

視力検査方法の基本は、定められた距離から視標を提示し、細かな形をどこまで識別できるかを、条件を整えて測定することです。日本で広く用いられるランドルト環では、環の切れ目の方向を答えてもらいます。医療従事者が重視すべきなのは、単に数値を得ることではなく、測定目的と条件を明確にして、診療に使える再現性のある結果を残すことです。日本眼科学会の「成人の視力検査および眼鏡処方に関する手引き」でも、屈折と視力の測定は眼科診療の基本と位置づけられています。
参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/PrescribingGlassesAdultsClinical.pdf
ランドルト環による小数視力は、識別できる最小の切れ目の視角を分単位で表し、その逆数で示します。視力1.0の視標では、切れ目の幅と線の太さが視角1分、環全体の外径が視角5分になるように設計されています。したがって、視力1.0は「目の機能が100%」という意味ではなく、視力表の数値だけで視機能全体を表すこともできません。検査距離がずれると視標の見かけの大きさが変わるため、距離の管理は測定の前提です。
検査前には、裸眼視力、普段の眼鏡やコンタクトレンズを使用した日常視力、屈折異常を適切に矯正して求める最良矯正視力を区別します。とくに「眼鏡をかけて測定した視力」と「最良矯正視力」は同じとは限りません。所持眼鏡の度数が現在の屈折状態に合っていない場合や、使用目的が近用である場合もあるためです。健診では日常の見え方を把握し、眼科診療では屈折矯正による改善の程度も評価するなど、目的に応じた使い分けが必要です。
参考)https://www.gankaikai.or.jp/info/20250701_handbook.pdf
また、自動視力計とオートレフラクトメータを混同しないことも重要です。自動視力計は患者の応答などから視力を測定する装置であり、オートレフラクトメータは主として屈折状態を他覚的に測定する装置です。屈折値は矯正レンズ選択の参考になりますが、それだけで患者の視力が確定するわけではありません。眼科診療では他覚的屈折検査と、自覚的な応答を用いる検査を組み合わせて評価します。
遠見視力の標準的な検査距離は5mです。距離は足元の位置ではなく、原則として患者の眼から視標までを基準に確認します。3m用の視力表や光学系によって距離を確保する装置を使用する場合は、その機器が想定する条件で測定してください。5m用の視力表を、距離だけ短くして同じ数値として扱うことはできません。装置の種類と検査距離を把握しておくことが、施設間・経時的な比較の出発点になります。
照明では、室内の照度と視標面の明るさを分けて管理します。日本眼科学会の手引きが紹介するJISの条件では、視標の輝度は80~320cd/m²、推奨輝度は200cd/m²です。一方、日本眼科医会の健診向けハンドブックでは、視力表を用いる測定の視標面照度を500~1,000ルクスとしています。輝度と照度は別の物理量であるため、これらを同じ基準として読み替えてはいけません。使用する視力表の方式と取扱説明書に合わせて管理します。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 遠見の検査距離 | 標準は5m | 眼から視標までを確認し、短距離用装置は専用の設定に従う |
| 室内の明るさ | 室内照度50ルクス以上を基本に調整 | まぶしい光源や強い外光、視標への反射を避ける |
| 発光式装置などの視標輝度 | JISの条件として80~320cd/m²、推奨200cd/m² | 照度の単位であるルクスとは区別する |
| 視力表の視標面照度 | 健診向け手引きでは500~1,000ルクス | 使用する視力表と検査目的に応じて確認する |
| 近見の検査距離 | 基本的な近距離視力は30cm | 職域では作業距離に応じて50cmなども用い、実測距離を記録する |
| 片眼の遮閉 | 検査しない眼を確実に遮閉する | 眼球の圧迫とのぞき見を防ぐ |
表中の数値は、日本眼科学会の成人向け手引きと日本眼科医会の健診向けハンドブックに示された条件を整理したものです。すべてを一律に当てはめるのではなく、臨床検査か健診か、紙製視力表か発光式装置かなどを区別して運用してください。
視力表の汚れや変色、破損にも注意が必要です。背景の白地が黄ばんだ視標や傷のある視標は、測定条件を変えてしまいます。患者の眼鏡レンズの汚れも事前に確認します。遮閉器具については、接触部の清潔を保ち、施設の感染対策と器具の材質に適した方法で管理してください。群馬県の学校健診手引きでも、視標の交換や遮閉器具の衛生管理が具体的に示されています。
参考)「幼児・児童生徒の眼科健康診断の手引き(令和3年11月改訂)…
検査の流れは、本人確認と測定条件の確認、説明、片眼遮閉、視標提示、判定、反対眼の測定、記録です。検査を始める前に、「輪の切れている方向を答えてください」と説明し、口頭、指さしなど患者が確実に応答できる方法を確認します。視標の意味を理解していない状態で測定すると、応答の誤りと視力低下を区別しにくくなります。小児では、あらかじめ大きな視標で練習することも有効です。
この手順は一般的な流れを整理したものであり、視標の提示順や具体的な判定は、採用する標準手順と使用機器に従います。検査中は、眼を細める、顔を前に出す、遮閉板をずらすといった動作を観察してください。非検査眼を遮閉していても、すき間から見ていれば片眼視力の評価にはなりません。眼を細めないよう説明することも、健診向けの測定手順に含まれています。
標準的な判定の代表例は、同一視力段階の5視標を提示し、3視標以上を正答した場合に、その段階を識別できるとする方法です。日本眼科学会の手引きでは、視力研究班の標準視力検査法として、この基準が紹介されています。ただし、提示数が少ない視力表や自動視力計では判定方法が異なることがあります。「どの装置でも一度正答すればその視力」と扱わず、提示数と必要正答数をセットで確認することが大切です。
応答時間も統一したい条件です。日本眼科学会の手引きでは、視力研究班の方法として、視標提示後に3秒間は応答を待ち、小児ではさらに長い時間を要することが紹介されています。患者の反応を待たずに次へ進むことも、同じ視標を際限なく見せ続けることも避け、患者の理解度に配慮しながら手順をそろえます。
矯正視力を求める際は、他覚的屈折検査の値を参考に、自覚的屈折検査で球面度数や乱視を調整します。最良矯正視力を得るための検査と、日常生活で快適に使用できる眼鏡の処方は目的が完全には一致しません。検査で高い視力が得られたという理由だけで処方度数を決めず、用途や装用経験、近見作業なども考慮します。
小児の視力検査では、視標の理解、集中の持続、遮閉への反応を含めて評価します。幼児や小学校低学年では、視標が並ぶ字づまり視力表より、単独で提示する字ひとつ視標を用いることがあります。両者では読み分けの難しさが異なるため、経過観察では視標の提示形式も確認してください。片眼を隠すことを強く嫌がる、顔を傾ける、横からのぞくなどの行動も、結果と合わせて共有すべき情報です。
成人の精密な視力測定と学校健診の判定法は、混同しないようにします。たとえば群馬県の学校健診手引きでは、0.3、0.7、1.0の視標によるスクリーニングを行い、各段階で上下左右の4方向中3方向を正しく判別できることを基準としています。これは、成人の標準的な5視標中3視標という判定と同一ではありません。健診は異常の可能性を拾い上げるものであり、その結果だけで屈折異常や弱視の診断を確定するものではありません。
群馬県「幼児・児童生徒の眼科健康診断の手引き」
近見視力は、近用視力表を用いて所定の距離で測定します。日本眼科学会の手引きでは基本的な検査距離を30cmとしていますが、職域では作業距離に合わせた評価も必要です。日本眼科医会のハンドブックでは、スマートフォンやタブレットでは30cm、パソコンでは50cmの視力測定が例示されています。距離が違えば調節への負担や必要な矯正条件も変わるため、「近見視力0.8」だけではなく、距離と装用レンズの条件も記録します。
5mで0.1の視標が識別できない場合は、低視力用の視標や、検査距離を短縮する方法を検討します。5m用の0.1視標を距離を変えて用いる場合、小数視力は「0.1×測定距離m÷5」で換算します。たとえば2mで判定基準を満たして識別できれば0.04です。ただし、対応する低視力用視標で直接測定できる装置もあるため、機器の仕様に応じて方法を選択します。
さらに低い視機能では、指の本数を識別する指数弁、手の動きを識別する手動弁、光の有無を識別する光覚弁などを評価します。指数弁や手動弁は、通常の小数視力と同じ精度の連続的な数値ではありません。診療記録では、実施した検査と検査距離を明記し、便宜的な換算値を通常の測定値と同じ意味で扱わないことが重要です。
視力検査結果は、左右別の数値に加えて、遠見・近見、検査距離、裸眼・所持眼鏡・コンタクトレンズ・検眼レンズの別が分かる形で残します。最良矯正視力を求めた場合は、その際の屈折矯正条件も関連づけて記録します。同じ「0.7」でも、裸眼での測定か、普段の眼鏡装用下か、屈折を調整した後かで臨床的な意味は異なります。
経過を比較する際には、前回値だけでなく、装置や視標形式、検査距離、照明、矯正条件が変わっていないかを確認します。日本眼科学会の手引きでは、視標の提示方法や視力判定の定義に施設内外のばらつきがあることが指摘されています。再検査で値が変化したときは、病状の変化と判断する前に測定条件も点検し、少なくとも同一施設内で手順を共有することが求められます。
解釈では、裸眼視力が低いことだけをもって眼疾患があるとは断定できません。屈折異常によって低下している場合があるためです。一方、日常視力の低下を単なる眼鏡の度数不適合と決めつけると、眼疾患を見逃すおそれがあります。最良矯正視力、左右差、前回からの変化、自覚症状や既往歴を合わせ、医師による診察につなげます。健診の判定区分と、眼科診療における評価の目的も区別してください。
とくに重要なのは、視力が良好でも眼疾患を否定できないことです。緑内障では視野障害が進んでも中心の視力が保たれることがあり、視力検査だけでは十分に検出できません。糖尿病網膜症などでも、視力低下が目立たない段階から眼底に病変が存在する場合があります。必要に応じて眼底検査、視野検査、光干渉断層撮影などを組み合わせ、見え方全体と眼の状態を評価します。
また、急に見えなくなった、見える範囲に黒い影が出たなどの訴えがある場合は、定期健診の結果通知や後日の再検査だけで対応を終えないことが重要です。網膜剝離や網膜血管障害など、速やかな眼科評価が必要な病態が含まれます。視力値が比較的保たれていることを理由に緊急性を否定せず、発症時期と症状を確認して医師へ報告してください。
日本眼科医会「はたらく人の目を守る 眼科検診ハンドブック」
医療現場で視力検査方法を標準化する際の中心は、再現性です。距離、照明、遮閉、視標提示、正答基準、記録方法をそろえることで、数値の変化を診療上の判断に結びつけやすくなります。学会の手引きを基盤としながら、使用機器の取扱説明書と施設の手順を整合させ、患者の年齢や応答能力に応じて実施することが、視力検査の精度を支えます。