

「新生児の鼻がフガフガして苦しそう」という相談では、まず鼻から聞こえる音と、実際の呼吸の負担を分けて評価します。新生児の鼻音は、鼻の中で乾いた粘液が空気の通り道を狭めることでも生じます。鼻が鳴っているからといって、必ずしも風邪や肺の病気があるわけではありません。一方、鼻閉は授乳中の呼吸を妨げ、吸啜の継続を難しくすることがあります。
参考)Newborn Reflexes and Behavior
新生児・乳児は気道の径が小さく、年長児や成人よりも気道抵抗が高くなりやすい特徴があります。そのため、鼻音の印象だけで「よくあること」と説明するのではなく、呼吸数、胸郭運動、皮膚・粘膜の色、哺乳状態まで確認することが重要です。保護者の「苦しそう」という表現を、具体的な観察所見に置き換えることが評価の出発点になります。
とくに区別したいのが、鼻の分泌物による音と、呼気に伴う呻吟です。呻吟は息を吐くときに「うー」「うっ」とうなるように聞こえる徴候で、新生児の呼吸障害で認められます。鼻翼が呼吸に合わせて開く鼻翼呼吸や、肋間・肋骨の下・胸骨上部が吸気時にへこむ陥没呼吸を伴う場合は、単純な鼻づまりとして扱わないことが大切です。
参考)Overview of Perinatal Respirat…
保護者が使う「フガフガ」「ゼーゼー」「うなる」といった擬音だけでは、音の発生部位や重症度は判断できません。医療従事者は児を直接観察し、鼻音なのか、呼気の呻吟なのか、ほかの気道音なのかを確認します。毎回の呼吸に新たなうなり声が伴う場合や、顔色不良がある場合は、通常の睡眠中の物音と混同せず、迅速な評価につなげます。
Seattle Children's:新生児にみられる呼吸音と受診が必要な徴候
評価の中心は、呼吸状態です。呼吸数だけではなく、呼吸努力、酸素化を示唆する顔色、覚醒・反応、哺乳の変化を組み合わせて判断します。新生児では、吸う力が弱い、普段と様子が違うといった変化も受診判断に重要です。唇や舌が青い、呼吸のたびに強く努力している、起こしても反応しない場合は、鼻吸引の効果を待つ段階ではありません。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 顔色・粘膜の色 | 唇・舌・顔が青い、灰色に見える | 救急対応が必要な徴候です。日本では119番への連絡をためらわないよう説明します。 |
| 呼吸努力 | 強い陥没呼吸、鼻翼呼吸、呼吸ごとの呻吟がある | 鼻音だけの問題とせず、程度に応じて直ちに診療・救急対応へつなげます。 |
| 呼吸数 | 落ち着いた状態でも1分間に60回以上の呼吸が続く | 一時的な速い呼吸と区別し、持続する場合は速やかに評価します。顔色や呼吸努力も併せて確認します。 |
| 無呼吸・反応 | 呼吸が止まる、呼吸が弱い、起こせない、著しく力がない | 顔色不良や反応低下を伴う場合は、秒数を数え続けず救急対応を優先します。 |
| 哺乳 | 吸う力が弱い、呼吸のために飲み続けられない | 新生児の哺乳不良は早急な相談・診察につなげる所見です。 |
| 体温 | 38.0℃以上の発熱がある | 新生児では鼻症状が軽くても速やかに医療機関へ相談します。解熱薬だけで経過をみないよう説明します。 |
新生児には、短い呼吸の休止のあとにやや速い呼吸が続く周期性呼吸がみられることがあります。Seattle Children'sは、10秒未満の短い休止で、その間も児が楽そうであれば正常なパターンのことがあると説明しています。ただし、同じ資料は10秒を超える休止を受診対象としています。「20秒に達していないから安全」といった単一の秒数による家庭での判断は避け、顔色や反応の変化を重視します。
呼吸が速いかどうかは、泣いている最中の印象だけでは判断しにくいため、落ち着いているときの状態も確認します。ただし、明らかな呼吸困難やチアノーゼがある児を、安静になるまで待たせる必要はありません。重症徴候がある場合は計測や撮影よりも対応を優先します。
顔色と呼吸が安定しており、鼻の分泌物によって哺乳しにくい場合は、薬剤の入っていない生理食塩水で粘液を軟らかくし、必要に応じて優しく吸引する方法を検討します。米国小児科学会の保護者向け情報でも、生理食塩水の点鼻と穏やかな吸引が紹介されています。家庭でのケアを説明する際は、使用製品の対象年齢と説明書、診療上の指示に合わせて具体化します。
鼻音があるという理由だけで、すべての児に繰り返し吸引する必要はありません。まず哺乳を妨げる鼻閉があるかを確認し、分泌物の除去が必要な状況に絞ってケアを案内します。保護者には「音が残っていても、顔色が良く、呼吸に力が入らず、いつもどおり飲めているかを見ます」と説明すると、ケアの目的を共有しやすくなります。
また、鼻閉のケアと新生児蘇生時の気道管理は別の場面です。出生直後の呼吸障害に対する吸引や換気は、専門的な評価と蘇生手順の中で判断するものであり、家庭用吸引器の使用説明をそのまま当てはめることはできません。医療従事者向けの記事でも、日常の鼻ケアと緊急時の処置を明確に区別して記述する必要があります。
参考)Neonatal Resuscitation - Pedia…
米国小児科学会:鼻づまりのある乳児のケアと安全な睡眠
「頭を高くすれば呼吸が楽になるのではないか」という質問は、鼻閉の相談で生じやすいものです。しかし、米国小児科学会は、鼻づまりがある乳児にも、平らで硬さのある寝床で仰向けに寝かせることを推奨しています。枕やタオルで頭を持ち上げたり、マットレスに傾斜をつけたりする方法は、安全な鼻閉対策として勧められません。
上体を傾けた姿勢では、頭が前や横に倒れ、かえって気道が曲がって呼吸しにくくなる可能性があります。鼻音が静かになったかどうかと、睡眠環境が安全かどうかは別に考えなければなりません。寝床には枕、ぬいぐるみ、柔らかい詰め物などを置かず、鼻閉への対応のために睡眠の安全性を下げないよう説明します。
スイング、バウンサー、チャイルドシートなども、日常の睡眠場所の代わりにはなりません。鼻づまりで寝つきにくい児がこれらの器具で眠った場合も、可能になり次第、安全な専用の寝床へ移すことが基本です。保護者の疲労が強い場面ほど、鼻音を減らす工夫だけでなく、安全に眠らせる方法を具体的に確認する必要があります。
環境面では、たばこの煙、ほこり、強いにおいを避けることが鼻への刺激を減らすうえで重要です。加湿器を使う場合は、やけどを避けられる冷たいミストの方式を選び、毎日の水交換と製品の指示に沿った清掃を行います。加湿は補助的なケアであり、呼吸困難や哺乳不良に対する受診の代わりにはなりません。
診療では、鼻腔内の分泌物だけで説明できるかを確認し、説明できない呼吸異常があれば鑑別を広げます。新生児の呼吸障害には、後鼻孔閉鎖・狭窄などの上気道の構造異常、呼吸窮迫症候群、新生児一過性多呼吸、肺炎、気胸、先天性心疾患、敗血症、低血糖など、多様な原因があります。鼻が鳴っているという情報だけで、病変が鼻に限局しているとは判断できません。
問診では、出生直後からの症状か、退院後に新しく出現した症状か、在胎週数、出生前後の経過、母体の感染歴などを確認します。新生児の呼吸障害の評価では、こうした周産期情報と身体診察を結びつけることが重要です。必要に応じて医師がパルスオキシメトリー、血液ガス分析、胸部画像などを用いて、酸素化や原因を評価します。
たとえば、新生児一過性多呼吸は胎児肺液の吸収遅延による呼吸障害で、出生直後から早期に多呼吸、陥没呼吸、呻吟、鼻翼呼吸などを呈します。一方、鼻腔の乾いた粘液による音は、全身状態が安定した児にもみられます。このように、同じ「苦しそう」という訴えでも、発症時期と随伴所見によって評価の方向性は異なります。
保護者への説明は、「鼻の音がある理由」「現時点で確認できた呼吸状態」「家庭で行うケア」「すぐに受診する徴候」の順に整理すると、判断根拠を伝えやすくなります。単に「新生児にはよくあります」と伝えるのではなく、胸のへこみがないか、顔色が変わらないか、いつもどおり飲めるかという観察対象を示します。呼吸が速くなる、飲めなくなる、発熱するなどの変化があれば再評価が必要であることも、併せて説明します。
とくに「次の健診まで待ってよい」という一律の案内は避ける必要があります。新生児で吸う力が弱い、顔色が悪い、普段と様子が違う場合は、早急な相談・診察につなげます。唇や舌が青い、呼吸のたびに強く苦しむ、反応が乏しい場合は救急対応を優先します。鼻音の有無よりも、呼吸・哺乳・反応の変化を軸に対応することが、安全な保護者支援につながります。
MSDマニュアル・プロフェッショナル版:周産期の呼吸障害の原因と評価