

「血糖値測定器針なし精度」を調べる際、最初に確認したいのは、その機器が何を測定しているかです。皮膚を穿刺せずに血糖値を測れると宣伝する腕時計・指輪型機器と、皮下にセンサーを挿入する持続グルコースモニタリング(CGM)は、同じ種類の機器ではありません。指先から毎回採血しなくてよいことと、装着時を含めて皮膚への穿刺が一切ないことを区別する必要があります。
pmda.go(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiDetail/ResultDataSetPDF/100159_30300BZX00119000_B_01_02)
例えば、FreeStyleリブレ2の電子添文では、皮下に挿入されたセンサー先端の酵素が間質液中のグルコースと反応し、その際に発生する電流を利用して濃度を測定すると説明されています。装着用アプリケーターには針が含まれ、装着後は皮下のセンサーが測定を続けます。したがって、毎回の指先穿刺を減らせる仕組みではありますが、完全非侵襲型ではありません。
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ここでいう間質液とは、細胞の周囲にある体液です。指先の血糖自己測定(SMBG)が血液を試料とするのに対し、このタイプのCGMは間質液のグルコース濃度を測定します。両者は関連しますが、同じ場所の同じ試料を測っているわけではなく、生理学的な違いによって数値に差が生じます。患者説明では「血糖値と無関係な数値」でも「指先血糖と必ず一致する数値」でもないことを伝えます。
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一方、米国食品医薬品局(FDA)は2024年2月21日の安全性情報で、皮膚を穿刺せず、単独で血糖値を測定・推定するスマートウォッチやスマートリングについて、同局が承認・認可した製品はないと説明しました。これは同安全性情報に記載された米国の規制状況であり、日本や世界全体の承認状況を一括して断定するものではありません。また、承認されたCGMから受信したデータを時計に表示する機能とは区別されています。
fda(https://www.fda.gov/medical-devices/safety-communications/do-not-use-smartwatches-or-smart-rings-measure-blood-glucose-levels-fda-safety-communication)
FDA:血糖測定をうたうスマートウォッチ・スマートリングに関する安全性情報
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| MARD | 参照測定値に対する絶対相対差の平均 | |
| ISO 15197:2013の基準A | 参照値100mg/dL未満では±15mg/dL以内、100mg/dL以上では±15%以内に、測定結果の95%以上が入る | |
| ISO 15197:2013の基準B | 測定結果の99%以上がコンセンサスエラーグリッドのA・B領域に入る | |
| 濃度域別の性能 | 低血糖域、通常域、高血糖域などに分けて結果を確認する | |
| 試験条件と参照測定法 | 対象者、比較に使った検査法、測定条件などを確認する |
CGMと指先血糖の差は、必ずしも故障だけを意味しません。血液と間質液ではグルコースの変動が完全には一致せず、変化している最中には差が生じ得ます。このため、センサー値と指先血糖を比較する際は、測定時刻や変動の方向を無視せずに解釈します。表示された数値を、常に同時刻の血液中グルコース濃度そのものとして扱うことは適切ではありません。
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機器側や装着状態の問題にも注意が必要です。FreeStyleリブレ2の電子添文では、装着後12時間はセンサーによる測定値と血糖値との差が大きくなる場合があるとされています。また、発汗やセンサーの動きによって固定が緩むと、測定結果が得られなかったり、自覚症状と一致しない信頼性の低い結果になったりするおそれがあります。これらは同製品の注意事項であり、時間条件などを他製品に一律に当てはめないことが重要です。
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医療従事者が患者に伝える際には、「承認されたセンサーだから、どのような状況でも指先測定が不要」という説明を避けます。どの場面で確認測定が必要になるかを事前に共有し、患者が測定器と消耗品を使用できる状態にしておくことが大切です。FreeStyleリブレ2の電子添文でも、アプリ使用時に血糖測定器を使用できるようにしておくことが求められています。
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PMDA:FreeStyleリブレ2センサーの電子添文
具体例として、PMDAに掲載されたFreeStyleリブレ2センサーの電子添文には、海外臨床試験の正確性評価が記載されています。この試験は5施設、計146人の糖尿病患者を対象に行われ、被験者は左右の上腕後ろ側にセンサーを装着しました。参照値には、YSI分析装置による静脈血血漿検体のグルコース測定値が用いられています。
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同資料では、参照値に対するMARDは9.2%、コンセンサスエラーグリッドのゾーンAに該当する割合は93.2%と報告されています。ここで示されるのは、記載された試験条件と参照測定法の下での性能です。「精度90.8%」という正答率に置き換えたり、個々の測定が必ず9.2%以内の誤差に収まると説明したりすることはできません。
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また、この数値は、完全非侵襲型の腕時計や指輪の精度を裏付けるものではありません。皮下センサーを用いた機器の試験成績を、測定原理の異なる製品の宣伝材料として転用することはできないためです。患者が提示した広告にMARDの数字がある場合は、その数字が購入予定の製品そのものを評価した試験から得られたのか、対象機器と出典を照合する必要があります。
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製品内の仕様差にも注意します。FreeStyleリブレ2の電子添文では、ReaderのソフトウェアバージョンによってReaderとアプリの間で性能が異なる場合があるとされています。「同じシリーズ名だから評価データもすべて共通」とせず、実際に使用するセンサー、Reader、アプリの組み合わせに対応した資料を確認してください。
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さらに、糖尿病患者を対象とした正確性試験の結果だけで、健康な人における糖尿病の診断や、あらゆる集団への適用まで証明されたことにはなりません。同製品の電子添文でも、測定結果に基づく臨床診断は、臨床症状や他の検査結果と合わせて医師が総合的に判断するとされています。機器の正確性と、診断目的で使用できるかどうかは分けて考えます。
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患者から「針なしの血糖測定時計を買いたい」と相談されたら、まず製品名、メーカー名、型番、広告に書かれた測定方式を確認します。皮膚を穿刺せず単独で血糖値を推定する機器なのか、皮下センサーの測定値を受信して表示するだけの端末なのかで、説明の前提が変わるためです。FDAの注意喚起も、この二つを明確に区別しています。
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安全性の観点で中心になるのは、未承認の機器による不正確な値を治療判断に使うリスクです。FDAは、誤った血糖値に基づいてインスリンやスルホニル尿素薬などを過量に使用すると、危険な低血糖を起こし、意識障害、昏睡、死亡につながる可能性があると警告しています。同局は、血糖測定をうたう該当のスマートウォッチやスマートリングを購入・使用しないよう勧告しています。
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国内での機器選定では、広告の「高精度」「医療レベル」という表現だけでなく、使用する製品に対応した承認情報と電子添文を確認する運用が必要です。例えばFreeStyleリブレ2センサーの電子添文には承認番号、使用目的、対象年齢、使用上の注意、臨床成績が記載されています。承認されているという事実だけでなく、誰に、何の目的で、どのような条件の下で使用する機器なのかまで確認します。
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患者への説明では、専門用語を並べるより、「このタイプは毎回指先に針を刺す必要を減らせますが、装着時には皮膚にセンサーを入れます」「血液ではなく皮下の間質液を測るため、指先の値と違うことがあります」「体調と表示が合わないときには、指先で確認します」と、測定原理と具体的な行動を結び付けると整理できます。薬剤の調整は、機器の表示だけを根拠に患者が独断で行うのではなく、主治医の指示に従うことを共有します。
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針なし血糖値測定器の精度を評価する核心は、測定原理を確かめたうえで、承認された使用目的、参照測定法、濃度域別の性能、症状と一致しない場合の対応を一体として読むことです。負担を減らす利便性と、治療判断に必要な信頼性は別々に確認しなければなりません。MARDの小ささや広告上の「針なし」という言葉だけに判断を委ねず、実際に使う製品の資料と患者の状態に基づいて、安全な測定方法を選択することが求められます。
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