

妊娠中のニキビ薬は、使用できない薬剤と、母体への治療上の利益が危険性を上回る場合に検討できる薬剤を分けて判断します。日本では、アダパレンを含むディフェリンは妊婦または妊娠している可能性のある女性に禁忌です。一方、過酸化ベンゾイルを含むベピオゲル・ローションは、妊娠していること自体を禁忌とはせず、有益性が危険性を上回る場合にのみ使用する位置づけです。「ニキビ薬」という一括りの説明では、こうした重要な違いが伝わりません。
薬剤選択の起点は、処方する製剤の国内電子添文です。海外の総説や患者向け資料で「妊娠中に使用可能」と紹介されていても、それだけで国内の添付文書上の注意事項を置き換えることはできません。また、単剤の情報を配合剤へそのまま適用せず、含まれるすべての有効成分を確認します。とくにレチノイドを含む製剤は、抗菌薬や過酸化ベンゾイルを含むという理由で使用可能と判断しないことが重要です。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| アダパレン外用 | ディフェリンは妊婦または妊娠している可能性のある女性に禁忌です。 | 妊娠判明時には使用を中止し、処方医へ連絡するよう説明します。 |
| 過酸化ベンゾイル外用 | ベピオゲル・ローションは、治療上の有益性が危険性を上回る場合にのみ使用します。 | 海外での低リスク評価と、国内添付文書上の条件付き使用を区別します。 |
| クリンダマイシン外用 | 国内製剤の電子添文を確認し、耐性菌対策と必要な治療期間を検討します。 | |
| アゼライン酸外用 | 同ガイドラインでは国内医薬品未承認・保険適用外と記載されています。 | |
| イソトレチノイン内服 | 妊娠中の服用が判明した場合は中止し、速やかな専門的評価につなげます。 | |
| テトラサイクリン系内服 | 妊娠初期の偶発的使用と、中期以降の継続使用を同一に評価しません。 | |
| スピロノラクトン内服 | 妊娠を希望する段階から処方の見直しが必要です。 |
アゼライン酸は、「海外で妊娠中に検討される成分」という安全性上の位置づけと、「国内でどのような製品として提供されているか」という承認・保険上の位置づけを分けて説明する必要があります。日本皮膚科学会の2023年ガイドラインでは、面皰・炎症性皮疹に対して推奨度C1の選択肢としながら、医薬品として未承認であり、保険適用外である点への配慮を求めています。海外の医薬品の試験結果を、濃度や基剤の異なる国内製品すべての有効性・安全性の保証として扱わないことも大切です。
参考)https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/zasou2023.pdf
日本皮膚科学会「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」
過酸化ベンゾイルについて、海外総説では、全身吸収が少なく、吸収後に速やかに代謝・排泄されることなどが低リスク評価の根拠とされています。しかし、国内のベピオゲル・ローションの電子添文は、妊婦または妊娠している可能性のある女性には、有益性が危険性を上回る場合にのみ使用すると定めています。説明は「妊娠中でも無条件で安全」ではなく、「治療の必要性を評価したうえで使用を検討する」が適切です。
製剤ごとの用法を守ることも欠かせません。ベピオゲル・ローション2.5%の承認用法は、1日1回、洗顔後に患部へ適量を塗布する方法です。海外文献に記載された濃度や塗布回数を、そのまま国内製剤の指示として転用してはいけません。眼、口唇、粘膜や傷・湿疹のある皮膚を避け、日光への曝露を最小限にすること、他の外用剤との併用で刺激が増す可能性も説明します。
PMDA:ベピオゲル2.5%・ベピオローション2.5%の電子添文
アダパレンなどの外用レチノイドでは、観察研究で主要先天異常の増加が認められなかった報告がある一方、十分な安全性データがないため妊娠中の使用は避けるとされています。国内のディフェリンは妊婦・妊娠している可能性のある女性に禁忌です。したがって、「研究で明確な増加がないので使い続けてよい」という説明も、「一度塗ったので胎児への障害は避けられない」という説明も不適切です。
炎症性皮疹に外用抗菌薬を用いる場合は、妊娠中の安全性だけでなく薬剤耐性にも配慮します。海外総説は、クリンダマイシンなどの外用抗菌薬について、過酸化ベンゾイルなどの抗菌作用を持つ薬剤との併用により耐性化を抑える考え方を示しています。ただし、妊婦への過酸化ベンゾイルの追加も国内添付文書に基づく評価が必要です。耐性対策を理由に、妊婦禁忌のレチノイドを安易に組み合わせてはいけません。
抗菌薬は、赤いニキビが減った後も漫然と継続するのではなく、炎症の程度と反応を再評価し、必要性を見直します。日本皮膚科学会のガイドラインは、急性炎症期の治療と、炎症軽快後の面皰・微小面皰に対する維持療法を区別しています。妊娠中には通常の維持療法の選択肢が制限されるため、一般患者向けの治療計画をそのまま継続せず、使用可能な選択肢で組み直す必要があります。
出産後に授乳を開始する場合も、妊娠中の判断をそのまま引き継がず、授乳期の情報に基づいて再評価します。例えばベピオの電子添文では、母乳中への移行は不明であり、治療上の有益性と母乳栄養の有益性を考慮して授乳の継続または中止を検討するとされています。妊娠・出産・授乳という各段階で処方を見直し、患者が自己判断で再開・中断しないよう、具体的な相談先と再評価のタイミングを共有することが継続管理の要点です。