

新生児の気胸は、肺から漏れた空気が臓側胸膜と壁側胸膜の間にある胸膜腔へたまり、肺の拡張やガス交換を妨げる病態です。過膨張した肺胞の破綻などを契機に発生し、基礎疾患のない正期産児にも起こります。生後早期の呼吸障害を評価するときには、早産児や人工呼吸管理中の児だけの問題と考えず、鑑別に含める必要があります。
参考)https://doclibrary-rcht.cornwall.nhs.uk/DocumentsLibrary/RoyalCornwallHospitalsTrust/Clinical/Neonatal/PneumothoraxNeonatalClinicalGuideline.pdf
背景疾患として重要なのは、呼吸窮迫症候群、胎便吸引症候群、肺炎、新生児一過性多呼吸、肺低形成などです。また、侵襲的人工呼吸だけでなく、持続陽圧呼吸療法であるCPAPなどの非侵襲的呼吸補助も危険因子になります。ただし、呼吸補助は原疾患の治療に不可欠なことも多く、気胸の発症だけをもって不適切な管理があったと判断することはできません。
気胸が小さい場合は無症状のこともありますが、多呼吸、呻吟、陥没呼吸などの呼吸努力増大、蒼白、酸素投与量の増加、患側の呼吸音低下、胸郭運動の左右差などが手がかりになります。特に、人工呼吸管理中の児で酸素化、換気、循環が原因不明に悪化した場合は、気胸を積極的に疑います。
重症度は胸部画像上の大きさだけでは決まりません。酸素化を維持できているか、呼吸仕事量が増えていないか、血圧や末梢循環が保たれているかを総合して判断します。2026年の英国NICU施設ガイドラインでも、気胸に伴うガス交換や循環の障害を、ドレナージを検討する重要な条件としています。
参考)https://ashfordstpeters.net/Guidelines_Neonatal/Pneumothorax-Guidelines-Jan-2026.pdf
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 呼吸状態 | 多呼吸、呻吟、陥没呼吸、胸郭運動の左右差 | 発症前の状態からの変化を重視する |
| 酸素化 | 突然または持続するSpO2低下、酸素需要の増加 | 呼吸補助設定の変更と経時的に照合する |
| 聴診・胸郭所見 | 患側呼吸音の低下、患側胸郭の膨隆 | 所見のみで確定せず、臨床経過と併せて評価する |
| 循環状態 | 低血圧、頻脈などの循環障害 | 緊張性気胸を含む緊急病態を考える |
| 血液ガス | 低酸素血症、呼吸性または代謝性アシドーシス | 重症度評価の補助であり、結果待ちで緊急対応を遅らせない |
上表は英国の新生児気胸診療資料に示された評価項目を整理したもので、単一の数値で処置の要否を決める基準ではありません。所見の組み合わせと悪化の速度を捉えることが重要です。
緊張性気胸では、胸膜腔内の圧上昇によって患側肺が虚脱し、縦隔が対側へ偏位して、呼吸だけでなく循環も障害されます。気胸による急激な呼吸循環不全を疑う場合は、胸部X線検査を待たずに緊急減圧を行うことが推奨されています。すべての典型的所見がそろうまで待つのではなく、不安定化した児に対して速やかに上級医と新生児診療チームを招集する必要があります。
Ashford and St Peter’s Hospitals:新生児気胸ガイドライン(2026年)
新生児の気胸の診断では、最初に検査を安全に実施できる呼吸循環状態かを判断します。安定していれば画像による確認を進め、不安定で緊張性気胸が強く疑われる場合は治療を優先します。「まず画像を撮影してから対応する」という一律の順序ではありません。
胸部X線検査は、気胸の確認や肺の拡張状態の評価に用いられます。一方、肺超音波を迅速に実施できる施設では、ベッドサイドで診断を進める選択肢になります。2026年の英国施設ガイドラインは、肺超音波で評価する所見として、B-lineの消失、lung slidingの消失、Mモードのbarcode signを挙げています。また、超音波を実施できない場合、所見が不確実な場合、小さな残存気胸の評価などでは胸部X線を用いるとしています。
透光法には限界があります。極低出生体重児や肺間質性気腫では偽陽性となることがあり、正期産児や胸壁浮腫のある児、両側気胸などでも判断が難しくなります。透光法が陰性だから気胸を否定する、あるいは陽性だから病態をすべて説明できると考えず、呼吸循環所見と画像情報を組み合わせる必要があります。
診断後の画像評価も、単なる「空気が残っているか」の確認ではありません。処置後に児の状態が改善したか、肺が再膨張しているか、ドレーンが適切に機能しているかを臨床所見と対応させて評価します。画像上の改善と酸素需要や呼吸努力の変化を併せて記録すると、次の治療判断につなげやすくなります。
小さく、症状や呼吸循環への影響が乏しい気胸では、厳重な経過観察を選べる場合があります。ただし、経過観察とは放置ではなく、SpO2、呼吸努力、酸素需要、循環状態などを継続して確認し、悪化時に速やかに治療へ移行できる環境を確保することです。症状を認めない小さな気胸では、特別な治療を必要としないことがあります。
気胸によって呼吸循環が障害されている場合は、胸腔内の空気を排出する必要があります。緊急の針による脱気で速やかな改善を図り、その後の再貯留、空気漏れの持続、呼吸補助の必要性に応じて胸腔ドレーンを検討します。穿刺のみで改善する例もある一方、緊張性気胸では初期脱気後に胸腔ドレナージが必要となる可能性が高くなります。
呼吸管理では、必要な酸素化と換気を保ちつつ、過剰な陽圧を避けます。CPAPや人工呼吸器の設定は、肺の状態や自発呼吸を評価して専門チームが調整します。気胸があること自体は挿管の適応ではなく、既知の気胸に陽圧換気を加えると悪化する場合があります。一方で、救命に必要な呼吸補助まで一律に中止してよいわけではありません。
穿刺や胸腔ドレーン挿入は、肺損傷や血管損傷などの危険を伴う侵襲的処置です。器材、穿刺部位、鎮痛、皮膚消毒、処置後管理を含め、施設の新生児用手順と実施者の訓練に従います。本記事は判断の要点を整理するものであり、実施手技のマニュアルに代わるものではありません。
Sydney Children’s Hospitals Network:新生児気胸のドレナージに関する診療資料
脱気や胸腔ドレナージの後は、処置前後の変化を継続的に評価します。観察項目は、心拍数、呼吸数、SpO2、血圧、体温、胸郭運動、呼吸努力、疼痛反応などです。酸素需要が再び増える、呼吸努力が強くなる、胸郭の左右差が目立つといった変化があれば、再貯留やドレーン機能不全を含めて速やかな再評価につなげます。
ドレーン留置中は、挿入部と固定の状態、挿入長の変化、チューブの屈曲、接続の緩み、排液装置の位置、水封部の状態などを確認します。気泡や呼吸性移動がみられなくなった場合も、気胸が改善したとは限りません。閉塞や屈曲の可能性を確認し、児の状態と肺の再膨張を併せて評価することが重要です。
胸腔ドレーンのクランプや抜去は、担当医の治療計画と施設手順に従って行います。少なくとも、空気漏れが続いている可能性のある状態で、判断なく長時間クランプしたままにしてはいけません。抜去判断では肺の再膨張、空気漏れの消失、呼吸状態の安定などを確認し、抜去後も再発を疑う変化がないか観察を続けます。
予後については、気胸だけでなく、在胎週数、基礎肺疾患、発症前の呼吸管理などを踏まえて説明します。国内の新生児気胸50例の検討では、死亡例はいずれも肺基礎疾患を有していました。このような症例集積の結果から一律の予後を算出することはできませんが、気胸の改善と原疾患の回復を分けて評価する重要性がわかります。
参考)https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282679336122112
家族には、「肺の外側に空気が漏れてたまった状態」であること、観察だけでよい場合と空気を抜く処置が必要な場合があることを、児の状態に即して説明します。緊急時には救命処置が先行し、説明が事後になる場合もあるため、安定後に処置の理由と経過を共有します。また、「数日で必ず退院できる」といった断定を避け、呼吸補助の必要性や基礎疾患によって治療期間が異なることを伝えます。
国内の小児専門施設は、自然気胸や胎便吸引症候群による気胸のみであれば、成長後に気胸を繰り返すものではないと説明しています。ただし、これはすべての背景疾患に共通する保証ではありません。家族説明では、今回の気胸の原因と基礎疾患の有無を確認したうえで、回復の見通しを個別に伝えることが大切です。
参考)新生児気胸 / 空気漏出症候群 / エアーリーク
東京慈恵会医科大学小児科:新生児気胸・空気漏出症候群