鼻カニューレの酸素療法|流量設定と観察の実践ガイド

鼻カニューレの酸素療法|流量設定と観察の実践ガイド

鼻カニューレによる酸素療法について、成人の流量設定、目標SpO2、装着時の観察、加湿、急変時の対応を解説します。通常の鼻カニューレとHFNCの違いも含め、医療従事者が安全な管理のために確認すべき点は何でしょうか?

鼻カニューレによる酸素療法の基礎知識と実践ガイド

鼻カニューレ酸素療法の安全管理の基本
流量ではなく目標SpO2で管理する

流量だけで酸素投与の適否を判断せず、患者ごとの目標SpO2と呼吸状態を照合して調整します。

装着状態と患者の変化を確認する

カニューレのずれや回路の異常を確認し、呼吸数、努力呼吸、意識状態も合わせて評価します。

低流量療法とHFNCを区別する

通常の鼻カニューレとHFNCは別のシステムです。改善が乏しい場合は呼吸補助の再評価が必要です。

鼻カニューレで酸素を投与する目的と基本的な仕組み



一般的な鼻カニューレは低流量酸素投与システムに分類されます。供給された酸素に周囲の空気が混ざって吸入されるため、流量計に表示された値が、そのまま吸入酸素濃度を意味するわけではありません。吸入酸素濃度であるFiO2は、患者の吸気流量や呼吸パターンなどによって変化します。そのため、同じ流量でも患者ごとに得られる酸素化は異なり、推定濃度だけで治療効果を判断することはできません。


参考)https://www.aarc.org/wp-content/uploads/2020/03/oxygen_algorithm.pdf

酸素流量と目標SpO2の考え方|一律の設定を避ける


項目 基準・内容 備考
通常の鼻カニューレの流量 成人では1~6L/分が一般的な使用範囲として示される 流量だけでFiO2や治療効果を確定しない。
高二酸化炭素血症のリスクがない急性期患者 BTSでは目標SpO2を94~98%とする
高二酸化炭素血症性呼吸不全のリスクがある患者 血液ガス結果が得られるまでは88~92%を目安とする
高二酸化炭素血症リスク患者の初期投与例 BTSでは鼻カニューレ1~2L/分などを提示
低流量投与で目標を維持できない場合 患者を再評価し、酸素投与デバイスや呼吸補助を見直す

また、SpO2が100%になるまで流量を増やすことが、常に望ましいわけではありません。必要量を超える酸素投与を避け、目標範囲内に維持する考え方が基本です。米国呼吸療法学会(AARC)の2022年ガイドラインも、低酸素血症だけでなく過剰な酸素化への注意を示しています。


参考)https://www.aarc.org/wp-content/uploads/2022/10/cpg-clinical-mangement-adult-o2-acute-settings.pdf

装着時と投与中の観察|SpO2だけで安全と判断しない

  • 処方内容:目標SpO2、投与デバイス、流量、調整できる範囲、報告が必要な条件を確認する。
  • 投与経路:カニューレの脱落や位置ずれ、チューブの外れ・屈曲・圧迫、供給源との接続状態を確認する。
  • 酸素化:SpO2の数値に加え、測定信号の状態や、投与条件を変更した前後の推移を確認する。
  • 呼吸状態:呼吸数、呼吸の深さ、努力呼吸、会話のしやすさ、患者が訴える呼吸困難を確認する。
  • 全身状態:意識状態、脈拍、血圧などを合わせて評価し、傾眠や新たな混乱を見逃さない。
  • 装着による負担:鼻腔の乾燥や痛み、鼻出血、鼻周囲や耳介への圧迫、患者の不快感を確認する。

加湿と鼻腔・皮膚のケア|乾燥と不快感への対応

鼻カニューレで酸素を投与するとき、加湿を全例で行うべきかは、流量や使用期間、患者の症状によって考えます。BTSの2017年ガイドラインは、低流量の酸素投与ではルーチンの加湿は不要としています。一方、AARCの2022年ガイドラインでは、4L/分を超える酸素投与で、患者の快適性を改善するために加湿を検討するとしています。したがって、「鼻カニューレなら必ず加湿する」「何L/分でも加湿は不要」と単純化しないことが重要です。


AARCの加湿に関する推奨は、死亡率などの改善が確立しているという意味ではありません。同ガイドラインでは、快適性の改善を目的とした検討事項として位置付けられており、エビデンスの限界もあります。実務では、鼻腔の乾燥、痛み、不快感、使用期間を確認し、機器との適合性や施設の感染管理手順を踏まえて判断します。


また、流量の目安と製品の使用条件は区別してください。PMDAで公開されている「MMI 酸素カニューラ」の添付文書では、4L/分を超えて使用する場合、不快感を最小限に抑えるために加湿器の使用を推奨しています。このような製品固有の記載があるため、一般的なガイドラインだけでなく、実際に使用しているカニューレの添付文書を確認する必要があります。


参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/bookSearch/01/04946306043166
鼻腔や皮膚のトラブルがある場合は、酸素療法を継続する必要性を踏まえながら、装着位置、固定の強さ、器具の適合性、加湿の必要性を見直すという順序で評価します。不快感のために患者が器具を外してしまうと、処方どおりの酸素投与が維持できません。酸素化だけでなく、患者が継続して使用できるかもデバイス選択の重要な要素です。AARCも、酸素投与機器の選択では快適性と必要な酸素投与量を考慮すると説明しています。


AARC:成人急性期患者の酸素療法に関する2022年診療ガイドライン
PMDA:MMI 酸素カニューラの添付文書

改善しない場合の対応とHFNCとの違い・火気管理

ここで区別したいのが、通常の鼻カニューレとHFNCです。HFNCは高流量鼻カニューレ療法を指し、加温・加湿されたガスを専用システムで供給する呼吸補助です。通常の鼻カニューレの流量を単に増やすことと、HFNCを導入することは同じではありません。AARCのガイドラインは、患者の臨床状態に応じたHFNCの早期導入を支持していますが、すべての患者で通常の酸素療法より優れると結論付けているわけではありません。


酸素療法の安全管理では、火気への対応も欠かせません。酸素はそれ自体が燃料なのではなく、燃焼を強く助ける性質があります。酸素供給中のカニューレやチューブの近くに火気があると、火が急激に大きくなる危険があります。PMDA掲載の添付文書は、酸素供給システムに接続したカニューレの周囲2m以内に火気を置かないよう警告しています。


在宅酸素療法への移行時は、患者だけでなく家族にも具体的に説明します。厚生労働省は、酸素濃縮装置等の使用中は装置の周囲2m以内に火気を置かないこと、特に酸素吸入中は絶対に喫煙しないことを注意喚起しています。鼻カニューレによる酸素療法は身近な治療ですが、目標SpO2に基づく投与、呼吸・意識状態の観察、機器の適正使用、火気管理を一体として行う必要があります。


参考)在宅酸素療法における火気の取扱いについて|厚生労働省
厚生労働省:在宅酸素療法における火気の取扱いについて




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