

指の靭帯損傷とは、関節を支える靭帯に過度の力が加わり、伸張や部分断裂、完全断裂などが生じた状態です。靭帯は主に骨と骨をつなぐ線維性の組織であり、関節の位置関係を保ち、過剰な動きを制限します。指を横方向にひねる、反らす、指先にボールが当たるといった外力が代表的な原因です。日常的には「突き指」「捻挫」と説明されることがありますが、その呼び方だけでは損傷組織や重症度を特定できません。
参考)Finger Sprains - OrthoInfo - A…
母指以外の指には、指先側から遠位指節間関節(DIP関節)、近位指節間関節(PIP関節)、中手指節関節(MCP関節)があります。いわゆる第2関節に相当するPIP関節は、指の捻挫が多く発生する部位です。関節の左右には側副靭帯があり、手掌側には過伸展を制限する掌側板があります。これらが関節包と協調することで、可動性を保ちながら関節を安定させています。
横方向の外力では側副靭帯損傷、過伸展では掌側板損傷を考えます。ただし、実際の外傷では複数の組織が同時に損傷することがあり、脱臼や裂離骨折を伴う場合もあります。裂離骨折とは、靭帯などが付着部から引きはがされる際に、骨の一部も一緒に剥がれる骨折です。「靭帯損傷か骨折か」という二者択一ではなく、両者が併存し得る点を理解する必要があります。
参考)https://www.aafp.org/afp/2006/0301/p810
また、突き指は診断名ではなく、受傷状況を表す日常的な呼称です。同様の訴えでも、伸筋腱損傷によるマレット指や中央索損傷、屈筋腱損傷などが隠れていることがあります。初診時には痛みや腫脹だけを評価するのではなく、どの関節を自力で曲げ伸ばしできないのかを確認し、靭帯と腱の損傷を区別します。
主な症状は、関節周囲の疼痛、圧痛、腫脹、皮下出血、可動域制限です。側副靭帯損傷では関節側方、掌側板損傷では関節の手掌側に圧痛が目立つことがあります。完全断裂では、関節がぐらつく、物を持つと不安定に感じるなどの訴えが生じます。ただし、受傷直後の痛みには個人差があり、軽い痛みだから軽症とは限りません。
一般的には靭帯の損傷程度によって3段階に整理します。ただし、この分類だけで治療法は決まりません。診療上は安定性を軸に、損傷部位、関節の適合性、裂離骨片の状態、合併損傷を併せて判断することが重要です。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| Grade 1:軽度 | 靭帯の伸張が主体で、明らかな断裂はない状態 | 疼痛や腫脹があっても、関節支持性が保たれることがある |
| Grade 2:中等度 | 靭帯の部分断裂 | 機能低下や不安定性の有無を個別に確認する |
| Grade 3:重度 | 靭帯の完全断裂、または付着部からの剥離 | 専門的評価が必要で、手術適応となる場合がある |
| 裂離骨折の合併 | 靭帯付着部の骨片を伴う損傷 | 骨片の大きさ、転位、関節の適合性を評価する |
上記は一般的な重症度の整理です。完全断裂でも、損傷した靭帯や関節、残存する支持組織によって治療方針は異なります。「完全断裂なら全例手術」「部分断裂なら診察不要」といった一律の説明は適切ではありません。関節が不安定な症例や大きな裂離骨片を伴う症例では、整形外科・手外科への紹介を検討します。
母指ではMCP関節の尺側側副靭帯損傷に注意が必要です。この靭帯は、母指と示指で物をつまむ動作の安定に関与します。損傷すると母指基部の疼痛・腫脹に加え、つまみ動作や把持が弱くなることがあります。母指の不安定性は日常動作へ直結するため、他の指と同じ感覚で経過観察せず、機能面も含めて評価します。
参考)Sprained Thumb - OrthoInfo - A…
問診では、受傷日時、外力の方向、受傷時の変形、自然に戻った脱臼の可能性、受傷後の使用状況を確認します。その後、皮膚損傷や変形、腫脹、圧痛部位を観察し、神経・血管機能、自動屈曲・伸展、指の回旋異常を評価します。診察のみで骨折を否定することはできないため、画像評価と組み合わせる必要があります。
これらは指外傷の基本評価です。単純X線では正面・側面・斜位像を用い、特に適切な側面像で関節の位置関係を確認します。靭帯自体の損傷は単純X線で十分に描出できないため、骨折が見つからないことは靭帯損傷の否定を意味しません。診断が不明確な場合や損傷程度の追加評価が必要な場合には、超音波検査やMRIを検討します。
腱損傷の鑑別では、DIP関節を自力で伸ばせない場合にマレット指、PIP関節を自力で伸ばせない場合に中央索損傷を考えます。また、DIP関節を自力で曲げられない場合には深指屈筋腱損傷を疑います。中央索損傷の見逃しはボタン穴変形につながる可能性があり、深指屈筋腱損傷が疑われる場合には整形外科・手外科への紹介が必要です。
小児では、側副靭帯損傷のように見える外傷でも成長軟骨の損傷が関与することがあります。成人と同じ「突き指」として処理せず、紹介の判断を慎重に行います。また、明らかな変形や自動運動の脱落、神経血管障害が疑われる場合には、軽症の捻挫として経過観察するのではなく、速やかな専門的評価を優先します。
受傷直後は、患部に負担をかける動作を中止し、冷却や挙上で疼痛・腫脹を管理します。冷却材は皮膚へ直接当てず、圧迫を行う場合も循環を妨げないように注意します。ただし、こうした対応は診断に代わるものではありません。骨折や脱臼が疑われる指を自分で引っ張って戻そうとせず、変形や強い機能障害がある場合には医療機関で評価を受けるよう説明します。
関節が安定し、大きな裂離骨片がない側副靭帯損傷では、隣の指を支えとして用いるバディテーピングが選択肢となります。これは損傷指と隣接指を連結し、過剰な側方運動を抑えながら、必要な屈伸を許容する方法です。AAFPの総説では、安定した側副靭帯損傷に対する保護期間として2~4週間が示されていますが、これはすべての指外傷に共通する固定期間ではありません。
掌側板損傷では、過伸展を制限する伸展ブロックスプリントを用いる場合があります。一方、軽症で安定した損傷では、バディテーピングなどで保護しながら早期に動かせる場合もあります。固定角度や期間は、亜脱臼の有無、安定して動かせる範囲、骨折の合併などで調整します。「掌側板損傷なら必ず同じ角度・同じ期間で固定する」と考えないことが重要です。
特に注意したいのは、中央索損傷などの腱損傷では、靭帯損傷と異なる固定肢位や運動制限が必要になる点です。単純な捻挫と考えて早期運動を進めると不適切になる場合があるため、運動開始の前提として損傷組織を特定します。治療では、損傷した組織を保護すると同時に、損傷していない関節の運動をできるだけ保つという原則を共有します。
明らかな不安定性がある損傷や、関節の安定を損なう骨折を伴う場合には、靭帯修復や骨片固定などの手術が必要になることがあります。母指尺側側副靭帯損傷でも、部分断裂に対する母指スパイカ固定と、重度損傷に対する手術では管理が異なります。母指を含むすべての靭帯損傷に、通常の指のバディテーピングを一律に適用してはいけません。
指の靭帯損傷が治るまでの期間は、損傷部位や重症度、骨折・腱損傷の合併、固定方法によって異なります。多くの捻挫は数週間から数か月かけて改善しますが、PIP関節では腫脹やこわばり、疼痛が1年程度、あるいはそれ以上続く場合もあります。保護固定を行う期間と、症状が完全に消失するまでの期間を同じものとして説明しないことが大切です。
リハビリでは、関節の安定性を確認したうえで、許可された範囲の自動運動を進めます。長期固定はこわばりの原因になりますが、早く動かすことだけを優先して損傷部に過剰な負荷をかけるのも適切ではありません。医師とリハビリ担当者が固定方法、運動範囲、開始時期を共有し、保護と可動域回復のバランスを取ります。
経過観察では、疼痛や腫脹の変化に加え、自動屈伸、関節のぐらつき、日常動作の支障を確認します。母指ではつまみ動作、その他の指では握り込みや伸展の回復が重要な評価対象です。痛みが減ったにもかかわらず特定の関節を自力で動かせない、変形や不安定感が残る場合には、見逃された腱損傷や関節支持組織の問題を再検討する必要があります。
仕事やスポーツへの復帰も、受傷後の日数だけで決めるべきではありません。必要な把持動作や競技動作、疼痛、可動域、安定性、保護具の使用可否を踏まえて個別に判断します。安定した側副靭帯損傷では症状に応じた競技参加が可能な場合もありますが、その考え方を不安定な損傷や未評価の外傷へ広げないことが重要です。
患者説明では、腫れがしばらく残る可能性を伝える一方で、症状の持続を無条件に正常と扱わない姿勢が求められます。指の靭帯損傷を適切に管理するには、初診時の骨折・脱臼・腱損傷の鑑別、安定性に応じた保護、経過中の機能再評価をつなげる必要があります。単なる「突き指」として放置せず、慢性的な不安定性、筋力低下、拘縮などの後遺障害を予防する視点が診療の中心になります。

日本看護協会機関誌「看護」2026年9月号【特集1】2040年に向けて 看護小規模多機能型居宅介護の役割発揮 医療ニーズを有する要介護者が地域で暮らし続けるために