

小児心肺蘇生では、成人の突然の心原性心停止とは異なる病態生理を前提にする必要があります。小児、とくに乳幼児では、呼吸不全、気道閉塞、溺水、重症感染症、けいれん、外傷、ショックなどを契機として低酸素血症が進行し、徐脈を経て心停止へ至る経過が多くみられます。そのため、小児の蘇生では胸骨圧迫だけでなく、気道確保と有効な換気・酸素化を早い段階から組み込むことが極めて重要です。
現場到着時または急変発見時には、まず周囲の安全を確認し、患児の反応、正常な呼吸の有無、呼吸努力、皮膚色、循環所見を迅速に評価します。医療従事者は、呼吸や脈拍の確認に時間を費やしすぎないよう注意し、評価は原則として10秒以内を目安に完了します。無反応で正常な呼吸がない、または死戦期呼吸のみである場合には、直ちに応援要請、院内急変コールまたは救急要請、AED・除細動器の手配へ進みます。
脈拍評価では、乳児では上腕動脈または大腿動脈、年長児では頸動脈または大腿動脈を選択します。脈拍が明らかに触れない場合は心停止としてCPRを開始します。また、脈拍が触知できても、十分な酸素化・換気を行っているにもかかわらず、心拍数が毎分60回未満で循環不全の徴候を伴う場合は、胸骨圧迫を開始する判断が求められます。循環不全の徴候には、意識障害、低血圧、著明な末梢循環不全、冷感、チアノーゼ、毛細血管再充満時間延長などがあります。
小児の定義は、実務上は新生児蘇生の対象となる出生直後の児を除き、思春期開始前までを想定します。ただし、思春期以降で体格が成人に近い患者では、成人BLSの考え方や成人用パッドの使用も含め、現場の機器・体格・手技適応に応じた判断が必要です。年齢のみで固定的に判断するのではなく、患児の胸郭サイズ、体重、使用可能な資器材、医療者数を総合して蘇生法を選択します。
小児CPRの質は、胸骨圧迫の深さ、速さ、圧迫解除、圧迫中断時間、換気の質に左右されます。胸骨圧迫は胸郭前後径の少なくとも3分の1を目安とし、深さは乳児で約4cm、小児で約5cmが目安です。圧迫速度は毎分100~120回とし、各圧迫の後には胸郭を完全に戻します。胸郭復元が不十分だと静脈還流が妨げられ、冠灌流圧や脳灌流の確保に不利となるため、押し込み続ける動作にならないよう注意が必要です。高品質CPRでは、適切な圧迫深度・速度、圧迫中断の最小化、完全な胸郭復元、過剰換気の回避が主要な構成要素とされています。
参考)https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIR.0000000000000901
乳児の胸骨圧迫は、単独救助者では2本指法を選択できますが、医療従事者が2名以上で対応できる場合には、両母指包み込み法が有効な選択肢です。両母指を胸骨下半分に置き、両手で胸郭を包み込んで背部を支持しながら圧迫します。小児では、胸骨下半分を片手または両手で圧迫します。片手で十分な深さを維持できない場合や、患児の体格が大きい場合には、両手による圧迫を選択します。圧迫部位が剣状突起や上腹部へずれると、肝損傷などの合併症につながる可能性があるため、手の位置は胸骨下半分を維持します。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 対象 | 出生直後の新生児を除く乳児・小児 | 思春期以降で成人に近い体格では成人対応も考慮する |
| 圧迫速度 | 毎分100~120回 | 速すぎる圧迫は深さ・胸郭復元の低下につながる |
| 圧迫深さ | 胸郭前後径の少なくとも3分の1 | 乳児は約4cm、小児は約5cmが目安 |
| 単独救助者の比率 | 胸骨圧迫30回:人工呼吸2回 | 人工呼吸の準備ができ次第、圧迫と換気を組み合わせる |
| 2名以上の医療従事者 | 胸骨圧迫15回:人工呼吸2回 | 役割分担し、換気・圧迫・記録・薬剤準備を並行する |
| 気道確保後の換気 | 持続圧迫を継続し、2~3秒ごとに1回換気 | 過換気を避け、胸郭が軽く上がる換気量を目標とする |
人工呼吸は、小児心停止の背景に低酸素性病態が多いことから、可能な限り早期に組み込みます。バッグ・バルブ・マスク換気では、適切なサイズのマスク選択、頭部位置の調整、マスク密着、胸郭挙上の確認が基本です。過大な1回換気量や速すぎる換気は、胃拡張、嘔吐、誤嚥リスク、胸腔内圧上昇による静脈還流低下を招き得ます。胸郭が見える程度に上がる換気を約1秒かけて行い、過剰な換気を避けます。JRC蘇生ガイドライン2020では、日本の小児蘇生においても胸骨圧迫から開始し、人工呼吸の準備ができ次第、30対2で胸骨圧迫と人工呼吸を組み合わせる考え方が示されています。
参考)https://www.jrc-cpr.org/wp-content/uploads/2022/07/JRC_0151-0229_PLS.pdf
JRC蘇生ガイドライン2020 小児の蘇生(PDF)
小児心停止の多くは呼吸不全やショックから生じる非ショック適応リズムですが、心室細動または無脈性心室頻拍が原因である可能性を常に考慮し、AEDまたは手動式除細動器は利用可能になり次第、速やかに装着します。AEDの到着を待つためにCPRを遅らせることは避けます。CPRを開始しながら、別のスタッフがAED・除細動器を準備する体制が理想です。
小児用エネルギー減衰機能付きパッドまたは小児モードを搭載したAEDがあれば、原則として使用します。一方、小児用パッドが直ちに利用できないことを理由に、AEDそのものの使用を遅らせるべきではありません。特に除細動可能リズムでは、電気ショックが有効な治療手段であり、小児用減衰機能を備えないAEDであっても、救命の可能性を優先して使用が検討されます。AHAの小児蘇生ガイドラインでも、小児用調整機能のないAEDが幼児・小児に対して安全かつ有効に使われた報告があり、心室細動に対して除細動が唯一の有効治療であることが示されています。
パッド貼付では、患児の体格により前胸部・左側胸部の前側方配置、または胸部と背部に貼付する前後配置を使い分けます。パッド同士が接触しないようにし、貼付面の水分、薬剤貼付剤、過剰な体毛などを可能な範囲で処理します。解析時とショック実行時には、患児やベッドに誰も触れていないことを明確な声かけで確認します。ショック後は直ちに胸骨圧迫を再開し、脈拍確認やモニター観察のために不用意に圧迫を中断しないことが重要です。
手動式除細動器を用いる高度な蘇生では、除細動エネルギー、波形、反復ショック、抗不整脈薬の使用を、院内プロトコルおよび小児二次救命処置の手順に沿って判断します。重要なのは、薬剤や除細動の準備に意識が偏り、胸骨圧迫や換気が中断・低下しないよう、チーム全体でCPRの質を監視することです。
小児の心停止対応では、気道管理と換気支援が予後に直結します。バッグ・バルブ・マスク換気は、訓練されたスタッフが適切な器材を用いて実施すれば、初期蘇生において迅速かつ有効な換気手段となります。特に院外心停止では、気管挿管または声門上気道デバイスよりもバッグ・マスク換気を実施することが提案されており、日本の救急活動プロトコルでも小児人工呼吸におけるバッグ・バルブ・マスク換気が推奨されています。
参考)https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/20230330_kyuuki_01.pdf
ただし、マスク換気が困難、持続的な気道保護が必要、長時間の蘇生が見込まれる、または高度な気道管理を安全に実施できる人員と環境がある場合には、声門上気道デバイスや気管挿管を検討します。気道確保の手技は胸骨圧迫の長時間中断を招きやすいため、経験者が担当し、1回の試行に固執しないことが重要です。挿管前後には、胸部挙上、聴診、呼気終末二酸化炭素分圧波形、固定状態を用いて位置確認を行い、換気不良やチューブ逸脱を継続的に監視します。
蘇生チームは、CPRを実施しながら可逆的原因を系統的に検索します。小児では、低酸素、低血液量、緊張性気胸、心タンポナーデ、低体温、代謝異常、毒物・薬物、肺血栓塞栓症、冠動脈疾患などの一般的な可逆的原因に加え、気道異物、溺水、アナフィラキシー、先天性心疾患、重症喘息、敗血症、外傷、虐待の可能性などを臨床状況に応じて評価します。原因治療をCPRと並行して開始することで、自己心拍再開の可能性を高めます。
たとえば、喘鳴、呼気延長、バッグ換気時の高い抵抗、胸郭挙上不良がある場合には、重症喘息や気道閉塞を考えます。片側呼吸音減弱、急激な換気困難、胸部外傷などがあれば緊張性気胸を疑い、プロトコルに沿った迅速な減圧処置を検討します。溺水や窒息では低酸素が主病態となるため、胸骨圧迫に加えて有効な換気の確立がとくに重要になります。
院内・院外を問わず、小児蘇生の成否は個人の手技だけでは決まりません。高性能なチーム蘇生では、リーダー、胸骨圧迫担当、気道・換気担当、除細動器担当、薬剤・ルート担当、記録担当を明確にし、閉ループコミュニケーションを用いて指示と実施結果を確認します。「胸骨圧迫を交代します」「AED解析に入ります」「全員離れてください」「アドレナリン投与完了です」といった短く明瞭な発声は、重複や見落としを減らします。
胸骨圧迫は疲労により深さとリズムが低下しやすいため、可能であれば約2分ごと、またはリズム解析のタイミングで圧迫者を交代します。交代時に圧迫が止まる時間を最小限にするため、次の担当者はあらかじめ位置につき、合図とともにすぐ圧迫を開始します。除細動器、カプノグラフィ、CPRフィードバック機能、モニター波形などを活用できる環境では、客観的なデータを用いて圧迫の質、換気回数、二酸化炭素排出、自己心拍再開の兆候を確認します。
自己心拍再開後は、蘇生成功を「脈拍が戻った時点」で終わらせず、再停止予防と臓器保護を目的とした集中管理へ移行します。気道・呼吸の安定化、酸素化と換気の最適化、血圧および末梢灌流の維持、体温管理、血糖・電解質の補正、けいれん評価、原因検索、保護者への情報提供が重要です。過剰な酸素投与や過換気を避けつつ、モニタリング結果に応じて酸素濃度・換気条件を調整し、必要に応じて小児集中治療や高次医療機関への連携を行います。
小児心肺蘇生は頻度が低い一方で、発生時には迅速かつ正確な初動が求められます。定期的なシミュレーション、役割別訓練、バッグ・バルブ・マスク換気訓練、AEDパッド配置の確認、院内急変コールの検証、デブリーフィングを継続することが重要です。JRC蘇生ガイドライン2020は一次救命処置と小児の蘇生を独立した章として公開しており、施設ではガイドラインを基礎にしながら、自施設の人員、資器材、搬送体制に即した小児急変対応手順を整備する必要があります。
参考)JRC蘇生ガイドライン2020 - JRC 日本蘇生協議会