


ツムラ治打撲一方エキス顆粒(医療用)は、打撲によるはれ及び痛みを効能又は効果とする医療用漢方製剤である。一般名は治打撲一方エキスであり、株式会社ツムラが製造販売する顆粒剤として用いられる。医療現場では「ツムラ89番」と呼ばれることもあるが、処方・調剤・服薬指導では販売名、規格、用法を正確に確認することが重要である。PMDAの医療用医薬品情報では、ツムラ治打撲一方エキス顆粒(医療用)の添付文書、患者向医薬品ガイド、インタビューフォームなどを確認できる。
参考)PMDA 医療用医薬品情報 医療関係者向け
本剤は、打撲に伴う局所の疼痛や腫脹に対して使用される。漢方医学的には外傷後の疼痛、腫れ、皮下出血などを瘀血の関与する状態として捉える考え方があるが、現代医学的な外傷診療においては、まず骨折、脱臼、腱・靱帯損傷、コンパートメント症候群、感染、深部静脈血栓症など、緊急性や治療方針を大きく左右する病態を除外・評価する必要がある。したがって、本剤は画像検査、固定、安静、冷却、挙上、鎮痛薬などを含む総合的な診療の代替ではなく、診断に基づく薬物療法の一選択肢として位置付ける。
特に受傷機転が強い場合、荷重不能、著しい変形、神経障害、急速に増悪する腫脹、強い自発痛、発熱、抗凝固薬・抗血小板薬使用中の広範な皮下出血などがある場合は、「単なる打撲」と自己判断して本剤の継続のみで経過を見るべきではない。薬局・外来いずれでも、患者の訴えを処方適応に当てはめるだけでなく、再受診や緊急評価の要否を見極める視点が求められる。
PMDA 医療用医薬品情報:ツムラ治打撲一方エキス顆粒(医療用)
ツムラ治打撲一方エキス顆粒(医療用)は、1日量7.5g中に混合生薬の乾燥エキス2.25gを含有する。原生薬として、ケイヒ3.0g、センキュウ3.0g、センコツ3.0g、ボクソク3.0g、カンゾウ1.5g、ダイオウ1.0gが配合されている。生薬由来製剤ではあるものの、配合生薬に由来する有害事象、相互作用、特定背景患者への注意を、通常の処方薬と同様に体系的に評価する必要がある。
参考)302 Found
添付文書における通常の成人用法・用量は、1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与するものとされている。年齢、体重、症状により適宜増減する。製剤は2.5g分包もあるため、1日7.5gであれば通常は1回2.5gを1日3回とする処方設計が考えられるが、実際の投与回数・1回量は処方内容を確認する。食間は一般に食後およそ2時間を目安と説明されることが多いが、患者が「食事中」と誤解しないよう、服用タイミングを具体的に伝える。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 効能又は効果 | 打撲によるはれ及び痛み | 骨折・脱臼・靱帯損傷などは別途評価する |
| 通常成人用量 | 1日7.5gを2~3回に分割 | 年齢、体重、症状により適宜増減 |
| 投与時期 | 食前又は食間 | 処方指示を優先し、飲み忘れ時の対応も個別に説明する |
| 主な構成生薬 | ケイヒ、センキュウ、センコツ、ボクソク、カンゾウ、ダイオウ | 甘草および大黄に関するリスク評価が重要 |
| 継続時の考え方 | 症状・所見の改善を観察 | 改善が認められない場合は継続投与を避ける |
服薬指導では、「漢方薬だから安全」「市販薬と同じように自由に増減できる」といった誤解を是正することが重要である。本剤は医療用医薬品であり、処方医の診断と処方意図に基づいて服用する。症状が改善しない場合、あるいは痛みや腫れが増悪する場合には、自己増量ではなく処方医に相談するよう伝える。また、服薬アドヒアランスを確認する際には、顆粒の味やにおい、空腹時服用による負担、嚥下のしにくさなど、継続を妨げる要因も聴取する。
ツムラ治打撲一方エキス顆粒(医療用)添付文書
本剤で注意すべき重大な副作用として、偽アルドステロン症およびミオパチーが添付文書に記載されている。カンゾウを含有するため、低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液貯留、浮腫、体重増加などを伴う偽アルドステロン症が起こることがある。異常が認められた場合には投与中止と適切な処置が必要であり、添付文書では血清カリウム値の測定などを含めた十分な観察が求められている。
低カリウム血症の結果としてミオパチーが現れることがあるため、脱力感、四肢のけいれん、しびれ、四肢麻痺などを患者に具体的に説明する。高齢者、心不全・腎機能障害などで体液バランスの変化が臨床上問題となりやすい患者、血圧管理中の患者では、浮腫、体重増加、血圧変動を見逃さないことが重要である。ただし、個々のモニタリング頻度や検査項目は、投与期間、併存疾患、併用薬、症状に応じて処方医が判断する。
大黄には瀉下作用があり、その程度には個人差が認められる。このため、便秘を伴わない患者、もともと軟便傾向の患者、脱水リスクを有する患者では、排便回数・便性状・腹痛の有無を具体的に確認する。患者が「いつもより便が緩い」「腹痛が続く」と表現した際には、漫然継続ではなく、服薬状況、食事、感染性胃腸炎などの他要因も含めて評価する必要がある。添付文書には、下痢、軟便のある患者、著しく胃腸の虚弱な患者などへの注意が明記されている。
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、本剤を投与しないことが望ましいとされている。これは、含有する大黄の子宮収縮作用および骨盤内臓器の充血作用により、流早産の危険性があるためである。授乳婦では、治療上の有益性と母乳栄養の有益性を考慮して授乳継続または中止を検討し、大黄中のアントラキノン誘導体が母乳中に移行して乳児の下痢を起こす可能性に注意する。小児等を対象とした臨床試験は実施されておらず、高齢者では生理機能低下を踏まえて減量などに注意する。
ツムラ治打撲一方の服用開始前には、処方薬だけでなく、他院処方、市販の漢方薬、健康食品、甘草やグリチルリチン酸を含む製品の使用状況を確認する。本剤にはカンゾウが含まれるため、カンゾウ含有製剤、グリチルリチン酸およびその塩類を含有する製剤との併用では、偽アルドステロン症および低カリウム血症に伴うミオパチーが現れやすくなるとされている。代表例として、芍薬甘草湯、補中益気湯、抑肝散などのカンゾウ含有漢方製剤が挙げられる。
薬剤師が薬歴確認を行う際は、「漢方薬を飲んでいますか」という広い質問だけで終わらせず、こむら返り、胃腸症状、睡眠、不安、感冒、体力低下など、別の目的で処方・購入された漢方薬がないかを確認することが有用である。患者は製品名を覚えていない場合も多いため、お薬手帳、現物、スマートフォンの写真などを活用する。処方医側でも、複数診療科にまたがる処方や、地域連携に伴う持参薬を含めて重複生薬を把握する必要がある。
また、本剤と他の漢方製剤を併用する場合は、含有生薬の重複に注意し、とくにダイオウを含む製剤との併用に注意するよう添付文書に記載されている。ダイオウ重複では下痢、腹痛、脱水などのリスクを高める可能性があるため、便通改善を目的とした処方薬、市販の瀉下薬、便秘薬の併用状況も確認する。便秘治療の調整が必要な患者では、「治打撲一方を開始した後の便通変化」を追跡し、従来の下剤を自動的に継続するのではなく、症状に応じて処方全体を見直す。
モニタリングでは、短期投与であっても患者の年齢、腎機能、心血管系疾患、食事摂取量、下痢の有無、併用薬を踏まえ、血圧、浮腫、体重変化、筋症状、消化器症状を確認する。低カリウム血症が疑われる症状や、浮腫・血圧上昇が生じた場合には、単に「外傷後で活動量が減ったため」と決めつけず、薬剤性を念頭に置く。添付文書では血清カリウム値などへの十分な留意が示されており、異常を認めた場合は中止および適切な処置を行う。
治打撲一方を処方または調剤する場面では、患者が「痛み止め」として一律に理解しないよう、適応と限界を明確に伝える。添付文書上の適応は「打撲によるはれ及び痛み」であり、捻挫、骨折、術後痛、神経障害性疼痛、慢性の関節痛などに対して当然に適応となるわけではない。実臨床では症候や病態を踏まえて判断される場合があるとしても、添付文書上の効能又は効果と個別の処方意図を区別し、患者へは処方医の指示に沿った説明を行う。
症状の改善が乏しいときは、単に薬剤の効果不足と判断する前に、診断そのものを再評価する。受傷後に疼痛が強くなる、腫れが急速に増える、皮膚色が悪化する、しびれや冷感が現れる、関節を動かせない、発熱を伴う、体重負荷ができないといった場合には、骨折、血腫、感染、循環・神経障害などを考慮し、速やかな医療機関受診を促す。とくに高齢者、骨粗鬆症患者、抗凝固薬・抗血小板薬使用患者では、外見上軽微に見える外傷でも注意が必要である。
患者説明では、服用方法に加え、受診すべき副作用症状を具体化することが実務上有用である。例えば、「手足や顔がむくむ」「急に体重が増える」「血圧が高くなった」「力が入りにくい、足がつる」「下痢や腹痛が続く」「発疹やかゆみが出た」といった変化があれば、自己判断で服用を続けず、医師または薬剤師に連絡するよう案内する。患者が理解しやすい生活上の変化に置き換えることで、偽アルドステロン症、低カリウム血症、ミオパチー、消化器症状の早期把握につながる。
最終的に重要なのは、治打撲一方を「外傷後なら誰にでも使える漢方薬」として扱わないことである。証を含む患者個別の状態を考慮し、症状経過を十分に観察し、改善が認められない場合には継続投与を避けることが添付文書上も求められている。外傷の初期評価、重篤な病態の除外、併用薬確認、甘草・大黄由来の有害事象への対応、適切な再診勧奨までを一連のプロセスとして実施することが、ツムラ治打撲一方の安全で適正な使用につながる。