バッグバルブマスクの使い方と換気管理の実践ガイド

バッグバルブマスクの使い方と換気管理の実践ガイド

バッグバルブマスクの構造と適応から、成人の換気回数、二人法、胸郭挙上の評価、換気困難時の対応まで医療従事者向けに解説します。過換気や胃膨満を防ぎ、急変時に有効な換気を届けるには、何を確認すべきでしょうか?

バッグバルブマスクの基礎知識と安全な換気の実践ガイド

バッグバルブマスクの安全な換気の要点
気道確保と密着が換気の土台

気道の開通とマスクの密着を優先し、可能なら二人法で役割を分担して、有効な胸郭挙上を確認します。

換気回数は患者の状態で区別

成人の脈拍がある呼吸停止と心停止を区別し、高度な気道確保の有無に応じた回数とタイミングを選びます。

過換気を避けて効果を再評価

胸が見て分かる程度に上がる量を目安とし、過大な送気を避けながら、漏れや閉塞を繰り返し評価します。

バッグバルブマスクとは:構造・役割・適応を理解する



バッグバルブマスクは、自己膨張式バッグ、患者側の一方向弁、フェイスマスクを組み合わせ、用手的に陽圧換気を行う器具です。英語のbag-valve-maskを略してBVMと呼びます。バッグを圧迫すると患者側へガスが送られ、圧迫を解除するとバッグが再膨張します。呼吸停止や重度の換気不全に対して迅速に換気を補助し、必要に応じて気管挿管などの気道管理へつなぐ役割があります。


参考)How To Do Bag-Valve-Mask (BVM)…
酸素マスクが主に自発呼吸を利用して酸素を投与するのに対し、バッグバルブマスクは介助者が送気して換気を成立させる点が異なります。ただし、マスクを顔に当ててバッグを押すだけで肺にガスが届くわけではありません。舌根や分泌物による気道閉塞がある、顔面とマスクの間からガスが漏れるといった状態では、有効な換気を得られません。実践で中心となるのは気道確保であり、マスクの密着と適切な送気を同時に成立させる必要があります。


主な適応は、無呼吸、呼吸不全、切迫する呼吸停止、および確実な気道確保を行うまでの一時的な換気補助です。心停止時にも用いますが、器具の準備に時間をかけて胸骨圧迫や除細動を遅らせてはいけません。医療従事者は反応がなく正常な呼吸を認めない成人について、脈拍を10秒以内に確認し、確実に触知できなければ心停止として蘇生を開始します。死戦期呼吸を正常な呼吸と誤認しないことも重要です。


本記事は、主として成人への基本的なバッグマスク換気を扱います。換気条件はAHA 2025の推奨を明示して整理しており、日本の施設で運用する際は、採用しているJRCガイドライン、院内手順、実機の添付文書との整合性を確認してください。JRC蘇生ガイドライン2025は、2026年7月13日に書籍版が発刊されています。


参考)JRC蘇生ガイドライン2025 - JRC 日本蘇生協議会
日本蘇生協議会:JRC蘇生ガイドライン2025の案内

使用前の準備と換気条件:酸素流量・回数・送気量の目安

準備では、患者に合ったサイズのバッグとマスク、酸素源、酸素チューブ、リザーバー、吸引器、必要な気道補助器具、モニターを確認します。マスクは鼻と口を覆い、眼にかからず、顔面との密着を得られるサイズを選びます。組み立て後と使用前には、製品の取扱説明書に従ってバッグの再膨張、弁の動作、接続部、破損の有無などを点検します。外観に問題がなくても、機能点検で異常があれば使用しない判断が必要です。


成人の救急換気では、酸素源を15L/分で準備する方法が一般的な実技資料に示されています。ただし、「15L/分なら必ず吸入酸素濃度100%になる」とは限りません。酸素供給下で最大100%の酸素濃度を提供できる製品はありますが、実際の供給条件は機種やリザーバーの構成などによって異なります。酸素流量だけで判断せず、使用製品の仕様、接続状態、リザーバーの充満状態を確認します。



参考)https://cpr.heart.org/en/resuscitation-science/cpr-and-ecc-guidelines/adult-basic-life-support






参考)https://cpr.heart.org/en/resuscitation-science/cpr-and-ecc-guidelines/pediatric-basic-life-support

項目 基準・内容 備考
成人:脈拍はあるが正常に呼吸していない AHA 2025では6秒に1回、毎分10回の換気が妥当とされる 胸郭挙上を確認し、循環状態も再評価する。
成人:心停止で高度な気道確保なし 基本は胸骨圧迫30回と人工呼吸2回を組み合わせる 人工呼吸のための胸骨圧迫中断を最小限にする。
成人心停止時の1回の送気時間 約1秒かけて送気する 高度な気道確保前は、胸骨圧迫を一時中断して2回換気する。
成人の送気量の評価 胸が見て分かる程度に上がる量を目安にする バッグを毎回いっぱいまで押し切る方法は避ける。
酸素源の準備 成人の手技資料では15L/分が示されている 流量と得られる酸素濃度は、実機の仕様で確認する。
乳児・小児の換気 AHA 2025では、脈拍がある呼吸不十分例などで毎分20~30回 成人の毎分10回を一律に適用しない。出生直後の新生児蘇生とは分ける。

換気回数を覚える際は、脈拍の有無と高度な気道確保の有無をセットにします。特に「成人の換気は毎分10回」という数字だけを切り離し、高度な気道確保前の心停止患者に胸骨圧迫と無関係に適用することは避けてください。通常のバッグマスクによる成人CPRでは、30対2のサイクルと胸骨圧迫中断の最小化を基本に考えます。


AHA 2025:成人一次救命処置ガイドライン

バッグバルブマスクの使い方:二人法を中心とした実施手順

バッグマスク換気は、一人でマスク保持とバッグ圧迫を行うことも可能ですが、十分な密着と気道開通を同時に維持するには技術が必要です。AHA 2025では、成人心停止時に一人が両手で気道確保とマスクの密着を担当し、もう一人がバッグを圧迫する方法が妥当とされています。可能であれば二人法を選び、気道管理の経験が豊富な担当者がマスク側に入ります。


  • 患者の反応、呼吸、循環を評価し、応援要請と役割分担を行います。心停止であれば胸骨圧迫とAED・除細動器への対応を進め、換気の準備だけに人員が集中しないようにします。

  • 口腔内の分泌物や吐物など、換気を妨げるものを確認し、必要に応じて吸引します。上気道を開通させたうえで、患者に合ったマスクを当てます。

  • 頸椎損傷が疑われない場合は、頭部後屈・あご先挙上法などで気道を確保します。頭頸部外傷がある場合、訓練された医療従事者は頭部を伸展させない下顎挙上をまず試みます。

  • マスク保持者は両手で密着を保ち、下顎の骨性部分を持ち上げます。下顎の下の軟部組織を強く押すと、かえって気道を閉塞させるため注意します。マスクや手で眼球を圧迫しないようにします。

  • バッグ圧迫者は、マスク保持者と声を掛け合い、胸郭挙上が得られる量を滑らかに送ります。成人心停止で高度な気道確保前なら、1回約1秒で送気し、胸骨圧迫の中断を短くします。

  • 送気後は胸郭が下がることを確認します。二人とも胸の動きを観察し、漏れや抵抗、挙上不良があれば、送気の強さを増やす前に原因を再評価します。

一人法では、親指と示指でマスクを保持し、残る指で下顎を持ち上げるC-E法が用いられます。ただし、指の形を整えること自体が目的ではありません。顔面とマスクの密着、上気道の開通、実際の胸郭挙上が得られているかが評価の中心です。一人法で漏れが続く場合は、早めに援助を求めて二人法へ切り替えます。


経口・経鼻エアウェイは気道開通の補助になりますが、適応と禁忌を確認して選択します。経口エアウェイは咽頭反射が保たれている患者には適しません。また、頭蓋底骨折が疑われる場合などは経鼻エアウェイの使用に注意が必要です。器具を追加した後も、挿入位置が不適切で閉塞を悪化させていないか再評価します。


MSDマニュアル:バッグバルブマスク換気の手技

胸が上がらないときの評価:漏れ・閉塞・器具の異常を切り分ける

換気の成否は、バッグを押せたかどうかでは判断できません。まず胸郭の挙上と下降、マスク周囲の漏れ、送気時の抵抗を確認し、可能であれば呼吸音、パルスオキシメータ、カプノメトリを併用します。心停止中は末梢循環が不良なため、SpO2が正確に得られないことがあります。表示値だけを待たず、直接観察と複数の所見を組み合わせて評価することが必要です。


バッグは押せるのに胸が上がらず、顔面周囲から空気が漏れる場合は、マスクのサイズ、当てる位置、下顎の引き上げ、両手保持への変更を確認します。顔面の外傷、ひげ、歯の欠損などは密着を難しくする要因です。一方、抵抗が強くて送気しにくい場合は、上気道の閉塞や頭位の不適切さ、分泌物、器具側の閉塞などを評価します。どちらも、単に強くバッグを押すだけでは解決しないことがあります。


頭頸部外傷がある患者では頸部の不要な動きを避けますが、下顎挙上と気道補助器具を用いても気道が開通しない場合、AHA 2025は頭部後屈・あご先挙上を行うことを推奨しています。頸椎への配慮を続けながらも、酸素化と換気を成立させることが優先される場面があると理解しておきます。


気道とマスクを修正しても換気が不十分なら、酸素チューブ、バッグと患者弁の接続、弁の動作、バッグの再膨張、追加した付属品を確認します。同時に熟練者を要請し、声門上気道デバイスや気管挿管など、次の気道管理を準備します。バッグマスク換気に固執して有効な酸素化・換気が得られない時間を延ばさないことが重要です。


過換気・胃膨満を防ぐ安全管理と日常トレーニング

バッグバルブマスクの代表的な問題は、必要以上に速く、強く、多く送気してしまうことです。不適切な換気や長時間の使用では胃内に空気が入り、胃膨満を生じることがあります。過大な送気や過剰な圧は、胃膨満を通じて換気を妨げるほか、嘔吐・誤嚥や圧損傷のリスクにもつながります。胸が上がらないときほど、まず気道と密着を見直す姿勢が必要です。


成人心停止では、胸郭挙上が確認できる送気量を用い、過小換気と過換気の双方を避けます。バッグの容量は患者に毎回送るべき量ではありません。「バッグを全部つぶす」「一定の握り幅なら誰にでも適量」といった固定的な操作ではなく、胸郭の動きや漏れ、送気抵抗を見ながら調整します。送気後に胸が下がるのを確認し、次の送気を急がないことも基本です。


PEEP弁は呼気終末に陽圧を維持し、肺胞の虚脱を減らして酸素化を改善する目的で用いられます。ただし、静脈還流を減少させる可能性があり、低血圧や前負荷依存の患者では慎重な判断が必要です。すべてのバッグマスク換気に機械的に追加するのではなく、患者の病態、循環状態、施設の手順を踏まえて使用します。


感染対策では、想定する感染経路と施設基準に応じた個人防護具を使用し、マスクの密着を保つ操作を徹底します。フィルターやPEEP弁などを追加する場合は、製品との適合性、正しい接続位置、機能への影響を添付文書で確認し、組み立てた状態で点検します。また、単一患者使用の製品と再使用可能な製品を区別し、単一患者使用品を別の患者に使い回さない運用を徹底します。


日常の訓練では、バッグを押す動作だけでなく、マスク保持者と送気者の連携を評価してください。胸郭挙上が得られない設定、顔面から漏れる設定、吸引が必要な設定などを用意すると、原因を切り分ける練習になります。実際の換気の成立条件である、適切な器具の準備、気道開通、マスク密着、送気、継続的な再評価を、一連の行動として確認することが実践につながります。


急変時のバッグバルブマスクは、確実な気道管理へ至るまで患者を支える重要な手段です。成人か小児か、脈拍があるか、高度な気道確保が行われているかを明確にし、その状況に合った換気を実施します。数字や手の形だけで完了とせず、患者に有効な換気が届いていることを繰り返し確かめてください。





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