

傷の手当で最初に行うべきことは、創面に薬剤を塗ることではなく、出血の程度と損傷の範囲を把握することです。急性の切創・裂創では、清潔なガーゼなどによる直接圧迫で止血を図り、出血が持続する場合は追加の止血処置が必要になります。止血には血液の喪失を抑えるだけでなく、創内を観察し、深部損傷を評価しやすくする役割もあります。圧迫で制御できない出血や血管損傷が疑われる状態では、通常の創処置だけで対応しようとせず、救急対応や専門医への相談を優先します。
参考)https://www.aafp.org/afp/2017/0515/p628.pdf
問診では、受傷時刻、原因物、受傷機転、汚染環境、薬剤アレルギー、破傷風ワクチンの接種歴を確認します。診察では、部位、長さ、深さ、創縁の状態を評価し、血管、腱、神経、関節、筋肉、骨への損傷がないか調べます。とくに手指の傷は、表面の開口部が小さくても機能に関わる構造を損傷している可能性があるため、運動や知覚の異常を見逃さないことが重要です。
ガラス片や木片などの異物が疑われる場合、創面を目で見ただけで「異物なし」と断定することはできません。異物の性質や位置に応じて、単純X線、超音波、CTなどの画像検査を検討します。開放骨折、手の腱・筋損傷、機能障害を伴う神経損傷、深い眼瞼の損傷などは、専門診療につなぐべき代表的な状態です。傷を閉じる前に、閉鎖してよい傷かどうかを判断する必要があります。
また、急性外傷と、糖尿病性潰瘍や褥瘡などの慢性創傷では、評価の重点が異なります。日本皮膚科学会の「創傷一般(第3版)」は主として慢性皮膚創傷を扱っており、急性外傷の処置へすべてを一律に当てはめる資料ではありません。慢性創傷では、局所の傷だけでなく、基礎疾患、栄養状態、血流障害など、治癒を妨げる背景まで評価することが大切です。
参考)https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/sousyou2023.pdf
米国家庭医学会:裂創修復の実践的アプローチ
傷の洗浄は、異物、汚染物、残留した軟膏などを物理的に除去し、治癒に適した創面へ整えるために行います。日本皮膚科学会のガイドラインでは、生理食塩液や蒸留水、管理された水道水を十分に用い、創面を愛護的に扱うことを示しています。ここでいう水道水は、日常的に飲用でき、衛生的に管理された水です。急性裂創に関するレビューでも、飲用可能な水道水を生理食塩液の代わりに使用しても、感染リスクは増加しないとされています。
ただし、「強く洗うほどよい」「洗浄回数が多いほど安全」とは限りません。過度な水圧や摩擦は肉芽組織や新生上皮を損傷する可能性があります。汚染の程度、創の深さ、疼痛、治癒段階に合わせて洗浄量と方法を調整し、洗浄液の温度にも配慮します。慢性創傷では、極端に冷たい液や熱い液を避け、使用前に温度を確認することが重要です。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 洗浄液の選択 | 生理食塩液、蒸留水、衛生管理された飲用可能な水道水を用いる | 水質や創の状態、施設の感染対策手順を確認する |
| 洗浄時の操作 | 汚染物や残留物を除去し、創面への過剰な摩擦や水圧を避ける | 疼痛と組織損傷に配慮して方法を調整する |
| 感染徴候のない創 | 創面への消毒を routine に追加する必要はない | 慢性創傷では、感染徴候がなければ消毒は不要とされる |
| 感染が疑われる慢性創傷 | 洗浄、壊死組織の管理、感染制御を組み合わせる | 消毒薬を含む局所抗菌治療は適応を判断して使用する |
| 肉芽形成・上皮化が進む創 | 再生組織を保護し、不要な頻回処置を避ける | 被覆材使用中は、必ずしも連日の洗浄を必要としない |
表の考え方は、主として日本皮膚科学会の慢性皮膚創傷に関する推奨に基づきます。消毒については、「すべての傷に必要」とする考え方も、「どのような状況でも禁止」とする考え方も適切ではありません。感染徴候を伴い治癒が遅れている慢性創傷では、感染制御の一手段として消毒を検討できます。一方、消毒薬の種類や使用方法によって組織障害や接触皮膚炎のリスクがあり、漫然とした長期使用は避けるべきです。
日本皮膚科学会:創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン(2023)—1 創傷一般(第3版)
傷の手当における湿潤環境とは、創面を乾燥させず、細胞の遊走や組織修復が進みやすい状態を保つことです。傷を常に水浸しにすることではありません。滲出液は創傷治癒に関わる細胞や増殖因子などを含みますが、多すぎる滲出液は創周囲の皮膚を白くふやけさせる浸軟を招き、治癒を妨げることがあります。被覆材は、乾燥を防ぐ保湿性と、余分な滲出液を処理する吸収性のバランスで選びます。
被覆材を貼付した後は、外側からも滲出液の漏れ、剥離、周囲皮膚の変化などを観察します。「長期間貼れる製品だから、その間は観察しなくてよい」という説明は不適切です。交換頻度は、製品の使用方法だけでなく、滲出液の量、感染徴候、密着状態、皮膚の脆弱性によって調整します。頻回な交換で新生上皮を損傷することと、交換を遅らせて異常を見逃すことの両方を避ける必要があります。
湿潤療法の例外にも注意が必要です。末梢動脈疾患などによる高度の血流障害を伴う創傷では、湿潤化によって壊死組織が融解し、病変が拡大する場合があります。乾燥した壊死を認めたときに、血流を評価せず一律に軟化・除去することは避けます。糖尿病患者の足の傷などでは、被覆材の変更だけで解決しようとせず、血流や感染を含む専門的評価につなげることが重要です。
感染を疑う手がかりには、増悪する疼痛、発赤、腫脹、排液の変化、発熱などがあります。受傷直後の炎症反応と感染を、単一の所見だけで区別しようとせず、前回の状態から何が変わったかを確認します。異物が残っている傷、動物による咬傷、汚染された物による刺創などは、感染リスクを踏まえて早期の診療が必要になる傷です。
参考)Emergency wound care
慢性創傷では、細菌が検出されることと、治療を必要とする感染が成立していることを区別します。創面に細菌が存在していても、ただちに全身抗菌薬が必要になるとは限りません。創の悪化、局所の感染所見、全身状態などを総合して判断し、必要に応じて培養検査を行います。壊死組織や感染巣がある場合は、抗菌薬だけに頼らず、洗浄やデブリードマンなどの局所管理も組み合わせます。
単純な非咬傷性の裂創に対し、予防目的の全身抗菌薬を一律に投与する利益は示されていません。一方、咬傷や深い刺創などの高リスク創傷では、予防投与を含む対応が必要になる場合があります。したがって「傷があるから処方する」のではなく、受傷機転、汚染、組織損傷、患者背景を踏まえて適応を判断します。
外用抗菌薬も、すべての傷に長期間使用する薬剤ではありません。日本皮膚科学会のガイドラインは、耐性菌の出現を考慮し、安易な抗菌薬含有軟膏の使用を推奨していません。発赤が広がるなどの変化があっても、感染だけでなく、外用薬や粘着材による接触皮膚炎が関与する可能性があります。改善しない場合は薬剤を追加し続けるのではなく、原因と治療方針を再評価します。
傷の手当では、局所の処置と並行して破傷風予防を確認します。米国疾病予防管理センター(CDC)は、傷の種類と破傷風ワクチンの接種歴に基づき、ワクチンと抗破傷風ヒト免疫グロブリン(TIG)の必要性を評価するよう示しています。とくに刺創、土壌や唾液などで汚染された傷、挫滅創、壊死組織を含む傷などは、清潔で小さな傷とはリスク区分が異なります。
参考)Clinical Guidance for Wound Ma…
CDCの基準では、初回接種シリーズを完了している人で、清潔かつ小さな傷の場合は最終接種から10年以上、汚染創や重度の創の場合は5年以上が経過していれば追加接種が推奨されます。接種歴が不明、未接種、初回接種シリーズが未完了の場合は、すべての傷で接種が推奨されます。これは米国の判断基準であり、日本の診療では国内で使用する製剤の添付文書、接種歴、施設の診療手順などを確認して適用を判断します。
TIGは、CDCの基準では清潔で小さな傷には適応がありません。一方、汚染創や重度の創で接種歴不明・未接種・初回接種シリーズ未完了の場合、またHIV感染者や重度の免疫不全がある場合には適応となります。なお、外用・全身投与のいずれの抗菌薬も、破傷風予防そのものを目的として使用することは推奨されません。一般的な創感染の治療と、破傷風予防を混同しないことが重要です。
CDC:創傷管理における破傷風予防の臨床ガイダンス
継続的な創傷管理では、慢性創傷の評価に用いられるTIMEの枠組みも役立ちます。Tは壊死組織などの組織状態、Iは感染・炎症、Mは湿潤のバランス、Eは創縁の治癒遅延やポケットを示します。創の大きさだけでなく、創床、滲出液、周囲皮膚、創縁の変化を確認し、全身的な治癒阻害因子も併せて評価します。見た目の改善が乏しいときには、同じ処置を続ける前に、どの因子が残っているかを検討します。
患者指導では、使用する被覆材の扱い方と交換方法に加え、出血が続く場合、疼痛・発赤・腫脹が悪化する場合、発熱を認める場合などの相談目安を具体的に伝えます。手指の動かしにくさや知覚異常があれば、深部損傷の再評価が必要です。「貼っておけば治る」と説明するのではなく、観察すべき変化と、異常時に受診する理由まで共有することが、安全な傷の手当につながります。