

大人の喘息でみられる代表的な症状は、繰り返す咳、息を吐くときの「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という喘鳴、呼吸困難、胸が締めつけられるような感覚です。痰を伴う場合もありますが、すべての症状がそろうとは限りません。気管支喘息は慢性的な気道炎症を背景に、気管支の収縮、気道壁の腫れ、粘液の増加などによって呼気の流れが制限される疾患です。小児期の病歴がない成人や、高齢者でも発症するため、「子どもの頃に喘息がなかった」という理由だけでは否定できません。
参考)https://ginasthma.org/wp-content/uploads/2026/07/GINA-Summary-Guide-2026-WEB-WMS.pdf
問診で特に重視したいのは、症状の変動性
です。夜間から早朝に悪化する、日によって症状の強さが異なる、運動や冷気で咳が誘発される、風邪を契機に悪化するといった経過は、喘息を疑う手掛かりになります。受診した時間帯には症状が軽く、診察や聴診で明らかな異常がない場合もあります。そのため、診察室で喘鳴が聞こえないことと、喘息がないことは同義ではありません。
「咳だけで、ゼーゼーしない」という訴えでは、咳喘息も検討します。咳喘息では咳が主症状となり、通常の気管支拡張薬反応性検査で陽性所見を得られない場合もあります。ただし、長引く咳をすべて咳喘息と判断するのは不適切です。後鼻漏に関連する咳、副鼻腔炎、胃食道逆流、ACE阻害薬による咳、好酸球性気管支炎なども鑑別に挙がります。症状の出方と検査結果を組み合わせ、必要に応じて専門医へ紹介します。
日本呼吸器学会は、喘息を疑う目安として症状の反復や3週間以上の持続を挙げています。ただし、これは受診を3週間待つという意味ではありません。息苦しさがある、夜眠れない、日常生活に支障がある場合は、持続期間が短くても速やかな評価が必要です。
参考)C-01 気管支ぜんそく - C. アレルギー性肺疾患|一般…
日本呼吸器学会「気管支ぜんそく」
喘息の診断では、特徴的な呼吸器症状の病歴に加えて、呼気気流が変動することを客観的に確認します。スパイロメトリーによる気管支拡張薬の吸入前後の比較が代表的な方法です。可能であれば吸入ステロイド薬の開始前に診断根拠を記録しますが、症状が強い患者では検査のために治療を遅らせず、まず増悪への対応を優先します。
以下は、GINA 2026に示される成人の診断を支持する所見の一部です。個々の数値は病歴や検査条件と併せて解釈し、単独で確定診断や除外診断に用いないことが重要です。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 特徴的な症状の病歴 | 咳、喘鳴、息苦しさ、胸部絞扼感が、頻度や強さを変えながら出現する | 夜間・起床時の悪化や、運動・冷気・感染による誘発を確認する |
| 気管支拡張薬反応性 | 成人では吸入前と比べてFEV1またはFVCが12%以上、かつ200mL以上増加する | GINA 2026の診断を支持する基準。陰性でも喘息を除外できない |
| ピークフローの変動 | 成人では2週間の平均日内変動が10%を超える | 同じ測定器を使用し、測定手技と記録の質を確認する |
| 呼気一酸化窒素濃度 | 典型的な症状がある成人・青年で50ppb超は、2型喘息の診断を支持し得る | GINA 2026の補助的な目安であり、低値でも喘息は否定できない |
| 血中好酸球・アレルギー検査 | 炎症の特徴や感作の有無を評価する | 喘息以外でも異常を示すため、検査陽性だけで診断しない |
FEV1は努力して息を吐いた最初の1秒間に吐き出した量、FVCは努力して最後まで吐き出した量です。気管支拡張薬反応性が初回検査で確認できなくても、症状のない時期や治療中であれば異常を捉えにくい場合があります。病歴から疑いが強いときは、有症状時の再検査、ピークフローの連続測定、専門施設での気道過敏性検査などを検討します。検査前の薬剤調整は安全性を考慮して医療者が指示し、患者に自己判断で中止させないようにします。
呼気一酸化窒素濃度(FeNO)や血中好酸球は、2型炎症を評価する補助指標です。高値は診断を支持することがありますが、喘息に特異的ではありません。一方、低値でも喘息は否定できず、吸入ステロイド薬の使用状況などによっても解釈が変わります。「FeNOが正常だから喘息ではない」「アレルギー検査が陽性だから喘息である」という判断は避けます。
大人の喘息症状を評価する際は、咳や喘鳴の有無だけでなく、どの環境で悪化するかを具体的に確認します。ダニ、ペット、花粉などのアレルゲンに加え、たばこの煙、冷気、強い香り、職場の粉じんや化学物質などが症状の誘因になります。成人になって初めて発症した患者では、仕事との関連を尋ねることが特に重要です。
これらは診断や悪化要因の把握、将来の増悪リスク評価に関わる確認事項です。職業性喘息が疑われる場合は、客観的検査による確認と原因曝露への対応が必要になるため、早期に専門医へつなぎます。鎮痛薬については、すべての喘息患者で一律に禁止するのではなく、過去の反応や個別のリスクを評価します。
鑑別では、喫煙歴や持続的な気流制限がある患者のCOPD、高齢者の心不全・虚血性心疾患にも注意が必要です。喘息とCOPDは併存することもあります。また、喉の違和感や吸気時の呼吸困難が目立つ場合などには、誘発性喉頭閉塞も検討します。「大人の息切れは加齢のため」「ゼーゼーするから喘息」と短絡せず、症状のパターンと検査を対応させて評価します。
成人喘息の長期管理は、吸入ステロイド薬(ICS)を含む治療が基本です。気管支拡張薬が主に気道を広げるのに対し、ICSは背景にある気道炎症を抑えます。自覚症状が少ない患者でも重い増悪を起こす可能性があるため、症状が出たときに気管支を広げるだけの対応では十分ではありません。GINA 2026は、安全性の観点から短時間作用性β2刺激薬(SABA)のみで治療しないことを推奨しています。
GINAでは、成人・青年に対し、ICSとホルモテロールの配合薬を発作時に使用する治療を優先的な選択肢として位置づけています。治療段階に応じて、維持療法と発作時治療に同じ配合薬を使用する方法もあります。ただし、国際的な推奨と国内の承認用法は必ずしも一致しません。実際の処方では、日本の添付文書、製剤・規格、患者の状態、国内の診療指針を確認します。すべてのICS・長時間作用性β2刺激薬配合剤を発作時に追加吸入できるわけではありません。
治療していても症状が続く場合、薬剤を増やす前に吸入手技と服薬継続状況を確認します。口頭で「使えていますか」と尋ねるだけでなく、患者に実際の操作を再現してもらい、デバイスに応じたチェックリストで評価することが重要です。吸入器を正しく扱えているか、処方された頻度で使用できているか、費用や副作用への不安が継続の妨げになっていないかを確認します。
経過観察では、直近4週間の日中症状、喘息による夜間覚醒、活動制限を確認し、SABAを発作治療薬として使用する患者ではその使用頻度も評価します。一方、現在の症状が少なくても、過去の重い増悪、低い呼吸機能、ICSの使用不足などがあれば、将来のリスクは低いとはいえません。症状のコントロールと増悪リスクを分けて捉え、適切な治療でも不良な状態が続く場合は、診断や併存疾患の再評価を含めて専門医に相談します。
成人喘息の発作では、喘鳴の大きさだけで重症度を判断しないことが重要です。問診・観察では、会話ができるか、歩けるか、横になれるか、呼吸状態や意識に変化がないかを確認します。医療機関では酸素飽和度や呼吸機能なども併せて評価しますが、呼吸音が弱くなるほど重篤な状態もあるため、「ゼーゼーが小さくなったから改善した」とは判断できません。
参考)発作が起こったら…|成人ぜん息(ぜんそく、喘息)|ぜん息基礎…
苦しくて動けない、呼吸が弱い、唇などが青白いといった状態では、119番通報を含む緊急対応が必要です。意識の変化や会話困難などの重症所見がある場合も、速やかに救急対応へつなげます。また、苦しくて横になれない、眠れない、処方された発作治療薬の効果が不十分、発作治療薬が手元にない場合は、夜間であっても速やかな医療機関への相談・受診が必要です。重い症状で薬の効果を長時間待つことは避けます。
診断済みの患者には、個別の行動計画に従って処方された発作治療薬を使用することを説明します。使用する薬、1回量、追加できる間隔、上限、救急受診の条件は治療内容によって異なるため、全員に共通する吸入回数を示すのではなく、処方内容に即して具体化します。動けないほど苦しい患者では、吸入を繰り返して自宅で待機するのではなく、周囲の助けを得て救急対応を進めます。
平常時には、日常の治療、悪化のサイン、発作時の薬の使い方、受診先を記載したアクションプランを患者と共有します。本人が内容を理解し、悪化時に実行できるかまで確認することが大切です。大人の喘息症状への診療支援は、目の前の咳を軽くするだけでなく、診断根拠の確認、抗炎症治療の継続、吸入支援、増悪時の早期対応を一連の流れとして整えることで、重症化の予防につながります。