モヌルピラビルの適正使用と患者説明

モヌルピラビルの適正使用と患者説明

モヌルピラビルはSARS-CoV-2感染症に用いる経口抗ウイルス薬です。対象患者、投与開始時期、妊娠関連の禁忌、副作用、エビデンスの限界を整理し、適正使用につなげられるでしょうか?

モヌルピラビルの基礎知識と核心ガイド

適正使用で押さえる実践要点
早期投与と対象選定

成人の重症化リスク患者に対し、症状発現後できるだけ早く、遅くとも発現5日以内に投与開始する。

妊娠関連の確認が必須

妊婦または妊娠の可能性がある女性には禁忌であり、投与前問診と投与後4日間の避妊説明が重要となる。

根拠の対象集団を読む

未接種の重症化リスク患者では有効性が示された一方、ワクチン接種済み高リスク者では入院・死亡低減は示されなかった。

モヌルピラビルの位置付けと作用機序



モヌルピラビルは、SARS-CoV-2による感染症に対して使用する経口抗ウイルス薬であり、日本ではラゲブリオ®錠400mgおよびラゲブリオ®カプセル200mgとして承認されている。有効成分であるモヌルピラビルはプロドラッグで、体内で主代謝物のN-ヒドロキシシチジン(NHC)に変換される。さらに細胞内で活性型のNHC-TPとなり、ウイルスRNAの複製に取り込まれることで、ウイルスゲノムにエラーを蓄積させ、増殖を阻害する。
ラゲブリオ錠・カプセル 添付文書

投与対象・用法用量・投与開始時期

日本の添付文書における効能又は効果は「SARS-CoV-2による感染症」である。ただし、主な投与経験を踏まえ、SARS-CoV-2感染症の重症化リスク因子を有するなど、本剤による治療が必要と考えられる患者に投与することが求められている。患者選択では年齢、ワクチン接種歴、免疫状態、基礎疾患、腎・肝機能、症状の経過、酸素化の状況、入院の必要性、他の抗ウイルス薬の使用可否を総合判断する。
通常、18歳以上の患者にはモヌルピラビルとして1回800mgを1日2回、5日間経口投与する。400mg錠では1回2錠、200mgカプセルでは1回4カプセルに相当する。食事の有無にかかわらず投与できるが、自己判断による用量変更、飲み忘れ時の二重投与、症状軽快を理由とする早期中止は避けるよう、服薬時に明確に説明する。

項目 基準・内容 備考
対象年齢 18歳以上 18歳未満を対象とした臨床試験は実施されていない
標準用量 1回800mg、1日2回 400mg錠は1回2錠、200mgカプセルは1回4カプセル
投与期間 5日間 症状が軽快しても自己判断で短縮しない
開始時期 症状発現後速やかに開始 症状発現6日目以降に開始した患者で有効性を裏付けるデータは得られていない
投与場面 主に外来の軽症から中等症患者 重症患者に対する有効性は確立していない

禁忌・妊娠関連のリスクと副作用対応

モヌルピラビルでは、妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与は禁忌である。動物実験で胎児毒性が報告されており、妊娠ラットでは臨床曝露量の8倍に相当する用量で催奇形性および胚・胎児致死が、3倍以上の用量で胎児発育遅延が認められた。妊婦を対象とした臨床試験データは得られていないため、処方前には妊娠していないこと、妊娠の可能性がないことを十分な問診で確認する。
妊娠する可能性がある女性には、治療中および最終投与後4日間の適切な避妊が必要であることを説明する。服用中または最終服用後4日間に妊娠が判明した、あるいは妊娠が疑われる場合には、直ちに服用を中止し、医師または薬剤師に速やかに相談するよう具体的に伝える。問診は単に「妊娠していますか」と尋ねるだけでは不十分であり、最終月経、妊娠検査、避妊状況、妊娠の可能性に関する本人の認識を含めて確認する。

  • 禁忌は本剤成分への過敏症の既往歴がある患者、および妊婦または妊娠している可能性のある女性である。
  • 主な副作用として、下痢、悪心、浮動性めまいが報告されている。
  • 嘔吐、頭痛、発疹、蕁麻疹、そう痒、血管性浮腫などにも注意し、アナフィラキシーは頻度不明の重大な副作用である。
  • 授乳婦では、治療上の有益性と母乳栄養の有益性を踏まえ、授乳継続または中止を個別に検討する。
  • 症状悪化、呼吸困難、意識障害、経口摂取困難、SpO2低下などは副作用だけでなくCOVID-19自体の増悪を想定し、受診・救急対応を判断する。

臨床試験から読む有効性と限界

モヌルピラビルの主要な根拠となったMOVe-OUT試験は、発症5日以内の、入院していない未接種の成人で、重症化リスク因子を1つ以上持つ軽症から中等症のCOVID-19患者を対象とした無作為化比較試験である。全無作為化集団における29日目までの入院または死亡は、モヌルピラビル群6.8%、プラセボ群9.7%であり、絶対リスク差はマイナス3.0ポイントだった。中間解析では7.3%対14.1%で、より大きな差が示されたが、最終的な全例解析では効果推定値が小さくなった点を理解しておく必要がある。


参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2021/P20211223001/170050000_30300AMX00467000_A100_2.pdf
この試験結果を日常診療へ外挿する際には、対象がワクチン未接種者であり、主にデルタ株流行期に実施されたことに注意する。すなわち、「試験で有効性が示された」ことと、「現在の接種済み患者を含むすべての患者で同じ程度の入院・死亡抑制効果が期待できる」ことは同義ではない。説明時には、患者背景と流行株、ワクチン・既感染による免疫、ベースラインリスクの違いを踏まえた不確実性を丁寧に扱う。
実際に、英国のPANORAMIC試験では、少なくとも3回のワクチン接種を受けた参加者が94%を占める高リスクの外来成人を対象に、モヌルピラビルと通常診療の併用を通常診療単独と比較した。28日以内の入院または死亡は、モヌルピラビル群1%、通常診療群1%であり、入院・死亡頻度の低減は示されなかった。したがって、モヌルピラビルの利益を評価する際は、患者の重症化リスクと接種歴を踏まえ、絶対的なイベント発生リスクがどの程度かを意識する必要がある。


参考)医療用医薬品 添付文書等情報検索
MOVe-OUT試験(New England Journal of Medicine)

処方・服薬指導での実践的チェックポイント

モヌルピラビルを適正に使用するには、処方時のスクリーニングと、薬剤交付時の患者教育を分けずに設計することが重要である。処方医は重症化リスク、発症日、現在の重症度、妊娠可能性、他の治療選択肢を評価し、薬剤師は剤形・服用錠数、飲み忘れ時の対応、注意すべき有害事象、妊娠関連の留意点、悪化時の連絡先を再確認する。複数の医療者が同じ重要事項を確認することで、投与開始の遅れや禁忌患者への投与、服薬アドヒアランス低下を防ぎやすくなる。
例えば、妊娠可能性のある患者に対しては、「妊娠中ではない」という回答のみで判断せず、最終月経や避妊状況、妊娠の可能性を確認したうえで、服用中から最終投与後4日間の避妊について説明する。服薬期間は短い一方、1回800mgを1日2回、5日間という投与量は、200mgカプセル使用時には1回4カプセルとなる。患者が剤形を取り違えず、決められた回数を完遂できるかを確認することも不可欠である。
また、モヌルピラビルは「感染を完全に止める薬」や「重症化を必ず防ぐ薬」と表現すべきではない。未接種の重症化リスク患者を対象にした試験で入院・死亡リスクの低下が示された一方、ワクチン接種済み高リスク成人では同じ主要評価項目の低下は示されなかった。患者へは、早期治療の選択肢の一つであること、症状の悪化時には服薬の継続可否だけでなく速やかな再評価が必要であることを説明し、処方後の観察と受診行動まで含めた支援を行う。


【指定第2類医薬品】イブA錠 90錠