


「今治水(こんじすい)」とは、歯の痛む部位に直接用いる液体タイプの歯痛薬として知られる名称です。現在、一般用医薬品として流通している代表的な製品は、丹平製薬の「新今治水」であり、分類は第2類医薬品です。主な効能は、むし歯、浮歯、歯の根の痛みを鎮めることとされています。痛みを感じる歯や、う蝕によって穴が開いた歯の局所へ薬液を適用し、疼痛を一時的に軽減することを目的とします。
参考)新今治水|丹平製薬株式会社
ここで重要なのは、今治水は歯痛の原因を除去する治療薬ではない点です。むし歯が歯髄まで進行している場合、歯髄炎、根尖性歯周炎、歯周組織の炎症、歯冠破折などが背景にある場合でも、薬剤によって痛みだけが一時的に和らぐことがあります。しかし、病変自体が消失するわけではなく、症状の軽快が受診遅延につながる可能性があります。患者に説明する際は、「急場の疼痛対策」と「歯科治療の代替ではないこと」をセットで伝えることが大切です。
参考)新今治水 - 基本情報(効果・効能、用法・用量、副作用など)…
なお、名称に「今治」という地名が含まれるため愛媛県今治市と関係があるように受け取られることがありますが、患者対応では製品名として理解すれば十分です。医療的には、局所に適用する歯痛用の一般用医薬品であり、内服鎮痛薬や歯科処置とは目的・作用部位・限界が異なる製品として整理すると分かりやすいでしょう。
新今治水は、複数の成分を配合した液剤です。製品情報では、チョウジ油、フェノール、dl-カンフル、ケイヒ油、l-メントール、ジフェンヒドラミン塩酸塩、ジブカイン塩酸塩、塩酸パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチル、サンシシチンキなどが有効成分として示されています。局所麻酔成分、鎮痛を補助する成分、殺菌作用を有する成分、炎症症状の軽減を意図する成分などを含む構成です。
フェノールは痛みを鎮める作用に加え、殺菌作用を持つ成分として配合されています。一方、ジブカイン塩酸塩や塩酸パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチルは、痛覚を局所的に鈍らせることを目的とした成分です。したがって、薬液が痛みの原因部位付近に届くことが、製品本来の使い方の前提になります。ただし、薬効を「歯の神経を治す」「むし歯菌を完全に除去する」と誤解しないようにする必要があります。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 製品区分 | 第2類医薬品 | 購入時・使用時には添付文書を確認する |
| 主な効能 | むし歯、浮歯、歯の根の痛みを鎮める | 原因疾患を治療する効能ではない |
| 剤形 | 液剤 | 綿球にしみ込ませて歯の患部へ使用する |
| 局所麻酔関連成分 | ジブカイン塩酸塩など | 局所的に痛みを抑える目的で配合される |
| 殺菌関連成分 | フェノール | 刺激性にも注意し、適用部位を守る |
| 受診の考え方 | 症状が続く・反復する場合は歯科受診 | 疼痛軽快後も根本治療を要することがある |
医療従事者は、成分を細かく羅列するだけでなく、「局所に使う薬であること」「痛みを軽くする作用が中心であること」「むし歯の進行を止める薬ではないこと」を、患者が行動に移せる表現で説明するとよいでしょう。特に、夜間や休日の歯痛に対して自己判断で反復使用している患者には、症状が落ち着いた時点で歯科受診を勧める視点が欠かせません。
今治水は飲む薬ではなく、痛い歯の局所に使用する薬です。一般的には、清潔にした手指で適切な大きさの綿球を作り、付属のピンセットを用いて薬液をしみ込ませます。大きな穴が開いたむし歯であれば、薬液を含ませた綿球を穴の中へ入れます。穴が小さい場合は、綿球に含ませた薬液を痛む歯の表面に塗布します。添付文書および製造販売元の案内に従い、歯以外の部位に広げないことが重要です。
使用時に問題になりやすいのは、薬液が歯ぐき、口唇、頬粘膜などへ付着することです。今治水は、痛みのある歯の空洞以外の箇所へ塗布しないよう案内されています。誤って口の周囲や顔などに付着した場合には、速やかに水でよく洗い、拭き取ることが必要です。歯科用以外、特に眼科用として使わないことも明記されています。
参考)https://www.e-welcia.com/product/89277
患者説明では、「薬液を直接たらす」「口全体に塗る」「歯ぐきが腫れているので歯ぐきに塗る」といった自己流使用を避けるよう具体的に伝えます。とくに「歯ぐきが痛い」「頬まで腫れている」という訴えでは、う蝕による単純な歯痛だけでなく、歯周組織の炎症や歯性感染症も鑑別上の問題になります。薬を追加する方向ではなく、歯科への受診導線を作ることが優先されます。
今治水は、すべての口腔内疼痛に使える薬ではありません。製品上、使用しない部位として歯ぐきや唇が示されています。歯ぐきの腫れ、口内炎、義歯による粘膜損傷、顎関節の痛み、抜歯後の疼痛、舌痛などに対し、自己判断で適用することは避けるべきです。適応はあくまで、むし歯、浮歯、歯の根の痛みを鎮めることです。
局所に使用する医薬品であっても、使用後に発疹、発赤、かゆみ、腫れなどのアレルギーを疑う症状が現れる可能性があります。口腔内に強い刺激感、灼熱感、粘膜のただれ、腫脹などが生じた場合にも、使用を続けずに相談を促します。患者が「痛いから効いている」「しみるから効いている」と受け止めることがありますが、強い刺激や異常反応を薬効と混同しないよう説明する必要があります。
また、アルコールを含む液剤であり、火気の近くでの使用・保管に注意が必要です。小児の手の届かない場所で保管し、直射日光を避けて保管することも基本です。医療従事者が薬局、外来、電話相談などで案内する場合は、症状だけでなく、年齢、口腔内の状態、妊娠・授乳の有無、既往歴、併用薬、医療機関への通院状況を確認したうえで、添付文書に基づく使用可否を判断する姿勢が求められます。
丹平製薬「新今治水」製品情報
今治水の使用後に痛みが一時的に軽くなったとしても、歯科受診の必要性はなくなりません。むし歯が歯髄に近づく、または到達している場合、冷温刺激痛、咬合痛、自発痛、夜間痛などが繰り返されることがあります。さらに、根尖性歯周炎や歯槽膿瘍などへ進展すると、歯肉腫脹、頬部腫脹、排膿、発熱、倦怠感、開口障害などを伴うことがあります。こうした病態に対し、局所歯痛薬だけで対応することは適切ではありません。
以下の症状がある患者には、今治水の継続使用よりも、歯科または口腔外科への早期受診を優先して案内します。顔面の腫れや発熱を伴う場合、感染が周囲組織に広がっている可能性も考慮し、受診を先延ばしにしないことが重要です。呼吸のしづらさ、飲み込みにくさ、急速な腫脹、強い全身状態悪化がある場合は、緊急性を念頭に医療機関で評価する必要があります。
医療従事者にとって今治水の説明は、市販薬の用法を伝えるだけの対応ではありません。急性疼痛への対症的支援を行いながら、歯科治療につなげるトリアージの機会でもあります。患者には「痛みを止めるための一時的な選択肢」であることを明確にし、原因への治療は歯科で行う必要があると伝えることで、重症化や受診遅れのリスクを下げられるでしょう。