

例えば、通常1日1回の排便が1日2回の泥状便に変わった患者では、3回未満でも排便状態の変化として評価します。反対に、回数が多くても有形便であれば、感染性下痢と同じ枠組みで扱うとは限りません。米国感染症学会(IDSA)のガイドラインも、頻回の有形便の排出は下痢ではないと明記しています。「軟便だから軽症」「回数が少ないから問題ない」といった単純化を避けることが、適切な初期評価につながります。
参考)IDSA 2017 Clinical Practice Gu…
NIDDK:下痢の症状と原因
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| タイプ3・4 | 表面に亀裂のある便、または平滑で軟らかいソーセージ状の便 | 便形状の比較に用いる通常便の目安 |
| タイプ5 | 境界が明瞭な軟らかい小塊状の便 | 軟便と表現されるが、これだけで慢性下痢症とは診断しない |
| タイプ6 | 不定形で辺縁が不整な、崩れた便 | 国内の慢性下痢症の診断基準における対象便形状 |
| タイプ7 | 固形物を含まない水様便 | 排便回数に加え、脱水や全身状態を確認する |
| 慢性下痢症の期間 | 下痢が4週間以上持続、または反復する | 国内ガイドラインでは日常生活への支障も定義に含む |
抗菌薬投与後や医療関連の下痢では、単なる薬剤副作用に加えてClostridioides difficile感染症を考慮します。IDSAは、抗菌薬使用後の下痢や医療関連下痢で同菌の検査を検討することを推奨しています。便検査の結果は、症状、服薬歴、曝露歴と合わせて解釈する必要があり、多項目核酸検査で病原体が検出されても、その結果だけで原因と断定することはできません。
初期対応では、原因名を確定する前に脱水と全身状態を評価します。口渇、口腔乾燥、尿量減少、濃い尿、倦怠感、めまいなどは確認すべき所見です。意識状態の変化、頻回の嘔吐、強い腹痛、血便、黒色タール便などがあれば、迅速な診察と重症度評価が必要です。高齢者や乳幼児では下痢による脱水が重症化しやすく、年齢や背景疾患を含めて判断します。
参考)Symptoms & Causes of Diarrhea …
検査はすべての患者に一律で実施するのではなく、経過と重症度から選択します。合併症のない短期間の感染性下痢では、便検査が必ずしも必要ではありません。一方、発熱、血便・粘液便、強い腹部疝痛や圧痛、敗血症を疑う所見がある場合、IDSAは原因菌を調べる便検査を推奨しています。免疫不全や集団発生では、通常より広い病原体の検索が必要となることがあります。
下痢の初期治療では、水分と電解質の補充が基本です。IDSAは、急性下痢に伴う軽度から中等度の脱水に対し、低浸透圧経口補水液を第一選択としています。経口補水を行っても改善しない場合や、重度脱水、ショック、意識状態の変化、イレウスがある場合は、等張液による静脈内補液が必要です。補液後も下痢や嘔吐による喪失は続くため、尿量、循環状態、摂取量、排泄量を再評価します。
ロペラミドなどの腸管運動を抑制する止瀉薬は、十分な補水を行ったうえで、適応を判断します。IDSAでは、免疫正常成人の急性水様性下痢では使用を検討できる一方、炎症性下痢や発熱を伴う下痢では避けるとしています。したがって、「下痢だからすぐに止める」のではなく、血便、発熱、強い腹痛、感染症の可能性を確認することが先です。国内での実際の使用は、対象製剤の添付文書と患者の病態に従います。
抗菌薬についても、海外渡航歴のない多くの急性水様性下痢に対する経験的投与は推奨されません。また、血便があっても一律に抗菌薬を開始するわけではありません。特に志賀毒素産生性大腸菌のうちO157や志賀毒素2産生株などでは、溶血性尿毒症症候群との関連から抗菌薬を避けることが推奨されています。感染性下痢の治療では、重症度、宿主背景、渡航歴、想定病原体を踏まえた判断が重要です。