

ハイリスク薬とは、特に安全管理が必要な医薬品を指します。単に「副作用が多い薬」をまとめた呼称ではなく、投与量や投与方法を誤った場合の影響、治療有効域の狭さ、相互作用、休薬期間の管理、定期的な検査の必要性などを踏まえて、よりきめ細かな薬学的管理を必要とする薬剤として捉えることが重要です。日本薬剤師会の「薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン」第2.1版は、2026年6月に公表され、薬局で扱うハイリスク薬を三つの分類で整理しています。
参考)https://www.nichiyaku.or.jp/files/co/pharmacy-info/high_risk_guideline_2.1.pdf
第一の分類は、医薬品の安全使用に関する業務手順書の作成マニュアルで「特に安全管理が必要な医薬品」とされるものです。投与量に注意が必要な薬、休薬期間が設けられた薬、併用禁忌や多数の相互作用に注意する薬、重篤な副作用を避けるため定期検査を必要とする薬などが含まれます。注射薬では、呼吸抑制に注意するもの、投与量を単位で設定するもの、血管外漏出によって皮膚障害を起こすものも対象になります。
第二の分類は、抗悪性腫瘍薬や免疫抑制薬など、投与時に特に注意が必要と考えられる薬効群です。第三の分類は、治療有効域が狭い、薬物動態の個人差が大きい、不適切な使用で重大な健康被害が生じる可能性がある、といった性質を持つ医薬品です。したがって、ハイリスク薬一覧は薬効群の名前だけで完結するものではなく、個々の薬剤の性質と患者背景を組み合わせて使用する必要があります。
ここで特に重要なのが、対象範囲の区別です。安全管理上のハイリスク薬と、調剤報酬の特定薬剤管理指導加算における対象薬剤は、必ずしも一致しません。ガイドラインに掲載されていることだけを根拠に算定対象と判断せず、保険請求では適用時点の通知、算定要件、疑義解釈などを別途確認します。逆に、加算の対象外であることを理由に、安全管理を不要と判断してはいけません。
日本薬剤師会:ハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン第2.1版
以下は、日本薬剤師会の第2.1版で「投与時に特に注意が必要」と整理されている12の薬効群を中心とした一覧です。全商品名を網羅するリストではなく、医師、薬剤師、看護師が安全管理上の確認項目を整理するための薬効群別一覧として使用してください。具体的な用法・用量、禁忌、検査項目、投与方法は、対象製剤の最新の電子添文と患者の治療計画で確認します。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 抗悪性腫瘍薬 | レジメンとの整合性、投与期間、休薬期間、副作用の初期症状、支持療法を確認する。 | 外来化学療法との併用時は、医療機関から提供された治療情報も照合する。 |
| 免疫抑制薬 | 投与スケジュール、感染症の発症・悪化に関する注意事項、併用薬や飲食物との相互作用を確認する。 | 血中濃度測定が必要な薬剤では、医療機関と測定結果を共有する。 |
| 不整脈用薬 | 最近の発作状況、ふらつきや動悸、催不整脈、QT延長に関係する併用薬を確認する。 | 治療効果の確認と、副作用としての不整脈の確認を区別する。 |
| 抗てんかん薬 | 服薬状況、最近の発作、相互作用、必要に応じた血中薬物濃度や検査結果を確認する。 | 症状の有無だけでなく、継続して適切に服用できているかを確認する。 |
| 血液凝固阻止薬 | 出血兆候、併用薬、処置前後の休薬・再開指示、DOACの製剤別用量条件を確認する。 | DOACでは年齢、体重、腎機能、相互作用など、該当製剤の条件に沿って評価する。 |
| ジギタリス製剤 | 食欲不振、悪心・嘔吐、めまい、不整脈などの中毒症状と相互作用を確認する。 | 必要に応じて血中濃度、腎機能、電解質などの情報を医療機関と共有する。 |
| テオフィリン製剤 | 悪心・嘔吐、けいれん、頻脈、併用薬、喫煙やカフェイン摂取状況を確認する。 | 小児、特に乳幼児では、発熱時の対応についても指導する。 |
| 精神神経用薬 | 服薬状況、錐体外路症状、悪性症候群、セロトニン症候群、転倒リスクなどを確認する。 | ガイドラインの分類にはSSRI、SNRI、抗パーキンソン薬も含まれる。 |
| 糖尿病用薬 | 血糖値やHbA1c、低血糖への対応、服薬状況、シックデイ時の対応を確認する。 | 注射製剤では、製剤に応じた注射手技や保管方法も確認する。 |
| 膵臓ホルモン剤 | 低血糖の症状と対処、投与状況、注射手技、保管方法、注射針の取り扱いを確認する。 | 血糖値などの情報と、患者が実際に行っている投与方法を照合する。 |
| 抗HIV薬 | 服薬時間と生活習慣の適合、相互作用、副作用の初期症状、服薬継続状況を確認する。 | アドヒアランス低下による薬剤耐性出現のリスクについて説明する。 |
| 催眠鎮静薬 | 睡眠状況、残薬、重複処方、過剰使用、依存傾向、転倒・転落リスクを確認する。 | 生活習慣や環境改善を含む睡眠衛生指導も行う。 |
上表の12薬効群と確認事項は、日本薬剤師会第2.1版の分類と薬学的管理指導項目に基づいています。薬効群内のすべての薬で同じ副作用が同じ頻度で起こるという意味ではありません。実務では、薬効群に共通する項目を入口とし、対象薬剤の電子添文、患者の併用薬、臓器機能、生活環境に合わせて確認内容を絞り込みます。
なお、上表に独立した薬効群として載っていない薬剤でも、投与方法を誤ると重大な事故につながるものは安全管理の対象です。例えばカリウム注射製剤は、希釈せずにワンショット静注すると、不整脈や心停止を起こすおそれがあるとPMDAが注意喚起しています。「12薬効群に入っているか」だけで危険性を判断せず、注射薬の特性も含めて施設の一覧を作成することが必要です。
ハイリスク薬の薬学的管理では、薬の説明をした事実だけでなく、患者が正しく使用できているか、治療効果が得られているか、副作用の兆候がないかを継続して確認します。日本薬剤師会の第2.1版は、薬効群に共通する確認事項として、次の五つを示しています。施設内のチェックリストや薬歴テンプレートも、この五項目を土台にすると整理しやすくなります。
問診では、「問題ありませんか」と一括して尋ねるだけでなく、薬効群に応じて具体的な症状を質問します。例えば、血液凝固阻止薬ではあざや歯茎からの出血、ジギタリス製剤では食欲不振や悪心、不整脈用薬ではふらつきや動悸などを確認します。薬剤の影響を疑うためには、症状だけでなく、発現時期、処方変更との関係、併用薬の追加などの情報も整理することが重要です。
患者への説明は、注意事項を一方的に読み上げて終わらせないことが大切です。ガイドラインは、重要な情報を反復し、理解度を確認することを求めています。実務上は「次に飲む日を教えてください」「飲み忘れたときは、どう対応する予定ですか」と患者自身の言葉で説明してもらう方法が考えられます。理解できていない点があれば、服薬カレンダーや薬剤情報提供文書を使って補足します。
また、服薬管理能力は患者本人だけの問題ではありません。家族の支援、介護サービスの利用、生活時間、心理状態などによって、実行できる方法は変わります。在宅医療や介護では、医療従事者とケア提供者が、副作用の初期症状や対処方法を共有して継続的に観察する体制を整えます。
休薬期間の誤認は、ハイリスク薬で特に注意すべき事故要因です。抗リウマチ薬として用いるメトトレキサート内服製剤は、休薬期間を必要とする特殊な服用方法であり、誤って連日服用すると、骨髄抑制などの重篤な副作用が生じるおそれがあります。PMDA医療安全情報No.49は、入院患者の持参薬に服薬日時の記載がなく、連日配薬してしまった事例を紹介しています。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000214827.pdf
メトトレキサートの確認では、「週に使う薬」といった曖昧な情報だけでは不十分です。処方された一週間のスケジュールに沿って、服用する曜日、時刻、各回の量、休薬期間を明確にします。PMDAは、薬剤交付時や配薬時に服薬日時欄へ記入すること、服用間違いを防ぐ資材を活用すること、長年服用している患者にも理解度に応じた指導を繰り返すことを勧めています。
残薬にも注意が必要です。PMDAの資料には、過去に処方されたメトトレキサートの残薬を患者が自己判断で連日服用した事例が掲載されています。そのため、現在の処方を確認するだけでなく、家庭内に残っている薬の有無と管理方法も確認します。なお、この注意喚起は抗リウマチ薬としての内服使用に関するものであり、他の適応や治療レジメンへ同じ用法を一律に当てはめてはいけません。
PMDA医療安全情報No.49:抗リウマチ薬メトトレキサート製剤の誤投与について
注射薬では、薬剤名と総投与量が正しくても、希釈や投与速度の誤りが重大な事故につながります。カリウム注射製剤については、希釈せずにワンショット静注する危険性を施設内で共有する必要があります。日本医療機能評価機構の医療安全情報No.221も、急速静注による心停止の危険を示し、希釈方法の施設内での統一や、プレフィルドシリンジの薬液を注射器へ移し替えないことを注意喚起しています。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000144382.pdf
カリウム製剤の投与量、希釈濃度、投与速度については、製剤の電子添文と施設の手順に従って確認します。一律の数値を一覧表に記載して、それだけで投与可否を判断する運用は避けるべきです。安全管理では、処方、調製、投与の各段階で、必要な確認事項と責任分担を明確にし、実際に使用する製剤に対応した手順へ落とし込みます。
PMDA医療安全情報No.19:カリウム製剤の誤投与について
日本医療機能評価機構:カリウム製剤の急速静注に関する医療安全情報
ハイリスク薬一覧は、掲示して終わりにせず、患者ごとの評価と記録につなげる必要があります。日本薬剤師会の第2.1版は、体重、身長、腎機能、肝機能など、処方箋だけでは分からない情報を収集し、必要に応じて薬物動態学的な評価に活用することを示しています。検査値を確認する際は、値だけでなく、いつの情報か、現在の治療状況を反映しているかも整理して評価します。
薬歴には「副作用説明済み」という定型文だけでなく、何を質問し、患者がどう答え、どのように評価したかを記録します。例えば血液凝固阻止薬であれば、出血症状の聴取結果、処置の予定、休薬・再開指示の確認状況などを残すと、次回の継続評価に利用できます。ガイドラインは、副作用が認められなかった場合も、確認して異常がなかったことを記録するよう求めています。
施設内の一覧を作成する際は、薬効群だけでなく、採用薬の名称、剤形、主な確認事項、必要な検査情報、患者への説明事項を対応させると実務に使いやすくなります。さらに、一覧の目的が「安全管理」なのか「報酬対象の確認」なのかを明示し、両者を混同しない設計にします。ガイドラインでも、薬局内で一覧表を作成して注意喚起するとともに、定期的な研修を行うことが勧められています。
継続処方であっても、毎回同じ説明を機械的に繰り返すだけでは十分とはいえません。最近の症状、服薬状況、併用薬、生活環境を確認し、新たに生じた問題に合わせて指導内容を調整します。また、処方箋応需時だけでなく、服薬期間中の効果や副作用を確認するためのフォローアップを検討し、問題があれば処方医へ情報提供や疑義照会を行います。
入退院や施設への入所など、療養場所が変わるときも重要な確認機会です。入院中に行われた指導、休薬や再開に関する注意事項、他院の処方薬、患者の理解状況を共有し、薬物治療が適切に継続されるようにします。特に休薬期間を伴う薬剤では、持参薬の残量や最終服用日を含め、次の投与判断に必要な情報が伝わるよう整理することが実務上のポイントです。
本記事の一覧は、2026年6月公表の日本薬剤師会第2.1版を中心に、安全管理の観点から整理したものです。個別患者への投与判断を代替するものではありません。具体的な使用に際しては、最新の電子添文、治療計画、患者の状態、施設の業務手順を照合し、報酬請求については別途、適用時点の算定要件を確認してください。