


竹茹温胆湯(ちくじょうんたんとう)は、医療用では「ツムラ竹茹温胆湯エキス顆粒(医療用)」などとして使用される漢方製剤です。漢方医学的には、感染症後に残る熱感、痰、咳、胸部・心窩部の不快感、落ち着かなさ、眠りにくさといった複数の症候を、患者の「証」を踏まえて統合的に評価する処方です。
医療用製剤の効能又は効果は、「インフルエンザ、風邪、肺炎などの回復期に熱が長びいたり、また平熱になっても、気分がさっぱりせず、せきや痰が多くて安眠が出来ないもの」と定められています。すなわち、急性期の感染症そのものを治療対象とするというより、感染症の回復局面で、呼吸器症状と睡眠障害が併存し、全快感が得られない患者像を想定することが重要です。抗菌薬、抗ウイルス薬、解熱鎮痛薬などの代替として一律に用いる薬剤ではありません。ツムラ竹茹温胆湯エキス顆粒(医療用)添付文書
参考)302 Found
臨床では、「解熱しているから回復した」とは限りません。たとえば、発熱は消失した一方で、粘稠な痰や夜間の咳が持続し、眠れないために日中の倦怠感や回復遅延感を訴える患者では、症候の時間的経過、呼吸状態、再燃の有無、併存疾患を確認したうえで、竹茹温胆湯が添付文書上の病態像に合致するかを検討します。
ツムラ竹茹温胆湯エキス顆粒(医療用)は、成人1日量7.5g中に、混合生薬の乾燥エキス5.5gを含有します。原料生薬は、半夏、柴胡、麦門冬、茯苓、桔梗、枳実、香附子、陳皮、黄連、甘草、生姜、人参、竹茹で構成されます。生薬名から単独の薬理作用を機械的に積み上げるのではなく、承認された効能又は効果と個々の患者の症候を基盤に、処方全体として評価する姿勢が必要です。医療用竹茹温胆湯の組成・効能又は効果
とくに処方候補を絞る際には、「咳がある」「眠れない」という単一症状だけで判断しないことが実務上の要点です。持続する咳嗽の背景には、肺炎の遷延・再燃、喘息・咳喘息、COPD増悪、心不全、後鼻漏、胃食道逆流、薬剤性咳嗽、悪性疾患などがあり得ます。また、不眠が顕著であれば、夜間呼吸困難、睡眠時無呼吸、せん妄、抑うつ・不安、薬剤の影響、疼痛なども鑑別対象となります。竹茹温胆湯の検討は、こうした器質的疾患や緊急性の高い状態を除外・評価した後に位置づけます。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 想定される時期 | インフルエンザ、風邪、肺炎などの回復期 | 感染症急性期の標準治療を置き換える目的ではない |
| 中心症候 | 熱が長びく、または解熱後も気分がさっぱりしない | 症状の推移とバイタルサインを併せて確認する |
| 呼吸器症状 | 咳や痰が多い | 低酸素血症、呼吸困難、血痰などは原因精査を優先する |
| 睡眠への影響 | 咳・痰を背景として安眠できない | 不眠症一般への適応と短絡しない |
| 漢方医学的評価 | 体質・症状を含む証を考慮する | 添付文書上も経過観察と非改善時の継続回避が求められる |
医療用の通常成人用量は、1日7.5gを2〜3回に分割し、食前又は食間に経口投与します。年齢、体重、症状により適宜増減されます。「食間」は食事中ではなく、一般に食後およそ2〜3時間の空腹時を指すため、患者が「食事の途中」と誤解しないように具体的に説明します。用量や投与回数は処方箋の指示を優先し、自己判断による増量・減量は避けるよう案内します。くすりのしおり:ツムラ竹じょ温胆湯エキス顆粒(医療用)
参考)くすりのしおり : 患者向け情報
服薬アドヒアランスを確認する際は、顆粒剤特有の味・におい、服用タイミング、残薬、飲み忘れの状況を把握します。咳と痰の軽減、入眠や中途覚醒の改善、睡眠による日中活動性の回復といった患者報告アウトカムを、処方意図に沿って追跡します。一方、発熱再燃、呼吸苦、胸痛、意識変容、経口摂取不良、著明な全身状態悪化がある場合には、単に処方継続の可否を考えるのではなく、再診や緊急評価の必要性を判断します。
竹茹温胆湯には甘草が含まれます。そのため、重大な副作用として偽アルドステロン症および、それに伴う低カリウム血症を背景としたミオパチーに注意が必要です。偽アルドステロン症では、血圧上昇、ナトリウム・体液貯留、浮腫、体重増加などがみられることがあります。ミオパチーでは、脱力感、四肢のけいれん、麻痺などが現れ得るため、症状聴取だけでなく、リスクが高い患者では血清カリウム値や血圧の経過確認を行います。異常が認められた場合、添付文書では投与中止およびカリウム補正などの適切な処置が示されています。添付文書:重要な基本的注意・重大な副作用
併用注意の中心は、甘草含有製剤およびグリチルリチン酸またはその塩類を含有する製剤です。代表例には芍薬甘草湯、補中益気湯、抑肝散などの甘草含有漢方製剤のほか、グリチルリチン酸を含む医薬品が含まれます。重複によって偽アルドステロン症や低カリウム血症、さらにミオパチーのリスクが高まるおそれがあります。薬剤名だけではなく、一般用医薬品、他院・他科処方、持参薬、健康食品を含めて確認することが必要です。添付文書:甘草・グリチルリチン酸含有製剤との併用注意
その他の副作用として、発疹、蕁麻疹などの過敏症が頻度不明で記載されています。皮膚症状が現れた際は、服薬継続の可否を個別に評価します。また、妊婦または妊娠している可能性がある患者には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与します。授乳婦では治療上の有益性と母乳栄養の有益性を踏まえて授乳継続または中止を検討し、小児を対象とした臨床試験は実施されていません。
竹茹温胆湯の処方監査では、まず適応症候の整合性を確認します。感染症の回復期であること、熱が遷延しているか解熱後も爽快感に乏しいこと、咳・痰が多く、それが安眠を妨げていることを一連の臨床像として捉えます。これらがそろわず、単に「風邪後のだるさ」や「不眠」のみを理由に長期化している場合には、患者の証を含めた再評価と、原疾患・合併症・他剤の影響の検討が重要です。
次に、甘草重複とリスク因子を確認します。浮腫、高血圧、低カリウム血症の既往、腎機能低下、循環器疾患、複数の漢方薬やグリチルリチン酸含有薬の併用は、服薬後の異常を早期に拾い上げる観点から重要です。患者には「むくみ、急な体重増加、血圧上昇、筋力低下、手足のつり・しびれ、動悸などがあれば、次回受診を待たず医療機関または薬局に連絡する」旨を、平易な言葉で伝えます。
なお、日本東洋医学会の漢方CPG Tableは、漢方製剤への言及を含む診療ガイドラインを整理していますが、掲載情報だけを切り取って適応拡大や効果の一般化を行うことは適切ではありません。同学会も、診療に用いる際は各診療ガイドライン全体を読んだうえで、その位置づけを理解するよう示しています。竹茹温胆湯についても、添付文書上の効能又は効果、患者の病態、標準治療の必要性、安全性モニタリングを統合して判断することが、適正使用の基本となります。日本東洋医学会:漢方製剤の記載を含む診療ガイドライン