

てんかん発作に使う薬を理解するうえで、最初に区別したいのは「現在起きている発作を止める治療」と「今後の発作を抑える継続治療」です。前者では、ベンゾジアゼピン系薬などを用いて速やかな発作停止を目指します。後者では、発作型やてんかん症候群に適した抗発作薬を継続し、発作抑制と生活への影響の両方を評価します。同じ抗てんかん作用を持つ薬でも、日常の内服薬と救急時の注射薬・口腔用液は、そのまま置き換えられるものではありません。
参考)https://shizuokamind.hosp.go.jp/epilepsy-info/question/faq5-2/
抗発作薬は、従来「抗てんかん薬」と呼ばれてきた薬剤群です。代表例には、カルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム、ラモトリギン、レベチラセタム、ラコサミドなどがあります。ただし、どの薬もすべての発作に同じように有効というわけではありません。薬剤によっては、特定の発作型を悪化させる可能性があるため、薬名を覚えるだけでなく、適する発作型と注意すべき発作型を対にして理解する必要があります。
「全身がけいれんした」という情報だけで、全般てんかんと判断することも避けるべきです。焦点発作が両側強直間代発作へ進展する場合もあるため、発作の始まり方、意識の変化、既往の発作症状を整理したうえで治療選択につなげます。例えば、強直間代発作に加えて欠神発作やミオクロニー発作がある患者では、それらを悪化させる薬剤を避ける配慮が必要です。
参考)5 Treating epileptic seizures …
静岡てんかん・神経医療センター:抗てんかん薬の種類と特徴
維持治療の薬剤選択では、発作型、てんかん症候群、患者背景を組み合わせて考えます。NICEでは焦点発作にラモトリギンまたはレベチラセタム、欠神発作のみの場合にエトスクシミドを第一選択として示しています。一方、国内の専門医療機関の解説では、カルバマゼピンも焦点発作の第一選択薬の一つとされています。以下の表は薬剤選択の考え方を整理したものであり、英国の推奨順位を日本の承認条件や処方基準と同一視するものではありません。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 焦点発作 | NICEではラモトリギンまたはレベチラセタムを第一選択の単剤療法として検討します。 | 国内ではカルバマゼピンも選択肢です。承認適応、年齢、相互作用を確認します。 |
| 全般強直間代発作 | NICEではラモトリギン、レベチラセタム、バルプロ酸ナトリウムから選択します。 | 欠神発作やミオクロニー発作の併存、妊娠に関連するリスクも考慮します。 |
| 欠神発作のみ | NICEではエトスクシミドを第一選択とします。 | 他の発作型が併存する場合は、欠神発作のみの場合と薬剤選択が異なります。 |
| ミオクロニー発作 | NICEではレベチラセタムまたはバルプロ酸ナトリウムを第一選択とします。 | カルバマゼピンやフェニトインなどは悪化させる可能性があります。 |
| 強直発作・脱力発作 | NICEではラモトリギンまたはバルプロ酸ナトリウムを第一選択として示しています。 | てんかん症候群の診断を含め、専門医による評価が必要です。 |
特に注意したいのは、「焦点発作に有効な薬なら、全般てんかんにも使いやすい」という誤解です。カルバマゼピンやフェニトインは、欠神発作やミオクロニー発作を悪化させる可能性があります。また、ラモトリギンもミオクロニー発作を悪化させることがあります。治療開始後に新しい発作症状が出現した場合や、特定の発作だけが増えた場合は、単純な用量不足だけでなく、発作型と薬剤の不一致を再評価します。
単剤で十分な効果が得られない場合には、別の単剤への変更や併用療法を検討します。ただし、選択肢は発作型ごとに異なります。薬剤を追加する際は、有効性だけでなく、眠気やふらつきの重なり、相互作用、服薬回数の増加による負担も整理します。例えば、レベチラセタムでは腎機能に応じた投与調節が必要であり、他剤の血中濃度への影響が少ないことだけを理由に、一律の用量で使用することはできません。
けいれん発作が5分以上続く場合は、けいれん性てんかん重積状態として直ちに救急治療を開始すべき状況です。短時間で自然に止まる発作と同じ対応で経過を見ることはできません。あらかじめ個別の救急対応計画が作成されている患者では、その計画に従って薬剤を投与します。また、普段の発作より明らかに長い発作や、短時間に繰り返す発作にも、個別の緊急対応が必要です。
参考)7 Treating status epilepticus,…
初期対応では薬剤投与だけを先行させず、気道・呼吸・循環の評価、バイタルサインの確認、血糖測定などを並行します。低血糖や電解質異常など、発作の原因となる状態への対応も重要です。院内では静脈路を確保し、呼吸管理と循環モニタリングが可能な体制で治療を進めます。抗発作薬の飲み忘れや中断も重積状態の背景となり得るため、普段の処方内容と最終服薬時刻を確認します。
院外で使用する救急薬は、医師が患者ごとに適応と使用条件を判断し、家族や介助者に説明しておく必要があります。ミダゾラム口腔用液のブコラムは、通常の内服薬のように飲ませる製剤ではなく、頬粘膜へ投与する製剤です。検索時点で確認した添付文書情報では、18歳以上に対する有効性・安全性は確立していないとされています。また、保護者等による追加投与は禁止されており、発作再発時にも独断で2本目を投与しないことが重要です。
救急対応計画には、薬を使う発作の条件、使用する製剤、投与方法、救急要請のタイミング、投与後の観察項目を具体的に記載します。「発作が起きたら薬を使う」という説明だけでは、短い発作への不要な投与や、重積状態での対応遅延につながりかねません。医療機関側も、家族が実際に使用手順を理解できているかを確認することが大切です。
維持薬の安全管理では、発作回数だけでなく、眠気、ふらつき、認知機能や気分への影響を確認します。例えば、レベチラセタムでは眠気やいらいら感、ペランパネルでは眠気、ふらつき、いらいら感がみられることがあります。ゾニサミドやトピラマートでは、食欲低下、腎・尿路結石、発汗減少、認知機能低下などにも注意します。患者が「薬は飲めている」と答えても、生活上の支障がないとは限らないため、具体的な症状を尋ねます。
ラモトリギンでは、重篤な皮膚障害に特に注意が必要です。開始量と増量速度を守り、併用薬に応じた用量設定を確認します。バルプロ酸との併用や承認用量を超える投与では、発疹のリスクが増加します。発疹に発熱、粘膜症状などを伴う場合は、単なる軽い薬疹として様子を見るのではなく、電子添文に従って直ちに中止するなど、重症化を防ぐ対応が必要です。
参考)https://www.pmda.go.jp/RMP/www/340278/3d4f70c5-cbf8-43ed-a2c0-ec6492b0fc9d/340278_1139009F1021_004RMP.pdf
相互作用の確認では、他の抗発作薬との組み合わせだけを見て終わらないことが重要です。カルバマゼピンは薬物代謝酵素を誘導し、併用薬の血中濃度に影響することがあります。また、グレープフルーツの摂取でカルバマゼピンの血中濃度が上がり、副作用が出やすくなることがあります。ラモトリギンとバルプロ酸の併用では、ラモトリギンの血中濃度上昇を踏まえた調節が必要です。
妊娠の可能性や妊娠希望は、薬剤選択に影響する重要な情報です。バルプロ酸には胎児へのリスクがあり、NICEでは妊娠可能な女性への使用を厳しく制限しています。ただし、英国の規制要件を日本の制度として説明してはいけません。国内では最新の電子添文と専門医の判断を確認し、妊娠前から治療選択を相談します。妊娠を理由に患者が自己判断で薬を中断しないよう、発作再燃のリスクと薬剤のリスクを分けて説明する必要があります。
検査値の評価も薬剤ごとに考えます。レベチラセタムでは腎機能に応じた投与量・投与間隔の調節が必要です。一方、フェニトインは血中濃度が変動しやすく、血中濃度測定が治療管理に役立ちます。すべての抗発作薬に同じ濃度評価を当てはめるのではなく、発作抑制、副作用、臓器機能、併用薬を合わせて判断します。
発作が残るときには、薬剤の追加だけで解決しようとせず、診断と治療の前提を見直します。発作型に合った薬を選んでいるか、必要な治療を十分に試せているか、飲み忘れや副作用による服薬回避がないかを整理します。発作の再燃には服薬不良が関与する場合があり、薬効不足と服薬継続の問題を区別することが重要です。
薬剤抵抗性てんかんは、単に「2種類の薬を飲んだことがある」状態ではありません。国際抗てんかん連盟の定義では、適切に選択・使用され、忍容性のある2つの薬剤治療を十分に試しても、持続的な発作消失が得られない場合を指します。単剤療法だけでなく併用療法も含まれます。少量を短期間試しただけの治療や、発作型に適さない薬の使用を、十分な治療試行と同じように数えないことが大切です。
参考)Terms used in this guideline
一方、発作が長期間抑制されていても、薬を自動的に中止できるわけではありません。NICEでは、2年間発作がない場合に、中止後の再発リスクを個別に評価することを推奨しています。「2年間発作がなければ中止してよい」という意味ではなく、減薬を検討する評価のタイミングです。患者の希望や生活状況、再発した場合の影響を確認し、不確実性がある場合は専門医が判断します。
参考)4 Principles of treatment, saf…
中止を決定した場合も、計画的に徐々に減量します。NICEでは多くの薬剤について通常少なくとも3か月かけた減量を示し、ベンゾジアゼピン系薬やバルビツール酸系薬では、離脱症状を減らすため、より長い期間を必要とするとしています。多剤併用では1剤ずつ中止し、再発時の対応も事前に共有します。具体的な減量速度は薬剤と患者の状態に応じて調整するもので、患者の自己判断による急な中止は避けます。
医療従事者が継続して確認すべきなのは、「発作が止まっているか」「副作用を許容できているか」「処方どおりに服薬できているか」「現在の患者背景に治療が合っているか」です。発作抑制と安全性を別々に評価し、腎機能の変化、妊娠希望、併用薬の変更、生活上の支障に応じて治療を見直すことが、てんかん発作の薬を適切に使い続けるための基本となります。