

| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 筋腹・筋腱移行部の構造的損傷 | 動作中の急な局所痛、圧痛、伸張時痛、筋線維の不連続や血腫を評価する | |
| 肩側の上腕二頭筋長頭腱断裂 | 上腕痛や皮下出血に加え、筋腹が肘側に寄るポパイ変形を認めることがある | 短頭が保たれれば機能が残り、腱板損傷などの合併病変も評価する。 |
| 遠位上腕二頭筋腱断裂 | 肘前面の疼痛・皮下出血、回外筋力低下、肘前面の腱の欠損や筋腹の近位への偏位に注意する | 肘を曲げられても否定できず、手術適応を含めた早期評価が重要となる。 |
| 遅発性筋痛 | 不慣れな遠心性運動の数時間後から、筋全体の痛みやこわばりが生じる |
特に確認したいのは、肘屈曲だけでなく前腕回外の機能です。遠位腱断裂では、手のひらを上に返す動作に明らかな筋力低下が生じることがあります。診察では肘前面の腱の触知や、指で腱を引っかけるHook testの考え方も用いられますが、単一の所見だけで判断せず、受傷機転、変形、筋力、画像所見を組み合わせます。
肩側の長頭腱断裂と遠位腱断裂は、ともに筋腹の形が変わることがありますが、筋の偏位方向と治療上の意味が異なります。長頭腱断裂では筋腹が肘側に寄るのに対し、遠位腱断裂では肩側へ退縮することがあります。単に「ポパイ様の膨らみがある」と記録するより、膨隆の位置、肘前面の陥凹、圧痛部位を具体的に残すほうが、後続の診療に役立ちます。
また、遠位腱断裂では初期の強い痛みが1~2週間で軽減することがあります。したがって、痛みが落ち着いていることは腱の連続性が回復した根拠にはなりません。明らかな変形や回外筋力低下がある場合は、症状の軽減を理由に経過観察を続けず、整形外科で評価する必要があります。
AAOS:肘側の上腕二頭筋腱断裂の症状と診断
上腕二頭筋の筋損傷では、腱を含む連続性と損傷範囲を確認したうえで、疼痛・腫脹の管理、可動域練習、漸増的な筋力訓練へ進める保存的対応が選択肢になります。実際に、短頭の筋損傷と部分断裂に対し、このような段階的介入で機能が回復した症例が報告されています。ただし、単一症例の経過をすべての上腕二頭筋損傷に一般化することはできません。
参考)https://www.jospt.org/doi/10.2519/jospt.2012.0411
初期には重量物の持ち上げなど、疼痛を誘発する負荷を避けます。冷却は疼痛や腫脹を抑える目的で用いられ、AAOSの肩側腱断裂の解説では、皮膚へ直接当てず、1回20分程度の冷却が案内されています。これは症状管理の方法であり、筋や腱の連続性を回復させる処置ではありません。支持具の使用や活動制限の程度も、診断と症状に応じて判断します。
肩側の長頭腱断裂は、短頭が保たれていれば機能が残るため、多くの患者で保存療法が選択されます。一方、保存療法で軽減しない症状、強いけいれん、肩痛、仕事や日常生活を妨げる筋力低下などがある場合は、手術の検討が必要です。腱板損傷を合併しているかどうかも、治療方針に影響します。
これに対して、遠位腱の完全断裂では、骨から離れた腱が自然に再付着して治ることは期待できません。上肢の筋力と機能の回復を重視する場合は手術が検討されますが、活動性、必要な機能、併存疾患、術後リハビリテーションへの対応可能性などを踏まえ、保存療法が選ばれる患者もいます。「完全断裂なら全例手術」と説明するのではなく、治療によって得られる機能と負担を共有することが重要です。
特に早期評価が重要なのは、遠位腱断裂が疑われる場面です。AAOSでは、手術による修復は受傷後2~3週間以内が理想的とされ、それ以降は瘢痕化や短縮により直接修復が難しくなる可能性が説明されています。これは患者が数週間待ってよいという意味ではありません。断裂音、肘前面の皮下出血、変形、明らかな回外筋力低下がそろう場合には、早期に専門的評価へつなげます。
AAOS:肩側の上腕二頭筋腱断裂と治療選択