


「甲状腺眼症難病指定」という検索でまず確認すべき結論は、2026年10月6日時点で確認できる国の指定難病一覧に、甲状腺眼症は含まれていないということです。厚生労働省が公開する令和8年4月時点の指定難病一覧は告示番号1~348で構成されていますが、甲状腺眼症、バセドウ病眼症、悪性眼球突出症の名称は掲載されていません。したがって、甲状腺眼症そのものを理由に、難病法に基づく特定医療費の支給認定を受けることはできません。
参考)令和8年4月時点の指定難病(告示番号1~348)|厚生労働省
医療従事者が患者へ説明するときは、日常的な意味での「治療が難しい病気」と、医療費助成の対象として国が定める「指定難病」を区別する必要があります。甲状腺眼症は複視や視力障害を引き起こし、生活の質を大きく損なうことがある疾患です。しかし、病気の深刻さや治療期間の長さだけで、指定難病医療費助成の対象になるわけではありません。臨床上の重症度評価と、制度上の対象疾病の確認は別の判断です。
名称の似た疾病との混同にも注意が必要です。指定難病一覧には「甲状腺ホルモン不応症」が告示番号80として、「副甲状腺機能低下症」が告示番号235として掲載されています。これらは甲状腺眼症とは異なる疾病です。「甲状腺に関連する病気だから同じ助成を使える」と説明したり、甲状腺眼症に別疾病の告示番号を当てはめたりしてはいけません。制度の確認では、正式な疾病名と当該疾病の診断基準を照合します。
また、「重症の甲状腺眼症なら例外的に申請できる」「医療費が高額なら指定難病になる」という説明も不正確です。指定難病医療費助成における軽症高額該当は、対象となる指定難病の診断基準を満たした患者について、重症度分類を満たさない場合でも認定を検討する仕組みです。対象疾病に含まれない甲状腺眼症を、医療費の高さだけで対象にする制度ではありません。
甲状腺眼症が指定難病ではないことと、治療費の負担軽減策がないことは同義ではありません。患者支援では、対象疾病を限定する指定難病医療費助成と、保険診療の自己負担が高額になった場合に利用する高額療養費制度を分けて説明します。甲状腺眼症の費用相談では、まず保険診療の範囲を確認したうえで、高額療養費制度の利用条件を検討することが重要です。
参考)指定難病患者への医療費助成制度のご案内 – 難病…
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 甲状腺眼症の指定状況 | 確認できる国の指定難病一覧には含まれていない。 | 甲状腺眼症単独では指定難病医療費助成の対象にならない。 |
| 指定難病医療費助成 | 対象疾病の診断基準と、重症度分類等の認定要件を満たすことが必要。 | 診断だけで自動的に助成されるわけではなく、申請と認定が必要。 |
| 軽症高額該当 | 対象の指定難病で、医療費総額10割が33,330円を超える月が申請月以前12か月以内に3回以上ある場合など。 | 指定難病に該当しない疾病を対象に追加する仕組みではない。 |
| 高額療養費制度 | 保険診療の自己負担が年齢や所得に応じた限度額を超えた場合に、超過分を支給する。 | 指定難病であることは利用の前提ではない。 |
| 多数回該当 | 直近12か月に高額療養費に該当した月が3か月以上ある場合、4か月目以降の限度額を軽減する。 | 継続治療では、過去の該当状況も確認する。 |
| 年間上限 | 令和8年8月から年単位の上限が設けられ、8月から翌年7月までの負担を対象に確認する。 | 具体的な区分、金額、還付手続きは加入先保険者に確認する。 |
高額療養費制度は改正時期にも注意が必要です。厚生労働省と全国健康保険協会は、令和8年8月からの見直しについて、月単位の限度額の変更、多数回該当の金額の維持、年間上限の新設を案内しています。医療従事者が過去の資料に記載された限度額をそのまま提示すると、患者の治療月に適用される金額と一致しない可能性があります。説明時には、治療年月、年齢、所得区分、加入する保険者を確認してください。
たとえば、活動性甲状腺眼症で継続的な点滴治療を予定する患者から「難病指定されていないので、すべて通常の自己負担割合で払い続けるしかないのか」と質問された場合には、指定難病医療費助成の対象ではないことを伝えたうえで、高額療養費の月額限度、多数回該当、年間上限を別に確認する、と説明できます。ただし、治療全体の費用と制度適用後の自己負担は同じではなく、個別の条件を確認せずに負担額を確約しないことが大切です。
甲状腺眼症は、主にバセドウ病、まれに橋本病に伴ってみられる眼窩組織の自己免疫性炎症性疾患です。外眼筋や眼窩脂肪などの変化によって、眼瞼後退、眼瞼腫脹、結膜充血、眼球突出、眼球運動障害、複視などが生じます。重症例では角膜障害や視神経症を来すため、外見の変化だけの問題として扱わず、視機能と日常生活への影響を評価する必要があります。
参考)https://www.j-endo.jp/uploads/files/edu/koujyousengansyo_digest.pdf
甲状腺機能が正常であっても甲状腺眼症を否定できません。眼症の発症時に甲状腺機能異常を伴わない例や、自己免疫性甲状腺疾患の存在を明らかにできない例があります。反対に、甲状腺疾患がある患者の眼球突出を、すべて甲状腺眼症と判断することも適切ではありません。特発性眼窩炎、IgG4関連眼疾患、眼窩腫瘍、悪性リンパ腫などを含め、病歴、眼科所見、画像所見から鑑別します。
治療方針を決める際は、重症度、活動性、QOLをそれぞれ確認します。重症度は視機能障害や症状の程度を、活動性は炎症の状態を評価する指標です。眼球突出や複視が残っていても炎症は非活動性となっている場合があり、症状が強いことと活動性が高いことは必ずしも一致しません。これらの評価は治療選択のためのものであり、指定難病医療費助成の認定基準ではありません。
CASについては、初期の7項目中3点以上、または経過評価を含めた10項目中4点以上が活動性眼症を示唆するとされています。ただし、日本甲状腺学会・日本内分泌学会の「甲状腺眼症診療の手引き」では、日本人でCASが1~2点でもMRI上の炎症所見を認める場合があると記載されています。したがって、CASが低いことだけを根拠に、炎症や治療の必要性を否定することは避けます。
特に急激な視力低下や色覚異常がある場合は、助成の相談や書類作成よりも、専門医療機関への至急紹介を優先します。指定難病に含まれていないことは、緊急性が低いことを意味しません。視神経症や重い角膜障害が疑われる患者では、眼科での迅速な評価と治療につなげることが不可欠です。
日本甲状腺学会・日本内分泌学会:甲状腺眼症診療の手引きDigest版
甲状腺眼症の治療では、甲状腺機能の正常化を図ること、禁煙を勧めること、眼症の重症度と活動性に応じた治療を選ぶことが基本です。喫煙は眼症の発症や重症化と関連し、治療への反応性を低下させることが示されています。禁煙指導は単なる生活習慣の助言ではなく、眼症の管理に関わる介入として位置付けます。また、失明の危険性がある最重症例では、眼症への治療を優先します。
活動性のある中等症~重症例では、ステロイドを含む免疫抑制療法や眼窩部放射線療法などが治療選択肢となります。非活動期に残った機能障害に対しては、眼窩減圧術、外眼筋手術、眼瞼手術などを個別に検討します。炎症を抑える治療と、残存する構造的・機能的な問題を改善する治療は目的が異なるため、眼球突出という症状だけで一律に治療法を選ぶことはできません。
新しい薬物治療として、テプロツムマブ、商品名テッペーザが国内で使用されています。日本眼科学会の2024年12月5日付ステートメントによると、同薬は2024年11月20日に「活動性甲状腺眼症」を効能・効果として薬価収載されました。IGF-1受容体を阻害するヒト型モノクローナル抗体であり、中等度から重度の活動性甲状腺眼症を対象とした国内第3相臨床試験OPTIC-Jで有効性が示されています。
参考)https://www.nichigan.or.jp/member/news/detail.html?itemid=792&dispmid=917
ここで重要なのは、治療薬の承認・薬価収載と、疾患の指定難病への追加は別の制度上の出来事であることです。活動性甲状腺眼症に対する薬剤が保険診療で使えるようになったからといって、甲状腺眼症が指定難病になったわけではありません。また、薬剤の効能・効果の表現と、臨床試験で有効性・安全性が検討された患者集団も分けて読み取る必要があります。
テプロツムマブでは、特に聴覚関連障害と高血糖への注意が必要です。日本眼科学会のステートメントは、これらの有害事象について事例と対策を示し、添付文書に従った使用を求めています。導入前には、期待する改善だけでなく、有害事象のリスク、治療中の評価、症状が生じた場合の連絡方法まで説明し、最新の添付文書と適正使用情報に基づく管理を行います。
なお、2020年刊行の「甲状腺眼症診療の手引き」は、診断、重症度、活動性、紹介基準を把握するうえで有用ですが、テプロツムマブの国内導入前に作成された資料です。治療薬の国内での位置付けを説明するときは、その手引きだけで完結させず、国内導入後の学会ステートメントなどを合わせて確認する必要があります。
日本眼科学会:テプロツムマブの適正使用に関するステートメント
患者への説明では、まず「甲状腺眼症は現在、国の指定難病医療費助成の対象疾病ではありません」と明確に伝えます。そのうえで、「指定難病でなくても、保険診療の自己負担が高額になった場合には、高額療養費制度を検討できます」と続けると、制度の対象外という情報が、治療や支援そのものを受けられないという誤解につながることを防げます。制度上の結論と利用できる費用支援を、同じ説明の中で示すことが大切です。
費用相談では、予定される治療内容、実施時期、通院・入院の予定と、患者の加入する医療保険、年齢、所得区分を確認します。高額療養費は月ごとの負担を基本としており、令和8年8月からは年間上限も設けられています。継続治療の説明では、初回の窓口負担だけでなく、月単位の限度額、多数回該当、年間上限の適用を含めて見通しを整理し、詳細を保険者に確認します。
医療従事者側の説明では、区別を徹底することが重要です。「治療に必要な総医療費」「通常の自己負担割合で計算した金額」「高額療養費などを適用した後の負担」は、それぞれ異なります。患者の条件が未確認の段階で一つの金額だけを示すのではなく、何を前提にした金額なのかを明示し、制度適用後の負担については加入先保険者と確認する形にします。
別の指定難病を併存している患者でも、甲状腺眼症の治療費が自動的にその受給者証で助成されるとは限りません。指定難病医療費助成は、認定された疾病と、それに付随して発症する傷病に関する対象医療を助成する制度です。同じ患者の治療であるという理由だけで適用せず、認定疾病との関係と制度上の取扱いを、担当診療科や自治体窓口に確認する必要があります。
参考)難病医療費助成の助成内容
診療上の説明も費用の説明と並行して行います。「甲状腺の数値が正常なら眼症も治った」「指定難病でないなら軽い病気」といった理解は適切ではありません。眼症は甲状腺機能異常を伴わずに発症することがあり、視機能障害やQOL低下を来す場合もあります。急激な視力低下、色覚の変化、目を閉じても角膜が露出する状態などについて、速やかに連絡・受診すべき徴候として共有します。
記事や患者向け資料を更新するときは、指定難病一覧の確認時点と、高額療養費制度の適用時期を明記してください。本記事の指定状況は2026年10月6日時点で確認できる公開情報に基づきます。実際の相談では、最新の国の対象疾病一覧、治療月に適用される保険者の案内、薬剤の適正使用情報を照合し、臨床評価と費用支援の確認を別々に進めることが、正確な患者説明につながります。
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