

日本アレルギー学会のガイドラインでは、アナフィラキシーは急速に発現し、死に至ることもある重篤な全身性の過敏反応とされています。典型的な皮膚症状や循環性ショックを伴わない場合もあるため、「じんましんがないからアナフィラキシーではない」という判断は避けます。既知または可能性の高いアレルゲンへの曝露後に、気管支攣縮、喉頭症状、血圧低下などが急に出現した場合は、皮膚所見が乏しくても緊急評価が必要です。
参考)https://www.jsaweb.jp/uploads/files/Web_AnaGL_2023_0301.pdf
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 皮膚・粘膜症状 | 全身のじんましん、かゆみ、口唇や舌の腫れなど | 皮膚症状の有無だけで重症度を判断しない。 |
| 呼吸・喉頭症状 | 呼吸困難、喘鳴、嗄声、喉頭の腫れを疑う症状など | アナフィラキシーを疑う重要な所見。 |
| 循環器症状 | 血圧低下、失神、虚脱など | 原因食品の確定よりも救命処置を優先する。 |
| 消化器症状 | 強い腹痛、反復する嘔吐など | 皮膚・呼吸・循環所見と合わせて診断基準を評価する。 |
| 皮膚症状のない反応 | 疑わしい曝露後の急な呼吸障害や循環障害 | じんましんがなくてもアナフィラキシーは否定できない。 |
患者が「タコを食べたら具合が悪くなった」と訴えても、その食事に含まれるタコだけを原因と決めつけてはいけません。例えば、たこ焼きには小麦、卵などが含まれる場合があり、海鮮料理ではエビ、イカ、貝類などが同時に提供されます。患者の説明を食品名だけで記録せず、料理全体の原材料と、過去に各食品を食べた際の反応を具体的に聞き取ることが、原因の絞り込みにつながります。検査も、こうした病歴から候補となった食品を中心に解釈します。
参考)Crustacean Shellfish Allergies
アナフィラキシーと診断した場合、または強く疑われる場合は、原因食品の確定や検査結果を待たずに治療を開始します。第一選択はアドレナリンの筋肉注射です。日本アレルギー学会のガイドラインでは、1mg/mLのアドレナリンを0.01mg/kg、大腿部中央の前外側に筋注し、最大投与量を成人0.5mg、小児0.3mgとしています。医療者は製剤濃度と投与量を確認し、mgとmLの取り違えを防ぐ必要があります。
参考)https://anaphylaxis-guideline.jp/wp-content/uploads/2023/03/guideline_slide2022.pdf
症状が治療抵抗性の場合には、5~15分ごとの再投与を検討します。同時に応援や救急対応を要請し、気道・呼吸・循環の評価、酸素投与、必要に応じた輸液などを進めます。抗ヒスタミン薬を投与して様子を見ることが、アドレナリン投与の遅れにつながらないようにします。患者の体位にも注意し、循環が不安定な患者を急に立たせたり歩かせたりせず、呼吸状態などに応じた安全な体位を選択します。
日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン2022」スライド
医療機関外で呼吸困難、意識状態の変化、失神などが出た場合は、救急要請が必要です。アドレナリン自己注射製剤を処方されている患者には、事前に指示された使用条件に該当したら速やかに使用し、その後も救急評価を受けるよう説明します。自己注射後に改善したことは、医療機関での評価が不要になったことを意味しません。患者本人だけでなく、家族や介助者にも使用手順を共有することが実践的な再発対策になります。
退院・帰宅時には、再曝露を防ぐ指導と緊急時の行動計画を具体化します。過去の重症反応、生活環境、受診までの距離などを踏まえて自己注射製剤の適応を検討し、処方した場合は携帯、保管、使用方法を確認します。「次はまず内服薬を飲んで待つ」という理解が残っていないか、患者の言葉で対応手順を説明してもらうと、指導内容の理解を確認しやすくなります。
食品表示についても注意が必要です。日本の食物アレルギー表示制度では、すべての原因食品が表示対象になっているわけではなく、タコは特定原材料等の対象品目に含まれていません。そのため、アレルゲンの一括表示に「タコ」の記載がないことだけで、タコが含まれていないと判断することはできません。原材料表示とアレルゲン表示は役割が異なるため、患者には両方を確認するよう説明します。制度は改正されるため、対象品目は消費者庁の最新資料で確認することが必要です。
参考)食物アレルギー表示に関する情報
消費者庁「食物アレルギー表示に関する情報」
外食や惣菜では、料理名だけで判断せず、タコの使用と調理工程を具体的に確認します。確認例としては、「この料理やソースにタコを使っていますか」「ほかの魚介料理と調理器具を共用していますか」といった質問が挙げられます。医療者は、包装された加工食品の表示と、外食・中食で提供される情報を同じものとして扱わないよう指導します。食物アレルギーの原因が表示対象外であっても、健康被害を起こさないという意味ではありません。