

ジクアス点眼液3%は、ジクアホソルナトリウムを有効成分とするドライアイ治療剤である。適応はドライアイであり、涙液異常に伴う角結膜上皮障害を認め、ドライアイと診断された患者への使用を基本とする。単に「目が乾く」という自覚症状だけで直ちに選択するのではなく、問診、涙液層破壊時間、シルマー試験、角結膜染色所見、マイボーム腺機能、コンタクトレンズ装用状況、全身疾患や内服薬などを総合して病態を評価することが重要である。
ドライアイは、涙液の量的不足だけでは説明できない。涙液層の不安定化、蒸発亢進、水層不足、ムチン異常、眼表面上皮障害、炎症などが複合する疾患群として捉える必要がある。ジクアスは涙液成分のうち水分とムチンに働きかける薬剤であり、主として眼表面の潤滑性・濡れ性・安定性の改善を狙う。ヒアルロン酸ナトリウム点眼液のように主に保水性や粘弾性を利用する薬剤とは、作用点が異なる。
医療従事者は、患者が「人工涙液の代わりに必要なときだけ使う薬」と誤解しないように説明したい。本剤は処方された回数を継続して点眼することで、涙液・ムチン環境および角結膜上皮障害の改善を目指す処方用点眼薬である。症状の変化だけでなく、角結膜染色、涙液層破壊時間、充血、視機能への影響、生活上の支障などを踏まえて有効性を判定する。
PMDA「ジクアス点眼液3%」医薬品情報
ジクアス点眼液3%の有効成分であるジクアホソルナトリウムは、結膜上皮細胞および結膜杯細胞の膜上に存在するP2Y2受容体に作用する。P2Y2受容体の刺激により細胞内カルシウム濃度が上昇し、水分およびムチンの分泌促進作用がもたらされる。さらに、角膜上皮における膜結合型ムチンの発現・産生を促進する作用を有する。
ムチンは、涙液を角膜・結膜上皮表面に安定して広げ、保持するうえで重要な役割を担う。水分だけを補充しても眼表面への濡れ広がりや保持が不十分な場合があり、ムチン層の異常を伴う病態では、ジクアホソルの水分・ムチン分泌促進作用が治療上の意味を持つ。薬効説明では「涙を増やす薬」だけで終わらせず、「涙の水分と眼表面に涙を保ちやすくするムチンの両方に働く」と表現すると、患者の理解につながりやすい。
ただし、ドライアイの病態は一様ではない。蒸発亢進型でマイボーム腺機能不全が主因の場合、脂質層の問題、眼瞼縁衛生、温罨法、環境調整などの評価・介入も必要になる。シェーグレン症候群などを背景とする重症例、明らかな角膜上皮障害を伴う例、疼痛や視力低下を伴う例では、眼科専門医の治療方針に基づき、病態・重症度に応じた治療を組み立てる。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 有効成分 | ジクアホソルナトリウム | ジクアス点眼液3%の主成分 |
| 効能・効果 | ドライアイ | 診断および眼表面所見を踏まえて使用する |
| 主要な作用部位 | 結膜上皮、結膜杯細胞、角膜上皮 | 眼表面の水分・ムチン環境に作用する |
| 主要な薬理作用 | P2Y2受容体刺激による水分・ムチン分泌促進 | 角膜上皮の膜結合型ムチン産生促進作用も有する |
| 通常用法 | 1回1滴、1日6回点眼 | 処方医の指示を優先し、回数の自己調整を避ける |
ジクアスLX点眼液3%は同じジクアホソルナトリウムを有効成分とする別製剤であるが、ジクアス点眼液3%と同一の使用回数ではない。LX製剤は添加剤ポビドンの配合による眼表面滞留性を考慮して設計され、通常は1回1滴、1日3回点眼である。処方箋・薬袋・患者の持参薬を確認する際には、「ジクアス」と「ジクアスLX」を混同せず、製剤名と点眼回数を必ず照合する。
ジクアス点眼液3%の通常用法・用量は、1回1滴、1日6回点眼である。日中の生活リズムに合わせ、概ね2~3時間ごとを目安に分散して点眼する考え方が示されている。患者が「回数が多くて続けにくい」と訴える場合でも、自己判断で1日3~4回へ減らすのではなく、まずアドヒアランスを確認し、点眼しやすい時間帯の設定、職場・外出先への携帯、スマートフォンのリマインダーなどの具体策を提案する。
点眼は1回1滴でよく、複数滴を連続して滴下しても眼表面に保持できる量には限界がある。容器先端がまぶた、まつ毛、眼球、手指などに接触すると汚染の原因となるため、接触を避けるよう指導する。点眼後はまぶたを軽く閉じ、必要に応じて涙嚢部を圧迫する。これは薬液の鼻涙管への流出と全身移行を抑えるためにも有用な基本手技である。
他の点眼薬を併用する場合は、少なくとも5分程度の間隔をあけることが基本となる。ジクアス類と他剤を併用する際の点眼順序そのものについて、順序の違いによる効果差を直接検討した臨床データは明確ではない。一方、一般的な考え方として、水性点眼液でヒアルロン酸ナトリウム点眼液以外の薬剤と併用するときはジクアス類を後に、ヒアルロン酸ナトリウム点眼液との併用ではジクアス類を先にして5分以上あけることが望ましいとされる。懸濁性点眼液やゲル化製剤と併用する場合は、ジクアス類を先に点眼する考え方が示されている。
ジクアス点眼液3%では、眼刺激、眼痛、眼脂、結膜充血、そう痒感、異物感、霧視などの眼局所症状に注意する。とくに「しみる」「痛い」「点眼直後に強く刺激される」という訴えは、服薬指導で拾い上げるべき重要な情報である。刺激感を単なる使用感として一律に軽視せず、症状の強さ、持続時間、左右差、投与開始からの時期、角膜上皮障害の程度、視力低下、充血、分泌物、コンタクトレンズの使用状況などを確認する。
製造販売後を含む情報では、眼刺激・眼痛は報告されている。また、承認時までの臨床試験で眼刺激または眼痛が認められた患者のうち、点眼を継続した症例では、相当数が1か月以内に症状消失へ至ったとの報告がある。しかし、これは全ての患者で継続を勧める根拠ではない。刺激が強く点眼を継続できない場合、痛みが増悪する場合、視力低下、著明な充血、眼瞼腫脹、発疹などを伴う場合は、自己判断で我慢させず、処方医への連絡または眼科受診につなげる。
患者には「多少しみても必ず続けるべき」と伝えるのではなく、「軽度で短時間の刺激感がみられることはあるが、強い痛み、長引く症状、見えにくさ、赤みの悪化があれば使用状況を確認して医療者へ連絡する」と説明する。治療継続の可否は、病態、眼表面障害、症状の忍容性、代替薬や併用治療の必要性を踏まえ、医師が個別に判断する。
容器先端部やキャップ内側に白い結晶が認められることがある。これは液が付着して乾燥することで生じる場合があり、容器内の点眼液の品質に影響しないとされる。使用前に認めた場合は、清潔なガーゼなどで軽く拭き取るよう説明する。ただし、液の濁り、変色、容器の破損、異物混入が疑われるときは使用を控え、薬局または医療機関へ相談する。
ドライアイ患者では、コンタクトレンズ装用自体が眼表面症状を増悪させる可能性があるため、治療中の装用可否は一律に判断しない。病状悪化の防止という観点では、治療期間中にコンタクトレンズ装用を中止することが原則とされる。一方で、個々の病態・生活背景を踏まえ、装用継続が許容されると医師が判断した患者では、ハードコンタクトレンズおよびソフトコンタクトレンズ装用中でもジクアス点眼液を使用可能と考えられる情報がある。
ただし、カラーコンタクトレンズ装用時の影響は検討されていないため、装用中の点眼は避けるよう指導する。また、レンズ装用中に乾燥感、痛み、充血、異物感、視力低下が生じる場合は、無理に装用を続けずレンズを外し、眼科へ相談する。コンタクトレンズ装用者では、レンズケア不良、長時間装用、睡眠中装用、環境因子、アレルギー性結膜炎、角膜障害なども症状に関与し得るため、点眼薬だけで解決しようとしない姿勢が重要である。
妊婦、授乳婦、小児などへの投与は、添付文書および最新の製品情報を確認し、治療上の有益性と個別の背景を踏まえて判断する。ジクアホソルナトリウムは点眼後に代謝され、未変化体の血漿中濃度は極めて低いとする情報がある一方、妊娠・授乳中の投与は「全例で安全」と単純化して説明できるものではない。点眼後の閉瞼および涙嚢部圧迫を丁寧に案内し、不要な全身移行を抑えることを意識する。
医療従事者にとって重要なのは、ジクアスを「頻回点眼が必要なドライアイ治療薬」として単に渡すことではない。患者が理解できる言葉で作用と回数の意味を説明し、刺激感、アドヒアランス、併用薬、レンズ装用、眼表面障害の程度を継続的に確認することが、適正使用と治療継続の基盤となる。最新の電子添文、改訂情報、院内採用製剤の運用も定期的に確認し、ジクアス点眼液3%とジクアスLX点眼液3%の用法・用量を取り違えないことが不可欠である。
参考)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/300237_1319758Q1021_1_11