

タウリンを含む食べ物として代表的なのは、貝類、イカ、タコ、魚類などの魚介類です。肉類や乳製品にも含まれますが、食品ごとの含有量には大きな幅があります。「タウリンの食べ物」を患者に説明する際は、まず身近な魚介料理を紹介し、そのうえで含有量の数値だけを追いかける必要はないことを伝えるとよいでしょう。
参考)https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20080416ff1&fileId=104
タウリンの化学名は2-アミノエタンスルホン酸で、硫黄を含むアミノ酸様化合物です。一般向けにはアミノ酸の一種と説明されますが、通常のタンパク質を構成するアミノ酸とは異なり、体内では主に遊離した状態で存在します。心臓、骨格筋、脳、網膜などに分布し、胆汁酸との抱合、細胞の浸透圧調節、カルシウムの恒常性維持などに関与します。
タウリンの含有量は、同じ「魚」「貝」という分類でも一定ではありません。魚種、組織や部位、試料の状態などによって値が異なるため、複数の資料から数字を寄せ集めて順位を付けると、比較条件がそろわない場合があります。以下は、食品安全委員会の2008年の審議資料に掲載された測定値を、湿重量100g当たりに換算したものです。現在のすべての市販食品を代表する標準値ではなく、食材間の違いを知る参考値として示します。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| トコブシ | 1,250mg/100g | 資料掲載値12.5mg/g湿重を換算 |
| サザエ | 945mg/100g | 資料掲載値9.45mg/g湿重を換算 |
| ミルガイ | 638mg/100g | 資料掲載値6.38mg/g湿重を換算 |
| ホッキガイ | 596mg/100g | 資料掲載値5.96mg/g湿重を換算 |
| マダコ | 593mg/100g | 資料掲載値5.93mg/g湿重を換算 |
| アカガイ | 472mg/100g | 資料掲載値4.72mg/g湿重を換算 |
| ズワイガニ | 450mg/100g | 資料掲載値4.50mg/g湿重を換算 |
| ヤリイカ | 342mg/100g | 資料掲載値3.42mg/g湿重を換算 |
| アサリ | 211mg/100g | 資料掲載値2.11mg/g湿重を換算 |
| ホタテガイ | 116mg/100g | 資料掲載値1.16mg/g湿重を換算 |
表の数値は、食品安全委員会の飼料添加物評価書案に収載された食品中の測定データに基づきます。元資料の「mg/g湿重」を100倍して「mg/100g」に換算しています。この資料はタウリンの摂取推奨量を決めるためのものではなく、食品中にどの程度存在するかを確認するために利用しています。
カキも代表的な供給源です。大正製薬の一般向け解説では、食材100g中のタウリン量としてカキ1,130mg、ホタテ769mg、アサリ664mgなどが紹介されています。一方、上表とはホタテやアサリの値が大きく異なります。同ページは2004年刊行の書籍を出典としており、元の測定条件も上表と統一されていません。そのため、「ホタテは必ず769mg」「カキがあらゆる条件で最多」と断定せず、資料と測定条件を添えて示すことが重要です。
魚では、普通肉と血合肉を区別する必要があります。食品安全委員会の資料では、複数の魚種で血合肉のタウリン濃度が普通肉より高い傾向が示されています。「サバ」「マグロ」といった魚名だけでは摂取量を正確に推定できず、切り身にどの部位が含まれるかも影響します。食材を評価するときは、魚全体の栄養的価値をタウリンの単一成分だけで判断しないことも大切です。
また、殻付きの貝を購入した重量と、実際に食べる身の重量は異なります。100g当たりの参考値を摂取量の概算に使う場合は、その値がどの組織を対象としているかを確認し、殻など食べない部分を含めないようにします。乾燥品と水分の多い食品についても、重量当たりの数字をそのまま比べると誤解につながるため、食品の状態と一回に食べる量を合わせて確認します。
食品安全委員会の審議資料:タウリンの評価書案と食品中含有量
大正製薬:タウリンを多く含む食材と調理の解説
タウリンは水に溶けやすいため、調理中に食材から煮汁へ移行します。この性質を踏まえると、汁も食べる料理は、食材から溶け出したタウリンを取り入れる方法になります。ただし、煮汁に移ることと、成分が分解されてなくなることは区別しなければなりません。実際の摂取量は、具材だけでなく汁をどの程度食べるかにも左右されます。
参考)https://brand.taisho.co.jp/contents/tsukare/249/
特に注意したいのは、「タウリンを逃さないためにカキは生で食べるべき」という説明です。ノロウイルスに汚染された二枚貝による食中毒は、生食や加熱不足で発生します。厚生労働省は、ノロウイルス汚染のおそれがある二枚貝などについて、中心部を85~90℃で90秒以上加熱することが望ましいとしています。栄養成分の損失を抑えることよりも、必要な加熱条件を満たすことを優先します。
貝の殻が開くことと、中心部が必要な温度・時間に達したことは同義ではありません。厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルでは、中心部温度計を用いるなどして加熱条件を確認し、温度と時間を記録することを求めています。医療・介護施設などで食事を提供する場面では、家庭向けの簡単なレシピ説明だけでなく、施設の衛生管理手順に沿った確認が必要です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000139151.pdf
厚生労働省:ノロウイルスに関するQ&A
厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書
汁物の提案にも個別化が欠かせません。「煮汁に溶けたタウリンも摂れる」という説明自体は成り立ちますが、水分制限や塩分制限がある患者では、汁を飲み切ることが望ましいとは限りません。米国国立糖尿病・消化器病・腎疾病研究所は、慢性腎臓病患者の水分量を腎機能に応じて調整する必要があると説明しています。透析患者では、スープも水分摂取量として扱う必要があります。
実際の説明では、「タウリンは貝類やイカ、タコ、魚などに含まれます。ただし、全員に共通する摂取目標量は決まっていません。食材の数値だけで必要量や治療効果を判断せず、持病に応じた食事制限と食品衛生を守りながら取り入れましょう」と伝えると、食品選択と医学的な限界を同時に示せます。医療従事者が提供する情報では、成分の多さを強調するだけでなく、患者が安全に実行できる説明に落とし込むことが大切です。