

くる病は、骨端線が閉鎖していない小児に生じる、成長軟骨と骨の石灰化の障害です。栄養性くる病の主な原因は、ビタミンD欠乏、カルシウム摂取不足、またはその両者です。一方、成長終了後の骨基質の石灰化障害は骨軟化症と呼びます。小児のくる病では骨軟化症を伴うこともあり、両者は別々の栄養問題ではなく、成長段階や病変の部位を踏まえて理解する必要があります。
参考)https://pure-oai.bham.ac.uk/ws/portalfiles/portal/26858444/Consensus_v15_clean.pdf
ビタミンDは食事から供給されるほか、紫外線の作用によって皮膚でも産生されます。その後、肝臓で25水酸化ビタミンD[25(OH)D]となり、さらに腎臓などで活性型の1,25ジヒドロキシビタミンDへ変換されます。活性型ビタミンDの重要な働きは、腸管からのカルシウムやリンの吸収を支え、骨の石灰化に必要な材料を確保することです。
ビタミンDが不足してカルシウム吸収が低下すると、副甲状腺ホルモン(PTH)が分泌され、血清カルシウム濃度を維持する代償反応が起こります。この反応に伴って腎臓からのリン排泄が増え、低リン血症が進行すると、成長軟骨や骨基質の石灰化が障害されます。したがって、血清カルシウム値が正常範囲にあっても、ビタミンD欠乏性くる病を除外することはできません。
臨床で重要なのは、石灰化障害の存在と原因を分けて評価することです。ビタミンD低値は原因を推定する材料ですが、それだけでくる病の成立を証明するものではありません。また、カルシウム摂取不足が強ければ、25(OH)Dが著しく低くなくても栄養性くる病は起こり得ます。「くる病はすべてビタミンD不足」という理解では、栄養評価や鑑別診断が不十分になります。
くる病を疑う身体所見には、O脚・X脚などの下肢変形、手関節や膝関節周囲の膨隆、肋骨念珠、頭蓋癆、成長障害などがあります。運動発達の遅れや歩行異常も診断のきっかけになります。ただし、乳幼児の下肢アライメントには生理的変化があるため、O脚という所見だけで病的と判断せず、年齢、変形の経過、成長曲線、他の身体所見を合わせて評価します。
参考)https://jspe.umin.jp/medical/files/_vitaminD.pdf
一方、乳児では骨変形よりも低カルシウム血症によるけいれん、テタニー、易刺激性が前面に出る場合があります。明らかな骨X線変化がないこともあり、「骨変形がないからビタミンD欠乏症ではない」と判断しないことが重要です。けいれんなどの急性症状があれば、血清カルシウムやイオン化カルシウムを含む緊急評価と対応を優先します。
検査は、血清25(OH)D、カルシウム、リン、アルカリホスファターゼ(ALP)、PTHを中心に組み立てます。骨X線では手関節や膝関節を評価し、骨幹端の杯状陥凹、不整・毛ばだち、成長板の拡大などを確認します。日本小児内分泌学会の診断の手引きも、25(OH)D低値だけではなく、画像、身体所見、リン・カルシウム、ALP、PTHを組み合わせる構成です。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 血清25(OH)D | 国内の2017年判定指針では20 ng/mL未満を欠乏、20以上30 ng/mL未満を不足、30 ng/mL以上を充足と分類 | ビタミンD状態の分類であり、くる病そのものの診断基準ではない。 |
| 血清カルシウム | 低値を示す場合も、代償により正常域に保たれる場合もある | 正常値だけでくる病を否定しない。必要に応じてイオン化カルシウムも評価する。 |
| 血清リン | 低値が重要な手掛かりとなる | 小児では年齢別基準値を用いる。重い低カルシウム血症では典型的な低リン血症を示さない場合もある。 |
| ALP・PTH | 栄養性くる病では一般に上昇する | ALPは年齢・成長段階と測定法に応じて判定し、成人の基準値をそのまま用いない。 |
| 骨X線 | 骨幹端の杯状陥凹、毛ばだち、不整、成長板の拡大など | 画像だけではビタミンD欠乏性と低リン血性の原因鑑別はできない。 |
25(OH)Dの閾値は、指針の対象と目的によって異なります。2016年の栄養性くる病に関する国際コンセンサスでは、12 ng/mL未満を欠乏、12~20 ng/mLを不足、20 ng/mL超を充足と分類しています。国内指針の「欠乏」と国際コンセンサスの「欠乏」を、同じ定義として混在させないことが大切です。いずれの分類でも、単一の数値だけで発症の有無や治療方針を決めるものではありません。
また、1,25ジヒドロキシビタミンDは、体内のビタミンD蓄積状態を把握するための25(OH)Dとは役割が異なります。ビタミンD欠乏症でも代償反応によって高値となる場合があるため、活性型の値が保たれていることを根拠に欠乏を否定しないよう注意します。
日本小児内分泌学会:ビタミンD欠乏性くる病・低カルシウム血症の診断の手引き
日本骨代謝学会・日本内分泌学会:ビタミンD不足・欠乏の判定指針
ビタミンD欠乏のリスク評価では、授乳方法だけでなく、母体の栄養状態、離乳食の進み方、食物除去、外出状況、吸収不良を来す基礎疾患まで確認します。母乳中のビタミンD含有量は少ないものの、それは母乳栄養を中止すべき理由ではありません。必要な対策は、母乳の利点を維持しながら、食事や生活環境、必要に応じた補充によって不足を補うことです。
参考)https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20250324_bitamin_D_teigen.pdf
鑑別で重要なのは、低リン血性くる病です。低リン血症が持続する場合は、尿中リン排泄や腎でのリン再吸収の評価を行い、必要に応じてFGF23を検討します。ビタミンD欠乏でもPTH上昇により尿中リン排泄は増えるため、低リン血症があることだけで遺伝性の低リン血性くる病と断定することはできません。血清カルシウム、PTH、25(OH)D、尿検査を組み合わせて判断します。
くる病様の骨変化があるのにALPが低い場合には、低ホスファターゼ症を考えます。また、通常の栄養性くる病として治療しても反応が乏しい場合や、家族歴などから遺伝性疾患が疑われる場合には、ビタミンD依存性くる病も鑑別に入ります。これは単純な摂取不足ではなく、ビタミンDの活性化や受容体機能などの異常に関連する疾患群であり、病型に応じた専門診療が必要です。
低い25(OH)D値が見つかっても、他の疾患が除外されたことにはなりません。低リン血性くる病や骨系統疾患にビタミンD欠乏が併存する場合もあるため、補充後の臨床経過や検査値の改善まで確認し、原因診断を見直せるようにしておきます。
栄養性くる病の治療は、ビタミンDの補充とカルシウム供給の確保を基本とします。2016年の国際コンセンサスは、ビタミンDの最低推奨量を1日2,000 IU(50 μg)、治療期間を少なくとも3か月とし、食事または補充による1日500 mgのカルシウムを併用することを推奨しています。これは栄養性くる病に対する治療の推奨であり、健康な乳児の予防量や、すべての病型に共通する処方量ではありません。
実際の治療量は、年齢、重症度、カルシウム摂取量、低カルシウム血症の有無、吸収不良の有無などに応じて決めます。けいれんやテタニーを伴う低カルシウム血症では、ビタミンD補充だけで経過を見るのではなく、急性期のカルシウム補正を含めた管理が必要になります。国際推奨の数値をそのまま市販サプリメントの自己使用量に置き換えないことが重要です。
天然型ビタミンDと活性型ビタミンDは、同じ目的・同じ単位で置き換えられるものではありません。2025年公表の国内提言は、ビタミンD欠乏症の治療には天然型ビタミンDが理論的に妥当とする一方、当時の日本では処方可能な天然型製剤がないことから、活性型製剤が使用されていると説明しています。製剤の選択時には、国内の最新の承認状況、添付文書、施設の診療方針を確認する必要があります。
とくに押さえたいのは、活性型ビタミンD製剤を単独投与しても、体内のビタミンD充足そのものは回復しないという点です。低カルシウム血症や骨病変への治療と並行し、食事・生活環境を改善しなければ、欠乏の背景が残ります。天然型のIUと活性型製剤のμgを機械的に換算することも避け、製剤ごとの作用と投与設計を区別します。
治療後は、血清カルシウム・リン、ALP、PTH、必要に応じた25(OH)D、尿中カルシウム、骨X線などを用いて、有効性と安全性を評価します。ビタミンDの過剰投与は高カルシウム血症や高カルシウム尿症を起こし、持続すれば腎石灰化などにつながり得ます。複数のサプリメントや栄養製品を併用している場合は、製品名、濃度、実際の投与量を確認することも重要です。
Munnsら:栄養性くる病の予防と管理に関する国際コンセンサス(2016年)
2025年に公表された日本小児医療保健協議会栄養委員会の提言は、乳児のビタミンD欠乏予防について、母乳栄養の支援、適度な外気浴・外遊び、適切な時期の離乳食開始、カルシウムの適正摂取を挙げています。生活環境や食事環境の改善が難しい場合には、医師の指導のもとで天然型ビタミンDの乳児用サプリメントを検討するという考え方です。
数値の説明では、食事摂取基準の「目安量」と、特定の指針が示す「予防のための補充量」を区別します。国内提言が引用する日本人の食事摂取基準(2025年版)では、乳児のビタミンD目安量は1日5 μg(200 IU)です。一方、国際コンセンサスは出生から12か月まで、栄養方法によらず1日10 μg(400 IU)の補充を推奨しています。国内提言はこの国際推奨を紹介しつつ、日本での一律補充については今後の議論が必要としています。
この違いを説明せず「乳児は全員400 IUを追加する」と伝えると、人工乳や他の栄養製品に含まれる量、国内の指導方針が考慮されなくなるおそれがあります。医療者は授乳・食事内容と欠乏リスクを把握し、使用する場合には製品ごとの用法・用量を確認します。保護者には、予防目的の補充と、すでに発症したくる病の治療は別であることを明確に伝えます。
離乳食では、発達段階とアレルギーへの対応を踏まえ、魚類や卵黄などビタミンDを含む食品を取り入れます。同時にカルシウム源も確保し、乳製品や卵などの除去が必要な場合は代替食品を検討します。食物アレルギーへの不安から自己判断で除去品目を増やすのではなく、必要な除去を守りながら栄養不足を防ぐ指導が大切です。
日光に関しては、長時間の日焼けを勧めるものではありません。ビタミンD産生に関わる紫外線量は、緯度、季節、天候、皮膚露出などで変わるため、全国共通の「毎日何分」という指示には限界があります。また、通常の窓ガラス越しではビタミンD産生に必要なUVBが十分に届かない点も説明します。必要なビタミンD産生と皮膚障害の回避を両立する一律の紫外線閾値は定められていないため、食事や補充も含めて不足に対応します。
なお、健康な小児全員に25(OH)D測定を行う集団スクリーニングは、国際コンセンサスでは推奨されていません。予防診療では、成長や身体所見、食事・生活歴からリスクを把握し、くる病や低カルシウム血症が疑われる場合に適切な検査へつなげます。くる病とビタミンDの関係を診療に生かすには、検査値の補正だけでなく、骨病変の確認、原因の鑑別、カルシウム評価、再発を防ぐ生活支援までを一連の診療として扱うことが重要です。
日本小児医療保健協議会栄養委員会:乳児期のビタミンD欠乏の予防に関する提言(2025年)