

止血帯の使い方を確認するとき、最初に区別すべきなのが使用目的です。日常の採血で使用する止血帯と、重症外傷の出血を制御する止血帯は、同じ名称でも求められる作用が異なります。採血用は静脈の血流を一時的に制限して血管を見つけやすくする器具であり、動脈の血流まで遮断することを目的としません。一方、外傷用は腕や脚の生命を脅かす出血を止めるために使用します。
参考)https://www.degruyterbrill.com/document/doi/10.1515/cclm-2018-0602/html
採血時の操作は「駆血」と呼ばれます。欧州臨床化学・臨床検査医学連合などによるEFLM-COLABIOCLI共同勧告では、必要な場合に止血帯を使用し、静脈血流を制限しても動脈血流は保つ強さにすることが示されています。血管が十分に明瞭で、止血帯なしでも採血できる患者では、必ずしも使用する必要はありません。止血帯を装着すること自体を目的にせず、安全に適切な検体を採取するための補助として位置づけます。
本記事は、医療従事者が日常的に行う成人の末梢静脈採血を中心に解説します。小児・新生児の採血、カテーテルからの採血、手術時の空気圧式ターニケットは別の手順や管理が必要です。参考とするEFLM-COLABIOCLI共同勧告も、主として閉鎖式採血システムによる静脈採血を対象としており、小児や意識のない患者、カテーテル採血は適用範囲に含めていません。
EFLM-COLABIOCLI共同勧告:静脈採血の標準的な手順
採血用止血帯は、予定する穿刺部位より体幹側に装着します。EFLM-COLABIOCLI共同勧告では、穿刺予定部位から約7.5cm、手の幅程度の位置が示されています。位置を決める際には、血管の走行と穿刺操作のしやすさを確認し、静脈血流を制限しつつ動脈血流を保つ強さに調整します。距離だけを合わせて強く締めるのではなく、患者の状態と血管の怒張を合わせて評価することが重要です。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 使用の必要性 | 血管の確認や穿刺に必要な場合に使用する | 十分に明瞭な静脈では使用を省ける場合がある |
| 装着位置 | 穿刺予定部位より体幹側へ約7.5cm | 手の幅程度を目安にする |
| 締める強さ | 静脈血流を制限し、動脈血流は保つ | 外傷用止血帯のような動脈遮断は目的としない |
| 装着時間 | 採血時の合計駆血時間は1分以内 | 血管を探す時間も含めて管理する |
| 解除のタイミング | 最初の採血管へ血液が流れ始めたら解除する | 抜針前には必ず解除する |
| 患者の手の動き | 強く握り続けたり、繰り返し開閉したりしない | 偽性高カリウム血症などの検査値変化に注意する |
表の装着位置、圧迫の強さ、合計1分以内の駆血、最初の採血管に血液が流れた時点での解除は、EFLM-COLABIOCLI共同勧告に基づきます。抜針前の解除はWHOの採血ガイドラインでも明示されています。手を強く握る、いわゆる「グーパー」を繰り返すといった動作についても、検査値への影響を避ける観点から控える必要があります。
「1分以内」は、採血管へ血液が入り始めてから計測する時間ではありません。止血帯を締めて血管を探す時間や、消毒して乾燥を待つ時間も駆血に含まれます。器具を準備しながら装着したままにすると、実際の穿刺は短時間でも駆血が長くなります。EFLM-COLABIOCLI共同勧告では、駆血時間の延長を避けるため、手袋の装着を止血帯の装着より先に行う手順が提案されています。
WHOの2010年のガイドラインには、血流が確立したら解除し、2分以上になる前に外すという他の指針への言及があります。ただし、これを「2分までは積極的に締め続けてよい」と解釈するのは適切ではありません。本記事では、2018年に公表されたEFLM-COLABIOCLI共同勧告の合計1分以内を採血時の基本として整理しています。実施時には、施設の標準作業手順と検査部門の指示を確認してください。
安全な使い方は、止血帯を巻く操作だけで完結しません。患者確認、物品の準備、血管の選択、消毒、採血、解除、抜針後の圧迫を一連の流れとして実施します。WHOは、採血前に患者の氏名と依頼内容を照合し、アレルギーや過去の失神経験を確認したうえで、処置を説明して同意を得る手順を示しています。必要な物品を手の届く範囲にそろえることも、患者から目を離さず安全に操作するための基本です。
参考)Checking your browser - reCAPT…
上記はWHOの採血手順とEFLM-COLABIOCLI共同勧告を踏まえた流れです。止血帯の解除操作は器具によって異なるため、バックル式、伸縮バンド式など、施設で採用している製品の説明書に従います。解除時には針やホルダーを安定させ、止血帯を引く動作が穿刺部位に伝わらないように操作してください。
例えば、複数の採血管を使用する場合でも、「最後の採血管まで止血帯を締めたままにする」ことを標準にしないようにします。共同勧告では、最初の採血管へ血液が流れ始めた時点で解除する手順が示されています。採血管の本数が多いほど駆血時間が長くなりやすいため、血流が得られたら早めに解除する流れを習慣化することが重要です。
血管が見つからず時間がかかる場合は、締めたまま探し続けないでください。採血が不成功の場合、共同勧告では止血帯を解除し、別の部位で採血することが示されています。再装着までの時間は施設手順で確認し、必要に応じて経験者へ交代します。Greiner Bio-Oneの採血資料では、血管の探索で60秒に達した場合は解除し、2分経過後に再装着する方法が示されています。
抜針後の止血は、止血帯を締め直して行うものではありません。穿刺部位を直接圧迫し、出血が止まったことを確認します。WHOは、圧迫中に肘を曲げないよう患者へ説明することを推奨しています。肘を曲げてガーゼを挟む方法ではなく、腕を伸ばした状態で適切に圧迫する手順を伝えましょう。
採血時の止血帯は、検査結果に影響する前分析段階の要因です。駆血が長引くと静脈うっ滞が生じ、血管内から水分や小分子が移動することで、血管内に残る蛋白質、細胞、蛋白結合物質などの濃度が変化します。EFLMの資料では、1分を超える駆血で血液成分の変化が臨床的に重要になり得ると説明されています。「血液が採れたから適切な検体」とは限らず、採血条件も品質管理の対象です。
血管を目立たせるために、患者へ何度も手を握ったり開いたりするよう指示することも避けます。強い握り込みや反復する手の運動は、偽性高カリウム血症をはじめ、一部の生化学・血液学的検査値の変化につながります。検査値が患者の状態と合わない場合は、実際の病態に加えて駆血時間や手の運動などの採血条件を確認し、必要な再採血や評価を担当医・検査部門と検討します。
参考)https://www.eflm.eu/upload/docs/WG-PRE%20Venous%20blood%20sampling_for%20EFLM%20NSs.pdf
患者観察では、採血用止血帯の締めすぎに注意します。皮膚の色調変化や強い苦痛がある場合に、血管が見えるまで圧迫を続ける対応は避けてください。Greiner Bio-Oneの資料では、締めすぎによる末梢の変色がみられた場合、直ちに解除することが示されています。採血中に穿刺部周囲の血腫が形成された場合も、止血帯を解除して抜針する対応が必要です。
参考)https://www.gbo.com/fileadmin/imported_from_old/0920002R2_Blood_Collection_Manual.pdf
器具の清潔管理も見落とせません。WHOは、再使用する止血帯がMRSAなどの汚染源となり得ることを指摘しています。EFLM-COLABIOCLI共同勧告では、交差汚染を減らすために使い捨て止血帯が推奨されています。再使用製品を採用する施設では、製品の材質とメーカー指定に適合する清掃・消毒方法を標準化し、血液汚染のある器具をそのまま次の患者へ使用しない運用が必要です。
手袋を使用していても、手指衛生は省略できません。採血前の手指衛生と手袋装着、処置終了後の手指衛生を一連の手順に組み込みます。また、単回使用製品を再使用しないこと、患者へ使用する共用物品が清潔であることを確認することは、WHOが示す感染対策の基本です。止血帯だけを消毒しても、汚染した手指や周辺物品による接触を放置していては、清潔管理が成立しません。