

「皮膚感覚がない一部」という検索語が示す訴えは、臨床では「皮膚の一部に触れても分からない」「特定の場所だけ感覚が鈍い」といった局所的な感覚障害として整理できます。ただし、患者がいう「感覚がない」が、完全な感覚消失なのか、感覚低下なのか、ピリピリする異常感覚なのかは、問診だけで区別できないことがあります。感覚が部分的に低下した状態は知覚鈍麻、完全に失われた状態は感覚脱失と呼ばれます。
参考)しびれ - 07. 神経疾患 - MSDマニュアル プロフェ…
感覚の評価では、軽い触覚、痛覚・温度覚、位置覚・振動覚を分けて考えます。皮膚を軽く触った感覚が残っていても、温度や痛みの感覚まで保たれているとは限りません。逆に、患者が「触られたのは分かるが、厚い布を挟んだように感じる」と説明する場合もあります。「触覚あり」という記録だけで評価を終えず、どの感覚が、どの範囲で、どの程度障害されているかを確認することが重要です。
また、感覚障害と運動障害は区別する必要があります。「しびれて動かせない」という訴えには、感覚消失だけでなく、筋力低下、疼痛による運動制限、麻痺が含まれる可能性があります。「触られたことが分からないのか」「力が入らないのか」「痛くて動かせないのか」を具体的に尋ね、患者の表現を診察所見に置き換えていきます。感覚の訴えだけで判断せず、筋力や腱反射を含む神経学的評価が必要です。
皮膚の一部に感覚がない場合でも、原因が皮膚そのものにあるとは限りません。感覚受容器から末梢神経、神経根、脊髄、脳へ至る経路のいずれかに障害が起きると、感覚低下が生じます。そのため、外見上の皮膚変化が乏しいことを理由に、神経学的な問題を否定することはできません。患者の訴えを出発点に、発症経過と分布を組み合わせて原因を検討します。
原因検索では、まず感覚障害の範囲を確認します。単一の末梢神経の支配領域に近いのか、神経根に対応する皮膚分節に近いのか、左右対称に末端から広がっているのか、顔面を含む片側の身体に及ぶのかで、考えるべき病変の局在が変わります。ただし、分布は診断の手掛かりであり、それだけで確定診断できるわけではありません。疼痛、筋力低下、反射の変化、発症速度などと合わせて解釈します。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 単一の末梢神経に沿う感覚低下 | 単神経障害を考える。手根管症候群、尺骨神経障害、腓骨神経障害などが鑑別となる。 | 感覚分布だけでなく、対応する筋力低下や圧迫との関連を確認する。 |
| 皮膚分節に近い帯状の感覚障害 | 神経根障害を考える。頸部痛や腰痛、放散痛を伴う場合がある。 | 神経根に対応する筋力と反射、脊柱の動きによる症状変化も評価する。 |
| 一肢内で複数の神経領域に及ぶ障害 | 神経叢障害などを検討する。単一の末梢神経障害より広い分布を取り得る。 | 疼痛、外傷歴、運動障害を含めて局在を検討する。 |
| 両足などに左右対称の末端優位の障害 | 多発神経障害を考える。糖尿病、薬剤・毒性物質、代謝性疾患などを検討する。 | 手袋靴下型の分布、腱反射低下、基礎疾患や薬歴が手掛かりとなる。 |
| 顔面と上下肢を含む片側の感覚消失 | 脳病変を考える。急性発症では脳卒中などを除外する必要がある。 | 筋力、言語、視覚などの障害の有無を確認し、緊急性を判断する。 |
| 体幹の一定の高さより下の両側性障害 | 脊髄病変を考える。感覚レベル、運動障害、自律神経症状を評価する。 | 新たな筋力低下や膀胱直腸障害を伴う場合は緊急評価が必要となる。 |
| 会陰部・肛門周囲の感覚低下 | 馬尾症候群や脊髄円錐症候群を考える。 | 尿閉、失禁、排便機能の変化、下肢筋力低下を確認する。 |
例えば、「手の一部がしびれる」という同じ訴えでも、特定の指や手掌の範囲に限局する場合と、頸部から上肢への放散痛を伴う場合では、単神経障害と神経根障害の検討の重みが変わります。一方、顔面と同側の上下肢に突然感覚低下が出現した場合は、局所の末梢神経圧迫として扱うべきではありません。患者が指で示した範囲だけでなく、関連する部位に症状がないかを確認する姿勢が必要です。
左右対称の末端優位の感覚低下では、糖尿病だけに原因を固定しないことも大切です。慢性腎臓病、ビタミンB12欠乏、薬剤や毒性物質への曝露、飲酒などが鑑別に入ります。既に糖尿病と診断されている患者でも、明らかな非対称性、急速な進行、目立つ筋力低下などがあれば、症状の分布と経過に立ち返り、別の病態を含めて再評価します。
皮膚の一部に感覚がないという訴えでは、詳細な原因検索に先立って緊急性を判断します。突然発症した感覚低下、急速に進む筋力低下、呼吸困難、会陰部の感覚消失や膀胱直腸障害は、警戒すべき所見です。「範囲が狭い」「痛みがない」という理由だけで、経過観察に振り分けることは適切ではありません。
参考)しびれ - 09-脳-脊髄-末梢神経の病気 - MSDマニュ…
特に馬尾症候群では、失禁だけを尋ねて評価を終えないことが重要です。膀胱機能の障害には尿閉も含まれ、会陰部の感覚低下、下肢の筋力低下、排便機能の変化が組み合わさることがあります。新たなサドル領域の感覚変化を認めた場合は、腰痛の強さだけで緊急性を判断せず、排尿・排便の変化を具体的に確認します。
警戒すべき徴候がある患者には、直ちに医療機関での評価が必要です。一方、明らかな警戒徴候がない場合も、「危険ではない」と断定するのではなく、持続時間、進行性、機能障害、既往歴に応じて受診時期を判断します。患者指導では、新たな筋力低下や急速な症状拡大、呼吸困難、会陰部の感覚変化、排尿・排便障害が出た際の行動を明確に伝えます。
MSD Manual Professional Edition:Cauda Equina Syndrome
問診は、患者自身の言葉で症状を説明してもらうところから始めます。「いつ始まったか」「突然か徐々にか」「持続するか断続的か」「どの範囲にあるか」「広がっているか」を確認し、外傷、四肢の圧迫、不自然な姿勢での睡眠などとの関連を調べます。頸部痛・背部痛、発熱、筋力低下、視覚や言語の障害、排尿・排便の変化など、鑑別に関係する随伴症状も尋ねます。
既往歴では糖尿病、腎疾患、甲状腺疾患、がん、感染症などを確認し、薬歴には処方薬だけでなくサプリメントも含めます。抗がん薬などの神経障害を起こし得る薬剤、飲酒、職業上の毒性物質への曝露も重要です。ビタミンB6の過剰摂取によって感覚障害が起こる可能性もあるため、「ビタミンなら安全」という前提で情報を省かないようにします。
身体診察では、触覚だけでなく、必要に応じて痛覚、温度覚、振動覚、位置覚を評価し、筋力と反射の所見を組み合わせます。感覚検査は患者の応答に依存する主観的な側面があり、障害範囲の境界を常に明確に引けるわけではありません。検査結果を単に「感覚あり・なし」と記録するのではなく、評価した感覚の種類、左右差、範囲、随伴する運動・反射所見を整理することが、局在診断に役立ちます。
糖尿病患者の足では、防御感覚の評価が足病変のリスク把握に重要です。10gモノフィラメントによる検査、128Hz音叉による振動覚評価に加え、温度覚や痛覚、歩行・バランスの評価が用いられます。モノフィラメント検査は足の防御感覚を評価する手段であり、その結果だけで全身の感覚障害の原因を確定するものではありません。
参考)How Can Health Care Profession…
追加検査は、疑われる局在と病態に応じて選択します。末梢神経障害や神経根障害では神経伝導検査・筋電図が検討され、脳・脊髄の病変ではMRIなどの画像検査が中心になります。神経根障害でも、臨床所見から構造的な病変が疑われればMRIが検討されます。すべての患者に同じ検査セットを適用するのではなく、診察で得られた仮説に基づいて検査を組み立てます。
多発神経障害が疑われる場合には、血糖・HbA1c、腎機能、ビタミンB12、甲状腺機能などを含む血液検査を検討します。ただし、必要な項目は症状、既往、薬歴、診察所見によって異なります。採血だけで局所の圧迫性神経障害や脳・脊髄病変を除外することはできないため、検査値と神経学的所見を切り離さずに解釈します。
治療の基本は、感覚障害を起こしている基礎疾患への対応です。末梢神経の圧迫、代謝性疾患、栄養障害、薬剤性の神経障害、脳・脊髄の病変では、必要な治療が異なります。神経障害性疼痛の治療薬が症状の軽減に役立つ場合はありますが、感覚がないという訴えを一律に疼痛治療へ置き換えるのではなく、原因検索を先行させる必要があります。
原因の評価と並行して、感覚低下部位の保護を行います。痛みや温度変化を感じにくい場合、熱傷や皮膚損傷に気付かず、対応が遅れる可能性があります。手の感覚が低下した患者には、熱い可能性のある物や鋭利な物を扱う際の注意を伝えます。足の感覚が低下した患者には、靴下と足に合った靴を使用し、履く前に靴の中の異物を確認するよう説明します。
糖尿病性末梢神経障害では、足の感覚低下により圧迫や外傷を自覚できず、水疱や潰瘍につながることがあります。患者には足を毎日確認し、傷、腫れ、水疱などの変化があれば医療者に相談するよう指導します。また、少なくとも年1回の足の包括的な評価では、感覚だけでなく、皮膚の状態や血流も確認します。「痛くないから問題ない」という判断が足病変の発見を遅らせないよう、目で確認する習慣を支援します。
例えば、足底の感覚が低下している糖尿病患者が「靴擦れはあるが痛くない」と話した場合、疼痛の欠如を安心材料にしてはいけません。感覚低下によって外傷を認識しにくいことを説明し、皮膚状態と靴の適合を評価する必要があります。感染や足潰瘍が見逃されるリスクを踏まえ、傷の変化を観察する方法と、異常を見つけた際の相談先を具体的に伝えます。
感覚障害が歩行や日常生活に及ぼす影響も確認します。位置覚の低下や広範な感覚消失では歩行が不安定となり、転倒のリスクが上がることがあります。必要に応じて理学療法士による歩行訓練や転倒予防を検討し、運転技能への影響も評価します。皮膚の一部に感覚がないという訴えは、原因疾患の診断だけでなく、本人が気付けない外傷を防ぎ、安全に生活できるよう支援する視点まで含めて対応することが重要です。