を二者択一にしないことが重要です。日本産科婦人科学会の2025年の診断・治療指針でも、周閉経期のPMS・PMDDへの対応が独立した検討課題として扱われています。年齢だけでPMSを否定せず、月経前後の変化を追いながら、更年期症状や他疾患も並行して評価する姿勢が求められます。
問診では「月経前につらいですか」と尋ねるだけでなく、いつ症状が始まり、月経開始から何日程度で軽くなるか、月経後に症状がほぼなくなる時期があるかを具体的に確認します。過去の印象に基づく回答は、月経前の不調を過大に評価する可能性があります。可能であれば少なくとも2周期にわたり前向きに毎日の状態を記録し、月経と症状の対応を確かめます。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| PMSを示唆する経過 | 月経前に精神的・身体的症状が出現し、月経開始に伴い軽快する | 月経後に症状が乏しい時期があるかを確認する |
| 更年期への移行を示唆する所見 | 新たなほてり・発汗と、月経周期の変化などを認める | 月経前だけに限定されない症状の経過も整理する |
| 閉経の臨床的な判断 | ホルモン避妊法を使用していない場合、12か月以上月経がないことが目安となる | NICEでは45歳以上で関連症状がある、その他は健康な人の判断基準として示す |
| 月経前増悪(PME) | 既存の精神疾患や身体疾患の症状が月経前に悪化する | 月経後も基礎となる症状が残るかを評価する |
| 症状日誌 | 出血日、症状の種類・強さ、生活機能への影響を毎日記録する | DRSP-Jのほか、アプリや簡単なメモも利用できる |
上表は日本産科婦人科学会のPMS・PMDD診断・治療指針と、英国NICEの更年期診療ガイドラインを基に、診療上の確認点を整理したものです。これだけで診断が確定するチェックリストではなく、月経歴や併存疾患、治療薬の影響を併せて解釈します。
症状日誌は、診断のためだけでなく治療効果の評価にも役立ちます。気分の落ち込み、怒りやすさ、睡眠、乳房の張り、頭痛などについて、患者が継続できる方法で強さを記録します。仕事や家事が進まない、人間関係に支障が出るといった機能面も重要です。標準化された日本語版の評価法としてDRSP-Jがありますが、詳細な項目を毎日記入する負担もあるため、記録方法は患者に合わせて選びます。
検査では、PMSと更年期を一度のホルモン採血で明確に分けられると考えないことが大切です。NICEは、45歳以上で典型的な更年期関連症状があり、その他は健康な人について、基本的に検査を用いず臨床的に評価する方針を示しています。FSH測定は、月経周期の変化などを伴う40~45歳の人や、40歳未満で閉経が疑われる人などで検討されます。エストロゲン・プロゲストーゲン配合避妊薬などの使用中は判定が難しくなる点にも注意が必要です。
精神症状が強い患者では、PMSだけでなく月経前不快気分障害(PMDD)を検討します。ただし、「月経前にイライラする」という訴えだけでPMDDとは診断できません。症状の種類、出現と消退の時期、生活機能への影響を確認し、DSM-5-TRなどの診断基準に沿って評価します。スクリーニング調査票は入口として有用ですが、記憶に基づく回答だけではうつ病などとの鑑別が不正確になる場合があります。
さらに、月経前増悪(PME)はPMS・PMDDと区別しておきたい病態です。例えば、月経周期を通して抑うつや不安があり、月経前になると一段と悪化する場合、既存疾患の増悪が含まれていないかを検討します。うつ病、双極症、不安症のほか、頭痛、喘息、てんかんなどの身体疾患でも月経前の増悪が起こることがあります。診断名をPMSに置き換えてしまうと、基礎疾患の治療が不十分になるおそれがあります。
これらは症状日誌と併せて確認する項目です。日本産科婦人科学会の指針では、重度の精神症状、重い生活機能障害、自傷他害や希死念慮の高まり、既存の精神疾患の月経前増悪が疑われる場合などに、精神科・心療内科への紹介を検討するとしています。重い精神症状を「ホルモンのせいだから」と軽視せず、婦人科と精神科領域の連携を早期に考えることが重要です。
日本産科婦人科学会:月経前症候群・月経前不快気分障害に対する診断・治療指針
PMS・PMDDの薬物療法では、排卵に伴うホルモン変動を抑える治療と、精神症状などを軽減する治療を整理します。経口避妊薬(OC)や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)は全般的な症状の改善が期待され、とくにドロスピレノン・エチニルエストラジオール配合薬について有効性の検討が進んでいます。ただし、すべての製剤に同等のエビデンスがあるわけではありません。
中等症から重症のPMS・PMDD、とくに精神症状が問題になる場合には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が治療選択肢となります。日本産科婦人科学会の指針では、黄体期のみの周期投与と、月経周期を通した連続投与の両方を示しています。周期が不規則で投与時期を予測しにくい場合や、周期投与で十分な効果が得られない場合には、連続投与を検討します。悪心、眠気、不眠、倦怠感などの副作用や、中止時の症状にも留意します。
ここで、推奨される治療と国内の承認・保険適用を混同しないことが重要です。2025年の同学会指針では、SSRIによるPMS・PMDD治療は保険適用外とされ、OC・LEPを含め、多くの薬剤・医療行為がPMS・PMDDという病名に対して保険適用を認められていない点が明記されています。処方時には最新の添付文書と適用を確認し、治療目的、期待される効果、費用負担を説明する必要があります。
一方、更年期に関連するほてりや発汗などの血管運動神経症状に対して、NICEはホルモン補充療法(HRT)を提示しています。子宮を有する人への全身性HRTでは、子宮内膜保護を考慮したプロゲストーゲンの併用が基本となります。乳がん歴、血栓症リスク、心血管疾患などを踏まえて個別に判断し、投与経路や製剤、用量、期間について利益とリスクを共有します。経口製剤と経皮製剤では血栓症リスクの扱いも異なります。
SSRIをPMS・PMDDの選択肢として扱うことと、更年期のほてりだけに対する第一選択として扱うことは別です。NICEは、血管運動神経症状だけを対象とする場合、SSRIやSNRIなどを日常的に第一選択として提示しないとしています。また、更年期に抑うつ症状があっても、うつ病の診断基準を満たす場合は、うつ病の診療と併せた治療計画が必要です。薬剤名から治療を決めるのではなく、どの病態のどの症状を改善するのかを明確にします。
非薬物療法の基盤は、症状を可視化し、患者と病態理解を共有することです。症状日誌を使って不調の出現時期や生活への影響を確認し、負担を調整する方法を話し合います。規則的な睡眠、バランスのよい食事、適度な運動、ストレス管理なども提案できますが、「生活習慣を改善すれば必ず治る」と説明すべきではありません。日本産科婦人科学会の指針では、生活習慣指導の明確なエビデンスは乏しく、運動療法についても研究の質や異質性に限界があるとしています。
認知行動療法(CBT)は、PMS・PMDDに伴う不安や抑うつなどへの介入として検討できます。更年期についても、NICEは更年期に特化したCBTを、血管運動神経症状やそれに関連する睡眠の問題、抑うつ症状への選択肢として示しています。薬物療法の併用を含めて患者の希望に合わせますが、国内ではPMS・PMDDに対するCBTの実施施設や治療者が限られるという課題があります。
漢方薬を選ぶ場合も、有効性と安全性を分けて説明します。PMS・PMDDでは加味逍遙散、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸などが用いられますが、臨床効果の検証は十分ではありません。甘草を含む製剤では偽アルドステロン症による浮腫、血圧上昇、低カリウム血症などに注意します。「漢方だから副作用がない」とは説明せず、複数製剤の併用や市販薬も含めて確認します。
再診では、症状の強さだけでなく、仕事・家事・対人関係などの回復、副作用、継続のしやすさを確認します。周閉経期には月経パターンが変化し、以前は明瞭だった症状の周期性が分かりにくくなることもあります。当初の診断に固定せず、日誌と月経歴を見直し、PMS・PMDD、更年期関連症状、既存疾患の増悪のどれが現在の負担の中心かを再評価します。
医療従事者が患者へ伝えるべきなのは、「年齢や症状名だけでは決められないが、経過を記録すると治療の方向性を整理できる」ということです。PMSと更年期を単純に二分するより、月経周期との関係、月経後にも残る症状、生活機能への影響、安全性を順に確認するほうが診療に役立ちます。記録を診断のための負担で終わらせず、治療目標と効果判定を共有する道具として活用することが重要です。